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北国の王国

女医カウンを加え再び川に出たウォーシャン海賊団。しかし、そこで老人に止められて…?


初めは久しぶりのマリーヌ=ディアス視点です。

「そう言えば、ウォーシャン兄弟って最近どうしたんだろう。あれっきり話とか聞かなくなったな。」

隣で昼食を取りながらバロン=ティラー少将はそんな事を呟いた。

「そうね…このまま何も起きない方が良いわよ…」

「でもさ、こうも静かになると心配にならないか?嵐の前の静けさっつーかさ…」

「やめてよ。最近やっと世間からのバッシングが収まったんだから…」

以前あったウォーシャン兄弟による金のグラス騒動のせいでMARE(マーレ)軍の批判は高まっていたものの、時間が経つにつれてそれも忘れられて来た。

所謂記憶の風化だ。何事も時間の経過に頼るのが一番なのよね…

「あの血筋は何を起こすか分からないんだから…」

「はは。悪い悪い。」

呑気に笑ってられるバロンに呆れながら、マカロニにフォークを落とした。

「そう言えば、他の海賊団には変化が起きたよな…」

そう言われて思い当たる節があるのは一つの海賊団だ。

「あぁ、ハスラー海賊団…?」

「そうそう。前よりも街に滞在する期間が増えたよな。」

「警備は強めたけど、街の人は怖くて外にも出られないって困っていたわね。」

ウォーシャン兄弟の騒動の後、ハスラー海賊団の目撃情報が急激的に増えたのだ。

別に無関係だとは思うけど、こうも海賊の騒動が続くのは珍しい。

「ハスラー海賊団って船長のケイン=ハスラーが死んでから勢力が落ちたところよね?」

「落ちたっちゃ落ちたみたいだけど…その後弟のケイム=ハスラーがなんとか均等を保って、他の海賊団よりも優勢には立ってたって話だけどな…」

兄が死んでからそんな風に保つのは相当だろう…

敵ながら少し感心してしまう。

「大したものね…」

「何でも実力はバケモンらしいし…流石に俺でもタイマンはしたくないね…」

「そんなに強いの?今までケインの話は沢山聞いたけど、ケイムの方は兄が死ぬまで脚光すら浴びていなかったわ。」

「そうなんだよな…パッと出というか…だから情報量があまりにも少ないんだよ…でも、他の海賊はめちゃくちゃビビってたぜ?」

縁の下の力持ちだったのだろうか?表向きにはあまり出て居なかったけれども、影では動いていたのかもしれない。

「そんな海賊団がこうも動き出したってことは何かあったんでしょうね…」

「同士討ちかな?」

「え?仲間内でそんな事ある?」

「船長の座を争ってるに違いないぜ。それで誰が上で誰の下に着いて支持するとか…あで!?」

「馬鹿言ってないで早く食べなさい。」

「「キャロル!!」」

キャロル=ウィリアム中将がいつの間にか後ろに立っていてバロンにチョップをかましていた。

「所詮海賊は海賊よ。醜い事をしていたらそれに応じた制裁をするまでよ。…ボサっとしていると午後の訓練が始まるわよ?」

「え?」

時計に目をやると訓練開始の時間に差し掛かろとしていた。

「やだ!?嘘嘘!?」

「やべ!?」

「アタシは先に行ってるわね。」

コツコツと靴音を立てながらキャロルは食堂から消えていった。それを追うようにマカロニを流し込み、

「フィーノさん!!ご馳走様!!」

バロンと競うように午後の支度をするのだった。






いつの間にやら舟にはカウンの荷物が増えていて、俺様の寝床であるハンモックは彼女に強奪されていた。

「…なぁ、街から離れたけど…良いのか?」

「あぁ、もうあの街に私の患者はいない。丁度次の街に移ろうと思っていた所なんだ。」

「ふーん…そうだったのか…」

「そうだ。いい感じの街まで運んで貰おうと思ってな。それに、この舟には私の患者も居るしな。」

そう言いケイムを突っつくけど、当の本人はめちゃくちゃ嫌がっていて、その手を払い除けている。

「触るなと言っているだろうが。」

「はっは!!それだけ元気があれば大丈夫だろう。君の風邪は中々しぶといが、もうそろそろ治るに違いない。」

カウンの薬を飲んで熱はある程度さがったものの、まだ微熱があるようでケイムは本調子ではないようだ…

