ペンダントの示し
新たに二人を仲間に加え航海し、辿り着いた港町である人物と出会い…!?
ハクリンとエクレアを新たに仲間へと加えて航海する様になり、二人の事情が少しずつ分かってきた。
「…リャンヌールの国民が皆エルランジェ家に賛成派だった訳ではありません。中にはやはり反対派が居ました。そんな方々がシュベルナの勢力として引き込まれて、革命という名の反乱を起こしました。その際にバルム=シールドが国王と妃を謀殺し、王家が消失したリャンヌール国はそのまま吸収され…亡国になりました。」
王様とお妃様…つまりハクリンとエクレアの父ちゃん母ちゃんはシュベルナの国王、バルム=シールドの手にかけられ、国も奪われちまったみたいだ。
二人は命からがら逃げ延びたみたいだけど、バルムが追っ手を送ってきたり、賞金を出すだので族の協力を仰いだりしているらしく、常に危険に晒される生活を強いられている現状だ。
ハクリンは親の仇としてバルムを打ち倒し、国を取り戻す計画を立てている。そして、協力者も居るらしい。
舟での生活の中でも、鳩を何度か飛ばして誰かとコンタクトを取っている様子が見られた。
「……そうですか。貴方達はベルデ=ガルシアを追っているのですね。……実は私としても無関係ではなく、倒しておきたい相手の1人なんですよ。」
そして意外な共通点があったのだ。ハクリンもベルデ=ガルシアを倒したいと言うのだ。
「シュベルナの勢力は三角貿易によって保たれています。それがある限りは強大なものになってゆくでしょう。シュベルナは奴隷や武器を大量に買い付けて居ることはご存知でしょうか。その元となるのは2つ…西の大海賊、ベルデ=ガルシアと、東の大商人、柳……それらとの結び付きがバルムを強めています。」
「ベルデとバルムと柳っつー奴の結び付きが厄介って事か?」
「えぇ。ベルデもシュベルナから得た資金から更に勢力を強めるでしょう。柳という男に関してはあまり情報を得られていませんが…バルムの勢力拡大を支援されては困るので、潰しておかなければなりません。」
ハクリン曰く何処か一角でもぶっ潰せたらば、シュベルナの土台を崩せるみたいだ。二角潰せば確実に弱体化を測れるらしく、革命へと近づけるとの事だ。
「…貴方達の敵は私の敵でもあります。こうして同じ敵を倒したいという目標が重なるのは奇跡に等しい。いえ、この巡り合わせは運命なのです。…ですから、ここは手を組み、共に敵を討ち取りましょう。」
「そりゃ勿論。」
打倒ベルデ計画はハクリンも協力してくれるみたいで、心強く思えた。でもエクレアの事は絶対に巻き込めないというのが大前提らしく、ベルデが居場所が分かった時点で、彼女の安全を確保したいと申し出た。
そん時はカウンも同様に下船して貰った方が良さそうだな。
俺様達みたいに武器の扱いになれている訳では無いし、危険に巻き込む訳にはいかない。
出来れば最大戦力であるケイムには一緒に戦っては欲しいけど。もし拒む様なら無理強いは出来やしねぇか…
でもまずはベルデの居場所が把握出来ていないので聞き込んで探ってみる事にした。
マッタンからの謎謎の答えを知る者を探すのが手っ取り早いだろう…
これが巫山戯た問い掛けなモンだから時間の無駄な気もしなくはねぇけど…
ずっと舟に乗りっぱなしだったから、外を出歩いてみようぜって事で、全員を引連れて行き着いた港町を探索して見る事にした。
大人数っちゃあ大人数だから目立つっちゃあ目立つかもしれねぇけど…
何よりもハクリンとエクレアの存在がバレないように…海賊である俺様達が海兵に見つからないように…
二つの意味合いで警戒心を持つ必要があるしさ。
この中で何も気にせずに歩いてて良いのはカウンだけだからな。
町をあちこち歩いていた時に後ろから声をかけられた。
「…買い物か?ウォーシャン。」
「…!?ああぁ!?」
何だか聞いた覚えのある声だったので勢い良く振り返ると…
「久しぶりだな。」
「きゅ、Qさん!?」
「ええぇ!?」
砂漠の国の格好で明らかに異様な空気を放つ…でも、凛とした声と佇まいであり、呑み込まれてしまいそうな程綺麗な朝焼け色の目をした男……
ガラクタ商人、Qだ。
「どうして此処に!?」
「そろそろこの辺りに来る頃だと思ってな。」
まさかの再会で動揺を隠せない。
いや、俺様達かな〜〜り苦労してここまで来たんだぜ!?川下ったり…水門開けたりしてさぁ!?
