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人魚の国の秘宝(中編)

ベルデ=ガルシアがいるという人魚の国を目指して航海していたウォーシャン海賊団。しかし、海流に飲み込まれ皆バラバラになってしまい…!?

「ははっ…参ったなぁこれは。」

突然大きな海流に呑み込まれて、皆と離れ離れになってしまったのだ。

私は運良く1人になることを避けられたのだが、それは…

「あの状況の中、咄嗟に抱き寄せるなんて君は大した男だな!!惚れ惚れしたぞ!!」

ケイム=ハスラーのお陰であった。

危うく孤立してしまったであろうところを何とか繋ぎ止めてくれたのだ。揶揄した為に当の本人は眉間の皺を深めたが。

「…最悪な状況だな。」

「ハク兄達…無事かな……」

此処に居るのは私、ケイム、エクレアの3人だ。

こうも女性に囲まれては、此奴はナイトの様だな(笑)

「きっと無事さ。みんな誰かしらとは一緒に居るのでは無いだろうか。」

「…そうだね……きっとそう。早く合流しなきゃね…!!」

エクレアは小さく意気込んだ。

「…………。」

「どうした?浮かない顔だな。」

「…俺達の手元には明かりとなる物がない。」

「…確かに……。」

リコフォスが出してくれたランタンを誰も手にしていないのだ。

「……心做しか肌寒くなってきたか?」

水温が舟の中に居た時よりも冷たく感じる。

「……今は保険の魔法で、ある程度は軽減されている状態だろう。だが、いつまで続くかは分からない。」

もしもリコフォスの魔法の効力が無くなってしまったらば、私達は暖を取る方法も無く、寒さで死んでしまうな…

「どうしよう……」

エクレアの瞳孔は揺れていた。

とても不安なんだろうな…こんな時に大人がしっかりしなければ。

「大丈夫だ。何か突破する方法があるに違いない。そうだろう?」

僅かに震える背中を摩りながらケイムに視線をやった。

私達は大人2人というのが幸いだったが…もしかしたらば他は子供達だけが集合してしまっているかもしれない。

「……何とか目的地へと辿り付ければ違うかもな。」

身体が重力に逆らうこと無く深海へ向かって沈んでいってるというのに、ケイムはとても冷静だ。

「それはリコフォス達と合流出来るからという事か?」

「…それもあるが、ベルデ=ガルシアは俺らと同じ人間だ。この環境下で生きていくには見合った環境が必要となる。だから、人魚の国には大掛かりな対策が取られているに違いない。」

「成程。」

「現在海賊の巣窟の様になっているのでは無いだろうか。多くの乗組員を率いて来たと考えると、国全体が生活出来る環境で無ければならない。」

「敵陣へと突っ込む事にはなるが、私達もそこでならば寒さを感じることはない…と。」

「あぁ。まさか常にランタンを持ち歩くような真似はしていないだろう。」

「それもそうだな。」

リコフォスが敵の魔法がどうのこうのと言っていたからな。相手にも魔法使いが居るに違いない。だとすれば、国全体とは行かなくとも、建物内は生活可能の環境にする…等の対策が取られてる可能性が高い。

