人魚の国の秘宝(後編)
海流に呑まれてしまいバラバラになってしまったウォーシャン海賊団。彼らは人魚の国で待ち構えているベルデ=ガルシアの元を目指しているが……!?
「あらあら…これはどうなっているのかしら…」
舟の周りを多種多様の魚が泳いでいく。
弱肉強食の世界でこんな奇跡、有り得ないわね……
本当にあの小魚が呼び寄せてしまったのかしら?
集まった魚は舟を取り巻き、魚群をなしていく。
まるで1匹の大きな魚のよう。
一体どれ程までに拡大してしまうのかしら。
「皆さん人魚の国を救いたい一心なのでしょうか…」
「えぇ……そんな感情を感じるわ。でも………」
それらの感情を統一する事は難しい…
お互いを襲わずに連結しているからには、もっと大きな力が働いている気がしてならない…
「わぁ!!見てください!!イルカが居ますよ!!可愛いですね!!」
「え?イルカ……?」
サージの目線の先を見ると、美しいイルカが何頭も居て群れを先導していた。
「……………。」
成程…そういう事だったのね。
自分の胸に手を置いて一呼吸した。
「サージ、ハクリン。どうやら海は私達の味方みたいよ。」
「え?…どういう事ですか?」
彼なら海の民を脅かすこんな事態を黙っていないものね…
「大きな力が私達を後押ししてくれてるの!!流れを掴むのは私達の方だわ!!」
サージとハクリンは首を傾げた。
「こんな心強い事は無いわ!!感謝しましょう!!」
「……はぁ……?」
彼の御加護に希望を見い出せたのだった。
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______
海水が赤く濁る……
傷口からじわじわと漏れ出している。
目の前では…死闘が繰り広げられていた。
「ケイムっ!!そんなに血が溢れたら……」
「おっと、動くなよ。お前は何も出来やしねェよ。」
ガレオスの腕が身体に巻き付いて離れない。
こんな状況なのに、私は治療も出来ないのか。
遡る事数時間前…ガレオスに連れられて人魚の国へと到着した。光の届く範囲へと入った途端…身体を支配してた寒さが和らぎ、体温を取り戻す事が出来たのだ。
手首を拘束されてから、宮殿の中へと連れられたが、
あまりにも静かで、重苦しく緊迫感を覚えた。
元々あったであろう、装飾品などは強奪された後で…荒廃した様を見受けられた。
「戻ったぜ〜、ベルデ様よォ。」
一際大きな扉を抜けると、ホールに繋がっていて…そこには海賊団の幹部と思われる連中が居て、私達を一瞥した。
明らかに醸し出す雰囲気が下っ端とは違うのだ…
何も知らない私からしても分かる。
本能が逃げなければと叫んでいるが…それも出来そうに無いからな…
固唾を飲んで相手がどう出るか伺った。
「え〜?なぁに。あーしらへの手土産?」
「わざわざ生かして連れて来たのか?」
「まぁな。聞いて驚くなよ?此奴、ケインの弟なんだぜ?」
「それはそれは。どういう風の吹き回しかしら。」
ここに居るのはガレオスを含めて6人………
男性が4人と、女性が2人…
いや、違う……奥にもう1人居た。
頭に角付きの兜を付けた、ガタイのいい男……
背中に大きな剣を背負っている。あんなものを振り回すのか……?
