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奏で!君へのレクイエム!(前編)

ロフと別れ再び海へ出たウォーシャン兄弟。次へ目指すは楽器職人の国、メロート…彼らに待ち受けるものとは…?

最初は女海兵マリーヌ=ディアス目線のお話です。

連日、会議続きでMARE軍は大忙しだ。睡眠時間もまともに確保出来ずそろそろ体力的に限界が近かった。しかし、弱音なんて吐いてられない。

金のグラスを巡っての信頼問題や、ウォーシャン兄弟によって手配中の海賊が引き渡されたことによって非常に混乱している状況である。

あの兄弟は本当に何がしたいのよ……

彼らの行動は本当に理解し難いところが多い。前例が無いことばかりしでかすのだ。

けれども、目を瞑ると思い出してしまう。月明かりに照らされて美しく輝く海色の髪、潮風に煽られて悠然と閃くコート、どこまでも真っ直ぐで輝かしい純粋無垢な瞳。

一瞬にして目を奪われたのだ。

けれども、所詮海賊は海賊。あの二人にはウォーシャンの血が流れている。

もしかしたら、あの日の様な惨禍を巻き起こす脅威になりかねない。子供だからって甘く見ない方が良いだろう。

資料に目を通すたびにため息がこぼれてしまう。

あぁ、本当に訳が分からない。これ以上問題を起こす前に捕まえないと……

「あら、ため息をつくと幸せが逃げるわよ?」

そんな事を考えながら歩いていると、正面から聞きなれた声が降ってきた。

「わ、キャロル…!!」

目線を上げると、キャロル=ウィリアムズ中将が立っていた。資料にしか目がいってなかったから呼びかけられるまで全然気づかなかった…。ふわりと笑っているが、その顔はいつもよりも元気がなく疲れているのがハッキリと分かる。

「ふふ、驚いた?ってちょっとマリン!貴女目の下が真っ黒じゃないの!!」

驚いてるかと思ったら私の両頬に軽く手を添えながらまじまじと顔を覗き込んできた。キャロルの手はとても冷たく少し心地よかった。

しかし、私としては忙しくて化粧直ししてなかったのであまり見ないで欲しいという思いで一杯だ……

そんな感情を読み取ったのかキャロルは頬から手を離し、懐からポーチを取り出したのである。

「え?え?な、何!?」

「ちょっとじっとしてて。」

そう言って、動きを止めたのを確認すると化粧道具を取り出して私の化粧を直し始めたのだ。

あまりに予想の斜め上の行動に少し驚きつつも黙ってされるがままになることにした。

「うん。いい感じ♪女の子は常に男子から見られてるのよ!?ましてや、マリンは美人さんなんだからちゃんと気をつけないとね!!」

「あ、ありがとう……」

うわぁ…何か慣れてる感が凄い……というか、私がするより何倍も化粧上手だなぁ…

キャロルは男性なのに化粧道具を持ち歩いているのだ。喋り方も少し特徴的である。

………まぁ…その…所謂オネェってやつだ。

「いいのいいの!それよりちゃんと睡眠は取らないとダメよ?寝不足は良くないわ。見てて辛そうだもの……それに、お肌にも良くないのよ?女の子なんだから気にかけなきゃいけないわよ!!」

前にサザン=ウォーシャンにも同じ事を言われたなぁ…

キャロルは紫色の髪の毛を掻き上げながら目を細めていた。…なんというか、少し呆れられたというか……女子力の無さがバレたというか…自分の不甲斐なさを改めて突きつけられた様な気がしてならない。

「わ、分かってるわよ…けれども、中々時間の確保が出来なくて……それで…」

ずしりと重い資料に目を落としながら言い訳を考えたが思いつかなかった。自己管理も出来ないなんてそれこそ海兵として恥である。

あぁ、大人なのに本当に情けないなぁ……周りの人はちゃんと出来ているのに…なのに私は…。考えれば考えるほど自己嫌悪に追われてしまう。

ダメだダメだ。弱気になっちゃダメ!頑張れディアス!

