episode.17
あれからちょこちょこ蒼衣くんからLINEが入るようになった。内容はすごくたわいもないことばかりだったが、都度蒼衣くんのことがわかったり、蒼衣くんがわたしに興味をもって接してくれるのがわかったりもした。
頻繁に送られてくるのは匠海くん家の愛猫もふもふとのツーショットだった。
ネコ好きなのかな…
もふもふも可愛いけど、抱っこしている蒼衣くんが雑誌の巻頭ページを飾れるくらいイケメン!!
眼の保養に…って、いつまでもこんな感覚でしか蒼衣くんを見られないってことはやっぱり蒼衣くんの好きとは違うのかな…。そもそも蒼衣くんの好きはちゃんと恋愛感情なのかな?
わ、わたしのどこが…す、好きなの!?
わたし、びっくりするくらい蒼衣くんとの接点ないし、漫画とかドラマである何かをきっかけに! ってゆう展開もない!
し、しかも、あんなにイケメン高校生の青春の1ページに、小学校教師という公務員のわたしなんて相応しくない…。
「あれ? つぐみ先生?」
「右京くん! こんなとこで会うなんて奇遇ですね!」
今日は久しぶりに大学生のときによく通っていたカフェに来ていた。川沿いで桜並木がとってもきれいで春はよく講義の合間に入り浸っていた。大輔と出会ったのもこのカフェだったな…
「つぐみ先生は一人ですか?」
「はい、右京くんも…」
「京くん、お待たせ!」
春麗、休日にイケメン高校生が一人なわけないわな! デートでしょ。デート! でも右京くんってこうゆう可愛い感じの子が好きなんだ。イメージでは、もっとこー、スタイルいい系の!! 大人っぽい色気のある感じの…
「つぐみ先生、顔に出過ぎです。こっちは、俺らの幼なじみの史華です」
「あ! もしかして、蒼ちゃんの!?」
俺らってことは、蒼衣くんと匠海くんも幼なじみなんだ。こんな可愛い幼なじみがいるのに、わたしを選ぶ? まさか、史華ちゃんに想いが伝わらなくて、もしくは失恋とかして、たまたまそこにいたわたしを選んだとか!?
「つぐみ先生。色々想像してますけど、多分それ全部ちがいますよ」
「え! わたしの考えてることわかるの!?」
「ま、とりあえず、これから一緒にお茶でもどうですか?」
考えても考えても、どうしようもないのでとりあえずお言葉に甘えて一緒にお茶することにした。
「と、ゆうわけなんですけど…」
「つぐみ先生は蒼衣の好きをどう受け止めたらいいかわからないと」
「はい、好きって言ってもらってすごく嬉しかったんですけど…」
「え!? 何で? 蒼ちゃんはいつも正直だし、数学は得意だけど計算して動くとかしないよ!」
史華ちゃんが真剣な眼でわたしを見つめる。なんか、その眼が眩しすぎて直視できない。たった数年前までわたしも高校生だったのに、こんなにも純粋でまっすぐな気持ちを見せられると年齢の違いを実感する。
「…そうですね。蒼衣くんってきっとそうゆう人ですよね」
なんか、話したらスッキリするとかいうけど、逆にもやもやが増えた気がする。右京くんも史華ちゃんもこんなわたしの話を真剣に聞いてくれて、蒼衣くんの周りには素敵な人がたくさんいるんだなと実感できた。
「とりあえず、その気持ちを蒼ちゃんに正直に話したらいいんじゃないかな? まぁ、蒼ちゃんのことだから悩んじゃうと思うけどね!」
「ふふ…蒼衣くんならあるかもしれませんね」
右京くんたちと別れ、久しぶりに大学まで桜並木を散策することにした。高校生とはいかないが、少しだけ若かったときの気持ちを思い出せないかなと歩き始める。
この先の橋で大輔と桜並木をどれだけ上手に写真撮れるかとか勝負したっけ?
あ、あんなふうに…
カシャ、カシャ
カメラを下ろして画面を確認する。…て、大輔…? あの頃のように大輔が桜並木の写真を撮っている。わたしの視線に気づいた大輔が顔を上げる。目が合った瞬間、少し変な気持ちになる。
ようやくわたしに気づいた大輔が大好きだった笑顔で大きく手をふる。あのときの気持ちがふと蘇った気がした。