その佇まいに冷や汗が滲んだ。
1番強そうだ。親玉で間違いないだろう。
右頬に縦向きの傷が付いていているのが気になるが…戦闘経験の多さを思わせる。それと髭に目がいくな。
歳は30代後半から、40代前半といった所だろうか…
分かる範囲の情報を収集しようとしていたら、その男の三白眼が私達を射抜いた。
「ハスラー海賊団か。納入や会合への参加が途絶えていたが、一体何をしていたんだ?」
「……お初にお目にかかる。ベルデ=ガルシア。俺は、ケイン=ハスラーの代わりに言いに来たんだ。…ハスラー海賊団はガルシア海賊団と縁を切る、と。」
ケイムはその目に怯むこと無く、前に出た。
「ばっかじゃないの??何で弱小海賊団の癖に偉そうな事言ってんの??そんな事できる訳無いじゃ〜ん。」
蛍光色の髪の女性がボヤいた。
「…ケインは死んだんだ。俺は兄がガルシア海賊団と関わりを持っていた事は知らなかった。」
「死んだ。それは知らなかったな。」
「残念ですわねぇ。彼、中々顔立ちが良かったからワタクシは気に入ってましたのに。」
「俺もショックでさ〜…彼奴と仲良しだったのに。」
彼らは口々にケイムの兄の事を何か話してたが、
親玉のベルデは、表情ひとつ変えない。
「盃を交わしたんだ。どんな理由であれ、抜ける事は許されねぇ。お前が引き継げないのなら、ハスラー海賊団の死を意味するぞ?」
背筋が粟立った。この男は本気らしい。
「……今まで、同様にいくつもの海賊団を潰して来たのだろうな。だが、もうハスラー海賊団にはその責務を果たせる者が居ないんだ。」
「…自ら媚びを売ってきたのにか?……ベルデ様。私が潰して良いだろうか?」
「え〜!!ズル〜い!!あーしがした〜い!!」
「人魚とのお遊びは退屈してましたの。ワタクシが御相手になっても宜しくてよ?」
なんて好戦的なんだろう…ケイムは強いが、全員を相手にすることなんて不可能に違いない。
私も、エクレアも戦闘のサポートをする事は出来ないのだ。
ケイムは腕を動かしたと思ったらば、自ら手の拘束をナイフで切っていた。
「……侵入者であるのだから、生きて返すつもりは無いのだろう?どの道、俺が継続しようがしまいが、ハスラー海賊団を潰す気でいた。違うか?」
「くくっ…そうだな。使えない駒は捨てる他無い。ケインはそのうち切り捨てるつもりでいた。それが早まったと言ったところだろうか。」
ガレオスが背後でピクリと動いた。
そっと盗み見てみたが、眼孔は僅かにゆらゆらと揺れていて…口元は引き攣っている。
「……ならば、俺は戦いを挑む。黙って潰される訳にはいかないからな。」
ケイムはハスラー海賊団から離れたのに、仲間を思いやっているのだろうか。例えそれが心を傷つけた相手であろうとも…見捨てる事は出来ないようだ。
やはり君は何処までも優しいじゃないか…
「…面白い。なら俺が直々に相手をしてやろう。」
ベルデは不敵な笑みを浮かべながら此方に歩いて来た。
「ベルベルが出る幕じゃないのに〜…でもいいや!!あーしらは高みの見物ぅ〜!!」
「ベルデ様。ソイツの連れの女は好きにしても良いですか?」
「お前らにくれてやるよ。」
「あっは!!ホント〜!?じゃあギッタンギッタンのメッタンメッタンにしちゃうんだから〜♪」
「其奴らには手を出すな!!」
「…あ〜、ベルデ様よォ。ちょいまちぃ。俺が連れて来たんだから俺の好きにさせてくれよ〜。此奴、気に入ってさ。」
ガレオスが私の腰を抱き寄せ、変に密着している。
「何をするんだ!?やめろ!?」
「え〜!?アンタ趣味悪っ!!そんな女のドコがいいの〜!?」
「気品の無いじゃじゃ馬ですわ。」
「俺に怖気付かねぇとこが良いんだよ。どーやって屈服させてやろうと思ったら唆らねぇか?」
此奴はどんな感情で言っているのか知らないが本気でゾワゾワする。
「女遊びも暫く出来てねぇだろうからな。存分にすれば良いさ。」
「ははっ。やりぃ。ベルデ様からも許されたし……このまま俺が貰っちまうぜ?」
何処かドスが効いた言い方だった。
ケイムは此方を振り向き鋭い目をしたが……ガレオスに対するアイコンタクトだろうか…