貴女は、お母さんみたいになるんでしょ?

何度も何度も自身に言い聞かせて何とか前向きになろうと試みる。それしか今の私には出来ないから……

「そうよねぇ……その仕事量じゃ大変よね…」

私より大変な仕事をしてるのに同情しないでよ…

目上の人への嫉妬。優しさすら素直に受け止められない。最低だ…私って本当に最低だ…

みんなが思っているほど″いい人″ではない。上辺だけはいい人ぶってしまうのが私の悪いところである。

皆から嫌われないように自己防衛ばかりしてしまうのだ。

けれども、内心は嫉妬と嫌悪ばかり…負の感情の塊だ。上手くいっている人のことを妬み羨んでしまう。

「えぇ…けれども、あくまで私の仕事。ちゃんとこなしていかないとね……」

いつもそのグチャグチャしたものが溢れでてこないように取り繕ってしまうのだ。

「何だかありがとね。頑張って終わらせてちゃんと寝るから心配いらないわ!それじゃあ……」

そう言って早足で立ち去ろうとすると、キャロルは徐に私から資料を取り上げた。

「え…ちょ、ちょっと!?」

「ふーーん?なるほど。これは機械で打った方が早そうね。ここらの分野はジャスに手伝ってもらうといいわ。彼、こういうの得意だもの。それでこっちは図書室で調べられそうね。ルートに話せば一発だと思うの。」

パラパラと資料を捲りながら一つ一つ丁寧にアドバイスしてくれた。

何で…私なんかに……

「マリンは頑張り屋さんだから一人でこなそうとするけど…仕事は効率良くやった方がいいわ。あとね、無理はダメよ?これが終わったら少し寝なさい。皆にはアタシのほうから言っておくから。」

仕事を手伝ってくれるのでなく、アドバイスだけをしてくれるのがキャロルのいい所だと思う。甘やかさないのも優しさの一つ。私の気持ちを考慮した上での行動。やっぱり大人だなぁ……

「そう…なんだ。ありがとう。うん…頑張るね。」

自分の惨めさが、醜さが、優しさに溶け込んでしまいそうで少し泣きたくなった。

キャロルはきっと私の内心を汲み取ってしまっているだろう。それを分かってる上でこうやって接してくれる…

私の成長の手助けをしてくれてるのだ。少なからず期待してくれてるんだと思う。その気持ちに応えられるように頑張らなきゃな……

_________

___

静かに揺れる海面に船を浮かべていた。今日は穏やかな天候である。晴天の下、所々縫い合わせてある白い帆を張り潮風を受けながらゆったりと船を進めていた。所謂、航海日和ってヤツだ。日差しがギラギラと眩しいが同時にとても暖かく心地が良い。そんなもんだから洗った衣服にロープを括り付けて干していた。

「いい天気ですねー」

眩しそうに目を細めながらグッと伸びをし、サージは呟いた。

「おう!そうだな!」

にぃーっと白い歯を見せながら笑った。後ろの方を見やると、洗濯物と一緒に海賊旗が日差しを受けながら気持ち良さそうに泳いでいた。

しかし、その海賊旗というのもまだ見窄らしい手作りだ。我ながら画力のなさに苦笑する。少し前に、サージと一緒に黒布に白いペンキでドクロを描いたのだ。世辞でも上手いとは言えない出来栄えである。

この船をでっかくするのと同時に、ちゃんとした海賊旗も作ってもらわねぇとな……

こんなんじゃ、他の海賊から舐められてしまうのも無理はない。この船は屋根が付いてて雨風は凌げるが、小さな小さな小舟だ。海賊旗でも掲げなければ漁師とでも間違われてしまうだろう。

「こんな日はゆったりと買い物とかしたいですね。次の島までどれくらいなんでしょうか?」

サージら海図を見るなり首を傾げていた。それを横から覗き込みコンパスを開いた。

「んーー?方角的にはこっちで合ってるし…もう少し…じゃないか?」

ここら一帯が書かれている海図を以前出航する前にQから貰ったのだ。そのお陰で何ら不自由なく航海していた。(海が荒れてて波に飲み込まれちまったのは想定外だったけど…)ロフが居た島に漂着した時にいくつか荷物は流されちまったけど、必要最低限なものは無事だった。クッキーの空き缶に地図やお金を入れておいたのは正解だったぜ!お陰で大切なものが濡れなくて済んだのだ。

