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リャンヌールの姫君

海賊に支配されていたレマール国の解放から一夜明けると、辿り着いた港町で1人の少女と出会い……!?

レマール王国の解放から一夜明け、発行された新聞はウォーシャン海賊の事が大々的に取り上げられていた。

「何よこれ〜…人助けをする海賊ってどういう事よ。」

記事を目で追いながら隣に居るバロンに話しかけた。

「いや〜…参ったよなぁ。乗り込んだら親玉は既に倒されてたなんてさ。」

昨夜作戦決行によって城を占拠していた海賊団への追い討ちをかけた。勿論我が軍の活躍は大きいが、それ以上にウォーシャン海賊の活躍が大きく、感謝していると国王であるヒース様は語ったのだ。

言わば、美味しい所を持っていかれた気がしてならない。

そもそもどうしてウォーシャン海賊は今回の件に関与したのだろうか?

「ウォーシャンの血筋だから何か引き起こすだろうなぁっては思ってたけどさ…」

「早いうちに捕まえないともっと大事が起きるんじゃないかって嫌の予感がするの。本当に何なのよあの兄弟は。」

金のグラスの一件もあり、何やら悪縁の様なものを二人からは感じる。鉢合わせになりはしなかったが、城に乗り込む寸前まで彼らはそこに居たのだ。

「世間騒がせもいい所だよな…てかさ相手はガルシア海賊団の傘下だよな。こんなに新聞とかで取り上げられちゃあ、直ぐに情報は広まっちゃうだろうし、親玉であるベルデ=ガルシアの耳にも入るんじゃあ…」

傘下の海賊に攻撃を仕掛けるとはそういう事だ。

あんな大海賊を敵に回すなんてあまりにも無鉄砲な行為と言えるだろう。例え子供であろうと容赦しない象徴的存在。

歯向かう相手は、その親類までも根こそぎ絶やす。

残虐行為に耽て、平和への脅威であるベルデ=ガルシア。

その行方は海軍さえも掴めずに居るが、何か行動を起こす前に必ず捕まえなければならない。

彼奴が行動を起こすと、必ず数多の死者が出て最悪の歴史を刻むのだ。

私が海兵になるきっかけとなった事件も、ベルデ=ガルシアが主犯格であったと言われている。

今から15年前の話だが一時も忘れた事は無い。まるで昨日の事の様に鮮明な記憶が脳裏を駆け巡るのだ。

大好きな町、仲良しな友達、帰るべき家、愛するお母さん…大切なものを全て失ってしまった。

だから絶対に許す事は出来ないのだ。

「ベルデ=ガルシアがこの一件をきっかけに動きを見せないと良いけどな。」

「あ、ゼーヴィンさん。」

軍医長であるゼーヴィンさんが後ろから記事を覗き込んで来た。

「…嫌な名前だ。彼奴が引き起こした一件でMAREは大打撃を受けたからな。」

「大打撃…?」

「そうさ、その頃はお前達は居なかったから知らないだろうが、多くの兵士は戦死して、結果的に主犯格の海賊を取り逃がし、甚大な被害だけを残したと、元帥は世間からバッシングされて辞職に追い込まれて…MAREの分岐点となった事件だからな。」

「へぇ〜…」

「……あぁ、ディアスは当事者か。」

「…はい。」

ゼーヴィンさんの指した事件とは、私が全てを失ったあの日の出来事…

「…嫌な事を呼び起こさせてしまったか?」

「……いえ、大丈夫ですよ。」

「…そうか。…MAREの古株が居ないのはそのせいなんだよ。生き残った兵も心に傷を負い辞職していった。辞めてしまったベイリーの代わりに就任して、元帥となったラメールが何とか立て直したが、世間からの批判の目は変わる事が無くてな…」

ゼーヴィンさんは数少ない古株の一人であるから当時の事をよく知っているのだろう。今の元帥であるアビス=ラメール元帥が就任したのは、その一件がきっかけだったとは初めて知った。

