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島の精霊ロフ

Qと別れ再び海へ出たウォーシャン兄弟、しかし今度は波に飲み込まれて……!?

ふぁーふぁーと高く鳴くカモメの声と冷たい潮風に頬を撫でられ目が覚めた。朦朧とする意識の中、状況を理解しようと脳が必死に情報を整理していた。波が足元の砂を攫ってゆく。ここはどこだろう?

今分かるのはどこかの島に上陸していて……んで、俺様が砂浜に倒れていること…かな。唾液を飲み込もうとしたがどうも口の中が砂っぽくて舌を動かすとジャリっとした。

慌ててぺっぺと砂を吐き出した。うえっ…クソ不味!最悪じゃねぇかよ!立ち上がろうとした途端、目眩がして再び地面にバタりと倒れ込んでしまった。

今の状況が理解出来ず、混乱する頭で何とか理解しようと頑張ってみたが焦りが募る一方でちっとも考えが纏まりゃしなかった。こんな時こそ冷静になんねぇと。

自分を落ち着かせるために少し深呼吸をして、記憶を辿ってみる事にした。

昨日Qと別れた後、出航して…暗い海を進んでいたんだ。それから星を見ながらあったけぇココア飲んで…んで、交代交代で船を見てるってことで最初に俺様が見てたんだ。少しだけ海は荒れていたが何も異常なく舵をとっていたんだ。それで暫くして眠くなったから今度はサージと交代して……そうだ。その後俺様は寝たんだ。船がいつも以上に揺れるような気がしたけど睡魔に負けてそのままでいたらサージが悲鳴をあげながら揺さぶってきたんだ。それで……起きてみたら海がめちゃくちゃ荒れていて……舵も勝手に持ってかれちまってて何とかしようとしたところで……大波に飲み込まれちまったんだ。そうだよ。思い出した。船は波に飲み込まれたんだ。そして俺様は海に投げ出された。けれども幸いな事にこうして生きている。どうやらどっかの島に流れ着いたらしい。

そこまで考えててハッとした。サージは!?船は!?

辺りを見回してもサージも船も確認することが出来なかった。どうやら全然違う島に流されちまったのかもしれねぇ。いや、マジかよ……

焦りと共に不安までもがどっと押し寄せて来やがった。今までずっと一緒に居たもんだから急に離れ離れになるとこんなにも心細くなっちまうのか……

「はあぁ……どうすっかな…」

体に纒わり付く砂をはらいつつゆっくりと起き上がった。頭がボーーっとする。何だか気持ち悪ぃし寒い…

目先にあった流木に手を伸ばした。上手く力の入らない指先で何とか拾い、それを杖替わりに重心を預け、時間はかかったものの何とか立ち上がる事に成功した。ふらふらと体が言うことを聞いてくれないのはきっと、俺様ん中の体温と水分が海水に持ってかれちまったせいだろう……いわゆる脱水症状って奴かもしれねぇ……

流石の俺様でもこの時期の海は冷たくて、濡れたままほっておいたら具合を悪くしちまう。それに、海に投げ出された時に少なからず海水を飲んじまったみたいだ……海水は体ん中の水分を奪うから絶対に飲むなって昔父ちゃんが言ってたな……あぁ、ダメだ。苦しい。寒い。喉の乾きが癒えない。水が欲しい…

しかし、辺りを見渡しても飲めそうなものは無い。目の前にはどこまでも広がる海。後ろには鬱蒼とした森が立ちはだかっているばかりである。

「…しゃーねぇ…少し探索してみるか…」

覚束無い足取りで一歩一歩森へ進んで行くことしか今出来る手立てが無かったのだ。

※※※※※※※※

木々の間を冷たい潮風が吹き抜けていく。まるで森の奥へ奥へと誘導するかのように風が背中をどんどん押してゆく。 押されるにつれて歩行が早くなった。そのせいで、木の根元に躓いて前のめりになる事もあったが、転ばないように何とか体勢を立て直して再び足を進めた。

道というよりも…どちらかと言うと獣道に近いような所を歩いていた。ただひたすら歩いていたのだ。どんなに進んでも似たような景色が続くばかり。出口のない迷路に投げ込まれたような感覚に陥っていた。本当に前へ進んでるのか?もしかしたら同じ所をグルグルしているだけじゃねぇの……?俺様……このまま一人で死んじまうんじゃねぇの…?独りで……?

