孤高の海賊ケイム=ハスラー!?
シープと別れて、再び海に出たウォーシャン兄弟。たまたま島が見えたので少し立ち寄ってみた。そこで情報収集していたのだが…船に戻ると!?
ガヤガヤと賑わう酒場の椅子に腰を下ろし、天井を仰いでいた。使い古されたランプがチカチカと橙色の光を帯びており、薄暗い店内を仄かに照らしている。どこか大人の雰囲気のある店内…そんな店に集っては海賊共は酒を交わし、陽気な歌を歌うのだ。
酒場と言っても生憎俺様は未成年。だから酒は飲めずにテキトーな飲み物を注文して、それで我慢。
一番小さいサイズのビールジョッキにトニックウォーターを注ぎ込み、グビっと一気に飲み干した。
シュワシュワとした炭酸と後味に独特な苦味が口の中に広まっていく。
「くぅあぁ…炭酸きっつ!!」
酒場で情報収集をしてたのだが、思いのほかこれといった収穫も得られず、途方に暮れていた所だ。
「……そう簡単には尻尾掴めねぇか…まぁ、知ってたけどさ。」
とある海賊の情報を求めて、酒場がある度にこうして聞き回っている。しかし今のところ、その海賊の情報は一度も得られてない。随分とガードが硬いんだな…
メロートから船を出して約三時間。海上を漂っていたところ沢山の海賊船と灯りが見えたのだ。
船を寄せてみると、そこは島だということが分かった。
島は島でも所謂無法地帯。海軍は関与せずに、海賊で賑わっている…まさにそんなところだ。
酒場が軒を連ねており、真夜中なのにどんちゃん騒ぎ。
月は高く昇り真上に位置している。
せっかくだから立ち寄ってみることにした。ここならわざわざ船を隠す必要が無いしな!!小舟の隣に堂々と俺様の船も停泊させ、虱潰しに聞いて回ることにした…のだが……
そう上手くいかねぇのが現実で…
「…ダメだこりゃ。」
はんば諦めモードに入っていた。
「順調ですか?」
別々に聞き回っていたサージが歩み寄ってきた。浮かない表情をしているところからすると、ろくな情報を嗅ぎつけられずに行き詰まっているのだろう。
「ちっっっとも!!何一つ…それっぽいものは無かった。お前の方は…?」
そう聞くと、「こっちもダメです。」
と首を振ってしまった。
散々聞いてコレかぁ…
少し落胆した…これ以上聞き回ってもマトモな返答は返って来ない…かもな。つーか、ここに居る奴らほぼほぼ全員と話したし…
「…どうします?船、戻ります?」
サージが欠伸をしながら聞いてきた。もうそろそろ疲れたし、店に居るだけで酔っちまいそうだし…
「だな。そろそろ行くか…」
店のおっちゃんにジュース代を払って船に戻った。
****
再び海に出ようと、ランプの灯りを頼りに海図を確認していた。多分今はこの島だから…
次は陸続きのでっけぇ島っつーか…大陸が見えてくるはずだ。コンパスの針も狂うこと無く正常に動いている。
「…次はここか。」
「そうですね。この大陸は、言語は違えども、州としてまとまっているそうですよ。共通の通貨を使い、共通のメロディーの歌を歌い、そして、お互いの国を自由に行き来できるそうです。」
普通なら、国境付近で厳しく取り締まりがあるのにその隔てもなく働きに行くにしろ、行き来自由なのか…団結力の高い地域なんだな。
関心しながら重たい錨を引き上げた。ん?つーか…何でお前がそんなこと知ってるんだ…?