「じゃあそっちのガキは?」
「綺麗な顔立ち。ワタクシが可愛がって差し上げてよ。」
「エクレアも俺が貰っちゃダメか?」
「2人もズルい!!あーしだって1人くらい欲しいしー!!」
「……エクレア?……何処かで聞いたな。」
ベルデは首を捻った。もしかして、お姫様ということを知っていたのだろうか…
「……リャンヌールの姫君、エクレア=エルランジェ。…お前は、バルム=シールドと繋がりがある。だから殺すよりも、生かして引き渡した方が利益があるのではないか?」
「そんな事も知っているんだな。」
「えぇ!?お姫様〜!?ベルベル私が欲しい!!虐めたい!!ダメ??」
「ダメだ。バルムとの次の取り引きに利用する。手出しするな。」
エクレアの素性は知られてしまったが、ケイムの望むように攻撃を阻むことは出来たようだ…
「ベルデ様がそう言うのなら手出しはしないでおくか。」
「ガレオス〜、その姫さんはやらないけど逃げない様に見てるんだよ?」
「へいへい。分かったよ。……じっとしてろよ。」
エクレアは私の後ろに隠れながらそっと頷いた。
バサリ…
ケイムはコートを脱ぎ捨て、シャツの姿になった。
余計な水圧を減らす為だろうか…彼は本気だ。
手には研ぎ澄まされた剣が握られている。
「少しは楽しませてくれよ。」
ベルデも大きな剣を構え…戦闘が始まった。
それからかなり時間が経過しているが、決着は中々着かない。ベルデの攻撃を何とか凌いでいるのだ…
しかしケイムが押され気味で、これだけ動いていれば体力もいつ尽きるか分からない。
ケイムはベルデ以上に怪我を負っているから、このままでは出血多量で本当に死んでしまう…
「所詮、一匹狼だな。」
剣を振り下ろしながら、ベルデはそんな事を口にした。
「…知っているのか?」
「お前の事を考えてたら、異名を思い出した。」
「大海賊の耳にまで届いてたとは。俺も中々名高いな。」
ケイムはいつもの様に喉で笑った。
「光栄だな、ベルデ=ガルシア。だが、お前は勘違いをしている。」
「何?」
「…一匹狼は群れをなさないから弱い。冷たく、関わりを持たない。そう思って居るだろう?」
「正しくお前の事じゃないか。」
ケイムはベルデの剣を受け流しながら攻めの体勢に入った。
「…違う。」
「はぁ?どう違うんだよ。」
ケイムの目に力が籠った。あまりにも強く、眩しい眼差しだ。
「狼は決して冷酷なんかじゃない!!ずっと愛情深い生き物だよ!!一匹なのは、群れを見つける為の期間だ!!俺はそんな中、仲間を見つけた!!狼が本領を発揮するのは、仲間を守る時なんだよ!!だから甘くみんじゃねぇ!!絶対に守り抜いてやるよっ!!」
ケイムの気迫で場の空気が痺れた。
ベルデも目を丸くしている。
肌がビリビリする。流れが変わったと、実感した。
何よりも、ケイムの言葉に目頭が熱くなった。
「上等だ。なら証明してみろよ!!」
「言われなくてもしてやるよ!!」
ケイムの激しい攻撃を、ベルデは冷静に受け流していた。
さっきまでは押され気味だったのに、今度はケイムが攻めている。
「…はぁ………ケイン。やっぱりお前の弟だよ。彼奴は。」
ガレオスはそんな姿を見て何処か嬉しそうだ。
私も祈る様に2人の戦闘を眺めていたが、突然扉が勢い良く開いたのだった…
「ケイム!!……カウン!!エクレア!!無事か!?」
「…!!サザン!!」
そこにはウォーシャン海賊団の船長が居た。
「…?何あのガキ。あれ?人魚のお姫様も一緒じゃん!!」
「探す手間が省けたな。」
サザンはベルデの仲間にはお構い無しに此方に向かって歩いて来た。
「ベルデ=ガルシア!!」
ベルデはその声を聞き、ケイムとの戦闘を止めた。
「……お前は…」
ケイムも一旦場の様子を伺う為手を止めた。
ベルデはサザンと対峙していた。
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マード姫に案内されて扉を開けてみると、中では戦闘が繰り広げられていた。
傷付いたケイムが相手をしていたのは、俺様の宿敵…