嫌な感情ばかりが胸の中を渦巻いていたので、木に寄りかかりながら頬を叩いて自分を奮い立たせた。

いけない。サージを一人にして死ぬなんて出来ねぇ。まだやる事だってある。アイツを……見つけ出さねぇと。

気持ちが暗くなるにつれて昔の記憶がチラつき始め、忘れたくても忘れられない記憶が鮮明に蘇ってきた。

思い出す度、鼓動が早くなり抑えようのない吐き気に襲われる。ダメだダメだ。過去を振り返っている暇はない。今は生きるか死ぬか。立ち止まっている場合じゃないんだ。前に進まないと。

寒さのせいであまり感覚がない足を流木を支えに進めた。けれども、やっぱり先が見えない。風に揺られてザワザワと木々が騒いでいる。しかし今の俺様には雑音にしか聞こえなかった。木々は俺様を嘲笑ってるかのようだ。

「畜生……死んでたまるかよ。」

歯を食いしばって更に足を進めた。右か左かももはや分からない。今更引き返す気なんて毛頭ない。ただただ進むことで精一杯だった。意識が少し掠れてきた。このままじゃガチで不味いな……。

この先に民家があることを信じて足を動かしていた。けれども体力的に限界に近かった。もうダメかもしれねぇな…心のどこかでは諦めていた。あーあ。こんな所で死んじまうのか…情ねぇなぁ…

もはや動く気力すら無く、その場に倒れ込んだ。今にも途切れてしまいそうな意識の中思い浮かんだのは憎たらしいアイツの顔だった。

目の前に飛び交う真っ赤な液体。父ちゃん母ちゃんの叫びに近い声。動かない乗組員。そしてそれを踏みにじる…

___髭を生やした男。

消せない記憶がどんどん流れ込んでくる。ノイズ塗れで、いつまでも終わりのないビデオテープのように同じ記憶が何回も何回も何回もリピートされてる。気が狂ってしまいそうだ。今死んだらアイツに笑い者にされてしまうだろう。それに、父ちゃん母ちゃん……乗組員の奴らに申し訳ない。死を間際にして、生きなければならないことに気づいた。諦めては駄目なんだ。生きなきゃ…

再び立ち上がろうとした時に、木々の騒めく音とは違う音が聞こえてきた。この音は……

「水……?」

水が流れている音が聞こえたのだ。音を頼りに木々をかき分けながら足を進めると開けたところに出た。そこには、大きな一本の木とその周りを囲うかのように水がたたえられていた。湖……か?

考えるやいなや湖の方に近づき、水をすくって舐めてみた。塩っぱくない。真水だ。一々すくうのももどかしく感じ、顔を湖に突っ込みガボガボと水を飲み込んだ。冷たくて体全体に染み渡っていく。俺様は無我夢中で飲んだ。

「っぷはぁ……美味ぇ…生き返ったわ。」

しばらくの間、水を飲みながら心を落ち着かせていた。空を仰ぎながら大きく息を吸って吐き出した。

___生きている。大丈夫、俺様はちゃんとこうして生きているんだ。

自分にそう言い聞かせることで安心した。もう少し落ち着いたら先に進んでみよう。早くサージと合流しねぇとな。

そんな事を考えていると、上から声が降ってきた。

「童。こんな所にいたのか。」

振り返ると小さな子供が顔を覗き込んでいた。

「うおぉ!?誰だお前!?」

突然のことだったので思わず仰け反ってしまった。すると子供は目を丸くした後、いかにも楽しそうにきゃっきゃと可愛らしく笑った。

「お前も余が見えるのか!今日で二人目だ。」

二人目……?それに見えるって…?