「何だかMAREって複雑な事情があるな〜とは薄々感じてたけど、そんな事があったんだなぁ。」

バロンは腕を頭の後ろで組みながら視線を宙に泳がせていた。

「…知らずに入ったのか?」

「まぁな〜…RAUTよりもこっちの方がしっくり来る気がして勢いで(笑)」

「…お前中々の強者だな。」

クツクツと楽しげに笑うバロンに対してゼーヴィンさんは呆れ顔をして溜息を吐いた。直感的に生きるのはバロンらしいとは思うが、私も軍医長に同感だ…

「…ディアスは主犯格の海賊をどうにかしたいと思っているだろう。だがそれはMAREとしても同様なんだ。」

そう言い、カチリと着火マンを鳴らし口元の煙草に火をつけた。

「…ふぅ………これからどう動きを見せるか分からないが、一人で行動を起こす気にはなるな。お前一人では敵う相手じゃない。」

煙を吹かしながらゼーヴィンさんは私の焦りを汲み取った。

何だか見透かされたみたいでドキリとした。

「…じっくりと待て。焦りは心を蝕み過失を生む。余裕を失うと動けなくなる。」

「…はい。」

「この問題に人一倍敏感なのは、ラメールやフローレス…あぁ、あとグエムだろう。その辺と話をしてみると良いんじゃないか?」

「…分かりました。」

「話せばこれからの方針が見えてくるだろう。俺で良ければ話を聞くしな。…だがこの後お前達は会議が入ってるだろ?休み時間に医務室に来れば歓迎してやるさ。」

「有難う御座います。」

「よく俺たちの日程把握してんよなぁ…そろそろ行くかマリン。」

「えぇ。行きましょう!!…そうだ、ゼーヴィンさん!!最後に一つ!!」

「ん?」

多分見つかったら怒られるだろうし言っといた方が良いだろう。

「此処、禁煙ですよ!!」

ズコッと勢い良くゼーヴィンさんは肩を傾けた。

「何だよそりゃ…拍子抜けだよ。でもまぁそうだな。換気しとくから内緒にしとけよ。」

開けられた窓から潮風が入り込み頬を撫でた。

「何処と構わず吸うよな…病気なっちまうぞ〜?」

「うるせぇ。若造がジジイの説教なんてするな。俺の生き甲斐を取り上げようとすんじゃねぇ。」

外に灰を落としながらシレッとそんな事を口にしてるけど…果たしてお医者さんの言うセリフだろうか…

「肺がんなって早死するんじゃあ…」

「医者に口出しするんじゃねぇ!!さっさと行け!!」

厄介払いされるものだからそそくさとその場を離れたが…ゼーヴィンさんのヘビースモーカーっぷりは考えものだ…

「軍医長の為を思って言ってるのになぁ…」

「ねー。どうにか出来ないかしらねぇ…」

いいアイディアが無いかバロンと相談しながら会議場へと足を急いだ。


_____________

______


海軍の総攻撃から逃げるべくレマール国から離れ、少しでも距離を稼ぐ為に海流に乗っていたら港町に辿り着いていた。

時刻は正午。昨日の疲れが残ってるせいか身体がだるく感じる。

もしくは収穫を得られなかった落胆からだろうか。マッタンの言葉の意味を考えてみたが、これといった答えにはやはり辿り着けなかったのだ。

「見ろサザン。さっき買ったクッキーの詰め合わせだがくっ付いているのが入っていたぞ。おまけだな。」

隣を歩くカウンは早速買ったクッキーを紙袋から取り出して口に放り込んでいた。

「あ〜!!俺様のチョコチップクッキー…!!」