「サザン様。どうかお気をつけて…」
「おう、分かってるよ。」
心臓が高鳴る。恐怖で足が竦む…
でも、それ以上に強い感情が俺様を後押しする。
「…その帽子と、モノクル。あぁ、グランツのガキか。」
グランツは父ちゃんの名前……やっぱり覚えてやがんだな。
「話が早いぜ。俺様は、一時もお前の事を忘れなかった。」
「仇討ちか?折角生き延びたのにわざわざ俺の元に来るとはなぁ!!」
ベルデはニタリと薄気味悪い笑みを浮かべた。
腹がムカムカする。憎い……此奴が憎い……
「お前が生きてる限り、俺様は笑って過ごせねぇんだよ!!悪事ばっかりしやがって!!巫山戯んじゃねぇよ!!」
剣を鞘から抜いて構えた。俺様は剣専門じゃないからサージの真似だけどさ…
「それは傑作だな!!いい事教えてやるぜ?彼奴はお前の母親を庇いながら俺と戦ってたから、仲間がグランツの隙を作る為其奴を銃で撃ち抜いたんだよ。そしたらどうしたと思う?あの馬鹿はわざわざ駆け寄ったんだよ。」
俺様の知らない場面…やめろ…言うな…!!言うなっ…!!
耳を塞ぎたい…何か言いたい……でも言葉が出てこない。
頭が真っ白だ…
「くくっ…あまりの取り乱し様でなぁ?殺すのも容易いのなんのって。でも、そう簡単には殺してやらねぇよ。俺に楯突きやがったからだ。だから、急所を外して撃ってやったさ。直接的な死因は、自ら付けた火によって…だ。」
「…っ……!!」
「じわじわと焼け爛れていくのに、中々死ねないんだから苦しかっただろうな?女から引き剥がしても、ズルズルと身体引き摺りながら近づいて、離れようとしなかったからな。その光景は滑稽で仕方が無かった。」
「巫山戯んな………巫山戯んなよっ!!」
駄目だ。此奴が生き延びてるなんて許せない!!殺してやる!!
絶対に殺してやる!!
感情が爆発して抑えられない…分かっている…それが相手の思い壺っつーのもみんなみんな…
殺す事がいけないのも…分かっている………けど……!!
「サザン、落ち着け!!冷静を欠かすな!!」
「だめ…!!感情に呑まれちゃ……だめ……!!」
後ろからエクレアとカウンの声が聞こえた気がした…
でも何を言ってるかは頭に入って来ない…
「ベルデえぇ!!許さねぇ!!許さねぇよっ!!」
「相手してやるよ、ガキ。」
「待て、サザン。そんな状態では…」
「煩い!!邪魔すんなよ!!」
ケイムに腕を掴まれたが、振り解いてベルデに向かって突撃した。
何回も剣がぶつかり合っている。刃が彼奴の身体に届く気配を見せない。何でだよ!?何で斬れねぇんだよ!?
「サザン!!感情任せの攻撃は読まれるぞ!!」
「クソッ!!当たれよっ!!この…!!」
「ケイムに比べて大した事ないな。」
ベルデの一撃が腹を掠った。
「ぐっ…!!」
一瞬冷たい感触がしたと思ったらば、とんでもねぇ激痛に襲われた。
辛うじて浅いけど、俺様の血が海水を濁した。
その一瞬が隙となりベルデに蹴りを入れられその場に転倒してしまった。
「サザン…!!」
「呆気ないな。もっとマシなもんだと思ったのに。少しも歯応えなしだ。…じゃあな。ガキ。グランツに宜しく伝えろよ。」
ベルデが剣を振り下ろした。
クソ…俺様は仇も打てねぇのか…悔しい。こんな死に方なんて嫌なのに。後悔の念に押されながらぎゅっと目を瞑るが、痛みが来ない。
身体が弾かれて、何かが覆いかぶさっている…
海水が生暖かく、鉄臭い……恐る恐る目を開けてみた。
「……!!ケイム…!?」
「……だから言っただろ。何故やめなかった。」
ケイムの横っ腹には深い傷が出来ていて、そこから止めどなく血が溢れていて海水をどんどん濁していく。
「嫌だ……!!止まれっ……止まれ!!ケイム…こんなに血を流したら……お前……!!」
止血の方法が分からない。これ以上傷口が開かない様に、キツくコートを巻き付けたが、止まる気配を見せない。
「サザン!!それじゃあ駄目だ!!私が今……」
「……行かせねぇよ。」
肝心のカウンは魚人に掴まれていて動けねぇみたいだ…
どうする…!?どうすれば……
俺様のせいでケイムが死ぬ。それは駄目だ!!嫌だ……!!