疑問に思って首を傾げていると、何を思っていたか見透かしているかのように子供は言葉を足した。

「余はな!普通の者には見えないんだ!極稀の…それも、子供にだけ姿が見えるんだ!面白いだろ?」

にぃーっと歯を見せながら顔を綻ばせている。

「は?それって……」

「ふふふ、余は人間ではない。 精霊だ!」

胸に手を当てて自慢げに宣言した。精霊……?いやいや、そんなもの居るはずない。どうせ子供のお巫山戯だろ……思わず苦笑していると、ぷぅーと頬を膨らませながら子供は腕を掴んで揺さぶってきた。

「むぅーー!?お前!信じてないな!」

仕草があまりにも可愛らしいものだから頬が緩んでしまった。愛くるしいな……コイツ。

「分かった分かった!信じるから!お前は精霊なんだな」

少しからかう様な口調でいうとそっぽ向かれてしまった。怒らせちまったかな?

「やっぱり信じてないな!?言っとくけどな!余はな!お前よりも…なーーーん倍も長生きしてるんだからな!?」

腕を組みながら子供は誇らしげに言った。

「へぇー…すげぇなー!」

そうかそうか!長生きさんか!と軽く流すとため息を吐かれてしまった。

「ふん……まぁいい。余はな、あの木の精霊なんだ。悪い大人はこの場所には辿り着けないんだ。善い大人はこの場所に辿り着けるけれども、余のことは見えない。不思議だろ?」

子どもは目を伏せながら沁沁と語った。

「お前も、大人になったら余のことは見えなくなってしまうだろう。」

再び目を開いたが、その目はとても悲しげなものだった。

「仕方が無いことだが…昔一緒に遊んだ子供が、大人になると、余が近くにいるのにも関わらず素通りしていくんだ。見えなくなるとは悲しい事だ。」

子供とは思えないような儚げな表情に、なんて声をかけたらいいか分からなくなってしまった。

「ここからしばらく歩いたところに小さな村があるんだ。余は時々そこに足を運ぶんだ。新しい命が生まれる時、村の者の誕生日の時、何か行事がある時、結婚する時、そして……命が尽きる時。」

子供の言葉一言一句が胸に突き刺さる。何だかとても重みがあった。

「昔遊んだ子供が、よぼよぼになって…苦しそうに死んでいくのを見るとな、とても悲しいんだ。大人になってしまうと、最後の最後まで…その瞳に余が映ることは無い……からな。」

触れてしまったら今にも壊れてしまいそうだ。こんな時…どうすればいいんだろう。

困った顔をしていると、子供は眉をひそめながら無理して笑った。

「すまない。そんな顔をさせたくて言ったわけじゃないんだ。お前は気に止めなくても良い。それが余の定め…仕方が無いことだ。」

あぁ、コイツは今までずっと見送る立場だったんだな。それは変えようがないだろうけど…俺様からしても悲しい。子供だって思ってたけど…もしかしたらホントに本物なのかもしれない。もし、そうなのであれば…これからも一人で村の見送り続けるんだろうな。

お互いに何だか気まづくなってしまい押し黙ってしまった。我慢出来なくなり、幼い容姿をした精霊の頬をつまんでぐいっと持ち上げた。

「い、いてて!こら!何をする!?」

鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしている。俺様は極力の笑みを作って言った。

「俺様は、お前の事を忘れなんかしないぜ!例え見えなくなったとしても…ずーーーっと覚えてるからな!」

ニヒッと笑いながら言うと。精霊の目が揺れていた。

「お前は…良い奴だな。とても良い奴だ…ありがとう。」

少し潤んだ目を伏せてから精霊は笑った。

「俺様はサザン=ウォーシャン!お前は?」

何だかんだで名前を聞いていなかったから聞いてみた。

「ウォーシャン……か。成程な。その名を聞いたのは久しぶりだ。サザンはウォーシャン海賊団の子孫なんだな。」

懐かしむようにウンウンと頷いた後精霊は答えた。

「余の名はロフ。宜しくな!サザン!」

愛くるしくロフは飛びついてきた。

「おうよ!」

そんなロフを受け止め、立ち上がりくるくると回ってみた。するときゃっきゃと嬉しそうにするものだからこっちまで嬉しくなって、つい調子に乗って回しすぎて目をぐるぐるさせてしまう始末だ。ゴロンと倒れ込みお互いに笑い合った。少しの間一緒に空を眺めていると、ロフはハッとしたように起き上がり、近くの茂みを探り始めた。

……何かあるのか?

