マッタンからの謎謎
再び海へ出たウォーシャン海賊団。何時もの如く情報収集をしていたは気になる事を聞き…!?
水門を抜け、海に出て幾日か過ぎようとしていた。
航海は順調。時より港町に立ち寄ったりしながら情報収集をしていた。俺様達が求める情報というのは何かと言うと、とある海賊についてなのだが…一向にその足取りを掴めない。
そんな中今日は酒場に立ち寄り、気になる情報を得た。
「…あー、その傘下の連中が今レマール王国を乗っ取ったって。」
「え!?」
「…何でも、王様を人質にして立て籠ってるらしいぜ。」
有益な情報だが、事の重大さに思わず渋ってしまった。
シールド5世が君臨するシュベルナ王国の奴隷問題についても考えさせられてた所なのに、またしても王国絡みの問題である…
王様が人質ってとんでもねぇなオイ…。その海賊らの目的は分かんねぇけど知ってしまった以上放置しておく訳にはいかない。それに、傘下と言うのなら彼奴について知ってるに違いない。
「分かったわ。情報提供サンキューな…」
この事についてはサージと作戦会議と行くしかないな…
そう意気込んで舟に戻ったら、先に戻っていたケイムが訝しげに俺様を見据えた。
「…熱心にお前らは一体何を探っているんだ?」
「…あー、それはだなぁ…」
この問題についてはあまり触れられたくないところであり…言い難い分野ではあるんだが…
そりゃケイムにとっちゃ毎回何を聞き回っているのか知りたい所ではあるんだろうな…
思わず目を泳がせると、俺様の代わりにサージが答えた。
「…とある海賊の事を探していまして。」
「……とある海賊?」
「えぇ。」
「ベルデ=ガルシアっつーんだけど、お前は知ってるか?」
そう聞くとケイムはあからさまに動揺をした。
「ベルデ=ガルシア!?どうしてまたそんな海賊を…」
どうやらケイムは知っていたらしい。そんだけ名高い大海賊なんだろうな…
「…?誰だそれは。」
しかし海賊には疎いカウンは知っているはずもなく首を傾げた。
「…ベルデ=ガルシアは、海軍さえ恐れを成し手出し出来ずにいる大海賊だ。多くの傘下を持ちその規模は計り知れないと言われている。…俺も一度だけ会った事があるのだが…」
「「ベルデ=ガルシアに会った!?」」
サージと二人で身を乗り出した。正に灯台もと暗しだ。
有益な情報を持つ奴がこんなにも近くに居たなんて…
「…会ったと言っても一度だけだ。それもかなり昔の話であってな…。俺はその場に居たというだけで、ベルデと面識があった訳では無い。だが、それで正解だったと思っている。あれは関わりを持つべきでは無い部類の海賊だ。」
ケイムは静かに呟いた。
「どうしてそんな場にお前は居たんだよ…」
「…俺は兄貴の付き添いで行ったんだ。海賊の会合の様なもので、傘下の者が集っていた。兄貴は勢力拡大の為に、ベルデに近付こうとしていたんだ。…勿論俺は止めたが…兄貴は聞かなかったんだ。」
「…つまり、ハスラー海賊団はガルシア海賊団と関わりが…?」
「…あったかもしれないが、詳しくは把握しきれていない。俺ではなく兄貴が取り決めていた事だからな。」
「…そうですか。」
ケイムの知らない所で兄であるケイン=ハスラーが関わりを持っていたのかもしれないな…
「…そんなベルデを、何故お前らは…」
「……因縁っつーかさ…そういうのがあんだよ。」
「…彼奴が野放しな以上、僕らは動かなければならないんです。」
そう言うとケイムとカウンは押し黙ってしまった。
「…危険なのは百も承知だぜ?でもさ、これだけは俺様達の手で何とかしなけりゃなんねぇんだよ…」
「ですから、情報を探っていたんです。…それで今回、その傘下が何処に居るか把握出来ましたから、行くしかありません。」
「…何でも、王国に立て籠っていて、王様人質なモンだからさ…海軍もマトモに動けねぇんらしいんだわ。」
「…でも、何れ痺れを切らして艦隊で攻め入るでしょう…そしたら戦争ですよ!?それに、国民や王様の命も保障されません…あまりに危険な状況です。」
俺様達の身勝手だが、誰かが動かねぇとどうにもならねぇんだから動くしかねぇだろ…
きっと誰も動きゃしねぇんだからさ…
「…何も、君達が危険に飛び込まなくともだな…」
「…自分の力量を見誤るな。お前らに一体何が出来るというんだ。歪んだ正義感を盾にした所で身を滅ぼすぞ。」
