表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/40

衝突!忍びのお兄様!?

東の国での目的を終えたウォーシャン兄弟。しかし、まだ東の国から移動出来ない理由があり…?

セシミヤ大陸に渡航して半月が過ぎた。

私は、国境を越えてシュベルナ王国の隣国であるノーラル王国にようやく辿り着いたのだ。

この国に来た理由は、協力者である彼に会うため。

彼は情報屋であり、この国を拠点にシュベルナ王国を往来しているのだ。そして得た情報を私に提供してくれる。

彼はシュベルナ王国に革命を起こそうとする同志であり、私の理解者でもある。

私がバルムに陥れられて、エクレアと共に逃げる中匿ってくれたのも彼なのだ。だからこそ私は彼を信頼している。

「…このお店でしょうか?」

一見普通の酒場に見えるが、地下には革命家が集っていると言うのだ。

お店のドアを押し開けて中に入ると店員の男性と目があった。

「…いらっしゃい。注文は?」

「…ワインセラーを見せて頂きたいんです。今年は赤ワインが沢山入ったそうですね?王族さえ酔わせる代物が揃ってるとか。」

「…うちのは高いよ?」

「結構です。私も酔ってみたいので。…貴方の目利きを信じていますよ。」

「……いいね。来な。見せてやるよ。」


店主に案内されて地下の階段を降りると、そこはまた酒場があった。

此処に居る人達は年齢層がまばらで中には私よりも幼い少年まで居る。

こんな子供まで革命を起こそうとしてると言うのか…。

「やぁ、ハクリン。来てくれたんだね。」

馴染みの声が聞こえた方向に顔を向けると、探し人である彼がいた。

バケットハットを深々と被り、目元まで影がさしている。

黒いロングスーツを身に纏った20代後半である長身の男性。

「ヴォルフさん。お久しぶりです。」

帽子を外し深々とお辞儀をすると、そう畏まらないでくれ。と彼は苦笑いをした。

「まぁ、座ってよ。それにしても、東の国から遥々とよく来たね。疲れてないかい?」

「大丈夫です。到着まで想定より時間がかかってしまった事は悔やまれますが…」

国境は警備が固く、越えるのに苦労してしまったのだ。

私はシュベルナ王国に手配されるならず者であるからこそ、身元を特定される訳にはいかない。

だから慎重に警備を掻い潜ったが、その分時間を要したのだ。

「無事に着けたことが何よりだよ。ハクリンが居てくれたら此処に居る皆励みになるしねー!」

「…此処に集まってる方は…」

「シュベルナに合併されて祖国を失った仲間だよ。皆シールド王に怒りを抱いてるのさ。」

「…成程。」

「合併後の民の冷遇は、それはもう目に余るからね。亡国の民は奴隷のように扱われ、此処に居る皆我慢の限界なんだよ。そこで、そんなシールド王を失脚させる為に僕らが暗躍してるってわけさ。」

「…しかしその為には武力行使を余儀なくされます。」

「皆その覚悟の上でだよ。現在、300人余りが加わってくれてるけど、シュベルナの兵士にそれだけでは対抗しきれないんだ。」

ヴォルフさんはウイスキーを口に含んで飲み下した。

「…国単位で動かなければ、こちらに勝機はありませんね。」

「そうなんだ。だから、僕はノーラルにも協力を仰ごうと考えている。」

「…国王にお会いになるんですか?」

「…そのつもりだよ。…ハクリン、この国に来て空気がピリついてると思わなかったかい?」

「…えぇ、思いましたよ。街のあちこちに兵が居ましたからね。」

「この国はシュベルナと戦争を間近にしてるんだよ。民の不安を仰ぐから公にはされてないけど、昨日シュベルナがノーラルの領土に兵を侵攻して来たんだ。それも…場所が問題でね、ノーラルの要塞がそこにはあるんだ。」

「…そんな事態になっていたなんて。…バルムは要塞を占拠するつもりですか?」

「そう。そうなれば、ノーラルが不利になる。それどころか、ノーラルは小国だから、シュベルナの大軍を前にしたら太刀打ちなんて不可能なんだよ。」

「……つまり、この国が占拠されるのも時間の問題という訳ですか?」

「…僕はそう考えているよ。そうならない為にも、僕らが動くんだよ。」

ヴォルフさんは手を組み、その上に顎を乗せながら此方を見つめている。

「…シュベルナが本格的に侵略を始める前に、此方が仕掛けるんだ。僕らは混乱に乗じてシュベルナの城に乗り込み、直接シールド王と対峙する。」

「本当にそんな事が可能なのですか?」

「此処に居る革命家達は火種なんだ。シュベルナ国は合併されてしまった民という火薬が沢山眠っている。…つまり、革命が起これば現状に不満を抱いている者達も動き出すよ。」