「あった!」と持ってきたのは俺様の帽子だった。

「あれ!?そういや頭違和感あると思ったら…俺様の帽子無かったわ!」

波に飲み込まれた時に帽子は流されてしまったのだろう…

「海岸で倒れていたものだからな……後で渡そうと思って取っておいたんだ。葉っぱのコップに水を汲んで、サザンの所に持っていこうと思ってたのに居なくなってたものだから余は焦ったぞ!」

どうやら俺様はロフとすれ違いになってたようだな…。ロフは頭にぽふっと帽子を被せてくれた。

「随分と懐かしい帽子だ。大切にされているんだな。」

ロフは目を細めた。この帽子とモノクルはウォーシャン海賊団に代々受け継がれてるものだからな。

「さっきの童のバンダナも懐かしいものだったな……」

バンダナ…?それってもしかして…

「なぁ、二人目ってさっき言ってただろ?一人目って……誰だ?」

目をぱちくりさせた後、あぁ、言ってなかったか…と一人で納得した後ロフは言葉を繋げた。

「サザンに瓜二つな童だったぞ。サザンが倒れてた海岸から少し離れたところの海岸に船が打ち上げられていたんだ。その中に意識を失っていた童が居てな…」

間違いない。サージだ。アイツもこの島に流れ着いていたんだ。

「それで?」

先を話すよう促すと、「まぁ、そう焦るな。」と宥められた。焦るな言われても大事な話だしな……

「村の者が見つけて船と一緒に運ばれていったぞ。少しの間目を覚ましていたんだが…再び気を失ったかのように眠り込んでしまったんだ。」

「マジか……」

サージが無事なのが分かって少しホッとしたが……アイツ大丈夫かな…

「その起きていた間に余のことを瞳に捉えたんだ。せっかく見える相手だったのにあまり話せなくて残念だったなぁ……」

ぶーっと唇を尖らせながら遠くを見ている。きっとそっちに村があるんだろう。

「多分そいつは、俺様の弟のサージだ。」

そう言うとやっぱりそうか…と頷いてからにこにこと笑った。

「サージは大丈夫だ。生きている。村の方へ行くか?」

ロフの提案に甘えて村に案内してもらうことにした。

再び立ち上がり、木々に囲まれる狭い狭い道を一歩一歩踏みしめた。

※※※※※※※※※

しばらく歩くと小さな集落が見えた。けれども様子が可笑しい。ロフも異変を察知したようで警戒の色を濃くしていた。少しずつ、身を低くしながら村の方へ近づいてみると原因が分かった。___海賊だ。小汚い衣服を身に纏い黄ばんだ所々抜け落ちた歯を覗かせる海賊……その姿は見覚えがあった。あの時宝を盗んだ海賊じゃねぇかよ!

それは、前に手鉤を使って船に乗り込み、鍵のかかってない部屋から宝を盗んだ時の海賊団だった。アイツらがどうしてここに……?

「はぁ…あの海賊共、また来たのか。」

「また……って?」

俺様の問いかけにロフが答えた。

「何だかな、宝を盗んだ島民を探してるようなんだ。うちの島民では無いのに疑いをかけられていてな、本当に迷惑な輩だ。」

ロフは眉をひそめながら答えた。それって俺様達のことじゃね……?