二人の意見は最もだが、恐れてたら彼奴に辿り着きなんかしないし、そんなの御免だ。
「じゃあさ、ケイムは…兄貴ぶっ殺した奴のうのうと生きてるって分かってる上で見過ごすのかよ!?」
「…っ…!?」
「何としてでも辿り着きてぇって思うだろ!?危険だって分かっててもさ、突き動かされだろ!?そういう事なんだよ!!」
感情的になってしまった。こんなの押し付けだが、ケイムが反駁出来ないのは分かっていた。
ケイムの瞳は微かに揺れていて、想定通り言葉を詰まらせていた。
「…お二人の協力を仰ぐわけではありません。…ただ、僕達は自分の意思で動きます。止められてもそれだけは譲る事は出来ません。そこはご理解下さい。」
「…航路はレマール王国に変更だぜ。隣国だから今日中には着けるだろう。俺様達は着き次第街を散策したりして、作戦立てするからさ。二人は舟見ててくれよ。」
「僕が舵取りますね。」
「おー、俺様は帆を張るわ。」
そう言い、二人を置き去りにしてそそくさと外へ飛び出したのだ。
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「着いた。此処がレマール王国か。」
港には大きな海賊船が碇泊していたので、いつもの如く離れた位置にコソッと隠してきた。
街は海賊に占拠されているせいか、静まり返っており辺りを彷徨いているのは傘下と思わしき連中だけだ。
こんな状況で海賊では無いカウンが歩くのは危険だから残って貰ったが…何故かケイムも一緒に着いてきたのだ。
「…なぁ、俺様達だけで良いって言ったよな?」
「お前らではとんだ無茶をし兼ねないからな。」
「…いや、僕達よりも無茶するのってケイムさんだと思いますが…」
そうは言ったものの、やっぱりケイムが居てくれるのは心強い。此奴が居れば百人力の様な気もしてくる。
「…それにしても、あちこちに海賊が居るな。」
俺様達も海賊とは言え傘下じゃねぇから、見つかり次第戦闘は避けられねぇ。騒ぎにでもなれば直ぐにでもワラワラととんでもねぇ数の海賊が取り巻く事になるだろう…
だから物陰を利用して、上手いこと街の中心へと進んでいく。
「…あれが城か〜…立派なモンだなぁ…」
「えぇ…僕の何倍くらいでしょうね…」
「呑気な感想を言っている場合か。」
ピシャリとケイムに会話を遮られる。
「…今考えるべき事はどうやって中に潜入するかだ。」
「そうだよな〜。つっても、門は封鎖されてんなぁ…」
「城壁も高いですしね…手鉤を使って攀じ登るのも難しそうですね…」
「登っている最中に見つかったら一網打尽だしなぁ。」
「門が開くのに乗じて入れたらば良いのだが。」
うーん…と三人で唸って居ると「お兄さんこっち。」と何処かから呼び止められた。
「ん?俺様達?」
住宅の扉を開けて、中から女性が手招きしてたのだ。
「入って入って。貴方達ここの海賊じゃないんでしょ?」
「え?どうしてそれを…」
「良いから。さぁさ、早く。」
言われるがまま入ったところ、そこには何人もの女性が集まっていたのだ。
「わぁ…!?凄い数ですね…」
「…何の集まりだ?これは…」
「所謂井戸端会議って奴よ。とは言っても、外は危険だから代表で私の家に集まって会談してたの。」
こんな危険な状況の中、女性が集まって話し合うなんて凄いな…
「話って一体何を話しているんですか?」
「私達はね、この状況をどうにかしたくて。でも国の男は誰も動かないし。ヘタレなのもいい所よ。」
「そう。うちの旦那も困った事にねぇ。」
「仕方ないわよ、商人なんだから。うちは漁師だから武術を心得ている訳でも無いし。」
「兵士でも無ければ駄目よねぇ、海軍もまだ動いてくれないし…一刻も早く何とかならないかしら。」
「……どうして俺達を招き入れたんだ?」
どうやらこの状況をどうにかしたい女性達の会合だった様だ。しかし会話に花を咲かせて埒が明かないと判断したケイムが疑問を投げかけた。
「それはね、ずっとコソコソしてたからよ。彼奴らの仲間ならそんな事する必要ないじゃない?見つかったら不味いからよね?」
「それなのにお城に近づいていくものだから、何かしらしようとしてるんだと思って。違う?」
どうやら女性達は窓から俺様達の様子を見ていた様だ。
「そうなんだぜ…俺様達は此処を占拠している親玉をどうにかしようと思ってな。王様を救ってみせるぜ。」