俺様達の様子を見てベルデ=ガルシアはゲラゲラと笑った。
「はははっ!!庇ったのか!!ガキを!!くくく……庇う価値もねぇのになぁ!!」
「黙れ…お前には分からないだろ?…此奴は、希望だよ…」
ケイムはフラフラの足取りで立ち上がった。
「ケイム!!動くな!!やめろよ!!」
「まだ俺に立ち向かうのか?」
「俺が守らなければ、誰が守るんだ……」
ケイムの目は虚ろだ。そんな状態で動けるはずねぇのに!!
「お前も馬鹿だな。纏めて殺してやる。」
絶対絶命のピンチ……俺様じゃ剣を扱えない…
クソッ……こんな時サージが居てくれたらば……!!
「……!!サザン様!!あれを…!!」
「え?」
ガラス張りの天井から何やらでっけー塊が近づいてきているのが見えた。
ガルシア海賊団の連中も釣られて上を見た。
「は?なんだあれ。」
「…え。魚群……?あれ全部魚……!?」
何か1つの生き物に見えるが、魚の集合体らしい……
「近づいてくるなぁ!?」
「ヤバい!!ぶつかるって!!」
しかし止まることなくそのままガラスに突っ込んできた。
パリンと割れて、海流と共に押し寄せてきた。
「うわわ…!!な、何だ何だ!?」
「鮫が襲ってくる!!ベルベル!!此奴ら多すぎて斬っても斬ってキリないよ!?」
不思議な事に、俺様達には危害を加えずにガルシア海賊団の連中に纏わりついているのだ。
「兄さん!!お待たせ致しました!!」
「……!!サージ!!それに、ハクリンにリコフォスも…!!」
魚群の中から俺様の舟が登場したのだ。
「エクレア!!ご無事ですか!?」
「ハク兄…!!うん…!!」
「手が拘束されてますね…待ってくださいね、今切りますから。」
「クソっ!!鬱陶しい魚だな!?この!!……ほら、今のうちに。」
「…!!」
魚人が魚を追い払うのに気を取られてるのうちに、カウンはこっちに駆け寄ってきた。
「ケイム!!待ってろ、今治療をするからな!!」
「ガレオス!!逃げられてますわよ!?」
「…あっ!?いつの間に!!だああぁっ!!邪魔だ此奴ら!!」
ベルデも含め、連中は動きを抑えられている。
「彼は重症ね……止血の魔法をかけておくわ。」
リコフォスが杖を振ると、ケイムの傷口が光を帯びてそれ以上血が溢れなくなった。
「助かったぜ……全員集合だな。」
「兄さんばかりに負担をかけてしまいましたね。僕が来たから、半分こですよ。」
サージに肩を叩かれて顔がくしゃりと歪んでしまった。
あぁ……水中で良かったわ…止めどなく溢れてくるもんが見えないだけ幸いかもな。
「……ベルデ=ガルシア。今度は僕が御相手します。」
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「はは。瓜二つだな。そう言えばグランツのガキは2人だったな。」
大きな剣を振り、ベルデは周りの魚を一掃した。
「…えぇ、よくご存知で。……仇討ちさせて頂きます。悪く思わないで下さいね。」
「くくく…俺を倒せると思ってるのか?そんな自信何処から湧くんだか。」