「…お前そんな物知りだったっけ?」
「え?あぁ、さっき聞いて回ってた時にこの先に大陸があると教えてくれたんですよ。」
「へぇ、やるじゃん!!んで色々聞けたわけだ!!収穫ゼロとか思ってたけど撤回するわ!!」
「はぁ…?とりあえず聞いたことは海上で詳しく話すのでそっちの帆を張っちゃって下さい。」
「りょーかい!!」
言われた通り帆を張ったわ良いが…何で弟に仕切られてんだ…?いつの間にか立場逆転してやがる…
「どうかしましたか?」
「いーや?何でもねぇ…」
頼りになるけど…やっぱり恐ろしい弟を持っちまったと我ながら思う。
上手い具合に風に乗り、船は無事大海原に出ることに成功した。
「よーし、流れに乗ったな。比較的穏やかだしこのまま放っておいても大丈夫だろ。」
「そうですね〜」
サージの方を見やると、頬や耳を真っ赤にして白い息を吐きながら手を擦り合わせている。
コートを着てるけど流石にさみぃな……
「とりあえず中に入るか。詳しい話はココアでも飲みながら教えてくれ。」
「わぁ、ココア!!やった♪」
子供のように顔を綻ばせるものだから、何だかこっちまで嬉しくなってきた。
サージがドアに手をかけ、先に入っていった。
飛びっきりの俺様特製スペシャルココアを作ってやろう!!
そんなことを意気込んでいたらサージの悲鳴が聞こえてきた。
「うわぁあああぁ!!??」
「どうした!!??」
慌てて入ると、我が弟は腰を抜かして地面に尻餅をついていた。ランプを掲げながら何か伝えようと口をぱくぱくさせているが…なんて言ってるかさっぱし分かんねぇ…
「とりあえず落ち着け!?どうした…?ちゃんと話してくれねぇと分かんねぇよ…」
「ぁ…ぇ…あれ…あれぇええ!!」
「あれ…?」
ランプの明かりで照らされている方向を見ると、ソファーの上に何か居ることに気づいた。
「うぉおおぉ!?な、なんか居るぅううう!!」
「やっぱ居ますよねぇええ!?」
もしかして、この付近で昔沈没した船に乗っていた乗組員の幽霊なのでは…!?
お互いに身を寄せあってビビっていた。しかし、一旦落ち着いて耳を済ませてみると…スースーと寝息が聞こえてくるではないか!!
「足!!」
「あります!!」
「死臭!!」
「しません!!寧ろ酒臭い…?」
「ヤツは透けてるか!?」
「透けてません!!」
「息!!」
「してますね!!」
点呼を取るように幽霊でないか確認し合った。多分コイツは生きた人間だ。何故俺様達の船に居るかは不明だけど…少しだけ恐怖心が消えたような気がした。
身なりを見るなり海賊であることは違いない。
このまま放っておいて果たして安全なのだろうか…?
もしかしたらめちゃくちゃ凶悪な海賊で…起きた瞬間、話す間もなく殺されちまうかもしれない。
とりあえずサージと相談して、眠っているうちに身動きを取れないようにしよう…という事が決定した。
「サージ!!な、何か武器になるモン構えとけ!!俺様がロープでグルーってするから!!」
「え!?あ、はい!!」
そう言いつつもサージが手に取ったのは船を掃除する時に使うモップで…テンパってるのかな…?まぁこの際、時間との勝負だからいいけどさ…
「3、2、1で行くからな!?いいな!?321だぞ!?」
「分かりましたから早く!!」
巻こうとした瞬間目を開けたらどうすっかな……いつでも銃を取り出せることを確認して覚悟を決めた。
少し深呼吸して馬鹿みたいに鳴り響く心臓を落ち着かせる…
「いくぞ!?」
「はい!!」
「3…」
「2…」
「1…」
「GO!!」
合図と同時に男の体を起こし手早くロープをぐるぐると巻き付けていく。流石にコイツも異変に気付いたらしく目を覚ましてしまった。
「!!??」
「ひぃいい!!目!!目ぇ覚ましたよぉおお!!」
「分かってる!!と、とりあえずこれで大丈夫だろ!!」
少しずつ男から距離を取り、モップの柄を鼻頭に突き付けた。
「お、お前は、何者だ!?」
男は状況が理解出来てないらしく、自分に巻き付けられたロープや俺様達の顔をマジマジと見ている。
「……誰だ?」
「は!?」
低く大人びた声で逆に質問された。″誰だ?″いや、それ聞きてぇのはこっちだし…まず自分から名乗れって事なのか…?