けど、このままカウンの治療を受け続ければすぐにでも治るだろう。

「ケイムも元気になってきたみたいで良かったぜ!!」

「この喧しいのを遠ざけて欲しいんだが。」

「ほー、私が喧しいというのか?ん?」

「寄るな!!」

カウンに困らされてるみたいだけど…まぁ……ドンマイ。

「俺様はサージ君と交代して来るぜ〜」

「おい‼︎」

「外は寒いから気をつけるんだぞ!!」

前よりも賑やかな舟をどこか喜ばしく思いながら、ガチャりと風で重たい扉を開けた。

「ヒューーー…さっっむ!!風強ぇなぁ…」

「あ、兄さん…交代ですか?」

「おうよ…ケイムが居ねぇと二人でかわりばんこだからちっと大変だな…」

「何言ってるんですか。前までそうだったじゃないですか?」

「んー?まぁな…ちょっと前までは二人旅だったのに…あれ?いつの間にかケイムに頼ってたな…」

「仲間が出来るってこういう感じなんですね…」

「はは。何か変なの…今じゃカウンも居るし、賑やかだわ。」

「心地良いですね…」

「良いね。悪くない。」

人と関わりが増えれば増えるほど悩みの種って言うのは増えるけど、それと同時に沢山のものも貰う。

だから沢山初めましてにぶつかって、どうしようも無く楽しくて楽しくて仕方がない。

「ケイムが困っていたからお前は戻ってやれよ。」

「えぇ…分かりました。」

中に入るサージを見送り、舵を取るのに集中しだしたのだが…

「おーーーい!!そっちに行っては行けないよーーー!!」

「え?」

川岸からこちらに向かって、老人が手を振ってきた。

確かに川は二つに別れてたけど…こっちじゃないのか?

老人の指示通り向かうのはやめて、岸に船を付けて話を聞いてみる事にした。




「船の取り締まり?通行証が無いと通れないと言うのか?」

老人から聞いた話を一通り説明するとカウンは眉を顰めた。

「そうなんだよ…何でも、この先には王国があって、そこの王様公認の貿易船しか通れないとか言ってたな…」

「ふむー…あの王はそんな事もしていたのか…」

「…王国って、シールド5世のシュベルナ王国…か?」

「ケイムさん何か知っているんですか?」

「いや、詳しは知らないが……あそこは、由緒正しい王国で、代々同じ血筋で国を守って来たと聞く…しかし…」

「今君臨しているバルム=シールド王は何でも暴君のようでな?この辺の人間はあの国には立ち寄らないんだ。」

暴君って…何でそんな奴が…?

「由緒正しいんだろ?それじゃあ国民が批判すれば良いじゃないか。」

「そんな簡単な話ではないんだ。あの王は、それはそれは気性が荒いらしい。何でも、歯向かうものは処刑して、見せしめにしてしまうと言うのだ…私の友人の医師もあの国に居ると手紙を貰ったのだが…とても心配だよ。」

「んな⁉︎」

「なんて恐ろし事を…‼︎」

「そう、とても恐ろしくてな。誰も歯向かえる訳がない。たった一人の息子さえも殺してしまったと聞くぞ?」

「自分の子供を…ですか?」

とんでもねぇ…子供を…殺しちまうなんて…

「何が何でも自分の思い通りにしたいのだろう…それに、異国から奴隷を輸入して、こき使っているとも耳にする…私は立ち寄った事がないから何処までが本当だかは分からんが……近づかないのが正解だろう。」

「それは、何とかならねぇの?」

解決出来るなら俺様達の手で解決してぇところだけど…

「それは無理だ。規模があまりにも違いすぎる。…そもそも海賊の出る幕じゃないだろ?」

ケイムは冷ややかな目をしながらそんな事を言った。

そりゃそうだし…俺様達の力量なんてたかが知れているけど……

アイリスが他のエルフの話をしていた時にしていた表情を思い出して、悲しい気持ちでいっぱいいっぱいだ…

そんな元凶をその王国は生んでいるのだ。

王様は気が狂っているのだろうか…一体何を考えているのだろう…

ギュッと爪痕が付くくらい拳を握りしめていると、カウンに優しく頭を撫でられた。

「君達は正義感が強いんだな。私は好きだ。だが、気持ちだけでは解決出来ないことで世の中は溢れているのだよ…私だって、救えるものなら救いたいさ…でも、あまりにも力が大きくて、自分の手に負えないものに立ち向かおうとすると…その力に呑み込まれてしまうんだ…」