自信なんて無い。でも、引き下がる訳にはいかない。兄さんが今まで持ち堪えてくれていたんだ。それに、ケイムさんをこんなにも傷付けられて黙ってはいられない。
剣を抜こうとしたら、兄さんに止められた。
「待て、サージ。こっちの剣を使ってみてくれ…」
「これは……?」
随分と古い剣だ。僕が普段使っているサーベルと似ているから使えるとは思うけれども…
「…ジェラ=ウォーシャンの剣らしいんだ。父ちゃんも使ってたもんに違いない。」
「え!?父さんが……ですか?」
「あぁ……だから、お守りみてぇなもんかもしれねぇけど…」
父さんが一緒に戦ってくれると思えるのなら、使わない理由なんて無い。
「はい…任せてください。」
兄さんから剣を受け取り、強く握りしめた。
すると不思議と力が溢れてくる気がしたのだ。
「………?」
「…どうかしたか?サージ。」
「いいえ……今…声が。」
「声?何も聞こえねぇけど…」
可笑しいな…確かに聞こえたのに。
【_____】
ズキズキと頭が痛む。心臓が高鳴っていく…
何だこれ…苦しい…………
全身が熱い。血が有り得ないほど早く巡っている。
「来ねぇならこっちから行くぞ。」
ベルデが僕よりも速く動き出した。不味い、反応が遅れた。
慌てて振りかざされた刃を避けようと思ったが、自然と受け流していた。
「……!?」
可笑しい……身体が…勝手に……
今のは確実に当たるか当たらないかの瀬戸際だったのに…
ごく当たり前みたいに反応出来てしまったのだ。
「これならどうだ!?」
「うわ…!?」
ベルデが次々と攻撃を仕掛けてくるのに、ヒラリヒラリと軽い足取りで躱せてしまう。攻撃が読めてしまうのだ。
僕は僅かな動きしかしてない。身体を傾けたり、首を下げたり…
ベルデもそんな動きの異様さに気づいたのか、歯を食いしばっている。
「チッ…!?ちょこまかと…!!海賊帽のガキとまるで動きが違うじゃないか!!」
兄さんとケイムさんとの戦闘もあり、少し疲労が見える。
だからこそ、攻撃が一発も当たらない僕に対して焦りを覚えているのだろうな。
【お前には、俺の指示が伝わる様だな。】
え……!?やっぱり聞こえる…頭の中に声がする。
【声も聞こえるのか。意思疎通が可能みたいだな。】
心の声が通じてしまった。脳内で誰かと会話が成立してしまっている……一体どうして……?この声は誰!?
【ジェラ=ウォーシャン。お前の先祖だ。】
初代ウォーシャンの……あの…!?
驚きで目を見開いてしまった。不味い。戦闘に集中しなきゃいけないのに…
しかしベルデの動きが手に取る様に予測出来てしまう。
これもジェラ=ウォーシャンのお陰だろうか?
【あぁ、そうだ。皆俺の力だ。不思議だろう?皆分かってしまうのだからな。】
どうして僕にだけ聞こえるんですか?兄さんには聞こえてなかった様ですし…
【俺の声はウォーシャンの血筋にしか聞こえない。後は相性の問題だ。お前の兄よりも、お前との方が波長が合う様だ。】
成程……しかし今まで聞こえてませんでしたよ?
