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ガラクタ収集家Q?

前回の続きです。海賊から宝を奪ったウォーシャン兄弟。たまたま巡り合せた島で新たな出会いが……!?

まだ早朝の海は霧がかかっていて視界が真っ白だ。少しずつ東の方から太陽が登ってきている。西の方はまだ少し薄暗く、朝と夜との境目のようなそんな不思議な時間だ。揺れる船の中からボーッと海を眺めていた。

この時間帯は何だかすることも無いので昔の事だったり、これからの事だったり色々と考えてしまう。

ソファーの上ではサージがスヤスヤと気持ちよさそうにまだ眠っている。

俺様はハンモックで眠っていたのだが…どうも目が覚めてしまって、二度寝する気にもなれず潮風を浴びていた所だった。胸いっぱいに息を吸い込み一気に吐き出すと、冷たい空気が体に染み渡っていく。

何だか心の芯まで冷えきってしまいそうだ。

「なぁ、これからどうすれば良いのかな?」

どことなく問いかけてみたが答えが返ってくる訳もなく…独白となって消えてしまった。

※※※※※※※

「え?これ全部売っちゃうんですか?」

口に含んでいたパンを飲み込んで一息置いてからサージが聞いてきた。

「おう!売っちまうぜ!」

そう言うとミネラルウォーターの封を切って体の中に流し込んだ。しかしサージの反応は意外とあっさりしていた。

「ふーん。そうですか。まぁ、特別味もない普通の宝ですからね……次の島あたりで売れないか聞いてみますか。」

「そうだな。」

シャクシャクと林檎を齧りながら答えると、飲み込んでから話してくださいよ…だらしない。と一蹴されてしまった。

「はいはい……んで?次の島ってどんくらいで着くかな?海図あるか?」

「海図なんてありませんよ…この間市場で手に入れた海図なんてデタラメでしたし……だから予期せぬ海流にぶち当たったりしたんですよー…」

サージはため息を吐いて外に目をやった。地図に縛られない冒険も悪くは無いが……あった方が便利だよなぁと思ってしまう。昔のヤツってスゲェな……地図も何もなしで世界を大航海。何が起こるか分からないのに…かっけー…

俺様もそんくらいの事してぇけど…流石にちょっとレベルが高過ぎるわ。

「知識がある航海士仲間にしとかねぇとな……」

「えぇ……ホント…二人じゃ限度がありますからねー…」

こちらには顔を向けず海の方をじっと見つめている。

その瞳はどこか寂しげに感じた。この広い青一面の世界、サージの目にはどんな風に映っているのだろうか。俺様にはキラキラと輝いて見えるが…同じように映ってるのだろうか。もしかしたら、サージには酷く残酷な世界として映ってるかもしれない。もしかしたら、未知の世界に不安を抱えているかもしれない。本当は無理してるのではないのか……。それは本人以外知る由もなく…聞かなければ分からない。けれども俺様にはそれが出来ない。きっと聞いてしまったら、何言ってるんですか。と呆れられてしまうだろうから。それに、本心は口にしてくれないだろうし……