「……俺様、悔しいぜ…」

「サザンもサージも優しいからな。その気持ちは大切にした方がいい。」

「…偽善や感情だけで動くなという事だ。」

そんな俺様達を見て皮肉っぽくケイムは言ったが…

「君は捻くれていて可愛くないな。」

とカウンにソファに沈められてしまうのだった。

「お前は力加減が出来ないのか?」

「医者はアグレッシブだからな‼︎力無しではやっていけん。はっはっは‼︎」

「…怪力女。」

「なんか言ったかな?…それよりも舟の進路は大丈夫なのかね?」

そう言えばそうだよ…ケイムの考えていたルートは崩れてしまってはいないだろうか?

「それは問題ない…王国は他よりも警備が厳しいと考えていたから、そちらのルートは省いていた。どの道、ある程度進むとまた川が交わる場所があるから…ここの分岐点はどちらに進んでも問題無かったんだ。」

成る程…じゃあ初めから王国方面には進むつもりは無かったのか…

現状は気になるところだけど、捕まって、王様に処刑されちまったらそれこそ元も子もないから…近づかないのが正解なんだろうけど……

「…忘れると言うのは無理かも知れんが…気にしすぎない方がいい…」

「…うん。」

「海に出たら、もう…関わる事は無いのだろう?世界にはな、この国のように私達だけの力量じゃどうしようも出来ないものばかりなんだ…」



なぁ、サージ、サザン。世界は広くてそれはそれは綺麗だ。

沢山の文化があって、それだけの人種もいて、それだけの夢で溢れているんだ。

だが、楽しいことだけじゃ無い。光の側面には必ず影の面もあるんだ。

世界は、幸福もあれば不幸もある。

多くの悲しみでも溢れているんだ。それを忘れてはいけないし、自分の目で見て、そして考えて欲しい。



昔父さんが言っていた言葉って…こういうことなんだな…

ふとあの日の声が過ってきた。


父さんは答えを知っていたのだろうか…解決する手立ても知っていたのだろうか…でも敢えて考えるように言ったのだろうか…?

これは父さん俺様達に残した宿題だ。



「…そんな問題からは目を背けてはいけないと思うから、世界を冒険しながらちゃんと…知っていくよ。」

「そうですね…それが僕達の冒険の目的でもありますから。」

世界中を旅して、沢山の人と出会い、交流して、文化に触れて、知っていく…

良い面も悪い面も、ちゃんと知って…

俺様達の答えを…見つけること。


ケイムとカウンは顔を見合わせたが、

「お前ら(君達)らしいな…」

と小さく笑われた。

「君達を見ていると考えさせられるな。若さとはパワーだ。」

「年寄りか?」

「私が年寄りなら君はジジィだな。」

「殺すぞ?」

「やれるものなら。」

「まぁまぁまぁまぁ⁉︎」

「仲良く行こうぜ?」

「はっは‼︎二人の頼みだ。仲良く行こうじゃ無いか。ケイム?」

「反吐が出そうだ。」


カウンの調子に持ってかれてケイムからしたらうざったいみてぇだけど…大分雰囲気は和らいでいる。

やっぱり人数が多いってすげぇ。

俺様とサージだけで困難にぶつかったら、それはそれは心細いけど…

誰かが居てくれるっていいな。

これからも先は長いし、見たくねぇ問題は沢山だろうけど…父さんに近づけるように、超えられるように、頑張ってみようかな。

コイツらとなら乗り越えて行けるだろうと小さな期待を胸に、王国とは離れる進路で、再び舵を切るのだった…

影の側面もちゃんと見ていかなければならないと実感した話でした。しかし、サザン達にとって、まさかこの王国が後に大きく関わってくるなんて…この時点では知るよしもありませんでした…

次回に続きます。

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