「よし!!ではお国を目指していざ行かん!!じゃないか!!」

「……問題は辿り着けるか、だが。」

「はなっ!!何を言うんだ君は!!リコフォスは目的地をしっかり頭に入れておけば迷子にならないと言っていたではないか!!きっと自然と着いてしまうに違いない!!」

自信満々に答えるとケイムは楽観的だな、と呆れを濃くした。

「…海底にあるとは聞いたことがあるんだ。だから、まずはこのまま降りて行こう。」

「うん…」

「よし。ではケイム君。私達レディは不安で仕方が無いんだ。此処は安心させる為に手を握ってくれる所では無いのかね?ん?」

ニヤニヤと歯を見せながら笑うと、心底嫌そうにあしらわれた。

「誰が握るか。お前らは岩壁にぶつかりたいのか。先導するから黙ってついてこい。」

「うーん、つれないなぁ君は。」

とは言いつつも、ケイムの優しい面は少し滲み出ている。

何が一匹狼だ。此奴め。

そんなあだ名を付けた奴らはどうしてケイムの事をちゃんと見ようとしなかったのか疑問に思う。

確かに捻くれ者で、癪に障る様なことは言うかもしれないが、ケイムとしても本意では無いのだろう。

そこだけを切り取って、つれない奴だと決めつけた。きっとそうだ。

此奴はちゃんと自分を見てくれる相手と出会わなかったのだとつくづく思う。

だとすれば、サザン達との旅路は良い刺激になるだろう…

大人の思想は根付いてしまっているが、子供の思想とは大人の想定の域を平然と越えていく。

可能性が無限大の彼らは、ケイムに無いものをもたらしてくれるに違いない。

そんな事を考えながら先をゆく、船長としての荷を背負った彼を追うのだった。


____________

______


「うぅ……リコフォスさん……一体何が起きたのですか?」

岩壁に引っかかって停まった舟からひょっこりと顔を出して彼女を見つめた。

「…ごめんなさい。油断していたわ。まさか辿り着く前に先手を打ってくる人がいるなんて。」

戸惑いを隠せない様で視線が泳いでいる。大魔法使いにも想定外があるんだなぁ…

「…残ったのは、私、サージ、リコフォスさんの3人ですか。」

「その様ですね…」

大破寸前の舟に何やら魔法をかけてくれたリコフォスさんのお陰で僕達は外に投げ出されずに済んだ。

「もっと早く反応出来たらば、皆バラバラになる事は避けられたのに…」

「…いいえ、貴方のせいでは。…エクレアが1人になって居ないと良いのですが。」

「それならば大丈夫だと思います。エクレアさんが投げ出されたのに気づいて、ケイムさんが咄嗟に飛び出したのを確かにこの目で見ましたから…」

「ケイム=ハスラーが…」

「はい…僕は柱にしがみついてるのに必死だったのに…あの海流の中、そんな行動を出来たケイムさんは…とても凄い…。」

素直に尊敬するし、自ら仲間を助けに行ってくれるなんて…

「…彼らはランタンを持っていたかしら…」

「あ。」

「それがとても心配だわ…」

「誰か1人になる事は避けられているのでは無いでしょうか。ならば、どちらか一方が持っているはずです。」

「そうだと良いけれども…私の魔法は保険程度だから、持って6時間くらいよ…万能では無いの。」

「…そうなんですか。」

「えぇ…それを補う為のランタンだったの。実体を持つ物の方が複雑な魔法だから効力が長いの。」

「ではランタンを持っていたらば、ずっと水中でも平気なのでしょうか?」

「ランタンもやがては消えてしまうけれども、3日くらいは持つわね…」

「どの道タイムリミットがあるんですね…」

「そうよ…私が傍に居る事を前提としていたから、心配は無いと思っていたの…なのにこんな事になるなんて。自惚れてたみたい。」

「…元気だして下さい。そうと分かったらば尚更こうしている訳には行きませんから。」

「ハクリンさんの言う通りです。兄さん達が無事かどうか確認出来るまでは立ち止まる訳にはいきませんよ。」

「…そうね。反省会は後でしましょう。まずは皆と再会しなきゃね。」

リコフォスさんが乱れた自分の髪を撫でた後、杖をコツリと2回ついた。

ミシミシと音を立てて、壊れた舟の壁や床がくっついていく。

「わぁ…!!治りましたね!!」

「…これも見掛けだけなの。やがては魔法が解けて壊れた事には変わりなくなってしまうわ。」

「そ、そんなぁ…」

コツコツとお金を貯めて初めて買った僕達の舟だったのに…

「形あるものは何れ壊れてしまうのよ…これがこの舟の最後の旅路になるかもしれないわ…」

「うぅ…」

確かに新しい船は欲しいと思っていたけれども、いざその時となると…

「あの海流に呑み込まれて持ったんだから大したものよ…貴方達を守ろうとしたんでしょうね。」

「舟ぇ……」

「きっと、最後まで守ってくれるはずよ。それまで頼らせて貰いましょう。」

「はいぃ……よろしくお願いします…」

リコフォスさんの魔法のお陰で綺麗になった舟を撫でた。

「……さてと、私達はこのまま人魚の国へ向かう事にしましょう。」

「おや。皆さんを見つけ出すのが先では無いのですか?」

「そうしたいのは山々だけど、位置探知するのを防止されてるの。」

「一体誰にですか…敵の魔法って言ってましたよね。」

すると、白くて長いまつ毛を伏せた。

「…………こんな事を出来るのは1人だけ。私の魔法を常に見ていて…吸収した……私の弟子だけ…」

「「弟子!?」」

「…そうよ。」

「どうしてその様な方が攻撃してくるのですか?貴女は師匠に当たるんですよね?」

「…その通りね。」

「あ。リコフォスさんだって分かっていないのでは?それならば話し合えがどうにかなるかもしれません…!!もしかしたらば此方の味方に…

「…それは無理よ。」

「え。」

「……彼は…私の元を去ったのよ。酷くプライドが高い彼だからこそよ。私を何としても越えるってね。」

「だからって師匠に当たる貴女に牙を向くんですか…」

「……私を酷く憎んでいたからよ。」

憎む…?どうして…

「魔法使いが人間を弟子に取ったこと自体間違っていたの。私は彼に愛情をかけすぎてしまって、寿命で死なせる事を惜しくなってしまったの。」

「…………。」

「それで、私と一緒の不老不死の身体にしたいと強く思ってしまって。それを相談したらば彼も領諾したの。一緒の時を生きれることが本当に幸せで。でもね、そんな禁忌は許されるはずが無いのよ。」

不老不死…か…。リコフォスさんは相当思い入れがあったらしい。僕ならばそんな長い時を生きるのは苦痛に感じるかもしれない…

「……サージには地上の他に、天界、海界、冥界という所があるという話をしたわよね?」

「えぇ…」

「…そのうちの冥界の神様は、とても厳しい方で…秩序が乱れる私の行為をお許しにならなかったわ。」

「…冥界……?」

「…冥界というのは、そうね…あの世と言った方が伝わるかしら。生前犯した罪の判決をされる場所よ。そこにハデス様という神様が君臨されていたの。」

「地獄…って事ですか?」

「そうね。その神様は私ではなく、人ならぬ時間を生きたとしてロズディアに罰を与えたの。死んでも死ねないロズディアにとって……冥界での亡者に対する罰、それ程の拷問は無いわ。」

ロズディアと言うのが弟子の名前だろう。

冥界に居るはずのそんな彼がどうして今此処に…?