「…もし革命が失敗したら更なる仕打ちがあると分かっているはずです。私はそう簡単に民が動くとは思いません。」

「いつの時代も、人の心を動かすのは声なんだ。僕は必ず民の心を掴んでみせるよ。」

ヴォルフさんの目には強い光が宿っている。何か確信があるのかもしれない。

現在、300人を取り仕切るリーダーでもあるのだ。それだけ彼の言葉には人を動かす力があるのは確かだが、もっと計画を練った方が良いだろう。

「……分かりました。詳しい話は後日聞かせて頂きます。」

「…?何か用事かい?」

「はい。まだこの国に来て宿を取って居なかったので、宿探しと、もうひとつは…野暮用です。」

椅子から立ち上がり、ジャンバーを羽織った。

「……あぁ、分かったよ。…君が行こうとしている場所は見当が付くけど、あそこはシュベルナの領地だから気をつけるんだよ。」

「…はい。それではまた。」

ヴォルフさんに頭を下げ、酒場を後にした。



__________

______


「今日こそは!今日こそは絶っっ対会うんだ〜〜!」

俺様達はハクリンと別れた後も東の国に滞在し続けていた。

その理由は…

「…よくも懲りずに通い続けるな。」

「キララさんが何処に住んでるかお聞きしなくてはなりません…!またこの国を訪れた時にいつでも会えるようにしなくては…!」

「そうだぜ〜!キララちゃんと親睦を深めたいんだぜ!」

一目惚れしたキララちゃんともう一度会う為だ…!

キララちゃんとコミュニケーションを取る為にケイムから東の国の言葉を教えてもらい、ぎこちないかもしれないけど、ある程度話せるまで進歩したのだ。

俺様達頑張ってるぜ!これぞ愛の力ってな!

楓やヒュウと話せていたのは、向こうが妖術ってのを使って俺様達の言語に合わせていたお陰だが、人間相手にはそうもいかない。交流を望むのなら此方が相手に合わせなければならないのだ。だから皆で猛勉強。

俺様とサージは勉強理由が下心しかねぇけど、エクレアは別だ。エクレアは異国の知識を深めたいということで一緒に勉強していたのだ。

「その女の子に会えるといいね…!私もお話ししてみたい…!」

エクレアはふんわりと笑ったが、ハクリンと別れてからいつもよりも元気がない。時々切なそうに遠くを見つめている。

そんな時はいつもの調子で声をかけるけど、それだけではエクレアの不安を取り除けない事を痛感している。


…妹をこんなに寂しがらせて。ハクリンってば、お前よぉ…

エクレアを守る為の選択だと分かっているが、早く無事に帰ってきて欲しい。

早く…エクレアを安心させてやってくれ……と俺様は常々そう思う。


「キララさんはこの道を通っていたんですよ!なのでまたこの道を通るのではないかと足を運んで居るのですが…」

「…収穫なし、なのか。」

「そうなんだぜ〜…だから商店のおじちゃんおばあちゃんにも話を聞いてみたんだわ。そしたら、たまに買い物に来るって言ってたんだよ…!だから多分この近くに住んでるとは思うんだけどなぁ……」

「……俺はもう船に戻って良いか?」

ケイムは本を買うって目的で一緒に出てきただけだから俺様のキララちゃん探しには全く興味がないようだ。

「えぇ!そう言うなよ!探すの手伝ってくれよ〜!」

「そうですよ〜!それにもし途中で知らない言葉を話されたら翻訳が必須じゃないですか〜!」

俺様とサージでケイムのコートを引っ張って足止めをする。

「…俺は翻訳機か。自分でどうにかしろ。」

そんな俺様達をケイムは引き剥がし、立ち去ろうとしている時…

「ああああああ!」

サージが突然大声を上げた。

「びっくりした…。何だよ突然!」

サージが硬直してるからその視線の先を見てみると…

「ああああああ!?あれは…」

可憐に花が咲き誇る着物。艶々と癖ひとつない黒髪。

立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花…!この国の本に載ってたけど、まさにソレだ!