「俺様はサザ…
名乗ろうとしたらサージにそれを制された。見ず知らずの海賊に名乗るのはリスクがあると見たようだ。
「…少なくとも俺の知り合いでは無いな。依頼か?それとも…賞金狙いの海賊か?」
束縛されて身動きが取れないというのに、それでも慌てることなく…酷く冷静なモンだからこっちが不安になってくる。何でこんな落ち着いてられるんだ…?
もし、俺様が目覚めた時に束縛されていて目の前に知らねぇ海賊が居たらすっげー焦ると思う。
なのに、男は冷静…目の前に人形が座ってる…なんて言われても違和感がないくらい無表情で淡々と言葉を並べていく…歳は二十代…だろうか。大人の余裕ってヤツなのか知らねぇけど…少し怖く思えた。
「…どちらでもありませんよ。」
それでも怯むことなくサージが言葉を返した。俺様も見習って続かねぇとな…口を開こうとしたが先に開いたのは男の方だ…いや、ちょっと語弊があったかもしれない。
男の表情は、口元は…マスクで覆われているので上手く伺えない。だから、口を開けてる開けてないは正直分かりにくいけど…言葉を発したのは男が先だった。
「なら、何故こんな事をする?その銃で…撃ち殺すのか?」
ドクリと心臓が鳴った。コイツ…気づいてたのか…動揺のあまり威嚇のつもりだったモップを下ろしてしまった。
それどころか、男はサージの方を見ては、
「それとも…隠しているその剣で、心臓を貫くのか?」
なんて物騒な事言うもんだから正直ドン引きしてる。これは煽っているのか?それとも本気で言ってるのか?
「そ、そんなことしねぇよ!!」
「僕達は人を殺しません!!あくまで自分を守る為の道具です!!」
勿論すぐに否定した。しかし、何故か男はどこか落胆しているように思えた。
まるで…殺される事を期待していた様に…
さっきから変な感じがするのはコレだ。
男の目は、どんよりと…どこまでも深く、暗い色をしているのに…光を帯びていないのに…その内側には禍々しい″何か″が秘められている。
ざわざわと妙に胸が騒ぐ…明らかに普通では無い事が伝わってくる。コイツは…もしかして…
「お前…死にたいのか?」
こんなおかしな質問、本当はしていいか戸惑った。
隣でサージも困惑している。
″そんな訳ないだろ″とか″何言ってるんだ?″とかそんな答えを期待していたのに…
「……ははっ。」
返ってきたのは嗤いだ。どこまでも可笑しそうにクツクツと嗤い出した。胸の中が冷たくなっていく…
コイツ…本当に…
「…もし、そうだったらどうする?」
試すような目付きで聞いてきた。何で…しれっとそんな悲しい事言えるんだよ…
「さっきも言っただろ?俺様達は…」
「人を殺さない海賊だって。」
言いたかった言葉をサージが繋げてくれた。
「…そうか。」
一瞬目付きが変わった。どこか悲しげな表情を見せたのだ…
コイツ…何があったんだろう。聞きたいことは山々だが…あまり軽率に踏み込んでいいようには思えない。
けれども…すっげー辛そうに見える…
なんとか出来ないだろうか……
「ところで…何故貴方は僕達の船に…?」
話題を変えるべく、サージが一番の疑問を振ってくれた。
「は?」
言われて気づいたように周りを見渡し始めた。
「……どこだここ…俺は自分の船に…」
そこまで言って押し黙った。もしかして…
「お前、船間違えたんじゃないの…?」
「ここ、僕達の船なんですけど…」
やべぇ奴って思っていたけど…どうやらアホなのかもしれない。
「……すまない。俺の方に非があったかもしれない。……酔っていて気づかなかった。」
「……。」
やっぱりコイツアホだ。どっか抜けているというか…認識出来ねぇくらい飲むってどういう事だし!!