「……ロズディアは、訳があって、()()()()()()()()()()()()の。冥界から解放されて、私の元へ戻って来たわ。その時をどれだけ待っていたか……でもね、苦痛の日々の末、彼は人が変わっていたの。私に憎しみを露わにして、これまで経験の無い程の罵声を浴びせられたわ……」

「…………。」

「もう私の言いなりにはならないって。見返してやるって……私の元を去ったわ。愛していたのにこんな仕打ちって……無いわよ。」

返答に困って、ハクリンさんと目配せをした。

話を聞いたにしろ、部外者の僕らは無責任に否定も肯定もしにくいのだ……

「……何百年も行方を探していたけど……見つける事が出来なくて、私はあの島で帰りを待つことにしたの。ずっと…待っていたわ。…でもまさか、こんな悪事をしているなんて。」

「……そうですか。でしたらば尚更。彼を止められるのは貴女だけです。」

凛とした声でハクリンさんは言った。

「……そうね。責任を持って…彼を止めなければ。」

意を決した様で、リコフォスさんは夕暮れ色の目に力が籠った。

「………行きましょう。彼もきっと人魚の国に居るわ。」

杖をコツリと鳴らすと、舟は再び深海へと向かって沈み始めたのだった。


___________

_____

「見えて来たよ!!あれが人魚の国!!」

「おーー…でっけー!!」

下へ進むにつれて闇が濃くなる一方だったのに、急に視界に光が宿ったのだ。敷地内と思われる範囲は明るくて、夜の繁華街のようだった。

「此処で人魚達が生活してんのか。」

「そうだよ!!普段はもっと賑わってるし、それは美しいところなの。でもね、見て。今は誰も居ないよね……」

エーメに言われた通り見渡して見たものの、まるでゴーストタウン。荒れ果てちゃいねぇけど、街だけがあって…そこには誰1人と居ない。

「なぁ…海賊共って何処に居るんだ?」

「海賊は大きな船に………あれ…?船がない。」

碇泊させていたと思われる跡は残っているが、肝心の船は何処にも見当たらない。

「…もしかして地上に帰ったとか?」

「……かもしれない……皆を連れて行っちゃった……かな?」

エーメの表情はみるみるうちに強ばっていく。

俺様達の到着は1歩遅かったのだろうか…

「…街にもっと近づいてみようぜ。ここからじゃ状況が分からねぇ。」

「そう…だね。もしかしたら残ってる人魚も居るかもしれない…!!話を聞いてみなきゃね!!」

エーメに誘導されながら街へ接近した。

「…!!隠れて!!」

「ぶっ!?」

エーメが必死なせいで突き飛ばされる形であったがお陰で難を逃れた。

「あ〜あ…。ココ最近魚ばっかだな。」

「俺達ベジタリアンになっちまうわ。」

「馬鹿、それは野菜だよ。魚だけの場合ぺスカタリアンって言うらしいぜ。」

「へぇ〜、初めて知ったわ。俺そろそろ肉が食いてぇ…脂身のジューシーなステーキ。あれをだな。」

「仕方ねぇだろ…よりによって俺達が食料調達に回されてんだからさ…」

「地上に戻って人魚売りさばいた方が楽なのにさぁ…」

「船に乗り切らなかった分の人魚が居るから駄目らしいぜ。」

「それまで俺達はお留守番。次の船で帰れるさ。」

「次っていつになんだよ〜…下っ端の俺達がベルデ様の側につけるのは光栄だけどさ〜」

「ばぁか…ただのパシリだよ俺らは。」

「言うなよ〜…」

何処か間抜けな会話をしながら傘下の海賊と思われる連中が過ぎていった。

「…聞いたか?」

「ね。聞いた。聞いた。」

「どーやら人魚を売る為に地上に行ったらしいな…」

「うん…。」

「今から追っても間に合いそうにないな…ごめんな。」

「サザンが謝らないでよ……うぅ……」

エーメの顔がぐしゃりと歪んだ。

「泣きてぇ気持ちは分かるけど、皆連れて行かれた訳じゃ無いらしい。今はその人魚達の救出を優先しよう。」

「うん…分かってるよ……うぅっ……そうしなきゃね…!!」

目を擦って涙を拭うような素振りをした。

「…よし…元気だしてこう!!今はサザンがついてるもん!!まずは……あ、姫様!!姫様が無事か確かめないと…!!」

「やっぱり人魚の国にはお姫様が居るんだな…?」

「うん…私はマード姫の側近だったの。海賊が国を占拠しちゃって…このままじゃ捕まっちゃうから、お城の地下にある洞窟へと身を隠したの。でもね、助けが来ないと私達だけでは何も出来ないから…私が代表して助けを探しに…」