「「キララちゃ〜ん(さぁ〜〜ん)!!!!」」

2人同時に呼びかけると、キララちゃんは大きな目をパチクリと瞬かせながら此方を振り向いた。

「お〜〜い!キララちゃああん!」

「こんにちは〜〜!お久しぶりです〜〜!」

距離があったから一生懸命手を振りながら呼びかかると、キララちゃんはにっこりと微笑んで此方に歩み寄って来てくれた。

「驚いたのぅ…!御主達は前に山賊に襲われそうになっていた…サザンとサージ…じゃな?」

「そう…!そうなんだぜ!俺様達その時の御礼がしたくてずっとキララちゃんを探してたんだ!」

「またお会い出来て光栄です!」

俺様達の事を覚えててくれたのと、近くまで歩み寄って来てくれて、アップのキララちゃんの可愛さにこの場で悶絶しちまいそうだけど、ほっぺを噛んでそっと堪えている。

今の俺様ちゃんとクールな顔出来てるかな?ニヤケ過ぎてねぇかな?

話したい事が沢山あるけど質問攻めにしたらキララちゃんを困らせちまうから何とか言葉を飲み込んでいる。

落ち着いて紳士でいなきゃな…

「なんと!わざわざ御礼など良いのに…!2人はこの国の言葉を話せたんじゃな?」

「キララさんとお話がしたくて一生懸命勉強しましたから!」

「俺様の方がサージよりも勉強頑張ってたんだぜ!」

「な!?僕の方が頑張ってました!」

キララちゃんに俺様のことをアピールしたくてサージと張り合ってると、楽しそうにキララちゃんはくすくすと笑った。

「ふふ。2人は愉快じゃのぅ!こうしてお話出来てわらわは嬉しいぞ!」

「「はう…」」

キララちゃんの笑顔か破壊力!心臓に弓矢が刺されたみたいだぜ!多分今俺様の周りに恋のキューピッド沢山飛んでるな。

そんなデレデレな俺様達に呆れてか、ケイムは溜め息を落としている。

「後ろの2人は初めましてじゃのぅ!わらわはキララじゃ。2人はサザンとサージのお友達かのぅ?」

「私はエクレア!あのね、私、船長と副船長のお船に乗せて貰ってるの!」

「エクレア。…ふむ、船とな!サザンとサージは船乗りなんじゃな!」

「そうなんだぜ!船乗りっつっても、海賊って奴?」

「海賊と言っても、僕らは悪さなんてしてませんので安心して下さいね!?」

「海賊…!うむ。御主達は穏やかな人だと分かるからのぅ!安心してお話が出来るぞ!」

海賊=野蛮なイメージが強いから、キララちゃんに避けられる要因になったらどうしようかと思ってたけど、セーフだったみたいだわ!良かったぁ…

「へへっ…穏やかそうか。キララちゃんは見る目があるぜ!ちなみに此奴はケイム。」

ケイムは鋭い目付きでキララちゃんをじっと見つめるが、キララちゃんは、怖がったりしない。それどころか、

「ケイムさんは大きいのぅ…!外国の人は身長が高いと聞いていたが、わらわが背伸びしてもケイムさんを越えられそうにないのぅ!」

「…何でその身長で背伸びしたら俺を越せると思ったんだ。」

なんてふわふわしたやり取りすらしてるから、俺様もびっくりだぜ。キララちゃんってちょっと天然入ってるのかな?

「エクレアにケイムさん…!改めまして、宜しくのぅ!」

キララちゃんが丁寧にお辞儀をするから俺様達も釣られてお辞儀をする。

「良かったらうちに来ないかのぅ?皆ともっとお話がしたいからのぅ!一緒にお茶でもどうじゃ?」

「マジで!?行く行く〜!」

キララちゃんからお茶のお誘いなんて願ったり叶ったりだぜ!