「カウンさん!!それ食べるの楽しみにしてたんですから舟に戻るまで待ってくださいよ〜!!」

舟の食料が減ってきたから町を探索がてら買い出しをしていたのだ。ケイムは舟に残っていて、俺様とサージとカウンの3人だ。

「そうケチケチするな。何個か食べてもまだ沢山残っている。」

「いやいやいや、食えば減るし俺様とサージの食う量考えてるかよ!?」

大好物のチョコチップクッキーを前にしたらそれこそ争奪戦だ。どっちが最後の1枚を食べるのか揉め事になるくらいである。

「ははは、大丈夫だ。ケイムは食べないだろうし、私だってそこまで食い意地を張らないさ。」

食い意地と言われて何だかムッとしてしまったが…意地きたねぇのは事実かもしれねぇな…

「俺様は好きなだけ食べてぇんだよ!!」

「僕だって沢山食べたいんです!!」

3人で足並みを揃えながら舟を目指して歩いていると、少女の悲鳴が聞こえてきた。

「!?」

「な、何だ!?」

「向こうからだな!!」

ガサゴソと買った食材の入った袋を抱えながら声のした方向へと走っていくと、海賊と思われる男共が1人の少女によってたがって掴みかかっていたのだ。

「やっぱり話に聞いた通りだなぁ!!」

「嫌っ!!離して!!」

少女は抵抗するが、男共はお構い無しにそのまま何処かへと連れて行こうとしている。

「…なぁ、テメェら。ナンパにしちゃあちっと乱暴過ぎねぇか?」

考える間もなく男共の間へと入った。

「!?なんだテメェ!?いつの間に…」

「海賊かよ。お前も此奴の事を聞きつけて来たのか!?言っとくけど俺達が先に見つけたんだからな!!」

「レディに対して不躾だろうが!!ナンパってのはなぁ!!無理強いをすることじゃねぇんだよ!!」

バシリと拳を頬に向けて一発叩き込んだ。

「ってぇ!?ガキの分際でやんのか!?」

掴みかかろうとしたが、その手を躱してみぞうちに蹴りを入れた。

「ぐあっ!?すばしっこい野郎だな!!」

俺様の蹴りのダメージでよろめく仲間を庇いながら、他の海賊は俺様に対して敵意をあらわにした。

「今のうちに!!あの白衣のお姉さんのところまで走れ!!」

「…!!うん!!」

海賊の手が離れたのを見計らって少女にカウンの元に避難する様に指示を出した。

「なっ…!?待て!!」

「お前らの相手は俺様だぜ!!余所見してんじゃねぇ!!」

拳銃を取り出して相手の足元へ向けて放った。

「扱い方も知らねぇ癖に!!ガキが銃なんて扱うんじゃねぇ!!」

腰の剣を抜き俺様に斬りかかって来ようとした時にサージが飛び込んで来た。

「本当に貴方って人は無茶しますよね…」

「おうおう、流石俺様の弟。分かってるじゃねぇかよ。」

サージは望む攻撃を仕掛けてくれる。双子というだけもありコンビネーションはバッチリなのだ。相手の剣を弾き、そのまま足を斬りつけた。

「…っ…!?」

「よくも!!この…!!」

他の海賊も同様に足に向けて攻撃を定める。

「どうだよ?ガキの銃弾は。ちゃんと命中してんだろうが。」

百発百中のサザン様を侮られちゃあ困るんだなぁ…

「くそっ…」

足を引き摺りながらまだ俺様達に攻撃を仕掛けてこようとするが、怪我があったら本来の力は発揮出来ないだろう。

「男として失格だよ。出直して来いバーカ!!…行くぞサージ。」

「はい。」

カウンと少女の元へと行き、走ってその場を離れた。