「忘れてくれ。俺は自分の船に戻る。だから、解いてもらっても良いか…?」
そんなこと言われてもなぁ……
「無理ですよ!!ここ海の上ですよ!?もう島から大分離れちゃいましたし!!」
「…は?」
初めてこれまで保っていた冷静を崩し、ワタワタと男は立ち上がろうとし始めた。しかし、ロープのせいで上手く身動きが出来ないようで…再びソファーの上に体勢を崩してしまった。
「妙に揺れると思っていたが…酔いじゃなくて…海上だからだったんだな。」
男は不機嫌そうにため息をついた。そして、何を言うかと思いきや…島に戻れとか言い出したのだ。
「いやいや!無理だって…海流に乗っちまったし……今更…なぁ?」
「えぇ…難しいですよ…」
「……分かった。期待してなかったから気にするな。」
コイツ…!!何様だよ…本人は悪気はないのかもしれねぇけど…何だか少し言葉にトゲがある。
″期待してなかった″とか…ちょっと蛇足じゃねぇの?
思わずサージと顔を見合わせた。サージもどこか仏頂面になっている。とんだ困ったさんを拾ってきてしまったようだ……
「結局、お前誰なの?船間違えるくらいだし…小さい船で航海してたのか…?仲間は?」
そう聞くと、男は一段と表情を暗くした。何やら考えてるようで中々返答がない。どうやら答えていいか迷っているようだ。
「……随分と質問攻めだな。まぁいい。お前らには迷惑をかけてしまったな…その詫びと言うには違うかもしれないが…答えられる範囲で答えよう。」
どうやら、答えてはくれるらしい。
「誰…か。俺はケイム。ケイム=ハスラー…」
「ケイム=ハスラー!?」
「え、兄さん…知ってるんですか!?」
ケイム=ハスラーって……
「いや、知らねぇ!!初めて聞いた!!」
そう言うとサージはガクッと肩を崩した。ケイムと名乗った男も苦い顔をしている。
「じゃあ何なんですか今のリアクション!!」
「……知らないならそれでいい。その方が……好都合だ。」
俺様のペースに持っていこうとしたが相変わらず淡々とした物言いをして、決して動じない。
「俺は、ハスラー海賊団というところの船長をしていた。それなりに大きな船で航海していた…」
ぽつりぽつりと自身のことを語っていく。大きな船…?
「なら、こんな小さな船と間違えること無いのでは?」
サージの言う通りだ。
それならこんな船と間違えるはずない。
もしかしたら嘘をついてるのではないかと疑っていたが、まだ続きがある…とケイムは言ったので黙って次の言葉を待つことにした。
「あくまで、過去の話だ。…さっきまで、この船と大差ない小舟で海に出ていた。」
どういう事だ……?船長が小舟で海に出る…?
「……そんなものだから、間違えた。」
「何故小舟で航海を?」
「でっけー船があるんだし、船長なんだろ?だったら…」
そこまで言ってハッとした…まさか…
「船が沈没しちまった…のか!?」
「……!!それで…逃げる為に!!」
成程と勝手に納得していたら、ケイムは静かに首を振った。
「……違う。そうではない。けれども…あながち間違ってはいない。」
「違うのに、間違ってない?」
明らかに矛盾してねーか…?なぞなぞみたいで言ってる意味が正直分からなかった。
「……俺は、逃げて来たんだ。」
逃げた…?何から逃げる必要があったというんだよ…
「だから、もう船長でも何者でもない。」
さっきの無表情とはまるで違って、あまりにも、儚い表情をするものだから胸が軋んだ。
何だよ…一体全体何があったって言うんだよ…
″死にたい″に繋がるくらいだから相当な出来事がケイムの身に起きたに違いない。
「……仲間、と言っていたな。初めから、そんなもの居なかったんだ。俺が一方的に思っていただけだったんだ。」
仲間のいない海賊団の船長…?益々訳が分からない。
「それって……