「着いたら町をまわって見ませんか?話によると、音楽で栄えてる美しい国…らしいですからね!」

「おう!そうらしいな!」

島の奴らからそんな事を教えて貰ったものだからちょっと立ち寄ってみようかと思ってずっと西にあるその国…

″メロート″を目指してるのだった。

「どんな所なんでしょうね!?メロートの楽器はみんな市場に出回ると凄い金額で取引されるらしいですよ!!」

作られた楽器は皆一流品。貴族や王族から注文が相次いでやまないと聞いている。音楽で栄えている……と言うよりも、楽器を作る職人達によって栄えている国……の方が正しいかもしれないな。

まぁ、海育ちの俺様達にとっては楽器や音楽なんて無縁に近いけど。……だからこそかもしれねぇが、そんな未知の領域に強く焦がれてるのだ。まだ触れたことのないもの。見たことの無い世界。考えただけでワクワクが止まらない。サージは俺様以上に音楽に惹かれていると思う。

話を聞いた時から活き活きとしている。こんな嬉しそうなサージを見るのはいつぶりだろう……こっちまで不思議と嬉しくなって来ちまうな。

「はは…」

思わず笑いが漏れてしまった。サージは何故笑われてるんだと言わんばかりにキョトンとしている。あまりにもそれがあほ面過ぎて更に可笑しくて笑いが零れ出た。

「ちょ…兄さん?僕何か変な事言いましたか?」

サージは毎回原因は自分の方にあると思い、真っ先に自分を疑うのだ。まぁ、今回ばかしは強ち間違ってないけど…

「何でもねぇよ。何だか嬉しくてな…」

「はぁ…?」

訳が分からないといった具合に、益々怪訝そうな表情をしている。

「本当にしょうもない事だから気にすんなって…俺様も着くの楽しみだわ〜!!まだかなまだかな〜♪」

有耶無耶にすると、不満そうな顔を残しつつもそれ以外は何も聞いてこなかった。

***

しばらくすると大きな島が見えてきた。港は勿論きちんと整備されており、多くの船が停泊されていた。流石は貴族や王族をも魅了する楽器職人の国……立派な船ばっかりだ。

トラブルを起こすと面倒事になりそうだな……

けれども、ボンボンの船だ。嘸かし立派な宝も積んであるのでは…?

「兄さん……悪いこと考えてませんか?」

考えを読まれたのかサージは呆れた顔をしている。

「え?バレちまった??」

「……やっぱり。顔に出てますよ?」

やれやれと言わんばかりにため息をつかれた。そういう考えはやっぱり良くないか。切り替え切り替え……こんな見窄らしい船を目立つところに停泊させるのは中々の勇気がいる…そしてこれは海賊船。港に停泊させるなんてあまりにも自殺行為だ。