それを聞いた女性達はやっぱり!!と顔を綻ばせた。
「貴方達の様な勇敢な人を待ってたのよ!!救世主だわ!!」
「…それは大袈裟ですよ。」
「いいえ、私達の希望よ。実はね、今夜海軍が夜に乗じて攻撃を始めるそうなのよ。だから一刻も早く何とかしなきゃって思ってたのよ。」
「はっ!?今夜!?」
「…どうしてそんな事を知っているんだ?」
「私の旦那が海兵でね、普段家に居ないけど無線が置いてあるからそれをいじってみたら情報が入ってきて。」
「…貸して貰ってもいいか?」
「えぇ。」
女性が快くケイムに無線を渡すと…まぁ、海兵さんの奥さんが海賊に無線渡すなんて変な話だけど…どうやら、今はそんな事はお構い無しの様で…。
受け取ったケイムは操作して、波長が合ったのか音声が流れて来た。
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「えっ!?今晩実行するんですか!?しかし住民の安全は…」
レマール王国の問題は案の定MARE軍が扱う事になった。
RAUT軍は資金を積まれないと動かない。リスクが大きいので触れずに居るのだろう。
「…元帥が取り決めだ。俺達はそれに従うまでだ。」
机上に肘を着き、組んだ手に顎を乗せながら大将、ティス=グエムは私達に言った。
「…勿論住民の安全が最優先だ。誘導は将校数名を当てた。艦隊からの砲撃の前に潜入して貰う。」
「…はぁ…。しかし砲撃戦になったら街に潜入した海兵まで危険じゃ…」
バロン=ティラーは兵の死傷を危惧した。
「砲撃の第一目標は海賊船であり、街への被弾は極力避ける。海賊船を全隻沈め、退却手段を奪い、一網打尽にする。城からの砲撃戦となった場合は、耐久戦に持ち越させると見せかけ、ウィリアムズが率いる部隊を城の裏口から潜入させる。…出来るか?」
「えぇ、勿論。」
キャロル中将はいつもの穏やかさは無く、厳しく近寄り難い雰囲気だ。本領発揮の場であるのだろう。
「…王族の保護を優先だ。そして、従者も一人たりとも殺させるな。」
「…任せて。」
「…予定通り、日没後…闇に乗じて一斉砲撃を開始する。それぞれの部隊で兵を統制し、任務を遂行せよ。」
「よし。」
「随時、モーガンから指示が入るだろう。無線は欠かさずに応答する様に。」
「はい。」
多分…というか…絶対私に向けてだろう…。戦闘に集中し、無線に応答する余裕が無い事が何度もあった。その度に他の将校に指摘されたものだ。今回も同じ失態をすると大将は睨んでいるのだろう。
モーガンというのは、ジャス=モーガン准将の事であり俊敏な指示の伝達を行うスペシャリストだ。
MARE軍の頭脳と言っても過言では無いだろう。だが、かなりのインテリであり戦闘には向いておらず、表に出ることはそう無い。だから、男だと言うのに、華奢で色白だ。
廊下ですれ違う際に、他の海兵とは不相応な体格である為に、一発でジャス准将と分かってしまう程である。
「…頼んだぞ。」
そう言い、大将は冷たく色彩の薄い灰色の目を細めた。
「頑張りましょうね、マリン。」
会議室から出て廊下を歩いていると、隣にキャロルが来てそっと笑いかけてくれた。
「…えぇ。頑張りたいわ…」
しかし相手はあの、ガルシア海賊団の傘下である海賊という情報を知り、気乗りしない…
「もう、そんな暗い顔しないの。貴女なら大丈夫よ。住民の方をちゃんと守ってね。」
「…キャロルこそ、相手は実力者である以上、兵の安全を。そして自分を守ってね。」
そう言うと、キャロルは可笑しそうにクスクス笑った。
「あはは、貴女ってばアタシの心配?大丈夫よ。一人戦上等なのよ?」
「とは言っても…」
心配を言葉にしようとしたら、口元に指を添えられた。
「駄目よ、マリン。信じて貰わないとアタシの立場が無いでしょう?信じる事こそが、仲間に対する最大限の後押しじゃない?…いい?貴女は、自分の事に集中して。皆それぞれにやるべき事をしているの。その役割を果たす事が仲間を守る事に繋がるんだから。」
思わず神妙に聞き入ってしまった。
「ふふ…アタシも貴女を信じているから、ちゃんと信じて?」
「…分かったわ。」
「偉いわ。そして、無線もちゃんと聞くんだからね?」
悪戯っぽく笑うと、私を追い抜き「それじゃあね。」と別れ道を曲がった。
「なっ!?や、やっぱり私に対してだったの!?」
「えぇ、彼なりの心配だったんでしょうね。」