考えれば考えるほど弟の気持ちとは遠のいてしまうような気がしたのでこれ以上はやめた。こんなにも迷ってしまうなんて俺様らしくないかな…思わず苦笑する。

しばらくして外の景色も見飽きたのかサージは目を伏せてソファーにゴロンと寝転んだ。

「……暇です。ひたすら暇です…」

起きて朝飯食ってから早々なんてワガママを……

「俺様だって暇だぜー!」

ケラケラと戯けて見せたが内心少しホッとした。

あー、良かった。いつものサージだ。

何でそんな当たり前のことで安心してしまうんだろう…自分でも驚きだった。

「どうしましょー……島なんて見当たりませんし…チェスでも打ちません?」

チェスか……懐かしいな。思わず少し頬が緩んでしまう。

「いいぜ。打とうぜ♪負けた方が腕立て30回な!」

そう言うと不満そうに「えぇー?」と声を上げた。まるでさっきの表情が嘘かのようだ。

「勝てばいいんですよね……勝てば。」

「そうそー!勝てばいいんだよ勝てば。ま、お前が俺様に勝とうなんて100年早いからな!」

そう言うとクスリとサージが笑った。

「ふふ。相変わらずですね……兄さんは。」

思わずこっちもつられて笑ってしまう。

「おうよ!俺様は俺様だぜ!」

あぁ、いつもと変わらない……どうか、こんな日々が

_____一秒でも長く続きますように。


なぁ、神様。もしも居るんだったらさ…俺様の願い聞き入れてくれよ。頼むよ。これ以上さ、大切なモンを奪わないでくれ。


笑顔とは裏腹願っている。俺様は常に願っている。本当は不安で不安で仕方が無いのは俺様の方なのかもしれない。

情けないよな、本当に。


「兄さん?急に黙り込んでどうしましたか?」

サージの声で現実に引き戻される。どこか悪いんですか?と心配そうに首を傾げている。

「ん?あー……大丈夫大丈夫、何でもねぇよ!」

笑わなきゃ。

「そうですか…?なら良いんですが…」

笑顔で繕って誤魔化した。

サージがそう言った途端船が大きく揺れた。

「「!!??」」

慌てて外に飛び出るとどうやらまた海流にハマってしまったようだ。

「マジかよ!?」

舵を切ろうとしたものの思うように動かせない。

「クソ…ダメだ!サージ!そっちはどうだ!?」

帆を張っていたが、あまりにも風が強く上手く切り替えられないみたいだ。

「こっちもダメっぽいです……!!」

どうやっても抗うことが出来ず…そのまま流れに任せるしかなくなってしまった。

※※※※※※※

幸運な事に流された先には島があった。それも港がちゃんと整備されてる島だ。多くの人々で賑わっている。そんな港とは反対側の人気がない砂浜付近に停泊した。

地に足をつけた瞬間、その場に倒れ込んだ。

「うへぇ……流石に…揺られすぎた。」

船は嵐にでもあったかのように大きく大きく揺られたものだから流石にちょっと酔ってしまった。

「よく沈まずに持ちましたよね……」

ふらふらの足取りで隣までやって来て、サージは腰を下ろした。

「だよなー。いやー……船ってすげー。」

しばらくの間空を仰いでいた。太陽がギラギラと照りつけてくる。海と一緒でどこまでも広がっていて、世界と繋がっている青い空。目を閉じ深呼吸をしてから立ち上がった。せっかく島に着いたんだ。町を探索してみないと!

「よしっと!じゃあ行ってみるか。宝も持ってさ。」

海賊から奪ったお宝を麻袋に詰め込み担いだ。歩く度にジャラジャラと音を立てている。

「目立ちすぎじゃありませんか?」

少し呆れながらサージが指摘して来たが…気にしない気にしない!そもそもこの格好だし目立ってなんぼだろ!

寧ろコソコソしてる方がダッセーし!胸を張って町まで歩いた。町は食い物屋だったり、宿屋だったり、骨董屋だったり色んなもんで溢れていた。しかし、こんなにも店が沢山あると反ってどこで売ればいいか分からず戸惑っていた。

「骨董屋で売ればいいのか……?」

「え?売れますかね?どうでしょうかー……」

うーん…と表通りを歩きながら唸っていると道端に古ぼけた絨毯を敷き、店を構えてる男に声をかけられた。

「おい、坊主。もしかしてイイモン持ってるんじゃないか?」

六十〜七十歳位の髭を生やし、少し痩せ細った男だ。死んだ魚みたいに白みがかった目を細めながらこちらを見ている。

「イイモンってそりゃあ……持ってるぜ?」

袋を手放し地面に落とした。すると、ジャラリと音を立てて中身が零れた。

「うおっほう!?こりゃ宝じゃねぇかい……しかも中々の代物だ…」

髭をいじりながらマジマジと宝石を手に取って見ている。

「ちょっと……兄さん…こんなよく分からない人に見せて大丈夫ですか?」

小声でサージが心配そうに尋ねてきた。確かにそうだけど…お前割と失礼な事言うんだな。

「なぁ、ジィさん。この辺でソイツを売れる所を知ってるか?」

少し考えた素振りを見せたあと、骨ばった指で自分を指し口を開いた。

「ワシが買い取ってやるよ。」

予想外の言葉が返ってきたものだから少し呆気にとられてしまった。この爺さんが金を持ってそうに見えねぇんだが……

サージと顔を見合わせて無言のまま首を捻った。

______

しめしめ…馬鹿なガキ共だ。老爺は内心笑っていた。

コイツの価値を分からんなんて。それに、この町のことをあまり知らんようだ。こっちにとっては好都合。騙して安い値で買い取ってやろう。

「そうだなー。まぁ、これ全部で150Wウェルくらいだろう。」

そう言うと瓜二つの海賊のガキは「おぉ!」と目を輝かせた。こんなちっぽけなガキだ。きっとそんな大金持ち合わせたことがないのだろう。今のワシの全財産だが、これをもっと他のところで売れば倍近くになる。やはり賢く生きないとな。