「お前すげぇな!!勇敢だよ!!」

「怖いものは怖いよぉ……でも姫様の命には代えられないから……頑張ったんだもん……!!」

「偉いぜ。海賊の目を掻い潜って俺様見つけられたじゃねぇかよ!!心強い仲間達が居るからさ、もうひと頑張りな!!」

「うん…!!」

「城の地下に居るか探しに行こう!!洞窟って言ってたけど、そんなに入り組んでるのか?」

「私達でも迷っちゃうくらいだもの。そう簡単には攻略出来ないよ!!」

現状は分かんねぇけど、姫様が見つかっていない可能性は高い。だからこそ、ベルデ=ガルシアはまだ此処に滞在しているのだろうか…

どれくらい海賊が此処に残っているかは把握出来ねぇけど、船で地上へ帰った組が居るのなら、半数くらいになっている…だとすればラッキーかも。

「お城からじゃなくても、いくつかの隠れ路があって、そこから地下に行けるの!!ついてきて!!」

「隠れ路なんてあるのか。」

「うん。もしも敵が来たら逃げ道は沢山あった方がいいよね?その為に作られていたの。」

「へぇ……んじゃあ姫様方はそこから逃げたんじゃ…」

「うんん…きっとまだ地下だと思うの…国全体が海賊に占拠されているから、出た所を目撃されるリスクがあるし…」

「成程。んじゃ一丁探してみようぜ!!」

「行こう…!!」


____________

_______


どれ時間が経過しただろうか…

一向に底へと足が付かない。ずっと浮遊感に包まれているというものは、あまり愉快では無い。人としての感覚が狂いそうだ。

「…ん………」

「エクレア、大丈夫か…?」

「うん……平気…」

振り向いてみると、女2人は身を寄せあっていた。

平気とは言ったものの、身震いをしている。

「……魔法の効力が切れてきたのかもな。」

実際の水温へと近づいている。このままではやがて氷点下を肌で感じなければならなくなる…

「…ははっ……人魚の国へはまだつかないものか。」

「………。」

直ぐ近くまで来ているのか…旗また現在地から距離があるのか…俺には分からない。

だからこそ焦燥感に駆られてしまう。

「ケイム…君は表情ひとつ崩さないな…」

「…あぁ。まだ大丈夫だからな。」

…何が大丈夫だかは知らないが。

此処で俺が冷静を崩せば此奴らは更なる不安を抱く事になる。だから上辺だけでも繕わないとな…

厚着をしているが、水温を遮断する事は出来ない。

ただ纏わりついて、重重しい荷物になるだけだ…

低体温のせいで身体の機能が低下して来ている。

それでも、悟られてはならない。

「……?今声がしなかったか?」

「…声?」

指摘されて耳を澄ませてみたが、水が揺らぐ音しか聞こえてこない。

「……気の所為じゃないか?」

「私も…聞こえた…かも?」

「………。」

神経を研ぎ澄ませているがやはり変わらず揺らぐ音だけが…

しかし……何かが可笑しい…

「………。…!!隠れろ!!」

「「え?」」

違和感の正体が分かった。周りの音に似せているが、音は旋回しながら近づいてきているんだ。

「はははっ!!遅いんだなァ!!」

何処かから男のものと思われる声が聞こえてきた。だがその音源の場所が把握出来ない。

「ばあぁっ!!!」

「っ…!?」

鼓膜が破れる……とんだ悪巫山戯だ。

すぐ横に男の顔があった。この距離まで接近されていたなんて…

戦闘態勢を取りつつ距離を確保した。

暗くて鮮明ではないが、男の全貌を確認する事が出来た。

「…魚人……」

暗然な深海だが、目を凝らすと肌の色が微かに分かった。薄白く…正確には水色…だろうか。

手指や足趾には水掻きが付いていて、人よりも大きい。

脊柱から頭蓋にかけて鰭が生えている。耳に当たる部分も同様だ。そして、鱗があるのが何よりも特徴だろう。

そんな魚人は此方を見て何やら同様し始めた。

「オイオイ。ロズディアの野郎が侵入者キターって言うから、ブッチギリで優秀な俺が出向いてみたら……まさかさァ……!!」

視線が絡んだ。……何だこの心地は……

魚人の口角が上がりだし、鋭い歯が剥き出しになった。

「ケイン…!!おっまえ!!久しぶりだなァ!?何だよ〜!!元気かよ〜!!」

「…!?」

……兄貴の知り合い…?それに…俺と兄貴を勘違いしている…