お前と出会ったのは反対側の海に接していた島だった訳だし…そこからどうやって…!?
数学が苦手な俺様でも確率的にこんな場所で再会するとか有り得ねぇだろって分かった。
それに、この辺りに来る頃だって……ンでだよ!?エスパーか此奴は!!
そんなおっかなびっくりの俺様とサージにはお構い無しでQは他のメンバーを一瞥した。
「成程。見ない間に仲間が増えた様だな。それに面白い面々だ。」
「…何者だ。」
初対面のケイムは勿論警戒心MAXだ。
「何者?そうだな…Qとでも呼んでくれ。」
初めて俺様と出会った時に言った決まり文句だ。
「巫山戯ているのか?身元を明かせない理由でもあるのか?」
「……ふふ…」
Qは肩を竦めて、さぁ?みたいな素振りをしたが、その態度は更にケイムの眉間の皺を深めた。
「…そんな顔をするなケイム=ハスラー。俺はただのガラクタ商人。立ち話もなんだ。俺の店に来るといい。」
そう言って着いて来るようにとQは手招きをした。
「待て!!何故俺の名前を!!俺はお前に名乗っていない!!」
「確かに…」
Qはケイム=ハスラーと呼んだ。皆知ってる方は兄貴であるケインの方なのにどうして…
「…分かったから呼んだ。それだけの事だ。俺から逸れるなよ。」
問いただしたいケイムをお構い無しにQは歩き出した。
「お二人の知り合いなのですか…?不思議な方みたいですが…信用しても大丈夫でしょうか?」
「胡散臭さは無いが…何だかなぁ…」
「大丈夫だぜ!!Qは悪い奴じゃねぇから!!びっくりはしたけどまた会えたのは嬉しいし俺様話してぇよ!!店があるみたいだからついて行ってようぜ!!」
「えぇ。もしかしてQさんのお店って全世界チェーン店なんですかね?(笑)」
「まっさか〜!!」
ついて行くことに賛同しないケイムをどうにか宥めてQの後に続いた。
前みたいに表通りからは外れて入り組んでいる路地裏へと入り進んでいたが、ふと見覚えのある光景である事に気づいた。
静まり返って世界から遮断されたみたいな道…橋の下を潜ったり、古びた石段を登ったり…
そうそう、この観賞植物覚えてるぜ。途中に置いてあったよな。
この高い壁の建物も…柵の形も覚えている。
道を挟む両脇の建物の窓から覗かせる中の風景は、人の生活の跡を物語るものなのに…そこには誰も住んでいないと何故だか思わされる。
この空間には俺様達以外誰も居ない…人の存在が感じさせられないのだ…
そんな感覚を覚えながら歩いてると、やっぱり馴染みの風景に辿り着いた…
「え……!?」
「俺の店にようこそ。」
古びた大きなドアをQは押し開けた。
何で……?前にQと会った島の店と一緒だ…
この白の中に青いタイルがある壁……プランターの位置や壁際の装飾品……間違いない。
内装も同様に…ショーケースの中に前に見たお宝が…同じ配列で並んでいた。
「ど、どうなってるんだよ!?なぁ、Q……!!」
「今お茶を入れよう。適当に腰をかけていてくれ。」
穏やかに笑うと店の奥のキッチンへと行ってしまった。
ちゃんと内装を俺様が把握してるあたり…間違いねぇよな!?
「サージ…此処、前に来たQの店だよな?」
「えぇ…兄さんもお気づきになりましたか?どうなっているんでしょう…」
「分かんねぇけど…チェーン店とかそーゆー理論じゃいかねぇぞ!?……うぇっ…ゲホッゲホ…埃っぽい…!!」
「おわぁ!?に、兄さん…!!埃どころか砂が床に溜まってますよ!!」
「うおぉ!?どういう汚し方したらこうなるんだよ!?」
前来た時も埃っぽくて掃除してやったけど、その埃っぽさは砂埃から来ていたらしい。
それが放置され続けるとこうやって溜まることになるんだろう…
つーかこんだけ汚れてんのに平然と生活してるQは神経図太いのかな!?