後ろで何やら喚いて居たが、足が動かなければ追いつく事は無いのだ。



「…危なかったな。」

「僕達が側にいて良かった…。あのままでは連れて行かれる所でしたね。」

「………怖かった…」

緊張が解けたのか少女は膝の力が抜けてしまい、慌ててカウンがそれを支えた。

「大丈夫か…!?」

「……大丈夫…助けてくれてありがとう…」

大丈夫とは言っているが小刻みに震えている。無理もないよな…

見たところ俺様よりも1つ2つ歳下くらいだろう…だけどふわふわとした柔らかなブロンドヘアーから覗かせる顔立ちはとても綺麗で隠れてしまうのが勿体ないレベルだ。

こんな美人さんなら海賊も目ェ付けるだろうな。

「俺様はサザン=ウォーシャン!!海賊だけど悪い海賊じゃ無いぜ!!こっちはサージにカウンだ。お前は…?」

「私は…………」

少女は口ごもってしまいそれから先は言いたくない様子だ。

「んー、無理して名乗る事はねぇぜ。…まずは落ち着かなきゃだろうし良かったら俺様達の舟に来るか?お茶出すぜ?」

「……うん…今戻るの…怖い…誰かと居た方が安心出来る…」

「家には今誰も居らっしゃらないのですか?」

「……うん…お兄ちゃん…でも出かけてるの…帰って来ない……心配で探しに出てみたけど…誰かにつけられてるみたいだった…」

どうやら兄が居るみたいだけど今は家に居ないみたいだ。そしてもしかしたらば、さっきの海賊に家の位置を知られているのかもしれない。

「…じゃあ尚更だな。舟なら安心だぜ。なんてったって滅茶苦茶強ぇ奴が居るからな。」

少女は舟へ行く提案を呑んだからそのまま一緒に戻る事にした。


_________

_________


「戻ったぜー!!」

勢い良くドアを開けるとケイムは不愉快そうに眉を顰めた。

「……面倒事を拾って来たな。」

「…ん?」

視線は俺様達では無く少女へと向いている。

ケイムの目付きの悪さが怖かったのか、少女はカウンの後ろに隠れてしまった。

「おい、君はそんな顔をするから勘違いされてしまうのだぞ。」

「そうだぜ〜!!損するタイプだわ〜!!此奴はケイムっつーんだけど悪い奴じゃねぇからさ。」

そう言って少女を宥めるが、更にケイムは言葉を続ける。

「一国の姫君がこんな所で何をしているんだ。」

「……!!」

姫君…?

「何言ってるんだよケイム…」

しかし少女の表情はみるみるうちに固まっていった。

「……どうして……それを………?」

今にも泣きそうな顔をしながら少女はケイムの視線から逃げようとするが、ケイムはそれを逃がさない。

「…どうして?…世間知らずもいい所だな。」

ソファーから立ち上がり少女に近づいた。

「ひっ…」

「ケイムさん!?」

「…それで隠してるつもりらしいが、オッドアイは王族の証だ。」

何の抵抗もなくこの男は少女の前髪をすくい上げ、耳にかけさせた。

すると此奴の言う通り、両目の色が違っていた。

「え!?」

「なっ…!?綺麗な目だな…」

右目は青色で左目は黄色…何で隠れてたのに気づけたんだ…?

そう言えばヒース様も綺麗なオッドアイをしてたっけ…

「…それに、そのネックレスの指輪はロイヤルジュエリーの1種だろう。価値を知る海賊からすれば、そんな物を見える所に付けている時点で攫ってくれと言っているようなものだぞ。」