「黙りしてどーしたんだよォ!!再会を喜び合おうぜ!?なぁ!!おっまえさぁ〜マスクなんてダサいモン付けてんなよ〜!!海中で苦しく無いのか〜!?(笑)」

……此奴は兄貴が死んだ事を知らない。

胸がザワつく。戦闘を回避する為には、兄貴を演じるのが正解だろうか。

………いや、無理だな。ヘマをするに決まっている。

バレてからが余計に面倒だ。

侵入者と言っていたからには、ベルデの部下で間違いない。

兄貴と間違われたからには、身元を隠すのはまず不可能だ。此処は正直に弟である事を伝えるべきだろうか…

「………俺は…ケインじゃないんだ。」

「ぶっ…ははは。お前の冗談久しぶりに聞いたなァ!!はぁ〜…懐っ……うわぁ……ははは!!最高だな!!」

「…冗談じゃないんだ。…俺は弟の方でな。」

「弟…?あぁ、そーいえば居たなぁ。よく話されてたけど……何?マジで??お前……あーー、ケイム。そう、ケイムなのか?」

「…話が早くて助かる。」

兄貴がよく話していた…か。内容は気になるが…

「なーんだ……弟かよ。はぁ〜……ケインの奴は元気か?また飲みに行く約束してたんだよ。」

明らかに落胆されたな…。この事実を伝えていいものなのだろうか…

「………。」

「どうした…?」

「……言い難いが…………。」

「何だよ、黙りして。」

本当は認めたくない……だが、事実は変わらないから…

「………兄貴は死んだんだ。」

「…は?」

心臓がギシリと音を立てる。自分で口にして傷心するな。

お互いの口角は歪んでいる。

「………お前冗談で言ってんのか?ケインと違って笑えねぇわ。性格悪。」

「………冗談だったら良かったんだけどな。」

「………………。彼奴はヘマをやらかす奴じゃない。死因は何なんだよ。」

「……俺を庇って、撃たれたんだ。」


本当に一瞬の出来事だった。

急に兄貴に突き飛ばされて、状況すら理解出来ないまま……スローモーションになった視界を眺めていた。

銃声が響いたと思ったらば、遠ざかっていく兄貴が顔を歪めて………胸から血飛沫を飛ばしていた。

赤いコートを、更に赤く…赤く染めて……俺が起き上がった頃には血溜まりの上に横たわっていたのだ……


「…くくっ……だぁ〜〜はっはぁっ!!くく……くくく………やっぱりな。お前マジで足手纏いだな。本当は死ぬはずだったのはお前なのに。」

「………………。」

「ケインが庇う程の価値があるとは思えねぇ。彼奴は多くに求められる存在だ。それに比べてお前は?ずっと彼奴の後ろをくっつくだけの金魚の糞みてぇな奴なんだろ?」

「………………。」

「何か言えよ?えぇ?他の奴は言わなかったかもしれねぇけど、こうしてのうのうと生きてること自体クズそのものだな。死ぬべきだったのはお前の方なんだよ、ケイム。」

「……………………。」

低体温で回らない頭の中を、更に冷たく黒い感情が満たしていく…

分かっている…

乗組員も気を遣って言わなかった言葉。

分かっている…

そんな事…誰よりもよく分かっている…

でも、あの日聞いた言葉なんだ。

酒に酔い潰れた乗組員が口にした言葉…

それに耐えられなくて…俺は船長の責務から逃げ出したんだ…

心臓が軋んでいく…

他人からも嫌われる自分を…どうやって認めろと言うのだろうか……


「ケイムの事を知らない癖に頭ごなしに否定するなっ!!」


張りのある声が全ての思考を遮断して、現実に連れ戻した。

「あぁ…!?何だよ女…」

「生きていて悪い人間なんて居ないっ!!綺麗事じゃないぞ!!与えられた命を粗末にするなんて許されない事なんだ!!」

「下らねぇ事吐かすなよ。あったま花畑だなァ!?皆求めてんのはケインなんだよ!!弟の存在なんて誰も必要としていねぇ!!」

「君はそうかもしれないが私は必要としている!!自分の考えが全てだと思ったら大間違いだぞ!!」

「……!!」

「はああぁ!?その言葉そっくりそのまま返すぜェ!?俺はケインが死ぬ原因作った其奴が憎い!!」

「恨みの矢先が違うだろう!?それにケイムの兄さんを想うのなら、体を張ってまで守りたかったケイムの事を大切にするのが君のすべき事ではないのか!?君のしている事はケイムの兄さんの生き方を否定している様なものだぞ!?」