「凄い…宝石沢山…!!」
「宝物庫ですか此処は…」
王族のお二人さんを驚かせちまうくらいだから相当なんだろうな…
「レプリカじゃなくて全部本物なのか…?」
「そうだぜ!!なんてったってQが集めた代物だからな!!」
「……これだけの物を収集するなんて得体が知れないな。」
「相当金持ちなのは確かだからなぁ。」
「待たせたな。座ってくれて構わなかったのだが…」
「あぁ、Qさんのコレクションの数々を見させて頂いてたんですよ。」
「…そうか。茶菓子はデーツクッキーしか無いがそれで構わないか?」
「有難う御座います。」
Qが座ったのを見計らって俺様もテーブルを囲っているソファーの1つに腰を掛けた。サージは隣に座り、更にカウンもその隣に座った。三人がけぐらいだから、エクレアとハクリンは別のソファーに座ったが、ケイムは少し離れた所で壁に寄りかかりながらQの様子を伺っている。
「そんな所に居ないで座って良いんだぞ?」
「………。」
「ははっ…随分と慎重なんだな。ウォーシャンとはまた違った個性で嫌いじゃない。」
Qはこれでもかってくらい自分のお茶に砂糖を入れて口にした。
「…すっげー甘そうだなオイ…」
「丁度いいさ。それよりもウォーシャン。お前らの活躍は聞いたぞ。」
「ん?」
「レマール国を海賊の手から解放したらしいな。」
「あぁ、まぁな!!」
「海軍も攻め入ってきて危機一髪でしたけどね。」
「流石ウォーシャンだ。」
Qは何処か懐かしむように目を細めた。
「だが、何処か翳りを感じる。迷っているな?」
「うぇ!?」
前も思ったけど此奴は相手を見透かすのが上手い…
それとも俺様ってそんなに分かりやすいのかねぇ…
「…俺で良かったら聞こう。話してみるといい。」
「うーん。…なぁQ…お前は、音も空気も遮断する、暗くて冷たい奥底ってのが何処だか知っているか?」
馬鹿馬鹿しいとは思いながらもマッタンからの謎謎を一言一句そのまま問い掛けてみた。
するとQの指先は微かにピクリと動いた。
「……どうしてそこに行きたいんだ?」
「え?」
知る知らないじゃなくて…どうして行きたいか?
「そりゃあ…そこにベルデ=ガルシアっつー…海賊が居るから。」
「…………倒すつもりなのか?」
「勿論です。」
それを聞くとQは黙り込んでしまった。考え込んでいる…
もしかしてこの反応からするとマッタンの謎謎の答えを知っているのだろうか?
でも、俺様達じゃ力不足だから行かせたくない…Qの考えはそんな気がしてならない。
「…私も倒したい相手なんです。分かる事があるのなら教えて頂きたい。」
Qの考えを打ち破りたいらしくハクリンも声を上げた。
「……かなり危険だぞ?」
「そんなの百も承知だし、お前が教えてくれなくても…他に知ってる奴探すし!!絶対に、何としてでも辿り着かなきゃいけねぇんだよ!!」
「僕らは本気です。誰が止めても危険に飛び込みます。」
俺様達の必死さをQに目で訴えた。
Qはじっとそんな俺様達の目を見て、息を一つ吐いた後に口を開いた。
「…分かったよ。それがお前らの選択であり…求める答えに近づけるのならば、俺は止めない。」
「本当か…?」
「あぁ。ベルデ=ガルシアとの対峙も…そこへ行くのも…お前らの定めなのかもしれないな…」
Qは少し待っていろと言い、店の奥へと行ってしまった。
何か持って来てくれるのかな?
しばらくすると、かなり古いらしく色が茶色みがかってる大きな紙と、水色の宝石が加工されたペンダントを持って来て、テーブルの上に置いた。
「何ですかこれは…」
「…霧の日に、この海図の通りに舟を出せば協力してくれる者の場所へと辿り着くだろう。」
広げられたものを覗き込んでみたが…
「んん?何も書いてねぇじゃねぇかよ…!!」
Qはこれを海図と呼んだが、無地の古びた用紙なのだ。
裏表逆に敷いているとかそういうパターンか?
