その8 地元帰って日も暮れて
京都駅で乗り換えて、あとはずっと座っていれば最寄り駅に着く。
そんな時間を俺達はぼーっと過ごしていた。
俺達は、という言い方は少しおかしいのかもしれない。サキは燃え尽きたのか、それとも落ち込んでいるのか俯いたまま顔を上げようとしない。たった一日で夢を崩されたのだ。同情してやらないこともない。
「なあサキ」
数秒待ってみるが返事はなく、微動だにしないサキからは構うなというオーラが出ているのが感じられる。怒っているのだろうか、こちらから表情は伺えない。俺はため息と共に方を撫で下ろす。
「大野さん、喜んでたな」
たまに横目で見ながら反応を待つが、期待する変化は一切ない。
「俺は、これでいいと思うんだ。なんていうのかな、大野さんにとって俺たちが一種のビッシーだったんだよ」
自分でも何を言っているのか少しわからない。
ようは夢や元気や力を与えた、ビッシーの使者みたいなもんだ。と付け置き、窓の外を眺める。流れ去る街灯や家の明かりが全てを終わらせたことを教えているようで、少し寂しくなった。
自分らしくない。
「なによ。アンタは最初から否定派だったからそういうこと、言えるだけでしょ」
力のない声が、ようやっと返される。
サキにとってビッシーは本当に居て、ビッシーがいれば他の未確認生物だって存在する証拠になる。そう思っていたからこそ、イタズラで始めてイタズラで終わったのが許せない……いや、やるせないのだろう。
それに、ビッシーが居ないとなると今日の行動が全て無駄になる。といったところか。大野さんの悪口を言わないのは、ボートに乗せてもらったり一緒に呼んでもらったり、食事をご馳走になったり。感謝することもあるからだろう。
覇気のないサキを見ていると、なんだか調子が狂う。
「別に、本当に居ないことが証明されたってわけでもないだろ」
精一杯の慰めのつもりで口に出したが、もし本当に存在するとなればまた引っ張り出されて苦しむのは俺だ。自分で自分の首を絞めていることになる。けれど今は別にそれでもいいかと、
不気味に静かなサキを見ながらそう思った。
突然、体の側面に押されるような衝撃を覚える。見てみればサキが俺の肩を枕に寝息を立てているではないか。あれだけはしゃぎまわったんだ、疲れていたって無理はない。押しのけるのも他の人に迷惑がかかる。家まであと数駅。しょうがないから肩を貸してやろう。
たとえまたすぐ連れまわされるのがわかっていても、束の間の安息でも。
次の事件はきっと、一週間もかからずにやってくるだろう。