どうして此奴は声を荒らげているのだろうか…

どうして俺を庇う様な事を口にしているのだろうか…

相手を逆上させるだけなのに…自分の事では無いのに…

分からない………

でも……その言葉が歪んだ思考を溶かしていく……

そんな感覚を覚えてしまった…


「うるせぇなぁ!!ケインを盾にするなっっ!!」

「同じ人に想っていた者同士歩み寄れないものなのだろうか!?数少ない理解者じゃないのか!?」

「こんな奴理解出来るかよっ!!ケインと同じ顔の癖に何も持ってねぇじゃねぇかよォ!!」

「君が知らないだけでケイムは沢山のものを持っている!!確かにひねくれ屋で嫌な奴だが……それだけがケイム=ハスラーじゃないんだぞ!!」


パチンッ………


水中だが、鈍い音が響いた…

魚人が頬を抑えている…

「…っ…!!??ああぁ!?叩きやがったなァ!!??」

「…君がわからず屋だからな…感情的になってしまったぞ…」

自分の中の何かが崩れた……

この女は……俺の知らない衝撃を与えた……

「テメエェ!!よくもっっ!!」

「…!!」

魚人が手を振り上げたのと同時に自分の元へ引き寄せた。

かろうじて避ける事が出来たが……

「……とんだ無謀だな。」

「…大丈夫……?」

「大丈夫だ。ケイムが守ってくれたからな。くくっ…君は男前だな(笑)」

「…この状況で揶揄うな。お前は戦力外なのに…馬鹿だな。」


正直な所、この2人は足手纏いでしかない。

庇って戦える気がしない……他の奴らと一緒だったのなら、まだ話は違っていたかもしれないが……

例え相手はひとりでも、此奴は魚人……水中戦には特化しているだろう……

2人の安全を考慮するのと、自分のコンディションを整える為には…潔く負けを認めて…人魚の国へ誘導して貰うのが1番だろう…

侵入者をこの場で殺す事は無いという前提だが…十中八九そうだ。

それに、俺がベルデ=ガルシアと繋がりのあったケイン=ハスラーの弟だから、尚更殺さないに違いない。

拘束して、身柄を引き渡すだろう…

少しだけ…生きる希望が見えた…

どうやら俺はひとりで崖っぷちに居るのではなく、繋ぎ止める奴が近くに居たらしい…

無事に地上へ帰るまで死ねない理由が生まれてしまったな…


「上等だ!!やるのかァ!?クソ共がァ!!」

「……いや、降参だ。」

「怖気付いたかァ!!えぇ!?ケインの弟の癖に弱っちぃのかよォ!?」

「…かもな。此方は手出ししない。だからこの2人には危害を加えるな。」

「おい!?ケイム!?」

「はァァ……?つまんなッ……別に女いたぶる趣味じゃねェし…降参なら手出ししねぇけどォ…」

意外と話は通じるらしいな…

「……2人は泳ぐのもやっとだ。人魚の国まで抱えていってくれないか?このままでは辿り着く前に死ぬ事になる。」

「ハ〜ン…成程成程?……俺を利用しようって訳か。このまま放置して戻ればお前らは死ぬ。」

「その通りだ。」

「…だから戦闘を避けて降参って?……機転利かすんだなァ。でも手柄は欲しいし、その話ノってやってもいいぜェ?」

「……助かる。」

「着いたら死ぬモンだって思ってた方が良いけどなァ?勘違いすんなよ?ほんのちょびっっっと延命したってだけ。」

「あぁ…」

「ベルデ様なら間違いなく殺す。お前が死んだって俺は構わねぇし。」

「だろうな。」

「…ふぅ〜〜…そんじゃ、連れて行くか…満足かァ?ケイム。」

「感謝する、魚人…」

「ガレオス。ものの総称で呼ぶな。」

「……ガレオス。」

「…ふんっ……捕まれよ女共……特に俺をビンタしやがったお前は気に食わねェけど。」

「君がケイムに対してあんまりな事を言うからだ。少しは目が覚めたのではないか?」

「クッッソ生意気ってのは分かったわ。」

「ははっ。医者はアグレッシブなんだ。」

「ふーん…医者ねぇ……。お前への冥土の土産は特にねぇから名前ぐらい聞いといてやるよ。」

「カウンだ。生憎親玉の元へ連れて行かれようとまだまだ死ぬつもりは無いぞ!!」

「カウン。肝座ってんなァ。」

名前を聞くからには、多少興味を示しているらしい。

「そっちの片目のガキは?」

「この子はエクレアだ!!」

……1番素性を知られたら不味い姫様の名前は言うべきでは無かったと思うが…

目で訴えたが、伝わらない様でカウンは首を傾げた。

「美味そうな名前だなァオイ…!!」

心配とは裏腹、ガレオスはリャンヌールの姫君という事を知らないらしい。

「よしと……軽っ……ちゃんと着いてこいよ。ケイム。」

「あぁ…」

予想通り戦闘を回避することが出来た。

此奴に影響を与えたのはカウンの一撃なのかもしれない…

大きなダメージにはならなかったが、違う意味で効果があったのだろうか…

ガレオスの腕の中に居る彼奴の横顔をそっと見た。

……気を緩めるにはまだ早いな。

1つ息を吐き、この先待ち構えるベルデとの対峙を思案した…

勝算は不明だ……だが、俺が今死ぬ訳にはいかない。

ガレオスの後を追いながら戦略を立てるのだった……


_____________

_______


「さっきみたいな攻撃もなく…着実に進んでいるわね。」

辺りを探知する魔法の妨害はされているが、急な海流を起こされたりなど、そういった事は無い。

もしかしたら強力な魔法を放つ準備をしているのかしら……それとも…離れ離れになった他の子に向けて魔法を放っているのかしら…

ロズディアの目に映る私は…憎しみの対象でしか無くなってしまったのかしら…

久々の依頼がこんな大事になってしまうなんて思っていなかったわ……

もしかしたら、これは神様の与えたチャンスなの…?

杖を握りながら愛おしい過去のあの子の姿を思い描いた…

「……暗くなって来ましたね。海底に差し掛かっているのでしょうか。」

ハクリンは顔を此方には向けずに、静かに呟いた。

「えぇ……人魚の国へはあともう少しよ…」

「そうですか…皆さん無事だと良いのですが…」

サージは何処か落ち着きが無い…それもそうね……兄であるサザンと離れたのに…仇である海賊の元へ向かっているのだから…

もしもこの子達に何かあったら、Qと名乗る彼にどんな顔をして報告すれば良いのかしら……

きっと、悲しむでしょうね…

サージもハクリンも年齢よりもずっと大人びている。

普通なら取り乱す所なのに…そんな態度は見せない…

こんなに冷静で居られるのは、過去にもっと大きな出来事があったから……

胸が痛む成長の仕方ね…

2人共両親を失っている……だからこそしっかり者なのかしら……

…ロズディアもそうだったわね……甘える事を知らなかったあの子……見ててとても苦しくなったわ……

彼と似ているのね……同じ雰囲気を感じる…

そっと2人のことを抱き締めたくなったけど…これはあの子の投影ね…


「きっと無事よ…祈りましょう。祈りは神様を介して届くものなの。」

「……そうなのですか。」

「そうよ。それに、この旅路は私が責任を持って無事に終わらせるわ。これからが見せ場なんだから。」

ロズディアの魔法の隙を探す為意識を集中しよう……

魔力を目に集中させていた時、1匹の魚が横切った…

「……おや、この子は…エクレアが捕まえていた魚じゃないですか?」

「え?あらあら。着いてきちゃったのかしら?」

「そんなはずは…コップから出した時に逃げ出しましたし…」

この子は懸命に何かをアピールしているわね……

意思疎通の魔法ってこんな小さな魚にも使えるのかしら…

鳥やリスには使ったことはあるけど…魚は初めてね。

一か八かやってみましょうか……

「…………………。」

「どうしたんですか?リコフォスさん…」

「今この子の気持ちを汲み取ろうとして……………あらら?」

「…ん?」

この子……ちょっと待って………?

