episode.01
今日の山羊座は…っと。通勤途中にスマホをいじりながら、星座占いをチェックするのが日課だ。
「恋愛において10年に一度の思いがけない幸運が舞い込む予感。少し強引なくらいがちょうどいい!ラッキーアイテム、制服」
10年に一度って(笑)この先10年間恋愛いいことなしってこと!? やばくない? それ。
今日は月曜日。
いつもの時間。
『あれ? 確か定期、かばんに入れたはずなんだけど…』
最寄駅から乗車した際使用した定期が見当たらない。改札への人の波から少し離れた所でかばんの中を探る。あるはずの場所に定期はやはりない。
諦めてスマホで時間を確認する。幸い始業までには余裕があった。改札の窓口で駅員に事情を話し、紛失届けを出すと翌日以降に受け取りするように伝えられた。
「…はぁ」
小さなため息をつくとかばんを肩にかけ直し改札へと足を運ぶ。
「あの!」
背後で大きな声が聞こえて振り返る。
人波をかき分けるように現れたのは男子高校生だった。制服から見える素肌は真夏だというのに透き通るような白さ。前髪重めのストレートマッシュは韓国アイドルさながら。
いわゆるイケメンってやつで、わたしだけでなく周囲にいた人間は少なからず彼に注目していた。
今日は朝一から打ち合わせもあるし、多少書類の整理をしたい…一瞬わたしの乙女センサーが働きかけたが、頭の中はすでに仕事モードにきりかわっていた。わたしは改めて改札へと向き直り朝やっておかないといけないタスクを頭の中で整理し始める…。
「定期…」
「定期」というワードに反応し、再び振り返ると息を切らし俯く彼が目の前にいて、その手には見覚えのあるラベンダー色の定期ケースが握られていた。
「わたしの!」
彼は顔をあげると安心したようにはにかみ、わたしに定期を差し出す。
「…どうぞ」
「あ、ありがとう」
定期を受け取ると彼は元来た方へと向きを変える。少し離れたところで友人らしき数人が彼を待っていた。
恋愛において10年に一度の幸運!!?
ラッキーアイテム、制服!!
少し強引なくらいがちょうどいい…
今朝見た星座占いが脳裏をかすめた瞬間、考えるより先に彼を引き止めていた。
「あの! もしよければお礼させて下さい!」
そうゆうとカバンから名刺を1枚取り出して彼の手に強引に握らせた。
「…え?」
「連絡待ってます!」