それを聞いて少女は目を真ん丸にした。

「…馬鹿だな。王室育ちは物の価値も知らないんだな。」

「おいケイム!!」

「……そうだったんだ……だから…狙われちゃったんだ…」

シュンと悲しそうに少女のアホ毛も下を向いた。

「…それに、海賊舟に招かれてついて来るなんて危機感さえも無いらしいな。」

嫌味ったらしく言うモンだから思わず小突いてやろうと思ったかそれよりも先にカウンが頭にチョップを入れた。

「君の言い分は分かった。だが船長さんがお連れした客人だからな。君が文句を言う筋合いは無い。」

「そうたぜ!!さぁさ、座って!!紅茶淹れるからさ!!」

ケイムを押し退けるようにして席に誘導した。

まぁ、勿論納得してない顔をしてるが反論しか言わないだろうから放っておけ放っておけ。

少女は申し訳なさそうにちょこんと隅っこに座った。

その隣にカウンが座り、席を失ったケイムは壁にもたれ掛かりながら少女を見据えてる。

「はい、チョコチップクッキーだぜ!!食べると元気が出るからさ!!紅茶はお湯が湧くまでちょっと待ってな。」

皿に乗せてクッキーを出すと、少女は口に運んだ。

「……美味しい…」

「ですよね!!やっぱりクッキーと言えばチョコチップです!!」

「異議なし!!」

これに関しては共感しかねぇ!!

「……………あの…」

「ん…?」

俺様も食べようとクッキーに手を伸ばした時少女が頑張って何かを喋ろうとした。

「………エクレア…」

「…エクレア…?」

「…私の名前…」

「あぁ!!」

どうやらエクレアと言うらしい。勇気を振り絞って名乗ってくれたのだ。

「美味そうな名前だな!!」

「可愛らしいですね。」

「……ありがとう……ええと……」

「…亡国の姫君か。」

「…………知ってるんだね…」

「あぁ。」

俺様達はサッパリなのにケイムは知ってるらしい…

亡国ってどういう事だ…?