【俺はこの剣に宿って居るんだ。お前が手にしたから、こうして関われる様になったんだ。】
ふむ……詳しい話はもっと聞きたいですが……今はそれ所では無くてですね…
ベルデと対峙するので精一杯だ。ご先祖様の相手をする余裕はない。
【……俺よりも優先順位はこんな底辺の髭か。…寂しいじゃないか。】
えぇ………。そんな事言われましても。
案外面倒くさそうな人だなとため息を零す。
【面倒くさそうで悪かったな。】
あぁ、思った事みんな伝わっちゃうのか。
【そういう事だ。……お前は、この髭を殺したいのか?】
そう言われて頭を悩ませてしまった。
確かに憎いけど、殺すのは駄目だ…
【じゃあ何だ?捕らえて海軍に突き付けるか?】
……それが一番妥当かもしれない。
海軍で処刑してくれるだろう…自分で手を汚さない為という考え方は汚いが…僕の心は救われる。
【海賊であるからには純白で居られるとは思わないが。】
……それはそうですが、殺しは避けたいですよ。
【生易しいものだ。……殺したくないのなら、足を負傷させるか。次に此奴が大振りをしたら潜り込んで、足を切り抜け。】
ベルデの動きは段々乱れてきている。僕だけでなく、魚までも攻撃してくるから、余裕が無くなって来ているのだろう。
心を乱さずに居られるのは、ジェラ=ウォーシャンの誘導のお陰でゆとりがあるからだ。
僕だけではこうはいかなかった。
「さっさとくたばれガキィ!!」
来た…!!ベルデは懇親の一撃をしようと剣を大振りしたのだ!!
逃すまいと下を潜り、そのままベルデの足を斬った。
「ぎっ……!?この…!!」
この剣は斬れ味が良いみたいで、ざっくりと…深い傷を作った。
ベルデが膝をついたから、剣を横に振り…突き付けた。
頬にあった縦の傷に、もう一本線を引き…クロスを作ったのだ。
「…!!この…!!」
「僕は命を奪いません。しかし、次にお会いすることがありましたら、その傷では済ませませんよ。これは戒めです。」
「グランツと同じ事しやがって…!!」
「え…?」
「この縦の傷はグランツが付けたもんなんだよ!!」
ベルデは憎たらしい様に僕を見つめ、奥歯を噛み締めた。
「許さねぇ!!クソガキィ…!!」
ベルデは立ち上がり再び襲いかかろうとして来た。
「サージ!!避けろ!!」
「えぇ、分かってますよ…」
あまりにも荒い攻撃だから、予測しやすい…
「諦めが悪いわね。」
そんな僕らの間にリコフォスさんが割り込んできた。
「何だよクソアマ!!」
「あらあら。レディに対する言葉がなっていないわね。貴方は海を敵に回しているの。諦めなさい。」
リコフォスさんの視線を追ってみると、ガルシア海賊団の連中は永遠と湧き続ける魚群に襲われて、ボロボロになっていた。
「ベルデ様!!太刀打ち出来ねぇよ!!」
「あーん!!噛みつかれて無理ぃ!!寄り付くな〜!!ウザイ!!」
「あのね、魚の数は人口よりもずっと上なのよ?それを貴方達少数の人間がどうにか出来ると思ってるの?」
リコフォスさんの言葉にゾクリとした。魚は宮殿に集まる一方で減る気配を見せない。
「さぁ、降参しなさい。」
どうなるかじっと様子を伺う中、コツリコツリ誰かが歩み寄ってくる音が聞こえた。
「ベルデ様。この魚群には、ポセイドン様の加護が加わっていて…私にも対処しようが無い。」
リコフォスさんと同じく魔法使いの帽子を被った、細身でスタイルのいい男性が現れた。
ピンク色の髪色に似合う、宝石の様な目をしている。
「…!!ロズディア…!!」
リコフォスさんはピタリと動きを止めた。しかし、ロズディアと呼ばれた彼は、見向きもせずにその脇を通り過ぎて、ベルデの隣に並んだ。
「…一旦引くのが賢明かと。」
「……チッ……神の加護があるなら引くしかねぇな。」
「待って!?ロズディア!!私よ!?一緒に帰りましょう!?」
しかし、返ってくるのは軽蔑の眼差しだ。
「誰が貴女の元へ。私は二度と戻るつもりは無い……行きましょう、ベルデ様。」
「…命拾いしたな、クソガキ。覚えてろよ。絶対に殺してやる。」
「待って!!ロズディア……!!ロズディア…!!」
「逃がすもんか!!」