振り向かないで手をヒラヒラとさせてキャロルは遠ざかっていった。
大将は威圧的で怖い印象が強いが、心配されてたのか…
自分が不甲斐なく思われているようで、小さく溜息を吐いた。
……大丈夫だって信頼して貰えるように、もうひと頑張りしなきゃな。
拳を小さく握り、よし。と意気込んだ。
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「マジか〜…艦隊で攻め入って来るのか…」
思ったよりもずっと早く海兵さんはお出ましする様だ。
「MARE軍の行動力には関心ですね…」
「なぁ〜…」
「…時間との勝負になりそうだな。」
つまりは俺様達が情報を得る為にはMARE軍よりも先に親玉を倒して、王様を解放した後に情報を吐かせるしか無いのだ。
「けど、どうやって潜入しましょう。」
「中に入る手段ならあるわ。任せて頂戴。」
「私の旦那が食料供給をしていてね、今日もお城に運び込む予定があるのよ。勿論海賊はそれを認めてるから、門は開くわ。」
「マジかよ。」
「荷物に隠れたら大丈夫じゃないかしら?」
「…いいや、そこまで警備は手薄じゃない。一つ一つ開けられるだろう。」
ケイムはいつもの如く考え込んでいる。作戦を練って居るのだろう。
「じゃあどうすればいいんだよ…」
「……箱に仕掛けを作れば、良いのだろうか。」
「仕掛け…ですか。」
「あぁ、簡易なものだがこうやって…」
持ち歩いているメモ帳にサラサラと図を書き上げた。
「へぇ、成程。こりゃ良いわ。」
「凄いわね貴方。私なら食材の中に埋もれて隠れちゃうわ。」
「…それでは窒息するだろ。」
「そのメモ頂戴。旦那に作らせるわ。」
そういい一人の女性はメモを受け取り、外へと出て行った。
「外に海賊が居るのに勇気あるな…」
「ここの女は皆そうよ。海育ちだから威勢は良いわよ?」
「皆旦那の事尻に敷いてるんだから。ねー?」
「「「ねー!」」」
思わず俺様達は苦笑いしてしまった。こりゃ敵わねぇや。
「…何故俺達に協力的なんだ?海軍の到着を待てばいいものを。」
「それじゃあ遅いもの。海軍が来ちゃったら逆上しちゃうでしょ?王様の安全が保障されないなんて嫌よ。」
「王様は、ヒース様というお名前でいらっしゃるけど、とっても国民想いで優しい方だから傷ついて欲しくはないわ。」
「少人数なら乗り込んでもバレないわ。どうか救って頂戴。」
「救える様に頑張るわ。」
「中に何人いるかも把握出来ていないから、無謀ではあるがな…」
「しかし出来る限りのことはします。」
「心強いわ。」
「来て。馬車まで案内するから。箱は作れそうだし、乗り込む準備をして。」
女性に誘導されて潜入の準備を施すのだった。
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荷車に積まれてゆらゆらと揺れている。俺様達は箱の中で僅かな隙間からちょっと光が入る程度だ。だから外の状況は全く読めない。
女性の旦那さんにお願いして、ちょっと手を加えた箱を乗せて馬車はお城へと向かっている。
あとどれ位だろうかと思っていた時に、止まれ。と外から声が聞こえて来た。どうやら門の前に差し掛かった様だ。
「荷物を確認させて貰うぞ。」
「はい。」
海賊と旦那さんの会話の後に、ギシッと床が軋む音がした。
そして、パカッと一つずつ箱が開けられていく。
思わず身を縮こませながら事が終わるのを待った。
心臓がバクバクと鳴り響いて止まない。バレた時に何時でも対応出来るように銃を握りしめていた。
いよいよ俺様の箱に手が伸ばされて、勢い良く蓋が開けられた。
「…全部異常無し。入っていいぞ。」
そう言い、声が遠ざかっていった。
はぁ……怖かった…安堵と共に力が抜けた。
再び馬車が揺られ、食料庫へと運び込まれた。
「…出ても大丈夫ですよ。」
合図として旦那さんがコンコンと叩き、俺様は上の蓋を押した。乗せていた果物が床に転がり落ち、慌てて拾い上げて、蓋の上にまた乗せた。
ケイムが考案したのは箱の蓋を二重にするというものだ。
下に空洞にする事を前提に、本来存在しない蓋を作り、その上に荷物である食材を乗せて、本来の蓋を被せるという単純なものだ。
外から見たら異様な位置に釘の跡があるのだが、上手く隙間に埋めたお陰で海賊にバレる事は無くまんまと潜入に成功したのだ。