しかし、眼帯の方のガキが少し怪しんでいる。感鋭いガキは嫌いだ。けれども所詮ガキはガキ。もう一つ嘘を重ねれば騙せるだろう。

「お前達は運がいい。他ならきっと100Wで買い取るさ。けれどもワシはそれよりも50W高く買い取ってやる。」

しかし眼帯のガキはますます警戒の色を濃くした。

「それは……本当ですか?もしそうなのであれば売ってしまいたいのですが…まだ貴方にしか尋ねていない。もしかしたら他のところではもっと高値で買い取ってくれるかもしれないじゃないですか……」

けっ……頭の回るガキだ。押してダメなら引いてみるか。

「ワシは気まぐれなんだよ。売りたくなければそれでいい。他を回るといいさ。けれどもよーーく考えてみろ?子供の相手をしてくれる大人なんてそう居るか?しかもこの宝石は盗品だろ?到底買い取ってもらえるとは思わないが?」

そう言うと眼帯のガキは口篭ってしまった。あともう一息。そうすればこの宝は手に入る……!!

「あーあ、買ってしまうのはよそうかのぅ?折角の親切心を踏みにじるようならなぁー。」

そう言うと海賊帽のガキが慌てだした。

「おいサージどうすんだよ!?ジィさんに売っちまうか?」

「…そう、しますか?」

迷っているがどうやら話は決まったようだ。よぉーーし!やったぞ……大儲けだ。思わず笑いが零れそうだがぐっと堪えた。あぁ、ガキは本当に単純で助かる。

しかし、上手くいったと思ったつかの間、一声に全てをかき消されてしまった。

「400W。」

地を這う様な低い低い声だ。周りを圧倒させる悍ましい響き。目を見やるとこの町ではあまり見かけない衣服を羽織った身長の高い男が立っていた。

______

突然上から声が降ってきた。あまりに迫力があったのでゾクリとした。慌てて振り向くと男が一人佇んでいた。褐色の肌に、少し赤みがかった黒い髪、胸元に輝く美しい宝石…そして、全てを飲み込んでしまいそうな朝焼け色の綺麗な瞳…凛とした雰囲気を醸し出していて近づき難いような…そんな感じだ。この格好は…砂漠の国の格好だろうか…?それより……

「「よ、400W!?」」

驚きのあまり叫んでしまったが、サージも一緒だったらしく声が被った。

「あぁ、そうだ。」

目の前のジィさんも同じらしく口をパクパクさせている。しかし一方の男は顔色一つ変えずに、さも当たり前かのように頷いた。

「ソイツの価値に合わせた金額を払うのが道理だろ?そのガラクタは俺が買い取る。文句はないよな?」

男が睨みつけるとジィさんはしゅんと項垂れてしまった。危うく本来よりも安い値段で買わされる所だったようだ。

「決まりだな。ついて来い。俺の店で交渉をしようか…」

そう言って男は路地裏へと歩いていった。

「おわ!?はえぇよ!ちょ……待てよ!!」

散らばった宝石を袋に詰め込み男の後を追いかけた。そこは、あまりにも狭く入り組んでおり、さっきまでの場所とはまるで雰囲気が違う。男を見失ってしまったら迷ってしまい、表通りに戻れなくなってしまいそうだ。

人の姿が見えず、音という音が遮断されていて、時節吹き抜ける風の音と、三人の足音だけがコツコツと響いている。そんなせいか、異界へと繋がる道を歩いている様な…そんな妙な感覚に捕らわれた。

同時に、心臓が可笑しいくらい騒いでいた。俺様の中を流れる赤が、追わなければならないと叫んでいるようだ。燃えたぎっているみたいに熱い血が、鼓動する度に全身を駆け巡っている。

古びた石段を登ったり、頭を下げないと通れない様な低い低いトンネルの下を潜ったりしてやっとのことで着いた先には大きな古びた扉があった。今では珍しいアンティークドアってヤツだろうか?男に案内されて中に入ると少し埃っぽい匂いが鼻をくすぐった。

室内は薄暗く、小窓から僅かに差し込む日差しだけが部屋の明かりのようだ。視界が良くないのでよーく目を凝らし見渡してみるとショーケースがズラリと並んでいた。

驚く事に、その中には世界中の宝物が飾られていたのだ。

「うおぉー!?すっっげえぇえ!?」

「わあぁ……全部本物ですか!?凄いなぁ……」

思わず二人でショーケースに引っ付いてお宝の数々を眺めていた。繊細で美しい装飾が施されている金品だったり、俺様には描けない様な芸術的な絵の描かれた陶器だったり、キラキラと輝く宝石だったりと種類は様々だった。

「俺はそういったガラクタを集め回っているんだ。」

さっきも気になったんだが……

「これがガラクタ……?お前さっきも宝のことをガラクタって呼んだよな……」

ガラクタって値打ちや使い道のないようなものにあてる言葉だよな…?