ベルデに再び斬り掛かろうとしたが、それよりも先にロズディアが杖で2回床を突き、ガルシア海賊団の連中は皆消えてしまった。
「クソっ…逃げられた……!!」
悔しくて、地面を拳で殴った。
何も解決してないじゃないか……
「……ねぇ……あれ、何?」
「ん?…おや……何でしょう。」
ガルシア海賊団が消えて、魚達が散り散りになったと思ったらば、上に何やら大きな魚影が見えた。
いや……下が魚で上は人……?大きな人魚なのだろうか…
「あれは……ポセイドン様…!!」
「え?」
「海界の神様よ。皆お辞儀をして……」
リコフォスさんに言われた通りにお辞儀をすると、満足したかの様に、何処かへと消えてしまった。
「彼のお力添えのお陰で人魚の国を解放する事が出来たわね……」
しかしリコフォスさんはパッとしない表情だ。
それもそうだか…ロズディアと呼んだ彼に拒まれてしまったのだから…
剣を鞘に戻し、兄さんと向き直った。
「……逃げられちゃいましたね。」
「……おう。でも、お前が攻撃してくれてスカッとしたよ。ありがとな…」
兄さんに肩を叩かれて、目頭が熱くなった。
正直死ぬかと思ったけど、生きているんだな……
「ジェラ様…!!」
「え……!?わぁ……!?」
人魚のお姫様に思いっきり抱きしめられた。
「く、苦しいです…!!」
「お会いしたかったです!!ジェラ様!!」
「人違いですよ〜!!僕はサージです!!」
「サージ様…?あまりにも顔立ちが似ていたものですから…」
「いえ、構いませんが……あ。」
「ん?どうした?」
「いえ……なんでもありません。」
剣を手にした事によって、ジェラ=ウォーシャンと意思疎通出来たことは兄さんに言った方が良いだろう…
でも、今は心の整理が必要だから、落ち着いてから言う事にしよう。
上から差し込む光を見つめて、ふぅっと息を吐き出した。
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「えぇ……?帰っちゃうの寂しいな…」
エーメはしょんぼりとしながら俺様の横を泳いでいた。
「ずっと此処に居る訳にはいかないからさ。地上ですることが沢山だぜ。」
ベルデ=ガルシアの行方をまた1から追っていかなければならないのだ。つまりは振り出しに戻っちまった訳だ。
「そっか〜…また遊びに来てくれる?」
「おう、勿論だぜ!!また会おうな!!」
俺様がニコリと笑うと、エーメも嬉しそうに顔を綻ばせた。
「サザン!!乗り込んでくれ!!リコフォスが魔法をかけるぞ!!」
「あぁ、今行くよ!!じゃあな!!」
「またね!!」
ウインクと共に去り、船に乗り込んだ。
「……ごめんね。食べるの可哀想……大きくなってね。」
入った途端目にした光景は、小魚を宥めるエクレアだった。
「さぁ、早く出ていってください。」
ハクリンが何故か冷たく小魚を追い払い、泳ぎ去ってしまった。
何でそこまでするんだよ…ってツッコミたくなったが黙っておこう。
「お、サザンが来たようだ。全員揃ったな。」
ソファーで寝込んでいるケイムの看病をしながら、カウンは目を細めた。
「ケイム〜…大丈夫か?」
「……大丈夫では無いな。」
「俺様のせいでごめんな…」
「お前が謝ると気持ちが悪い。」
「おい!?」
謝るなって言いたいんだろうけどさ…
此奴があんなにも無茶をするとは思わなかった。
でもお陰で助かったんだよな…
感謝の気持ちとして、暫く優しねぇとだな…
「見てください。マードさん達が手を振ってますよ。」
「おう、ホントだな。」
サージと2人で窓から顔を覗かせ、手を振り返した。
「それじゃあ出発するわよ。」
リコフォスが杖を2回突くと舟が動き出し、浮上し始めた。
「バイバ〜イ!!」
「さようなら!!」
こうして、人魚の国の騒動は幕を閉じたのだった…
はい!!読んで頂き有難う御座いました!!前、中、後と3編に分けて書かせて頂きました!!ベルデを倒せる訳でもなく、スッキリしない終わりでしたね。彼の生存が今後どの様に影響していくのか…。ウォーシャン兄弟はその事をどう思うのか……次回に続きます!!