「良いんですか…?」

「うむ♪さっき和菓子屋さんで羊羹を買って来たんじゃ!美味しいから皆にも是非食べて欲しいのぅ!」

「ようかん?私食べてみたい…!」

俺様達でワイワイ盛り上がっているが、ケイムは気掛かりな事があるのか首を傾げている。

「おい!ケイム。船に帰ろうとしてるだろ!お前も行くぞ!」

「……俺が行くのはどうかと思うが、お前らが奇行に走らないか心配だからな…。」

「奇行って!?僕達キララさんに失礼な事なんてしませんよ…!」

「…既に走りそうになってるだろ。」

ケイムは皮肉っぽく鼻で笑ってきた

「……お前らだけで行かせると不味い気がする。…俺も着いて行く。」

あとは勝手にしろって言われるかと思ったけど、ケイムは珍しく着いてきてくれるようだ。もしかして俺様とキララちゃんを結ばせる恋のサポートをしてくれるのかな!?

期待の眼差しをケイムに向けると、

「…言っとくが、俺はお前らの手助けはしないからな。」

そうバッサリ切り捨てられてしまった。まだ俺様何も言ってねぇじゃねぇかよ…!

「キララのお家ってここから近いの…?」

「此処から1時間くらいじゃ!」

「「い、1時間!?」」

ご近所さんだと思ってたけど前言撤回。どうやら想定よりも遠くに住んでいるらしい。道理で毎日通っていても会えなかった訳だ…!

「少し歩くが、許してのぅ…!」

「少し…。」

1時間って少しって距離なのかな…?

キララちゃんは、もしかしたらお店でお茶をした方が良かったかのぅ?と提案してきたが、俺様達はキララちゃんの家の場所を知りたかったから、家に遊びに行きたい…!って事にした。

道中お喋りをしながら歩いたが、どんどん人里から遠のいて行く。

キララちゃんは一体どんな場所に住んでいるんだ…?と山道に差し掛かる中ぼんやりと考えていた。


___________

__________________


「着いたぞ!此処がわらわの家じゃ!」

キララに案内されて辿り着いたのは、年季の入った平家だった。敷地内はきちんと手入れされていて、住んでいる者の几帳面さがよく分かる。

玄関の脇には松の木が植えられていたり、塀の代わりに紫陽花が植えられている。園芸が趣味なのか。それともこの国の習俗を重んじているのか。

家の裏には畑があるとキララは嬉々として語った。

道中家がぽつり、ぽつりとあったくらいで、1番近所の家に行くには30分はかかると言うくらいだ。周りも自然に囲まれていて、言い方はあるかもしれないが、本当に田舎に住んでいるな…

「空気が綺麗な所に住んでるなぁ…!」

「ふふ。静かで四季を感じられる良い場所じゃよ。」

「…急にこの人数を家に上げて、お前の家族に何も言われないのか?」

「大丈夫じゃよ!今は兄上も出かけていてのぅ!他には誰も居ないから怒られたりはしないぞ!」

キララは、家の鍵を開けて家に入ったが、サージとサザンは顔を見合わせていた。

「…?どうしたんじゃ?遠慮せずに上がってのぅ…!」

「お、おう。お邪魔するぜー!」

「お邪魔します!」

キララに続いていき、2人は茶の間に案内されていた。

靴を脱ごうとしゃがんだ時に、エクレアに袖を引かれた。

「…ねぇ、ケイム。キララのお家…他に誰も居ないの…?お兄さんは居るけど、今はお出かけ中って……でも…」

エクレアは他には聞かれないように、そっと小声で聞いてきた。

「……此方からその事は触れない方が良いかもな。」

「…そっか…分かった。」

エクレアなりの気遣いだろう。ウォーシャンも疑問に思ったようだから、同じように気遣いが出来ていると良いが。

廊下の途中で襖が開いていた部屋にそっと目を向けてみると、そこには仏壇があった。

「……。」

部屋が暗くてハッキリとは見えないが、キララに良く似た女の写真と、その女と歳が近い男の写真。老人の写真が飾ってあった。

…多分あれは、キララの両親の写真だろうか。老人は祖父といった所だろうか…


「ケイムー?部屋こっちだぜー!」

「…あぁ、今行く。」

止めていた足を皆が集まる茶の間へと向けた。

「これあったかい!ぬくぬくする〜!」

「囲炉裏じゃ!中で炭を燃やしているから、灰に手は入れないようにのぅ!」

囲炉裏を囲んでサザン達は暖を取っていた。

1人だけ立っている訳にはいかないから、空いていたサザンの隣に行き、胡座をかいた。

「今お湯が沸いたらお茶を入れるから待っていてのぅ!羊羹を切り分けてくるのぅ!」

キララはそう言い、台所へと行ってしまったが、さて。どうしたものか。

「…サザン。お前が初めてキララと会った時山賊からお前らを救ってくれたと言っていたよな?」

「ん?そうだぜ〜!キララちゃんが煙玉を投げてくれたみたいでさ!マジ運命的な出会いだと思うんだわ!」

「……そうか。」

それが俺としては可笑しいと思う。

普通の女子供が煙玉なんて持ち歩くものなのか?