「上手くいきましたね。」
「あぁ。」
「…では私はこれで。お気をつけて。」
「おう。サンキューな!!」
協力してくれた旦那さんに感謝して別れを告げた。
とは言ってもこれは序の口で本番はこれからなんだけどな…
「親玉って何処に居るんでしょうね?」
「…さぁ…。」
「大抵は人質の傍だろう。王を牢に閉じ込めて居なければの話だが。」
「…んー、じゃあ一緒に居ることを前提とするならば…」
「謁見の間だろうな。後先を考えずにこれだけの大事を起こす馬鹿は自分の権力を誇示したいのだろう。」
「馬鹿ってオイ。」
「まぁ、確かに相当の目立ちたがりなんでしょうね…」
「そんな単純かねぇ…」
「城の見取りは分からないが、動かない事には話にならない。誰か一人を捕まえて場所を吐かせれば早いかも知れないが…」
「いやー…暴力はちょっと…」
ケイムの捕まえて吐かせるは拷問じみた事を仕出かすに違いない。
「とにかく行ってみましょう。探索開始です!!」
食料庫の扉に耳を押し当て、近くに誰も居ない事を確認して開けると廊下へと続いていた。
石張りのせいか空気は冷たく、重く感じられた。あちこちにある蝋燭に灯る炎が登色を放ち、揺らめいていた。本来ならば従者が行き交うのだろうが、そんな姿も見えず異様な城内。それが不気味さを醸し出している要因なのかもしれない。
「…止まれ。」
「…!!」
ケイムに制されて足を止めると、前方から下品な笑い声と共に海賊が歩いて来た。咄嗟に石像の後ろに隠れたが、三人だと窮屈である。あと、石像の真似をしてポーズ取んねぇと駄目だから、後ろから見たら間抜けな事になっているだろう。
ケイムは一番幅広い所に立ってるから何もしなくて良いけど、俺様とサージは上手い具合にポーズを取らなきゃいけねぇ。バランスを崩し倒れたら一巻の終わりである。
「…耐えろ。」
「…分かってるわ!!」
ヨロヨロしてもう駄目かと思ったが、何とか海賊が過ぎるまでは持つ事が出来た。
「危なかったわ…」
「…体幹をつける必要があるな。」
「余計なお世話ですよ!!」
「お前が端っこなら良かったのにな!!」
ケイムがポーズ取ったら嘸かし面白かったのに!!それこそ大爆笑してやったわ!!
「…進むぞ。」
そんな俺様達の不満は気にしない様子でケイムは先頭を歩いていた。
一階の奥に差し掛かる際に階段が見えて来たが、地下へ続く方からは笑い声が聞こえて来た。それも一人ではなく大勢だ。
「…何なんだろう?」
「…地下に何かあるんでしょうか?」
随分と愉快なモンだから気になって顔を覗かせようとしたらケイムに首根っこを引っ張られた。
「…足音が近付いてきてる。」
「うぇ!?」
素早く階段の裏に誘導されてそこで様子を伺うと、地下から出てきた海賊は顔を赤らめてヨタヨタしているのだ。
そのまま何処かへ向かっていったが、その足取りは千鳥足だ。
「何だ彼奴…」
「…ワインだな。」
「ん?」
「地下にワイン樽があるのだろう。この辺りはワイン造りも盛んな地域だ。城ならそれを大量に保持していても可笑しくは無い。」
「つまり、彼奴らはそれを飲んで酔っ払ってるって訳か?」
「えぇ…?そんな事ありますか?」
「…全員では無いと思うが、大半は地下に居ると仮定して良いんじゃないか?酒には目が無いだろうし。」
「ンな馬鹿な…」
「でもケイムさんが言うなら信憑性高いですね。」
「最初に会った時デロッデロだったもんな、お前。」
掘り返されて不服そうな顔をケイムはしたが、何も言わずに階段を上がっていった。
「あぁ、怒んなって(笑)」
「怒ってない。」
「お酒って怖いですね…僕なら舟間違うくらいまで絶対に飲みませんよ!!」
「な〜、気をつけような。縄でぐるぐる巻きにされちまうぜ!!」
「黙れ。人の揚げ足を取るな!!」
ここぞとばかりにいじってやったらゴチンと脳天にゲンコツを落とされてしまった。
「ってぇ〜〜!!」
「こんな事をしてる暇は無いんだぞ?早く済ませないと海軍が乗り込んで来る。」
足を早めるが歩幅が明らかに違うから俺様達からしたら溜まったモンじゃない。
「早っ…ケ、ケイムさん!!もっとゆっくり!!」
「そうだぜ、もっと遅く…!!」
着いてくるのが遅いと気付き、仕方が無いなといった感じで溜息を吐いた後、足を緩めてくれた。