「…うーん…(苦笑)」

「この小魚はなんて伝えているんですか?」

「…それがねぇ……エクレアに一目惚れして、さっきは恥ずかしくて逃げちゃったけど、今度は逃げないから食べて欲しい……ってね……」

「「はああぁ????」」

そうなるわよね…?私の読み違いじゃないかしら…

でも目をキラキラとさせながらこちらを見ている…

食べられる事が本望と言わんばかりに…

「許しませんよ??僕が食べて差しあげましょうか??」

ほらほら…ハクリンも流石にご立腹で……

嬉しそうにくるくる彼の周りを回っている……お兄様と言っているのかしら…

「…こういう愛情表現の仕方もあるんですね?」

「あるものですかっ!!食べられる事志望の魚って何なのです??マゾヒストじゃないですか!?」

おおっと…王子様?そんな言葉も使うのね…?

小魚はエクレアの事を探しているから、はぐれてしまったことと、人魚の国へ向かっている事を伝えてみた。

「…………え?本当?」

「どうしたんですか?」

「この子、人魚の国へ突撃するの協力してくれるって。」

「はぁ……?どう協力すると言うのですか…」

「なんでも…他の魚にも協力を促してみるって……」

魚群になる事で海賊へ攻撃してくれるつもりなのかしら…でも、こんな小さな魚がどれ程集めてくれるのかしら…

成功した暁にはエクレアに食べて貰うと付け加えて外へ飛び出た事はハクリンには内緒にしておこう…

「行っちゃいましたね…上手くいくといいのですが…」

「しませんよ…限度がありますし…僕としてはアレに協力して貰うのはいい気がしません。」

「ふふふ…折角の好意なんだからそんな事言わないで?(笑)」

頭を抱えるハクリンを宥めながら、さっきの魔法の続きをして…突破口を探るのだった…


_____________

_______


「ぎゃああああ!?うっそだろぉ!?」

城の地下に潜入したのはいいけど、中にいた海賊に見つかってしまったのだ。これはもうやるっきゃねぇなって引き金を引いてみたのだが……

弾は超超スローモーションなのだ…。勢いが衰えて軈ては海賊に当たる前に底へ落ちてしまって……

これって俺様戦えなくね?戦うにしろ、めっちゃ近距離じゃねぇと効果発揮しねぇって言うかさ…

遠距離戦が得意なのに近距離戦に持ち越しとか無理だろが!!相手は剣だぜ?勝てっこねぇだろ!!

「サザンしっかりしてぇ…!!」

泳ぎが得意なエーメに引っ張って貰いながら何とか海賊の目から逃げ延びた。

これは地下に侵入したってベルデに伝わるのは時間の問題だな…

何だか思う様にいかない事ばかりだ…銃が扱えないんじゃ、どうやってベルデに太刀打ちすればいいのだろうか…

「姫様がきっと知恵を授けてくれるから…!!サザンは強いんだよね!?」

「そうだぜ!?俺様最強だかんな!?」

「でしょ!?ならさ、一緒に頑張ってよぉ……」

エーメのつぶらな瞳はゆらゆらと揺れている…ここで俺様が諦めちゃ駄目だよな…方法なんていくらでもあるんだ。それを見つけねぇと。

「頑張るぜ!!よーしっ!!姫様を探すぞ〜〜!!」

自分の頬っぺたをパチリと叩き気合いを入れ直した。

頑張れ俺様!!ファイトだ俺様!!今頃皆頑張ってるだろうしさ!!

やる時はやるのが男ってもんだろ?

「前に隠れてた場所まで誘導頼むぜっ!!」

「うん!!行くよっ!!」


城の地下はエーメの言っていた通りかなり入り組んでいた。壁には海賊がつけたであろうマークがあちこちにあった。

それでも未だに攻略出来てねぇんだろうな…姫様を見つけたのならわざわざ地下に部下を配置しねぇだろうし…

エーメは大柄の奴じゃ通り抜けられない様な狭い道をどんどん進んでいく。海賊はガタイが良い奴が多いからな…俺様みてぇに細身じゃねぇとこんな所は通れない…そりゃ見つけらんねぇわ……

どれくらい進んだだろうか…目の前には大きな扉があった。

まるで金庫のような厳重な扉。

「この扉はね、魔法の干渉をうけないの!!だから、中に隠れちゃえば外から見つけ出すのは不可能なんだよ!!」

「へぇ……んじゃあ魔法使いが居たとしても、場所を特定出来ねぇ訳だ。」

「うん……中に姫様が居るはずなんだけど……無事かな……」

エーメは不安そうに扉を叩いた。

ゴンゴンゴンと、金属音が響く。中にもきっと伝わっているだろう。

「姫様!!私です!!エーメです!!ご無事ですか!?」

カチャン…

解錠されて重たい扉が開かれた。中には何人もの側近がいて、1番奥に一際美人の人魚がいた…

あぁ、多分これが姫様なんだろうな…

頭にはティアラが付いていて、髪や首には宝石が飾られている。俺様と同じ…海色の目をした女性…

水色で可愛らしい三つ編みを揺らしながら揺らしながら俺様達の元へ近づいてきた。

「エーメ!!無事だったのですね!!」

「はいっ…マード姫……怖かったですぅ〜…」

「有難う御座います…助けを呼んできてくれたのですね。」

「はいぃ…!!」

エーメを抱き締めて頭を撫でている姫様……

すっげー綺麗…俺様の事も撫でてくれねぇかな?