港は常に警備されている。見回りする海兵にバレちまったら即捕まっちまう。だから毎度ながら人目を避けるべく、港から少し離れた人気のない砂浜に停泊させるのだ。

船で島の周りをぐるぐるさせていると、丁度いい感じの所が見つかったのでそこに停泊させておくことにした。

「着きましたね〜!!」

「おう。何とか着いたな♪」

「では早速街の方へ行ってみましょうよ!!」

「まぁま、そう慌てるなって…楽器は逃げねぇからゆっくり行こうぜ?」

サージは珍しく、少し興奮気味で今にも走り出してしまいそうな勢いだったので何とか落ち着かせた。

しかし、実の所を言うと俺様も冷静ぶってるが、本当は滅茶苦茶ドキドキしていた。

早く知りたい…行きたい…そんな思いで一杯一杯だったが、もう子供じゃねぇし歴としたお兄ちゃんなんだ。弟の前ではしっかりしねぇといけない。

そんな思いが歯止めをしていたのだ。だから何とかブレーキがかかっていて、理性を取り留めていた。

いつもは俺様が止められる立場なのに、今日は逆転していて面白可笑しかったが、言ったら怒られそうなので心の中に秘めておくことにしよう。

取り留めのない会話をしながら何分か歩き続けていたら街に辿り着いた。

そこは、沢山の音で溢れていて、目に映るもの全てがとてもキラキラしているのだ。

「うわぁ……」

「すっげぇ……!!」

顔を見合わせては二人で感嘆の声を漏らした。初めての景色。俺様の知らなかった場所。息をするのを忘れるくらい見入ってしまった。やっぱり父ちゃんの言う通りだ。

世界は広い。きっと、一生をかけても全てを知り尽くすのは無理だろう。

鉄パイプを細くした様な錆一つなく美しく輝く楽器、金色に輝く歪な形をした楽器、小さな鉄板を何個も括り付けた楽器…アレらは一体なんて言うんだろう?どうやって演奏するんだろう?次から次へと疑問が沸き起こってくる。

それはサージも同じなのか、好奇心で満ちた目で楽器を見つめ、手に取っては観察を繰り返している。

そんなこんなをしながら歩いていると、一際力強い音色が聞こえてきた。何だ?この音は…

人だかりを掻き分けながら進んでいくと、一人の女性が楽器を演奏しているところだった。

それがあまりにも美しい響きなので思わず聞き入ってしまった。彼女の演奏は街行く人々の足を止めさせ、目を釘付けにさせる…そんな力がある様に思えた。

「綺麗ですね…」

「何だか響いてくるな。ゾクゾクするぜ…」

「でしょ?シープさんの演奏ってさ、とっても力強くて綺麗だよね。」

いつの間にか、隣に立っていた青年が話に割って入ってきた。何だお前…?

少し猫背気味で自信なさげな感じだ。縮れた金髪に、そばかすの多い肌。地味で田舎から出てきたって感じの印象が強い。

「君達は彼女の演奏を聞くの初めてかい?僕は何度も聞いてるんだけどさ、毎回毎回感動させられるんだよね。」

青年はまるで自分のことを話すかのように嬉々と言葉を繋げていった。

「えぇ、初めてです。とても美しくて感動しました。」

サージの言葉を聞くなり嬉しそうに頬を綻ばせたのだ。

「だよねぇ!?やっぱりそうだよね!!僕さ、本当は生きるのが辛くて辛くて仕方がなかったんだ。いつ死のうか…みたいなさ…死ぬことを望んでいたんだ。」

急にどうしたっていうくらい暗い話になるもんだから眉を顰めてしまった。

「あ、そんな顔しないでよ…そうだよね……やっぱり死ぬことはいけない事だよね…けどね、変わったんだよ。彼女の演奏を聞いてさ。彼女、目が見えないんだ。それなのにああやって毎日毎日演奏し続けている。その姿を見て胸を打たれたんだ。僕よりもずっと辛い思いをしているのに頑張って毎日を生きている。なんて強くて美しい人なんだろう…ってね。」

青年の目はとても優しい目をしていた。目線の先には今も一人で演奏し続けている女性の姿があった。憧れ、尊敬、そして、好意……この青年はきっと恋をしているんだと思う。あの女性に生きる意味を与えられたんだ。