そもそもそんな物、簡単には手に入らない。

…キララに会って感じたのは、あまりも警戒心がないということだ。だから、その煙玉はキララの私物では無いだろう。

煙玉の扱いを職とする誰かが、キララに与えたと考えて良い。

…此奴らは、疑問を持たなかったようだが、十中八九キララに煙玉を与えたその人物は、危険だろう。煙玉を扱う職なんて碌なものが無さそうだ。

…第一、キララに護身として煙玉を与えるくらいだ。俺達を歓迎するように思えないが。


「ケイムさん、渋い顔をしていますね?」

「……。それは、」

「羊羹を切り分けて来たぞ!」

不可解な点を述べようとした時に、キララが戻って来てしまった。

「おぉ!サンキューな!」

「美味しそうです!」

「………。」

此奴らに話したところで何にもならないな。今は水を差さずに居るか。

そっと口を閉ざし、流れを見守る事にした。

「お湯も沸いたようじゃな。……よしと。」

キララはお茶を注ぎ、此方に手渡して来た。

「…有難う。頂くことにする。」

受け取った湯呑みを一旦置いた。キララの好意に対して悪いが、この状況で手を塞ぐのは避けたいからな。



ウォーシャンとエクレアはキララとの会話に花を咲かせている。それを遮るつもりは無いが、ひとつ聞いておきたいな。


「…キララ。お前の兄は一体何の職業をしている?」

「兄上はのぅ…」

キララが口を開いた瞬間背後から殺気が立った。

反射的に懐からナイフを取り出し、俺に向けて振り下ろされた刃を弾き返した。

室内に乾いた金属音が響き渡った。

「…チッ…」

「………。」

俺と刀を振り下ろした此奴以外は呆然としている。


「…俺はな、忍びだよ。」


…さっき仏壇で見た男の写真によく似た青年が此方を睨みつけている。歳はウォーシャンよりも歳上だが、ハクリンよりも若い。16か17といったところだろうか。

睨んでいるといっても、此奴の右目は包帯で巻かれていて、片目だけだが。

腕にも包帯が巻かれているが、これは手甲鉤を仕舞っているからだろうな。

恐ろしい事に、此処まで近づかれても物音一つ立ってなかった。此奴が斬りかかる瞬間、殺気を立てなければ俺でも気づかなかったかもしれない。

「誰だよテメェら…!」

奇襲をかけてそれが防がれるとは此奴も想定外だったのだろう。青年は苛立たしく、八重歯を剥き出しにしている。

「あ、兄上…!お客様に何をしているんじゃ…!」

「「兄上!?この人、キララ(さん)ちゃんのお兄様!?」」

「テメェ。誰がお兄様だ!余所者のくせに馴れ馴れしい!」

キララは立ち上がり、兄と呼んだ此奴に近づいた。

「兄上はいつもトゲトゲと…!誰かに刃物を向けてはいけないと言ってるではないか!」

「仕方ねぇだろ!見るからに此奴ら外国の連中だし!お前に何かあってからじゃ遅いだろ!」

「…此方は何もしていない。…今のがお前の挨拶なのだとしたら、中々不躾だと思うが。」

「何だと…!?ムカつく野郎だな!今すぐ表に出やがれ!」

敵意を剥き出しにして、まるで猛犬の様だ。

ウォーシャンよりも俺への当たりが強いな。

…此奴らは、これで兄妹なのか。確かに顔立ちは似ているが、性格はまるで違うな。

兄に当たる此奴は、キララに宥められて刀を仕舞ったが、それでも俺に対する殺気が途切れる事はない。

…俺としては関わりを避けたいが、ウォーシャンの提案で、此方のことを知って貰う為に、此奴も交えて会話をする事になったのだった。

読んで頂き有難う御座いました。ハクリンの協力者であるヴォルフ。キララの兄に当たる人物。今回の話では2人新たに登場しましたが、いくウォシャでは登場人物がこれから増えていくかもしれませんね…!彼らは一体どんな人物なのか。次回に続きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