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その4 突飛な意識に計画性なんてないッ!

「次は彦根城に向かうわよ。城といえば殿様、殿様と言えば権力。その権力を使ってビッシーを呼び寄せたりするのだって容易かったはず。なら歴史的重要物が保管されてる場所に書記の一つくらい残ってるはずよ」


 彦根城はここから湖を挟んで真逆に位置する。

 泳いで行けば早いのかもしれないが、常識的に考えると電車で湖をぐるっと周ることになるだろう。ものの見事に正反対ということもありルート検索に悩んでしまうが、南に進めば考えを変えて比叡山に行くために降りると言いかねない。ここは北から周らせてもらうのが平和への道だ。


 そういえば彦根城といえば我らがアイドルひこにゃんだが、彼の愛らしさは男の俺から見ても他に例えることのできないほどに〝きゅーと〟で〝ぷりてぃ〟である。彼を生み出した作者にはノーベル愛らしいで賞を送りたい。もしどこかで四十㎝大の生ひこにゃんが買えるとしたら毎日売り切れで生産が追いつかないほどの人気を博し、気がつけば我が家にも数匹のひこにゃんが住んでいることだろう。


 そんなことを考えながら乗換えをこなし、暇な時間を過ごしていると本能が風に乗って腹の減りを知らせる。時計を見てみると十五時をまわった上、少し経ってしまっているではないか。これでは腹が減るのもしょうがない。

 そもそも昼時に何かを食べた覚えが無いのだが、何を糧にこの体はここまで頑張ってきたのだろうか。ひょっとして糧ではなく呆れと疲れを食べて頑張ったのではないか。こんなにも無理をさせるなんて、サキは本当に何を考えているんだ。そもそもアイツは腹が減らないのか。食事を超越した一種の超人なのか。多分、今現在食べることに興味がいってないのだろう。

 場所も場所だということもあり、大人な俺は電車を降りるまでなんとか我慢することを決意する。


 あと何分かかるのだろうか。それまでもてばいいのだが……。次は長浜。あと何駅だろうか。その時、外を見ていたサキが何かに気づいた様子で立ち上がり、荷物を持ち上げたかと思うと一直線にドアの元へ駆け出した。

「いきなりどうしたんだよ」

「すごく、いいことを思いついたの」

 頭に疑問符を浮かべながら停車した電車を降りると、サキに先導される形で改札から道路へ、道路から湖のほとりへ足を動かした。

「船があったのよ。大きな船じゃなくて、趣味で乗るようなもの」

 確かに、歩いている間にそれらしきものが見えてくる。沖釣りに行く際に見るような小さなモーターボートだ。新しくも古すぎもせず、使い込まれてはいるがしっかりと整備されているのがわかる。


「セカンドライフに琵琶湖を選ぶ人たちも昔は多かったし、今だって別荘として畔に家を構えてる人だっているかも。そうすると趣味でモーターボートに乗って琵琶湖をまわってる人だって絶対にいるわ。そういう人に乗せてもらえばいいのよ。老人の暇つぶしに付き合うってんならお金もかからないでしょ」


 確かに、ご好意に預かれるなら嬉しい限りだ。だが、そんなに都合よく船舶免許を持っている人に会うことができるだろうか。数駅離れた場所に居を構えつつ船は船着場に置いておく人はいるだろうし、この辺りではバスでの移動もよくするだろう。さらに船に乗せてくれる気のいい人なんてそうそう出会えるはずが無い。日が暮れるまでに探し出せるかどうか、といったところだろうか。

 通りかかる地元の老人にボートの所有者を尋ねるサキ。その相手は男女見境なしだ。申し訳なさそうに過ぎ去るおばあさんもいれば、サキのビッシー話に食いつこうとするおじいさんもいるが船の所有者は一人として現れない。

 三十分経ち、一時間経ち。さんさんと陽気に照る太陽に徐々に体力を奪われ、買っておいたスポーツドリンクのペットボトルが空になった。無謀なこともわかってきただろうと、彦根城への移動を提案しようとサキに近付いた時だ。


「君たちが船に乗りたいと言っている子達かな?」


 初老の男性がこちらに寄ってきた。どうやら我々がボートに乗りたいと言っているのを近所の話で聞いたらしい。さすが定年世代コミュニティ、意外なところから助け舟がくるものだ。

「はいっ。新聞でビッシーのことを知り、彼を探したいと思いまして。ですが遊覧船にも限界がありますので、もしよろしければどなたか乗せていけないかと思い探しておりました」

 正しいのか正しくないのかよくわからない流暢な丁寧語で食い下がるサキに、初老の男性は嫌な顔一つせず協力すると返してくれた。

 人生、こんなにあっさりいってよいものだろうか。

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