「これでアイツらが来るのは三度目だ。仏の顔も三度までと言うだろ?余もそろそろ頭にきてるんだ。」

あー、宝盗んだせいでこんなにも他の奴らに迷惑かけてたのか……なんか申し訳ないな…

「来る度に家々を荒らしてな。物まで盗って行くんだ。そろそろ成敗してやろうと思ってたところだったんだ。」

子供の容姿には相応しくない冷たく鋭い目をしていた。

「あの……言いずらいんだけどさ…」

「うん…?」

言っていいのか分かんないけど…正直に言わねぇとな…

「アイツらの宝を盗んだのは俺様達なんだ。」

そう言うと目を大きく見開いた後「なんと…!」と口元をわなわなとさせていた…怒られるかと思って固く目を閉じていたら、逆にロフはきゃっきゃと楽しそうに笑ったのだ。びっくりして顔を上げるとロフに頭を撫でられた。

「そうか!サザンだったのか!流石はウォーシャン。やる事が大胆だな。」

同じ事を前にQにも言われたな……

「俺様のせいで…ごめんな。」

「サザンは悪くない。海賊は奪うか奪われるかなんだろ?子供二人を相手に盗られてしまった阿呆なアイツらが悪いんだ。」

ロフは意地悪な顔をしながら海賊の方を見ていた。

「なら、サージが居ることがバレたら不味いのか。」

そこまで言われてハッとした。そうだよ。俺様達が居ることバレたら村のヤツらに更に迷惑かけちまう……

「大丈夫だ、安心しろ。村の者も薄々気づいている。サージを突き出すような薄情な真似はしないさ。寧ろ匿ってくれるだろう。」

俺様の不安を拭うかのようにロフは言った。

「本当…かよ…いいのか?」

「勿論だ。この島に来たからにはサザンもサージも、余の大切な家族のようなものだ。この島の者も余の大切な家族。他所から来た賊なんかに誰も傷付けはさせん。」

ロフの言葉で胸の中が温かくなった。家族……か。その響きがとても心地よかった。

「今回の元凶は俺様達だ。アイツらを何とかやっつけるから。」

そう言うとロフは急に真面目な顔になった。

「まさか、サザン一人でやろうというのか?」

そりゃ勿論……だって俺様の他に誰も居ねぇし……

「あぁ、そうだ。」

そう答えるとロフは目付きを鋭くさせた。

「それはあまりにも無茶だ。一人で出来る事は限られている。サザン、お前はもう少し誰かに頼る事を覚えた方がいい。ひとはな、頼られて迷惑なんて思わないんだ。何も言われずに、ただ一人で抱え込まれた方がよっぽど迷惑なんだ。…寧ろな、頼られたら必要とされてるって思えて、嬉しいものなんだぞ?」

その言葉に心臓が飛び跳ねた。ドクンドクンと激しく脈打っている。息がしずらい。苦しいとさえ思えた。

「頼れ。余はサザンの為なら存分に力を使ってやる。一人で生きようとするな。サージもきっと不安であっただろう。お前は誰にも相談せずに一人でどうにかしようとするから。人間は、相手の心なんて読めないんだ。だからな、どんなに一緒に居ようとも、言葉にしなければ伝わらないことの方が多いんだ。」

そこまで言ってロフは目を細めて優しい口調で言った。

「なぁ、サザン。お前は今何を思っている?どうして欲しいんだ?」

ロフはズルい。幼い容姿とは不釣り合いなぐらい大人だ。

「俺様は……」

次の言葉が上手く出てこなかった。けれどもロフは待っていてくれた。だから頑張って、不器用ながらも伝えた。

「一人じゃ出来ない。あの人数は多すぎて……無理だ。お願いだ…力を、俺様に力を貸してくれないか?」

そう言うと、満足そうに頷いてから頭を撫でてくれた。

「偉い!よく言った。惜しみなく貸してやろう。」

まるで悪戯に胸を弾ませる子供の様な悪い顔をしていた。ロフには何か考えがあるようだ。

「ありがとな……」

そう言うと、「良いんだ!」と言った後、もう少ししゃがむ様に指示された。その通りにするとロフが寄ってきて耳打ちをしてきた。それで本当に上手くいくかは疑問だったが、作戦を決行する事にしたのだった。