俺様達に合わせてくれるようになった辺り、距離が縮まっては居るように感じる。だが、一匹狼の名がつく様に…やはり一人で何でもやれる気でいる(実際に此奴なら何でもやれちまうのかもしれねぇけど…)所は変わらずなので、そこは困った点である。
集団で生活するのならその一員であるって事ちゃんと分かって貰わねぇとな…
「…日が暮れるまでに辿り付ければ良いが…」
ケイムに釣られて視線を窓に追いやると、日が海に沈もうとしていた。
「ヤベェな…早い所親玉を…
「おい!!何だお前達は!!」
「「「!!」」」
外に意識を向けていたら丁度目の前の部屋から出てきた海賊と鉢合わせになってしまった。
「敵か!?我が海賊団の中にお前達みたいなの…
言い終わる前にケイムが容赦なく顔面に蹴りを入れた。
「がはっ!?」
そのまま壁に頭を打ち付けて気絶してしまった様だが、それだけでは済まなかった。
「な!?どうした!?」
「誰だお前達は!!」
部屋の中に居た海賊達がワラワラと出てきた。
「ど、どうしよう…!!」
しかし銃を発砲すれば騒ぎは更に広がるだろう。
「ケイムさん…あの…この場合は…」
「逃げるぞ。」
グイッと腕を引かれ三人同時に走り出した。
「なっ!?逃げたぞ!?」
「追えー!!逃がすなー!!」
後ろから海賊が迫ってくる気配はするが、追いつく感じはしなかった。
「早っ…!!お前早っ!!」
俺様は兎も角サージは半分引き摺られる形で逃げていた。
「足を動かせ。」
「動かしてますよ!?」
そして逃げ道の選びも上手く、追手を撒くには充分だった。
夢中で走って三階まで辿り着いたが、辺りは静まり返っていた。
「…はぁ…はぁ…すげぇ…何とかなっちまった。」
「…だが不味い状況になったな。」
「そうですね…親玉にバレちゃうでしょうか。」
「時間の問題だな。」
一先ず作戦を練ろうと、大きな扉を開けると、下を見下ろせる形になっていた。どうやらここは窓を開ける為に作られた場所の様だ。所謂ギャラリーってスペースだろう。真下は謁見の間になっていて、その延長線。
つまり幸運な事に、実質謁見の間に辿り着いてしまったのだ。
「…ビンゴじゃねぇかよ。」
「えぇ…」
バレないようにそっと見下ろして見ると、王座には親玉と思われる海賊が座っていて、その隣にっつーか、床に王様がちょこんと座らされているのだ。
あれがヒース様か…。結構年老いている様で小柄なおじいちゃんだ。あの容姿で体育座りしてるモンだから可愛いなんて思っちまったのは内緒にしとこう…
親玉の海賊は見た感じ、三十代くらいだろうか?ゴツイ宝石のネックレスを付けていて、指にもこれでもか!!ってくらいに指輪付けてやがって…。目立つの好きそうだわ〜…
少し褐色でいかにも海の男って感じだ。ガタイが良いからパワー型なんだろうな…
「なぁ〜王様よ。もっと良い宝はねぇのかよ?国宝はまだ届かねぇのかぁ?」
「国宝は城ではなく宝物庫で管理しているんじゃ…此処からは離れた所に位置しているから、まだ掛かって…」
「はぁ〜…使えねぇなぁ。それ貰ったらオイトマするからよぉ。それまではオモテナシして貰わねぇとなぁ〜」
「ぐうぅ〜…」
ニヤニヤと笑いながら食べていた分厚い肉を王様の顔に押し付けて。おじいちゃんに対してなんて事するんだ。
「…やはり馬鹿の部類だな。」
それを冷ややかな目で見ながらケイムは言った。
「おじいちゃんに何たる暴挙を!!」
「許せねぇな!!おじいちゃんは労らねぇと!!」
「…お前らも同類だな。」
「はあぁ!?」
「あんなのと一緒にしないで下さいよ!!」
しかし無視をしてケイムは何か考えていた。
「此処から降りる場所が無いな。どう下まで…」
「あ、確かに…」
今から下に向かうまでにまた追手の海賊と鉢合わせになる可能性が高いな。それじゃあ厄介だ。
「…方法があるとすれば…。」
「マッタン様!!大変です!!」
「どうした。」
ケイムが何かしら言おうとしたタイミングで海賊の一人が乗り込んできた。
「沖の方に何やら艦隊らしきものが見えたとか!!」
「何だと!?海軍め。攻め入るつもりか!?」
どうやら海軍が迫っている事に気付いたらしい。海の見張りはちゃんとしてやがるんだな…
「面倒だな。じゃあ此奴を連れて行ってしまえば良いか。」
「うわ〜!!は、離せぇ〜!!」
マッタンと呼ばれた親玉の手がヒース王様に伸びた。
このままじゃ連れて行かれちまう…!!