「そんな事があったのか…」

「うん。シープさんに救われたのはきっと僕だけじゃないと思うんだ。」

「あの、貴方は……?」

「ん?あぁ、ゴメンね。僕はへルザ。主に下働きをしてるよ。」

にこにこと愛想よく自己紹介をしてくれた。

「へルザさん。シープさんの事が好きなんですか?」

俺様が思ってた事なにも迷いなく聞いちまうんだな…

サージの質問に対して、あまりにも想定外過ぎたのか顔を赤らめながらあたふたし始めた。ドンピシャかよ…分かりやすいな…コイツ…

「な、何で分かったの!?お願い!!シープさんには内緒だからね!?いいね!?」

掌を合わせて必死に懇願されてしまった。俺様は約束に忠実だから言わねぇけど…

あまりの必死っぷりに思わず苦笑した。

「分かったから!いい加減顔上げろよ!」

まるで俺様達が弱いものいじめをしてるように見えなくもない。周りから変に勘違いされるのも嫌だしな……

「本当に言わないでね!?じゃあ僕、仕事があるからそろそろ行くね!?言わないでよ!!約束だからねーー!!」

そう言って早足で人だかりの中へと消えていってしまった。

「行っちゃいましたね〜」

「なぁ〜」

「慌ただしくて、ちょっと変わった人でしたね。」

「俺様も思ったわ…つーか分かりやすすぎかよ。」

会話を続けようとしていたが言葉は拍手の音に掻き消されてしまった。どうやら演奏が終わったらしく、シープは深々とお辞儀をしているところである。周りからは歓声と賞賛の声。時間が進むにつれ、満足したのか人だかりは次第に消えていき、遂には俺様とサージだけになってしまったのだ。

楽器を仕舞い始めた所で声をかけることにした。

「あの、」

「はい…?」

声をかけるとこちらの方を色のない瞳で捉えてきた。

「すみません…私、目が見えなくて…何か御用でしょうか?」

困った様な顔をしながら首を傾げていた。用というか…俺様が口を開く前に、めずらしくサージが先に話し出したのだ。

「さっきの演奏、とても凄かったです。正直なところ、音楽でここまで感動させられるなんて思ってもいませんでした。その楽器はヴァイオリン…ですよね。実物は初めて見ましたが…素敵な音色ですね!!」

熱烈と語り始めたので流石の俺様もびっくり……あの楽器ヴァイオリンって言うのか…

話を聞くなり目を見開いた後、嬉しそうに笑ってくれた。

「そんな風に言ってもらえるなんて嬉しい…ありがとう。」

「俺様も音楽の事とか良くわかんねぇけどグッときたわ!実はついさっきこの国に来たばっかりなんだ。海を渡って来たんだけどさ、中々いいところだな。」

「そうなの!ようこそ、メロートへ。私はシープ!このお店の孫というか…おじいちゃんが経営してるの。」

後ろの店を指さしながら教えてくれた。

「それで、私はおじいちゃんが作ったヴァイオリンを演奏するの。皆に素敵な音色を聞いて欲しくてね。おじいちゃんのヴァイオリンは世界一なんだから!」

自慢げに語り始めたと思っていたら、カランカランという扉が開いた音と一緒に、犬が飛び出してきた。

「バウ!」

「うお!?でっけー犬…!!なんじゃこりゃ!?」

「セントバーナード……?」

「そう!この子はセントバーナードのローフィ!目が不自由なものだから、いつも誘導してもらってるの。本当に頼りになるんだから!」

シープがわしゃわしゃと撫で回すと気持ちよさそうに舌を出して笑っていた。

「そう言えば自己紹介がまだでしたね。僕はサージ=ウォーシャン…こっちは」

「サージの兄ちゃんで、最高にカッコイイ絶世の美男子、サザン=ウォーシャン様だぜ!!」

そう言うとサージは呆れた顔をして、だめだこりゃ…と言わんばかりに半開きの目で睨みつけてきた。

「ふふふ、随分と愉快な人達と巡り会えたものね…」

「こう見えて、俺様達海賊なんだぜ?」

自信満々に語り出そうとすると、案外あっさりと頷かれてしまった。

「えぇ、そんな気がした。二人からは優しい海の匂いと暖かいお日様の匂いがするもの。船で渡ってくる偉い人達は、香水の匂いが強いの…けれども、二人は全然偉いって感じじゃないわ。」

「お、おう?……ってそれって褒められてるのかディスられてるのか分かんねぇんだけど!?」

しれっと言ってるけど、ちょっと失礼じゃねぇの!?