「そうだ。俺はコイツらのことをガラクタと呼ぶと決めている。それは変える気がない。」

遠くを見つめながら男は答えた。ガラクタ呼びをするくらいだから、何か理由があるのだろうか?疑問を口にしようと思ったがやめた。そこまで親しくないのにずかずかと踏み入るのは良くないだろうし……それより一番聞かなければいけない事がある。

「なぁ、お前……名前なんだよ。」

まだ名前も何も聞いていない。男はあぁ、言っていなかったな…という様子でこちらを見て、少し間を置いてから答えた。

「…呼び方がないと不便か。…そうだな。Q、とでも呼んでくれ。」

目を細めて訳のわからないことを口にした…コイツ…

「キュート!?その容姿で自分の事を可愛いとでも思ってるのかよ!?」

全く呆れちまうぜ!何故か隣でサージが吹き出した。男はキョトンとした後少し面倒くさそうにそっぽ向いた。

「キュートじゃなくてQだよQ。全く…前代とはあまりにも似てないな。」

ため息を吐きながらQは古びた椅子にどかっと座った。反対側の椅子に座るよう促されたので良くも分からず座った。

「さぁ、ここからが本題だ。若かりしウォーシャンよ。」

ヒシヒシと真剣な空気が伝わって来るものだから何故かこちらまでも背筋がピンっと伸びてしまった。何だかペースを持っていかれているような気もする。隣に座ってたサージの目の色が変わった。明らかに警戒している。

「何で…ウォーシャンってこと知ってるんです?」

そういやそうだ。こっちは一切口にしてない。

「その格好を見れば知ってる奴は誰でも分かるさ。それに……」

そこまで口にしたのに、いや…まだ言うべきではないか。と口を閉ざしてしまった。気になるじゃねぇかよおい!

「まぁ、安心しろ。敵ではない。海軍に突き出すようなマネはしないさ。」

ふーん…ならいいか…少し安心した。サージもさっきよりも警戒心を和らげたらしく、表情が強ばっていない。

「なぁ、お前らはそいつを集めてどうする?」

今度は逆に質問されてしまった。Qの目線の先には輝かしい宝があった…どうするってそりゃ…

「売るに決まってるだろ?」

そう言うと、やっぱりそうだよな…と、目を伏せた。

次の返答が来るまでやけに長く感じた。沈黙だ。そのせいで時間が止まってしまったかとすら錯覚してしまいそうだ。ドクンドクンと胸が脈打つ。あまりに息が苦しかったので沈黙を破ろうとしたその時Qが先に沈黙を破った。

「ならさ…俺に売れよ。」

まるで悪魔の囁きかの様に感じた。そんなうまい話あっていいのか?

「俺はガラクタが欲しい。お前らは金が欲しい。お互いに好都合だろ?どうするかはお前らに任せる。」

Qの瞳に捕らえられてしまうと何だか蛇に睨まれた蛙の如く…まぁ、不思議と恐怖は感じねぇけど…逃げられなくなっちまう。小声でサージと話し合った。

悩みに悩んだ末、手に入れた宝はQに売ることに決めた。良くわかんないけどQなら信用して大丈夫という謎の自信があったのだ。

「…そうか。これで成立だな。これから宜しく。」

こうして俺様達は売買関係を結んだ。これがQとの出会いだった。この出会いがこれからどう転じていくのかまだ知る由もなく、ただお互いの利益の為だけに協力することにしてしまったのであった。

謎に包まれたガラクタ収集家のQ……一体何者なのでしょうか。そもそも宝を買い占めるお金を持ってるくらいですから只者では無さそうですね(笑)

追加で説明ですが、この世界の通貨についてです。

通貨は

1U(ウレ)…1円相当

1V(ベクト)…100円相当

1W(ウェル)…1万円相当

1X(クロル)…1億円相当

という感じで考えています。この物語を読むに当たって、心のどこかに留めておいて頂ければ幸いです。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。また次回に続きます。

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