「彼処のシャンデリアに飛び移れ。」
「えっ!?はい…!!」
「シャンデリアでどうすんだよ…!!」
「此処から目ばかりで下からの高さは10メートルくらいだろう。だとすれば、落下速度は約1.4秒。俺が斬ったと思ったら直ぐに飛べ。衝撃で怪我を負いたくないならな。」
「待て!?つまり…」
「シャンデリアを落下させるぞ。」
「ええぇ!?」
でもそれしか方法がねぇのなら…
「乗ったな。行くぞ。」
そう言い、ケイムはご自慢の研ぎ澄まされた剣で繋ぎ目を斬り下ろした。
「おわあああああ!!」
ガシャアアアアンッ
床に落下した瞬間物凄い音を立てて辺りにガラスを散乱させた。
「うへぇ…痛てぇ…死ぬかと思った…」
ギリギリのタイミングで飛び、転がりながら受身を取った。我ながら運動神経の良さに救われたと思う。
「うぅ…。無事ですか兄さん…ケイムさん…」
よろよろとサージは立ち上がって周りを見回していた。
どうやら無事らしい。
「な、何だお前らは…!!」
マッタンは目を見開いていたが、ケイムが背後に回り王様を引き剥がした。
「うひゃ!?」
「!?いつの間に…!!」
そして王様を抱えながら距離を取り、離れた所で降ろし守りの体勢に入った。
「ああああぁ!?さっきの!!マッタン様!!実は城に敵が!!」
「どうしてそれを早く言わないんだ!!」
「すみません!!追うのに必死で…!!今他の連中を!!」
仲間を呼びに行こうとする海賊に向けてケイムは懐からナイフを取り出し投げつけた。
それは海賊の服に突き刺さり扉に固定してしまったのだ。
「ひっ…!?」
「動くと首元のナイフで切れてしまうぞ?」
ケイムは一気に3本投げた様だが、全部命中…ズボンに1本、服に1本、そして喉元に1本…。それも怪我は負わせて居ないのだ…なんつー奴だお前は。
「何者なんだ!?」
マッタンは突然の敵襲に動揺が隠せずに居た。
「何者?さぁな。だが、お前に用があるのは俺では無い。そこの二人だ。」
ここで俺様達に振るのかよ…思わず苦い顔をしてしまった。
「誰だこの餓鬼は!!俺に喧嘩売るのなら唯じゃ済ませねぇぞ!?」
マッタンは興奮気味に剣を抜いた。
「…!!」
「ケジメは自分で付けろ。俺は手出ししない。」
ケイムは当然の様に剣を仕舞った。
いや、そうだけど…。ケイムが思いのほか素っ気なくて不安を煽られた。
此奴に滅茶苦茶頼ってたな…
「兄さん…やりましょう。」
「おうよ。」
「来ないならこっちから行くぞ!?」
マッタンは剣を抜いたサージに向かって斬りかかった。だがそれはガタイの良さ故に大振りであり、小柄なサージにとって避けるのは御茶の子さいさいだ。
「チッ…すばしっこい奴だ!!」
「わっ…!!」
しかしサージは受け流すので精一杯で中々反撃に出られずにいる。
「重っ…うわ!!一撃が重い…」
攻撃が剣に当たる度にサージはよろよろとふためいて見ててヒヤヒヤする。下手すりゃ剣で身体ぶった斬られる…!!
加勢する為に銃を構え狙いを定めた。
だが、サージに当たりそうで引き金を引く勇気が出ない。
もっと離れてくれれば…!!