※※※※※※※※※

「おら!ガキは居ねぇのか!?もし隠してるのであれば、テメェら全員纏めて皆殺しだからなぁ!?」

海賊共は調子に乗って声を上げている。人々に剣先を突きつけて脅している所だった。俺様はそんな海賊達の後ろで気づかれないように手早く、指示された通り罠を仕掛けていた。それもとても簡単なものだ。

「私達は知らないと言ってるじゃないか!」

島民は海賊に負けじと声を上げて講義している。けれども海賊は聞く耳を持たず、手当り次第民家を荒らし始めた。

サージが居るのは一番奥の家らしいが早くしないと見つかっちまいそうだ…焦りが募ってきた。

もう少しで海賊が奥の家を探し始めてしまう…マズイ…!!

そんな時、ロフが動き出したのだ。さっきとはまるで雰囲気が違う。見た瞬間背筋が凍るかと思った。禍々しいオーラを身にまとい、低い低い獣の唸り声の様な声を出して海賊に近づいていく。

すると海賊達の表情が強張り、次の瞬間悲鳴へと変わった。

「バ、バケモノだ……!!」

「来るな!!うわあああぁあ!!あっちへ行けえええ!!」

俺様には何が起こっているか分からなかった。しかしロフを見るなり、海賊共がこちらの方へと逃げてくる。面白いくらい必死で、足元に張ってあるロープに気付かず次々と転んでいく。ガタガタと震えながら海賊共は動けずにいる。どうやら腰を抜かしてしまっている様だ。その隙に、俺様は木の上に張っておいた漁網を落とし海賊に被せた。