「もう、いいだろ?聞かれたことに対しては…ちゃんと答えた。」
サージが更に質問を続けようとしたがケイムはそれを拒んだ。どうやらこれ以上は聞かれたくないらしい。
「……はい。」
「お前のことはまぁ、ほんのちょびっとだけ分かった。んで?船も無いわ…縛られてるわ…これからどうする訳?」
″過去の質問″はやめ、″これからについての質問″をしてみることにした。
「……さぁな。どうしようか。」
ケイムは自暴自棄になったのか、肩を竦めておどけた様に答えた。壊れてしまう寸前…そんな雰囲気を色濃く漂わせている。
「行く宛は…?」
「……無いな。次の島に着いたらばそこに下ろしてくれ。これからの事は、お前らが気に留める必要は無い。」
少しでも踏み込もうとすると、距離を置かれてしまう。今コイツを一人にしたら…
「死なねぇ…よな…?」
ケイムは押し黙った。…迷っている。もし、別れた後死ぬと選択してしまったら平気で自分の命を投げ出してしまうだろう。
「……分からない。」
その声は掠れていて頭を項垂れてしまった。だからどんな表情をしてあるかは伺えないが…このままじゃいけない。ほおって置くなんて…俺様には出来ない。
「…………ならさ、」
この選択が正しいかは俺様にも、分からない。
「行く宛がないならさ…」
全然、ケイムのことを知りもしないけど…
「うちの…乗組員にならないか?」
一緒に変わっていける可能性がゼロじゃねぇなら…それに賭けてみてぇ。
せっかく生きているのに…死にたいなんて悲しいこと言って欲しくない。ただそれだけの理由だ。
______
___
瓜二つの子供の片割れがおかしな事を言った。
″うちの乗組員にならないか?″
訳が分からない。何故そんなことを言う…?
きっとまだ子供だから分からないのだろう。この世の理を知らない…だから何でも簡単に言ってしまうに違いない。
しかし、その真っ直ぐな瞳が本気さを物語っていて酷く揺るがされた。
見ず知らずの相手が勝手に死ねばそれで終わりでいいじゃないか。ほおって置けばいいのに…
どんなに考えても、分からない。
けれども、海賊帽の子供はとても眩しく見えた。
子供の時の兄貴の目とよく似ている…
「出会っちまったんだしさ、これも何か縁なんじゃね?」
更に海賊帽の子供は言葉を繋いだ。
縁…か。本当にそんなもの存在するのだろうか。
この子供を…信じてみても…
そこまで考えて我に返った。こんなの戯言だ。耳を傾けるだけ馬鹿馬鹿しい。子供なんて煩いだけだ。疲れてしまうだけ…そうだ。そうに違いない……
少しでも希望を持ってはいけない。
だって俺は…
生きている価値なんて無いんだ。
生きている事自体罪なのに
「こうして、今生きてるやつが…死んじまうなんて思うと胸糞悪ぃよ…出会っちまった以上ほおって置けない。」
お人好し…が。こんなの偽善なんだろ?
しかし、心のどこかでは…少しだけ賭けてみたい…そんな気持ちが湧き上がってきてるのを感じていた。
俺を知らない所で…やり直したい…
新しい自分として生きていきたい。まだ知りたいことが沢山ある…だから、だから…
本当は……死にたくない…
あぁ、ダメだ。必死で堪えてたのに、現実と向き合いたくないから否定していたのに…込み上げてくる…
なんて弱いんだろう。
きっと酒に酔っているせいだ。
だから、どこまでも真っ直ぐな…小さな海賊に可能性を感じてしまうんだろうか。
たった少しの期待と希望。この二人の元なら俺は……
やり直せるのだろうか?
_______
______
「兄さん…本気ですか?」
心配そうにサージが小声で聞いてきた。
「俺様はいつでも本気だぜ?」
「…ふふ」
「な、何で笑うんだよ!?」
「いえ、それでこそ兄さんだな…と思って。」
よく分かんねぇけどケイムに聞こえちまうだろうが!
