■裏面
※コメディー色は薄めで、少しデリケートなお話です。
G「諸事情(前)」@三谷家
ツカサ「ただい、ま。何で勝手に、僕のアルバムを見てるんだ?」
レイ「あっ、おかえりなさい。勝手じゃないわよ。九条さんに許可を取ってあります。何組ですか?」
ツカサ「そこは、掲載本人の許可を得ろよ。エフだよ。国際科だったから」
レイ「ああ。道理で、見つからないと思いました。……アレ? 隣に写ってる、この萬世ミチルって子、参藤さんに似てますね」
ツカサ「似てるも何も、参藤ミチ本人だからな」
レイ「え? ここ、男子のページですよね?」
ツカサ「参藤は、男子学生だったんだ」
レイ「ん? 心は男、身体は女みたいな話ですか?」
ツカサ「違う、違う。そういう精神的な話じゃなくて、肉体構造上の話。参藤は、戸籍上は性別未分化で、ずっと男の子として生活していたんだけど、十九歳のときに今の夫と出会って、二十歳の誕生日に、女性として生きると決めたんだ」
レイ「へえ。そう、だったんです、ね?(なるほど。それなら、学園事情に詳しいのも、頷ける話だ。それに、ツカサさんが人間不信になるのも、無理ないところだわ。私だって、サエが突然、男の子になったら、すぐには受け入れられないもの)」
ツカサ「まあ、詳しくは、本人の口から説明してもらえよ。――はい、参藤家の住所」
レイ「ついて来ては、くれないんですね」
ツカサ「九条さんに送ってもらえ。僕は、夫である編集主任とは、なるべく顔を合わせたくないんだ」
レイ「そっちですか。(過去に何があったか知らないけど、気が乗らないんじゃ、しょうがない)」
F「諸事情(中)」@参藤家
ミチ「ダーリンには、おつかいに行ってもらったよ。それで、私について訊きたいことっていうのは?」
レイ「あのですね。不快に思わないでほしいんですけど。実は、この前、桂桜学園の卒業アルバムを見たんです。そしたら」
ミチ「男子の欄に私の写真があるのを見た、でしょう?」
レイ「そうなんです。それで」
ミチ「半陰陽とは何か、知りたくなった。そんなところでしょう? いいわよ。いつか話さなきゃいけなくなると思ってたから、教えてあげる」
レイ「お願いします」
ミチ「う~ん。たとえるなら、三毛猫の雄のような存在かな。珍しいけど、異常ではないから、怖がったり、気味悪がったりしないでほしいんだけど、良いかしら?」
レイ「はい。受け入れる努力はします」
ミチ「ありがとう。変な誤解を招かないように、あえて隠語を使わずに医学的に説明すると、私の身体は、陰茎はあるけど陰嚢や精巣は無く、陰唇はあるけど陰核や卵巣は無いという状態なの。……わかるかしら?」
レイ「えーっと、男の子と女の子の機能が、半分半分になってるってことですか?」
ミチ「そうそう。そういう理解でオーケイよ」
レイ「でも、それだと、赤ちゃんは」
ミチ「産めないわよ。だけどダーリンは、それでも良いって言ってくれたの」
レイ「そうですか。(いきなりハグで迎えられたときは面食らったけど、懐の広いかたなのね)」
G「諸事情(後)」@三谷家
ツカサ「どうだった、参藤夫妻のラブラブぶりは?」
レイ「熱々で火傷しそうでしたって、本題は、そっちじゃないです。聞きましたよ、ツカサさん。半分、引きこもりのような生活をしていたそうじゃないですか」
ツカサ「多感な時期だったからな。顔を合わせづらいやら、何と声を掛けて良いやらで、外に出たくなかったんだ。なるべく知人との接触を避けて出来た一人の時間に、あれこれ調べて、ようやく気持ちを整理できたんだ」
レイ「違和感は無かったんですか?」
ツカサ「後から思い返せば、体育の着替えや水泳の授業、旅行中の入浴時に姿を見ていないことに気付いたけど、そのときは、何とも思ってなかった」
レイ「そういうものですか?」
ツカサ「そういうものだよ。ああ、そうそう。参藤は、指定制服の無い学校が良いからと、猛勉強したそうだ。小学六年の夏から半年間は、人生で最も机に向かった時間が長い時期らしい」
レイ「へえ。(そういう陰の努力は、ひとことも言ってなかったな。順風満帆に見えて、結構、人知れず苦労してるんだ)」