「そういうつもりで言ったんじゃないの!いい意味だからね!?海賊は海賊でも、二人からは怖いものは感じられないわ。だから安心してお話出来る。」

「いや~それほどでもぉ〜♪」

大袈裟に照れた素振りを見せるとサージに頭をバシリと叩かれた。全く容赦ねぇな…

一つや二つ文句言ってやろうと思っていたら、またカランカランと扉が開いた。

「ひぇ!?」

「うぇ!?」

中から滅茶苦茶図体のデカい厳つい顔つきのじぃさんが出てきた。睨みつけただけで相手を殺せそうな鋭い目付き、俺様の顔よりも遥かに大きい手、まるで、仁王立ちした熊のような馬鹿でかいじぃさんだ。

「なんだ?このガキは…海賊か?海賊がわしの大事な孫を誑かしてるのか?」

あまりにも迫力があって背筋がピンっと無意識のうちに伸びた。コイツはやべぇ……絶対強い。

サージも情けないくらい低姿勢となっており、今にも逃げ出してしまいそうだ。

「あぁ、おじいちゃん違うの!サージさんとサザンさんはとってもいい人よ!!怖がらせちゃダメ!!」

シープが間に入ると、お前が言うなら……みたいな感じで納得してくれた……のかな?

けれども、明らかに敵対心を見せている。全く、じぃさんって奴は皆孫に弱いんだから……

「ま、まぁ……宜しく…な?」

「馬鹿者。目上の人には宜しくお願い致しますだろうが!」

挨拶をしようとするもピシャリと雷を落とされてしまった。やっぱりこのじぃさんこええよ!!

「もう…おじいちゃんったら……そう言えば、二人はしばらくこの国に滞在するの?」

そう言えば何も考えてなかったな……どうしようか。

「そうですね…何日間か滞在しつつ航路とか考えようかなぁ…って思います。」

流石は我が弟!やっぱり頼りになるなぁ〜…感心感心。

「滞在してる間、楽器のこととか教えてくれよ!」

「えぇ、勿論!」

「やったぜ!!寝場所とかは、そこら辺の宿屋探してテキトーに泊まるわ。えっと…?何だっけ?少しの間ですが、宜しくお願い致します!!」

そう言うと、じぃさんは気に食わなそうにぺっと唾を地面に吐き出した。

「宿屋を探す前に、少しお茶でもしていったらどう?長旅で疲れたでしょ!さぁさ、お店に入って入って!美味しい紅茶があったと思うんだ♪」

扉を引き、中へと案内してくれようとしてたが、入ろうとした瞬間、

「……もし、孫を泣かせるような真似をしたら…海の藻屑になるとでも思っておけ。」

そう小声でじぃさんに脅されたのはシープには内緒の話。

______

店内に入っていく様子を遠目で見ている男がいた。

その目は据わっておらず、時に歯軋りをしては、わなわなと怒りで震えていた。胸の中はどす黒い感情で渦巻いていたのだ。平常心を失ってしまうくらい、どす黒い…嫉妬心で。

「目が見えないというだけで注目を集め、チヤホヤされて…何なんだあの女は。ヴァイオリンの腕前も少し上手いってだけじゃないか。あのくらいのレベルは腐るほどいるのに……何故…」

言葉にすればするほど、男の感情は高ぶっていく。

この無名ヴァイオリニストの男は上手くいかない怒りの穂先を理不尽に他人へと向け始めたのだ。男は自身を高く買いかぶり過ぎている。その傲慢さが演奏にも滲み出てしまい、人々の心は掴むに掴めない。しかも原因は自分にあるとも知らずに。言わば、哀れな男である。

男自身は性格ゆえ売れない理由が分かっていない。

怒りが募りに募って、運悪く風の噂で聞きつけた盲目のヴァイオリニストは標的とされてしまったのだ。

「そうだ……少し痛い目に遭わせてやろう。そうすれば挫折してしまうだろう……くくく…俺一人を不幸にさせるのが悪い。道連れにしてやる。」

知らぬ間に、男の魔の手が忍び寄ってきているのだった。

今回は少しばかし長くなりそうなので前編後編で分けることにしました。次回、後編へと続きます。

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