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占い師

作者: ももたろう

ある夕暮れ、占いに訪れた美世子の悲しい物語

繁華街の一角に立つ古びた雑居ビル。 その地下一階に、占いの館と称してワンフロアを使って、個別に仕切ったボックス席であらゆる占い師が営業をしている。

それぞれ顔相や、ほくろ占い、水晶を使ったり、タロット占いだのと、おのおの得意な分野で連日このフロアは繁盛していた。

訪れる客層は仕事帰りのOLが多いのであるが、なかには中学や高校といった女子学生もちらほらしている。

だいたいの店が妖しい雰囲気を醸し出しているものであるが、その一番端の一角に黒い仕切り板で囲われている「手相占い」という小さな看板を出しているボックスがあった。

ある日の夕暮れ、美世子は高校時代からの友達である加奈と夕食の約束をしており、占い好きの二人は食事の前に占ってもらおうということで、この雑居ビルの入り口で待ち合わせをしていたのであるが、さきほど加奈からインフルエンザにかかったようで行けなくなったとメールが来たところだ。美世子は「あ~あ」とつぶやき、インフルエンザじゃしかたないと気持ちをきりかえて、せっかくここまで来たんだしと、一人でもなにかみてもらおうと思い直し、地下に降り、占いの館のフロアーを見渡した。もう5、6回来ていて、水晶やタロット占いをやってもらったことのある美世子は、ざわついたフロアーをゆっくりと歩きだした。水晶占いは今

ひとつだったが、タロットカードはわりと当たってたなと思い出しながら、今日はどこで観てもらおうかと目移りしながら歩いていたが、週末ということもあり女性客が10名ほど列をなしている人気占い師のコーナー

を横目に見て、ひとり20分くらいかかるとして、あまり待ちたくなかった美世子は、ふと隅にある黒いボックス席に目がいった。幸い誰も並んでいない。見ると手相占いと書かれている。「今日はここにしようかな」

とつぶやいてボックス席に入ってみた。頭から薄いベールをかけた占い師を想像していたところ、ふつうのおばさんであった。新宿の母というよりも、うちの母という雰囲気で、「本当に占いができるのか?」と怪しんでしまった。少しふっくらした体形で、ゆるいパーマの白髪交じりの髪を後ろでひとつにまとめた50代くらいに見えるその占い師は、安心感を与えるように微笑んだ。目じりのしわが優しそうに見える。ほっとした美世子は椅子にかけると「お願いします」と右手を出した。ゆっくりと美世子の手をとった占い師はまず性格などを鑑定していった。当たらずとも遠からずという内容で、単純な美世子はいちいち納得していた。そして恋愛運や仕事運など聞いているうち、ふと「私、長生きできますか?」と聞いてみた。占い師は大きなルーペを持ち直し、生命線を探し始めた。しばらく観ていると、何も言わず、「左手も見せてもらえる?」と言い、なおもじっくりと何かを探すように美世子の左手に顔を近づけている。美世子は聞いてはいけないことを聞いたような気がして、「あ、あの、わからなければいいです!」と手を引っ込めようとした。しかし占い師は美世子の手首をがっしり掴み離してくれない。しばらく黙っていると、占い師はゆっくり顔を上げた。そして「生命線が・・・ない」困惑した表情で告げると、ようやく美世子の手を離した。緊張のせいか美世子の手は冷たい。「え?生命線がないなんて・・・」と美世子は自分の両手をまじまじと見つめ「本当だ・・・この間べつの手相占いに観てもらった時は何も言われなかったのに・・」不安にかられた美世子はその場から逃げ出すように、立ち上がってふらふらと歩き出した。それを見ていた占い師は隣で営業している水晶占いの女性に声をかけられた。「今のOLさん、生きてる人じゃなかったわね。」それを聞いた手相占い師は思わず口に手を当てた。水晶占いの女性によると3か月前に、ちょうど今日のような週末に友達と待ち合わせをしていたOLがいたのだが、その友達が来られなくなり、退屈しのぎに占いのフロアーに降りようとした時通り魔に襲われ、刺されて亡くなってしまったという。即死だったらしいが本人は突然のことで、自分が死んだことをまだ理解できていないのかもしれない。それからしばしばそのOLが占いのフロアーに現れては、まだ事情を知らない占い師に自分の寿命を聞いていくのだという。この手相占い師はまだ店を開いたばかりでそんな事件のことを知らなかったのだ。そして話を聞きながら、美世子の手の冷たさや手首を掴んだときに脈が感じられなかったことが思い出された。手相占い師は胸の奥に悲しいものがこみあげてきて、つい先ほどまで美世子が座っていた冷たい椅子に静かに手を合わせたのだった。



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