「…シールド5世のシュベルナ王国に併合された隣国の1つだ。」

「なっ…!?」

「…お前は、リャンヌール国のエクレア=エルランジェ第一王女だな。」

「……そうだよ。」

エクレアは静かに首を縦に振った。

「ほ、本当に王女様なのか…?」

「…うん…」

「…国を捨てて亡命した王族が、果たして今も立派なご身分に縋りつけるものかと思うけどな。」

「…!!」

ケイムの言葉を聞きエクレアはわなわなと震えている。

「おい、お前なぁ…!!言い方とかあるだろう!!」

「言い方?俺は事実を言ったんだ。今頃シュベルナに吸収されたリャンヌールの国民はどの様な待遇を受けていると思ってるんだ?」

「…それは……」

「国民を見捨ててまで生きようとするなんて傲慢なものだ。」

此奴は口を開けば皮肉っぽくて…言葉がトゲトゲで…

「……ごめんなさい…」

遂にはエクレアは俯いてしまったがケイムは何とも思ってないみたいで、此処で匿う義理も無い。早く帰らせろ。

なんて言いやがるし…

「生きようとして何が悪いんだよ!!死んじまったらそれまでじゃねぇかよ!!国の象徴が生きてんのならそれこそ希望じゃねぇか!!」

「そうですよ!!きっとエクレアさんの帰りを待っています!!再び王国としてリャンヌールを築き上げる事を望んでいるでしょう!!」

「それにだなぁ!!こんな所に居るっつー事は命狙われてんだろうが!!なのにそれを見捨てるなんて出来るかよ!!」

エクレアは顔を上げ俺様達を見据えた。

「…夢想家にも程がある。」

「うるせぇ!!」

「…シュベルナの現状はどうにもならないと感じ取ったんじゃないか?」

「…でもよぉ…!!」

「でも何だ?可哀想だからどうにかするのか?それで感謝されたいのか?偽善者が。」

「感謝されたいなんて思ってませんし、偽善のつもりじゃ…!!」

「お前らが首を突っ込むべき問題では無い。」

そうやってバサリと切り捨てられたらば、ぶっちゃけ返事に困るし、それこそケイムの価値観の押し付けだし…

「……ハク兄はね、どうにかしようとしているの。」

「…ハク兄…?」

「ハクリン第1王子。一応、王族のプライドは健在か。」

「…君は少しご愛嬌が必要だな。」

一応だの一言の多いケイムに対して流石に呆れたのかカウンはマスクを剥奪してクッキーを口に捩じ込んだ。

俺様達は見慣れた光景だが、エクレアは喧嘩に見えるのか、もしかして止めるべきなんじゃないかと俺様達の表情を伺ってくる。

「大丈夫だって。彼奴らは仲良しだから(笑)」

「誰がこんな乱暴な女と!!」

「ははっ!!素直になりたまえ!!君の兄はハクリンと言うのだな。帰って来ないと言っていたが、やはり革命を起こす為に動いているのか?」

「……うん…ハク兄は絶対に国を取り戻すって……私は危険だから、家に隠れてるようにって……」

「成程…その間はずっとおひとりで…?」

「…そうなの……心細くて……」

「そりゃなぁ。外にも出れずにずっと家に1人って息苦しいし…今日みたいに狙われちまうと対処出来ねぇしな…」

兄であるハクリンは妹を想っての事なのかもしれないが、こんな状況下で1人きりにさせるのは危険すぎる…

きっと周りは敵ばかりで、誰も信頼出来ずに居るのだろう…

「…私……足手まといかな……何も出来ない……ハク兄の弱味でしか無いの……」

「その自覚があるだけまだ救いだな。」

「…君は黙りたまえ。」

「そんな風に思っちまったらハクリンの気持ちが報われねぇよ!!それだけお前の事が大切なんだからさ!!」

「弱味ではなく、貴女が居る事は強味ですよ。だからこそハクリンさんは頑張れているのだと思いますよ。」

「……そっかぁ…」

エクレアは視線を落としスカートをキュッと握った。

コツン…コツン…

「…ん?」

窓の方から音がした。見てみると1羽の鳩が居てガラスをつついていたのだ。

「…何だ此奴。」

「その子…ハク兄の鳩……多分…私を探してたのかも…」

窓を開けてやろうとしたが、エクレアを見つけるとバサバサと何処かに飛んでいってしまった。




それから暫くすると、ドアが勢い良く開けられて1人の男性が飛び込んで来た。

「エクレア!!無事ですか!?何もされていませんか!?」

「…うん…大丈夫だよ…」

「彼女から離れて下さい!!海賊の分際で!!」

どうやらこの人がエクレアの兄ちゃんのハクリンらしい。

しかし髪はエクレアのブロンドヘアーとは違い緑髪で、目は両方とも青色でオッドアイでは無い。

「ハク兄…違うの…サザンさん達…悪い人じゃない…」

「……サザン…?もしかして貴方が例のウォーシャン……?」

「おっ!?知ってんの!?」

「えぇ…今朝の新聞で…レマール国を救ったという…」

「僕達一躍有名人ですね!!」

「な!!嬉しいわ!!」

「目を付けられるのだから喜べる話では無いだろ。」

ハクリンは俺様達を一瞥するとハッとした。

「貴方はケイン=ハスラー!?」

「…!!」

「違うぜ。此奴は弟だ。ケインじゃ無くて、ケイムな!!」

「弟…?弟なんて初耳ですが…」

ケイムは自分の兄を知る者に会ってしまい、決まりが悪そうに口を噤んでしまった。

「ケイムは俺様達の仲間だから悪さしねぇぜ!!」

「はい!!とってもいい人ですよ!!」

この手の話はケイムの傷を抉る事になりうるからあまり深堀されない様に話を切り上げるのが1番だろう…

「それよりもさぁ!!ハクリンお兄様よぉ!!エクレア危なかったんだぜ!?他の海賊に連れて行かれそうになってたんだからな!!」

「本当ですか!?」

「……うん……ごめんなさい…私…ハク兄が心配で外に出て…そこで…」

「丁度僕らが居ましたから助ける事が出来ましたが…もしもその場に居合わせていませんでしたら…」

ハクリンは顔を歪めてエクレアをぎゅっと抱き締めた。

「…怖い思いをさせてしまいましたね…私が戻らなかったから…」

「…大丈夫だよ…ハク兄が無事で良かった…」

「私の憶測だが、君達がこの町に居るという情報は既に海賊の中で広まっているのだろう。家の場所も把握されているだろう。」

「……そうでしたか。」

「…どうしよう…また…何処かに行く…?でも、何処に行けば良いんだろう……」

エクレアとハクリンはこれまでにも何度も場所を転々として来たのだろう。

「…エクレアを助けてくれた恩人であるのに、とんだ無礼を失礼しました。そして、誠に有難う御座いました。私はハクリン=エルランジェ…その御様子から察するに、既に私達の事情は彼女の口から聞いたのでしょう。」