視線が合ったと思うと、姫様は目をぱちくりさせた。

「ラート様っ!?」

「え?」

「いや……違いますね。ごめんなさい。貴方は男性で……でも…その帽子とモノクルは……」

「あぁ、これか?これは代々伝わるのもので…」

「じゃあ貴方はウォーシャン!?ジェラ様の末裔なのですね!?」

「そう…だな。」

「なんて言うことでしょう…!!救いと言うのはまさかウォーシャンだなんて…!!嬉しいです…この日を何度待ちわびた事でしょう…!!」

グイッと引っ張られて俺様もエーメと一緒に抱き締められた。

こんなサービスして貰っていいのか?これはニヤけそう…

あくまで平常心を装う為にすんっと真顔でいる事を心がけた。

「だからラート様と顔立ちがとても似ていたのですね。納得しました…!!」

ラートって言うと…初代ウォーシャンだよな…マード姫は御先祖様と会ったことがあるのか……?

「俺様はサザン=ウォーシャン。ベルデ=ガルシアをやっつけに来たんだよ。」

「本当ですか…!?心強いです……貴方の存在は私の希望です…!!」

ギュッと更に腕に力が込められて、頭を優しく撫でられた。

すっげー可愛がられるな…まだ何も解決してねぇのにお腹いっぱいになっちまった…

「へへっ……でもぶっちゃけピンチ……かな。仲間と来たんだけど離れ離れになっちまって…それに…武器が無くてさ…」

これまでの経緯を正直に話した。

マード姫は真剣に俺様の話を聞いてくれた。

「…そうだったのですね。合流出来ればいいのですが…こればかりは私達の方からは何も出来ません…」

「だよな…」

「……しかし武器の方なら…」

「ん?」

マード姫は俺様達から離れて、椅子の後ろに置いてあった箱を開けた。中からは、大切に何かを包んでいる布が出てきた。

「…それは?」

「………これは、この国の秘宝です。」

「秘宝…?」

シュルっと結び目を解くと、中からは古い剣が出てきた。

それを見た途端どういう訳か、心臓が速まった…

何だこれ……ゾクゾクしやがる。妙な感覚だな…

マード姫に渡されて手に取ってみたが、所々に傷があり使い込まれているのがよく分かる。

しかし大切にされていた様で、刃も欠けていないしサビひとつ無い。

「それは、ジェラ様の剣です。」

「ジェラ……って…俺様の御先祖様の?」

「はい。此処に預けられたのです。サザン様のお父様によって。」

「んっ!?父ちゃんによって!?」

どういう事だ…?んじゃあこの剣も代々継承してた物の1つだったのか……?でも何でわざわざ此処に預けたんだ?

「私達はウォーシャンの子孫がここへ来たらばご返上しようと考えていたのです。ですから、どうかお受け取り下さい。」

「おう…受け取るけどさ…」

全く読めねぇな…父ちゃんは何をしたかったのだろうか…

剣をマジマジと見ながら頭を巡らせたが分かんねぇや。

「武器は其方をお使い下さい。」

「有難いけど……俺様の持ち前を発揮出来る武器は銃なんだけどなぁ…」

まぁ…贅沢は言ってられないよな…

剣専門なのはサージの方だけど……この際俺様が扱うしか無さそうだ。

「よし…じゃあ使わせて貰うぜ。これを持って…ベルデの所へ行く。」

「私も着いていきます。」

「えっ!?姫様も!?」

「サザン様がこの国の為に頑張るというのに、安全な場所でじっとしている訳にはいきませんから…」

「いや、姫様の身に何かあったら困るし…」

「私達もずっと此処に居る訳にはいきません。この国の姫として、全てを見届けます。」

「おう…そ、そうか…」

マード姫は凛としている。ハクリンやエクレアと似た気高さを感じるな…

その空気に圧倒されて断る事が出来なかった。

「参りましょう。水中戦はサポートします。」

「任せてサザン!!私も…頑張るっ!!」

エーメにポンと肩を叩かれた。

「分かった。じゃあ頼むよ。一緒に頑張ってくれ。」

「はい。」

こうやって誰かに頼るのはロフ以来だろうか?

でもベルデと戦うには1人じゃ無理だ…頼らないと勝ち目は無い。

今が頑張り時だな…!!気ぃ引き締めてくぞ!!

姫様とエーメに後押しされながら、ベルデの元へと泳ぎ進むのだった……

読んで頂きありがとうございました!!いよいよベルデ戦ですね…!!ロズディアやガレオス。新たに関連キャラが登場しましたね。彼らが今後どの様な影響を与えるのか。そして、皆バラバラですが、無事に合流出来るのか……次回に続きます!!

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