海賊共はもうパニック状態。叫び声が辺り一面に響き渡った。ロフが近づくと失神する者まで居た。漁網の周りを更にグルグルとロープで縛り、動けなくしてやった。

「……もういいか。ふぅ、上手くいったな…サザン!」

ロフは少し疲れている様子で額の汗を拭いながら歩み寄ってきた。

「おうよ!けどさ、何が起こったんだ?大人にはお前の姿は見えないはずだろ?」

疑問を口にしてみるとロフはクスクスと笑った。

「あぁ、そうさ!見えない。普通は見えないさ。けれども、余が…無理に見せようとすれば………見えてしまうのさ。醜い化け物の姿としてな。」

てことは他の奴らには恐ろしい化け物としてロフが映っていたのか。島民にも化け物としてロフが映ったらしく目を丸くして驚いていた。

けれども次第にその顔は笑顔へと変わった。

「あぁ、びっくりした。精霊様が私達を守ってくれたのか!」

「いきなり目の前に現れたものだから腰を抜かすところでしたよ……」

「いやいや……たまげたたまげた…」

それぞれに思いも思いの声を上げながら笑っている。ロフは皆から信頼されているようだった。

「海賊の少年よ。君には精霊様が見えるのだな…」

皺くちゃの、背中の曲がった爺さんに声を掛けられた。

「あぁ、見えるぜ。今はすぐそこにいるぞ!」

そう言うと老人はそうかそうか、と口元を緩めた。

「ワシも昔は見えたのだが……今はもう見えなくなってしまってな…精霊様にはよく遊んでもらったものだ。とても楽しかったものだからずっと覚えている。」

「覚えて……くれていたのか。」

ロフは泣き笑いに近い表情で嬉しそうに笑っていた。

「ワシはもう、こんなよぼよぼになってしまって…もう体も思うように動かない。そう長くは無いだろう……」

老人は悲しげに呟いた。

「精霊様は昔と変わりなく、幼い姿のままだろうけれども。ワシらは時の流れには抗えない。先に死んでしまうことを許してくれ……」

ロフは何も言わず目を伏せた。きっと今まで何人もの命が尽きる瞬間を見送ってきたのだから、死というものが怖くて、辛くて仕方が無いのだろう。

「精霊様にお願いがある…ワシが死んでも、この島にはまた新たな命が芽生え続けるだろう。どうか、その子達を見守り続けて欲しい……」

ロフは老人の手を握り頷いていた。老人も何か感じ取ったらしく。見えないはずのロフの頭を優しく撫でていた。

_________

___

夢を見ていた。何も無い真っ暗な空間を兄さんが歩いていく夢を。どんなに走っても兄さんには追いつけない。どんなに叫んでも振り向いてくれない。次第に距離が広がり、遂には僕一人になってしまった。心細くて不安で怖くて仕方がなかった。兄さんが消えてしまった。誰もいない。一人ぼっちになってしまった。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。怖い。寂しい。辛い。

一人は嫌だ……

「いつまで寝てんだよ!!おい!起きろよサージ!」

そんな時、聞き覚えのある声と、頬に痛みを感じ現実に引き戻された。

「……ぅ……ううぅ……」

目を開くと心配そうな顔をした兄さんが居た。

起き上がろうとしたら目眩がして再びベットの上に倒れてしまった。

「こら、無理をするな!まだ本調子ではないのだから横になっていろ!」

小さな子供が起き上がろうとする僕を押し戻した。

「…兄さん……!!良かった…生きてる…!!」

何だかホッとして涙が溢れそうになったのでシーツに顔を埋めて誤魔化しが、兄さんには「何訳わかんねぇこと言ってるんだよ」と呆れられてしまった。

「あの……ここは?兄さんは無事だったんですね…船は…?」

聞きたいことが山ほどある。次々と口に出していくと落ち着け、と苦笑された。

あたふたと落ち着きがなく慌てる僕でも分かるように一つ一つ丁寧に説明してくれた。そのお陰で状況を理解することが出来た。僕が眠っている間にそんな事があったなんて……船は所々壊れていたらしいが、島民の方々が直してくれて再び航海できるようになったようだ。

船の中身もいくつかは流されてしまったとの事だが、お金等の大切なものは無事だったらしい。本当についている。

縛り上げた海賊達は後日海軍に引き渡すと話し合いで決まったそうだ。


しばらくの時を経て、大分落ち着いた。必要なものなども揃える事が出来た。

いつまでもこの島の方にお世話になるのも申し訳ないので、再び海に出ることにした。

※※※※※※※※

「本当にもう行ってしまうのか?」

ロフが寂しそうに歩み寄ってきた。沿岸までわざわざお見送りに来てくれたのだ。

「おうよ!短い間だったけど世話になったな!」

にぃっと笑うとロフは足に抱きついてきた。そんな事されたら行きずらくなっちまうだろうが……

「また…来てくれるか?大人になってしまう前に……また…会いに来てくれるか?」

ロフの手は少し震えていた。頭を撫でながら会いに来るぜ、と約束した。

サージはしゃがんでロフと目の高さを合わせながら会いに来ますからね、と微笑んでいた。

「約束だからな!」

ロフは手足をばたつかせて、いかにも嬉しそうにきゃっきゃと笑った。

「じゃあそろそろ行くからな!元気でな!」

もう一回ロフ頭に手を置きくしゃくしゃと撫でた。

「サージ!サザン!元気でな!……えっと…ぼんぼやーじゅ!いい旅を!」

何処で覚えたのかそんな事を言いながら手を振り続けてくれた。帆を張って海へと出た。島民の奴らが修理してくれたお陰で順調に進んでいく。上手い具合に風に乗り島から次第に遠ざかっていった。

船が見えなくなるまで、ロフはずっと手を振り続けてくれていたのだった。

はい!今回も小説を読んでいただきありがとうございました!何とですね…今回の話は一万字超えてしまいました(笑)きっと途中で読むの飽きてしまわれたのでは無いでしょうか?( ̄▽ ̄;)

今回はちょっとした過去回収……を踏まえたいなーと思って書き上げてみました。

いつまでも島の人々を見守り続ける島の精霊ロフ。サザン達の成長も、見守り続けてくれるでしょう。

……ではまた次回会いましょう!!

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