「サージ!!姿勢低くしろ!!」
「えっ!?あ、はい!!」
マッタンはハッとしてサージから距離を取ったが、それが狙いだ。直ぐには撃たず、離れたのを見計らい…来るであろう位置に向けて引き金を引いた。
「っ…!!ぐあっ!!」
見事に足に命中し、そのまま膝から崩れてしまった。
「やった…!!」
「このガキが!!」
しかし、マッタンは再び剣を構え俺様の方に飛び掛ってきた。
「おわっ!?来るなぁ!!」
「兄さん!!伏せて!!」
サージの指示を受けて伏せると、サージの剣が弧を描いた。
「ぐあぁっ!!」
それはマッタンの腹に命中し、そのまま打ち倒した。
「よくもっ!!ぐぅ……」
「はぁ…はぁ……あ、危なかった。」
「今度こそやったな!!」
「どうして他の連中は来ないんだ!!」
「生憎、地下で酔い潰れていてな。」
痛みでのた打ち回るマッタンをケイムは鼻で笑った。
「もう抵抗出来やしねぇだろ?白状して貰うぜ。ベルデ=ガルシアは何処に居るんだよ。」
そう問い詰めると虚をつかれた様で、一瞬固まったが…
可笑しそうにゲラゲラと笑いだした。
「ははははっ!!ベルデ様が何処にいる?そんなもの知って何になる。お前らには到底無理な話だ!!」
「何が無理なんだ!!」
「そこまで行けるはずがねぇからなぁ!!あーっははは!!」
「…行けるはずが無い?どういう事ですか!!」
「良いぜぇ、教えてやるよ!!ベルデ様は音も空気も遮断する、暗くて冷たい奥底で野心を追求されているさ!!」
「はあぁ?」
何だそれは…謎謎かよ!?
「それってどういう…!!」
ドーーーン…ズカアァ…
「…!!」
外から砲撃音が轟いた。どうやらMARE軍が到着してしまった様だ。
「不味い。直ぐに出港するぞ。」
ケイムは扉へ向かい、海賊からナイフを回収しながら俺様達を催促した。
「しかし…」
聞きたい事はまだまだあるが、もう長居出来ないだろう…
「クソっ…行くか…。」
「えぇ…」
ケイムの後を追おうとした時王様に呼び止められた。
「待つんじゃ少年よ…!!名は何と…!!御礼がまだ…」
「あー、俺様はサザン=ウォーシャン!!世界を股にかけ、海を征する大海賊様さ!!」
「サザン…ウォーシャン…!!」
「僕はサージ=ウォーシャンです。」
「覚えたぞ…!!サザンにサージ…ウォーシャン…!!ウォーシャンブラザースじゃな!!どう感謝すれば…」
「良いって事よ。じゃあさ、礼は次来た時に歓迎してくれよな!!」
そう言い残し、サービスのウインクと共に城を後にしたのだった。
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「はぁ…間一髪だったな。」
「えぇ…」
海兵が溢れる街中を何とか掻い潜り、舟まで辿り着き、闇に乗じて海軍様にバレずに出港する事が出来たのだ。
「随分と遅いものだから心配したんだぞ。」
ずっと舟で待っていたカウンは俺様達を見るなりホッとしたようだ。そして「おかえり。」なんて言ってくれたモンだから思わず胸が温かくなった。
おかえり…か…中々良いモンだな。
「まさか今日のうちに問題を解決してしまうなんてな。」
「僕達も驚きですよ。」
「ほら、無理って決めつけねぇでやってみる事に価値ってあるだろう?」
ニヒッと笑って見せると、今回たまたま上手くいっただけだとケイムに一蹴されてしまった。
うるせぇ!!その一言で台無しにすんじゃねぇ!!
「無事なのは幸運なんだぞ?…ほら、これを飲め。動き回って疲れただろう。リラックスするといい。」
そう言いカウンはホットミルクを俺達に渡してくれた。
「有難う御座います。」
「サンキューな!!」
口にしてみるとほんのり甘くて、じんわりと温度が身体に広がった。
あ〜、うめぇや。これ。思わず顔が綻んだ。
「君にもくれてやろうか?」
「お前から物を受け取る必要性は無い。」
「全く素直じゃないなぁ〜!!私の作ったものが飲めないと言うのか?ん?」
「とんだパワハラだな。」
やっと砲撃音から離れて静かな海だと思ったが、ここでも争いは絶えないようだ。やれやれ困った乗組員達だぜ。
しかしこの賑やかさは心地好く思えるのだった。
″ベルデ様は音も空気も遮断する、
暗くて冷たい奥底で野心を追求されているさ。″
マッタンの言葉が脳裏を繰り返すが、その意味はやはり分からなかった。
やっと近付けると思ったのに、結局何も分からず振り出しだ。
「クソったれ。」
他の奴らには聞こえない様に呟き、暗い夜の海を見つめ続けた。
5ヵ月ぶりの更新となってしまいました!!大分期間が空いて前回の話も曖昧だったのではないでしょうか。今回はベルデ=ガルシアという謎の海賊の名前が出て来ましたね。今後どう関係していくのか!!次回に続きます!!