しかしひっくり返してみたもののやはり何も書いていない。
「あぁ、ウォーシャン。こっちが表なんだ。このままで合っている。」
「表と言っているが、私達には無地なように見えるぞ?」
「そうですよ!!Qさん僕らを馬鹿にしてますか!?」
「いや、していない。このペンダントを上に置くと此処からの道が指し示されるんだ。」
Qがペンダントを上に置くと、用紙が眩い光を帯びた。その光の濃さで伸びた影がゆっくりと線を描き…
「んな!?」
何と無地だった用紙が海図へと変わってしまったのだ。
「えええぇ!?」
「……何だこれは。」
流石のケイムも目を見張り近づいて出来上がった海図を覗き込んで来た。
「…これは魔法道具の1つだ。何処からでもこの海図が示す場所に住む者…リコフォスという女性の元へと辿り着ける。…先に言っておくが、彼女は魔女だ。」
「ま、魔女…!?」
「あぁ、それも神に認められて、程強大な力を与えられる程の。…所謂大魔法使いだ。」
「大魔法使い……!?」
魔女だの神だの何だか話についていけねぇんですけど!?
確かに精霊やエルフに会ったけど…今度は魔女…?
「…本当に魔法とかあるものなのか?」
真っ先に否定に入りそうなケイムだが、珍しく半信半疑みたいだ。
「今目の前でお披露目しただろ?…それに、お前のそのネックレスは魔法の国の物じゃないか?」
「…………。」
「そうなのかケイム?」
「……兄貴はそう言っていたが…そんな場所がある事も…魔法なんて非現実的なものもやはり信じ難い。」
「信じないならそれでも良い。そこは任せるが…どうか彼女に無礼はないように。手土産を持っていくと喜ぶだろうから、何か持って行く事を勧めておく。」
Qは海図をくるくると丸めて紐で結ぶと、ネックレスと一緒に俺様に手渡した。
「使い方は今見せた通りだ。条件は霧。航路は中々複雑ではあると思うが、海になれているお前らならきっと辿り着けるさ。」
「んん…何でそんなモンをお前が持っているんだ?」
「……友達だから?」
困った様に首を傾げた。いや、友達ならハッキリそう言えっての!!疑問抱くなし!!
「…友達の家を紹介されたとでも思ってくれればいい。彼女は頼りになる事は確かだ。そこは保証する。」
「それはとても有り難いですが…」
Qがこうして協力してくれるのはすっげー嬉しいけど、更にお前の謎が深まったなぁ…
この店のといい、魔女と知り合いって事といい…
閃いたぞ!!さてはお前も魔法使いだな!!
な〜んて…思ったり。でも普通じゃねぇ事は明らかだ。
そんな俺様の疑問を感じ取ったのか、Qはクスクスと笑い何故か俺様の頭をそっと撫でた。
「なっ!?おい…!!」
「…海に霧がかかるまで、此処に滞在してくれて構わないさ。賑やかなのは愉快で好きだ。」
「此処…シャワーもあるの…?」
「あぁ、ある。好きに使うと良い。客間としてベッドもあるからそこを使ってくれていい。」
舟内の生活環境は好ましいとは言えねぇから、こうして広い場所を貸して貰えるのは助かる。
「買い出しに付き合ってくれれば食事も提供しよう。」
「そこらの宿よりずっと良いぜ!!Qってば太っ腹!!」
「………。」
「俺相手に気を張る必要は無いさ。それでは休みに休めないぞ、ケイム。」
「…馴れ馴れしく呼ぶな。」
「そうトゲトゲするな。好意に甘えさせて貰おうじゃないか!!」
「Qさん…ありがとう…」
「誠に感謝致します。」
ハクリンとエクレアはやっぱり礼儀正しいし、お辞儀の仕方とか完璧だよなぁ…とつくづく思う。
ケイムはQと距離を置くつもりみてぇだけど、他のメンバーは打ち解けられそうで安心した。
「しばらくお世話になるわ!!宜しくな!!」
「ゆっくりして行くと良い。」
こうして再びQの店に泊まらせて貰う事になったのだった。
読んで頂き有難う御座いました!!謎が多いQさんですね!!果たしてベルデ=ガルシアに近づく為の彼の導きが吉と出るか凶と出るか…。次回に続きます!!