「えぇ…追われる身であるという事は分かってます。」

エクレアの口からと言うよりも、ケイムの知識から知った事だけどさ…

それからハクリンは何やらじっと俺様達を見据えた。

「……会って間もなくこの様な申し出をするのは如何なるものかと思いますが、少しの期間で良いので…この舟に滞在させて頂きたいのです。」

「…んん!?お、おう…!?」

「ハク兄…?本当に……?」

そりゃまた唐突な…!!この舟の乗組員全員揃って目をぱちくりだぜ!!

「…えぇ。レマール国をお救いになるくらいですから、貴方達は信用出来ると思いまして。ヒース様のお言葉も記載されて居ましたが、そこから汲み取れる貴方達の人物像はとても素晴らしいものでした。まさかそんな善行を為した方とお会いするとは思いもしませんでしたし、これもまた運命なのでしょう。」

「ん〜…ちっと大袈裟じゃあ…」

「…年頃の近い方と共に居られるとエクレアも安心出来るでしょう。女性も居らっしゃいますし…心置き無く誰かと話せる環境下に居るべきです…」

「…うん……それは嬉しい……」

「僕らとしてもそう言って頂けるのは嬉しいのですが…」

「でもなぁ…狭いし。全員合わせたら6人になるんだぜ?寝る場所あるかな…」

「私は床でも構いません。」

「いや…王子様を床で寝せんのもなぁ…。ハンモック増やすか…」

「そうですね。丸椅子では無くて反対側もソファーに変えますか…」

「サージとサザンはくっついて寝れば良いだろう。それでもう1つのハンモックに私。エクレアとハクリンはソファーに寝て貰って、ケイムは床だな!!」

「…寝られれば何処でも構わないが。」

ケイムは素っ気なく流してるが、流石にずっと床ってのも可哀想だな…

「何だったら私と添い寝か?(笑)」

「死んだ方がマシだな。」

「言うなぁ〜君は!!」

「私達の為に感謝します。」

「あぁ。良いって事よ。冒険の仲間が増えるってのは嬉しいからさ。」

「舟そろそろ大きくしなきゃですね…」

「な〜。これ以上乗組員が増えたら入り切らなくなっちまうしな。」

でっけー船を手に入れる計画も練っておかねぇとだな。

「…本当に海賊を信用するのか?」

ケイムはハクリンの意思を確認すべく問いかけた。

「……はい。貴方達の人柄を私は信用します。」

相手を怯えさせる鋭い目に怯む事無くハクリンは答えた。

此奴…すっげー肝座ってんな。

ケイムはきっとこの2人を乗せるのは反対だと言おうとしたのだと思うが、船長命令は絶対ということもあり、言うだけ無駄だと判断したのだろう。

俺様達に視線を向けたが 「…そうか。」 とだけハクリンに返し、ひねくれた事は口にしたかった。

「歓迎するわ!!宜しくな!!」

「新たな隠れ家を見つけるまでの間、宜しくお願い致します。」

「…うん……お世話になるね…!!」


こうして、新たに王族の2人を仲間に加わった。

人目を避けて2人の家から荷物を運び込んだ舟は、大海に向かってゆっくりと進んでいくのだった。

読んで頂き有難う御座いました!!新たに加わったエクレアとハクリン…まだ謎の多い2人ですが今後どの様にウォーシャン海賊団に影響してくるのか!!次回に続きます!

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