チラッと盗み見てみると…やはり俯いていて何を考えてるかは分からない。
「僕も賛成です。このままには出来ない。」
サージが賛成してくれてホッとした。もし反対されたらどうしようかと思ったしな…
これで後はケイム次第となったが一向に返答は来ない。
「俺様はサザン=ウォーシャン!!」
「僕はサージ=ウォーシャン。」
「まだまだデビューほやほやの海賊だけどさ…宜しくな?」
そう言うと、ケイムは顔を上げた。
「……ウォーシャン…か。」
ぽつりぽつりと呟いていく…
「嫌になったら…いつでも切り捨ててくれて構わない……俺は、相手の気持ちを汲み取れない…欠けているんだ。言われるまで…何も、気づけなかった。」
声を振り絞りながら答えてくれている。ケイムなりの覚悟が込められていることが分かった。
「……比べられて生きてきた。だから劣等感しか感じられない。それに、意気地無しだ。現実を直視できない。いつも…今日みたいに逃げてきた。」
どんな人生を歩んできたかは分からない。けれども、いつか過去の事を話してくれるだろうか?
「……それでも、受け入れてくれるのか?」
そんなの…
「勿論だぜ!!」
「えぇ…!!」
こんな不思議な出会いになったけれども…きっとなにかの巡り合わせなんだろう。
初乗組員を祝うべく、握手を交わした。
ケイムの手は俺様達よりも一回り以上大きかった。
やっと…夢への第一歩が踏み出せたのだ!!
「宜しくな…!!ケイム=ハスラー!!」
「…ケイムでいい。」
どこか冷たい感じはするけど、きっといい奴に違いない。
「……?所でケイムさん…縛ってあるのに何故握手出来たんです…?」
サージに言われて気づいた。あれ?そういや縛ってたよな…?何で手ぇ差し伸べたら握手を返してくれたんだ…?
「……とっくの前にナイフで切ったからに決まっているだろ。」
「……えぇ?」
めちゃくちゃではあったけど…確かに固く縛ったはずなのに…あの体勢でどうやってナイフ取り出して切ったんだ…?
「…問題あったか?」
「いや、ねぇよ…?」
もしかしたら、とんでもねぇヤツを仲間にしちまったのかもしれない。
「…そういや、ココア入れる気で居たんだよ!!ケイムもいるか?」
「要らない。」
「……。」
まぁ、酒飲んだみたいだしな。水の方が良かったのかもしれない。つーか余計な世話なのかな…?
どう接していいか分からず、頭を悩ませていた。
「それにしても狭いな。どこで寝ればいい…?」
狭い…ちょっと癪に障るけど…そう言えばそうだ。今まで二人で航海していたからケイムの寝る場所がない。普段サージは今ケイムが座っているソファーに寝ていて…俺様は上にぶら下がっているハンモックに寝ているのだが…どうすりゃいいのかな…
ケイムは、立ち上がり部屋の中を見渡した挙句、ガチャりと外に出たのだ。轟々と風が吹いていてとても寒い。
そんな中、船のあちこちを歩き回って、最終的に船の屋根に飛び移ったかと思いきや…ここを寝床にするとか言い出しやがった。
わざわざ外ではなく中で寝ればいいのに……
「さ、流石に凍死してしまいますよ!?」
「…それはそれで構わない。」
「ええぇ!?」
いい奴だと思ってたが訂正。ちょっと癖の強い奴のようだ。
どうやら″死にたい″という思いは捨てきれてないようで…
「……寝る。おやすみ…」
「お、おう…」
何もかけずに屋根の上でゴロリと丸まってしまった…
少し自由気ままな猫みてぇだなぁ…なんて思ったが、猫でもこんなに寒ければ外では寝ないだろう。
やはりどこか壁を隔てるケイムとの航海に少し不安を抱いたのだった…
はい!!ケイムが登場しましたね!!メンバーが増えると書くの更に楽しくなってきます。それぞれに個性を上手く表現していけるように頑張りたいと思います(*´v`)
うわ嫌な感じのヤツだなぁ…って思われるかもしれませんが…ケイムは不器用なだけなんです…
ハチャメチャな二人を引っ張っていってくれるお兄さん的存在になっていくのかなぁ…?作者としてもそこは不明ですが活躍乞うご期待…?