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女医と狼

月隠れの森で一夜を明かしたウォーシャン海賊団。しかしケイムに異変が起き…?

今朝方アイリスが焼いて来てくれたアップルパイを頬張りながら、再び川下りを再開していた。

今朝って言うのは真っ暗な森だから微妙な所だけど、どうやら時刻的に夜は明けたんだなぁって。

こんな所で暮らしていて生活習慣とか可笑しくならねぇのかなって思うけど、アイリス達エルフにとってはそれが当たり前になっていてつくづく慣れってすげぇやって思った。

別れはやっぱり惜しかったけど、どうしても急いで街へ行かなければならない緊急事態に直面してしまったから渋々手を振ったのだ。

その緊急事態ってのは何かと言うと…

「体調大丈夫かって昨日聞いたよな?」

「頗る悪い訳じゃない。」

「あのなぁ…。」

どうやらケイムは昨日の騒動のせいで体調を崩してしまい熱もあるようだ。

しかし体温を測ろうとしても、触るなだの余計なお世話だのの一点張りで近づけてすらくれやしない。

まるで威嚇する犬みてぇだ。

早く医者に診てもらわねぇといけねぇって思うけど、医者の手に噛み付いたりしねぇか心配だな…とそんな皮肉が浮かんでくる。

「とりあえず栄養はとってくれよ。りんごすりおろしたのに全然口付けてねぇじゃん…」

「…そのうち食べる。」

「そのうちって…色変わっちまうよ…」

濡れタオルも頭に乗せさせてくれねぇし、りんごだって食ってくれねぇし…こうも心閉ざされるとこっちだってどう対応したらいいか分かんねぇよ…

「水分はとってくれよ…スポーツドリンクとかあったら良かったんだけどな…水じゃ飲みにくいだろうし…」

「………。」

「森を抜けたら直ぐに街が見えるんだよな?それまで辛抱してくれよ…」

「………。」

俺様の方をチラリと見て何か言おうとしたみたいだが、再びソファに顔を埋めて微動だにしなくなってしまった。

マスクはしてるけど、顔が赤かった気がするし、目も潤んでたから体調悪いんだろうな…

どうしてやる事も出来ねぇからとりあえずすぐ側に座って離れない様にしていた。

具合悪い時はそっとして置くのが一番だし、一人は心細いだろうから…

時よりサージと舵をかわりばんこして何とか街まで到着する事が出来た。


______________

_______

「すみませーーん!!お医者さんは…お医者さんはいませんか?」

「助けて欲しいんだけどーーー?」

街に着くなりいそいそと医者探しを開始したものの誰も答えてくれやしない。

「冷てぇ…ちょっとくれぇ足を止めるなりしてくれたっていいじゃねぇかよ…」

人通りも多く、どうやら貿易の中継地と言った所だろう。そこそこ大きくて賑わっているのに皆様自分の事で必死みたいだ。

「ちょっとオッサン。この街に医者はいねぇの?」

「あ?知るかそんな事。お前ら病気なのか?移されたら溜まったもんじゃないね。あっち行きな。」

「あぁ、あぁ、そーかよ。悪かったなハゲ!!」

「ちょ、兄さん!?」

「何だとクソガキ!?」

「やべっ!!逃げろ!!」

怒声を背に逃げ回っていたけど、複数の人を捕まえて分かった。

「医者以前に病気とかそーゆーのが嫌いなんだな…」

「みたいですね…」

医者というワードを口にしただけでマトモに相手して貰えないから途方も無くとぼとぼ歩いていた。

「貿易だから伝染病とか、根嫌いしているのかもしれませんね…」

「あー…納得…」

大航海時代が始まった辺りは急激に人の移動が多くなって異国からの伝染病の流行で多くの死者が出ていたって言うし無理もないのかもしれない。

丁度初代様が生きていた頃に直面していた問題だろう。

その名残りもあってか、貿易関係者ってのは人一倍病気とかには敏感なんだろうな…

「それにしても困りましたね…舟でケイムさんを待たせているし…早くお医者さんを見つけないと…」

「うーん…」

「そうだ…兄さん!!一芝居売ってみますか?」

「は?それどういうこった。」

「簡単ですよ。僕達の得意分野じゃないですか。」

サージは悪い顔をしながら思いつきを分かりやすく説明してくれた。

「…へぇ。面白そうじゃん。流石俺様の弟だぜ。」

我ながらもきっと悪い顔をしている。

人が集まらねぇのなら集めちまえばいいなんてな…

「いっちょ騒がせてやりますか!!」

「注目の的を射抜いてやるぜ。」

______________

________


この街はどうも医者の扱いが良くないな。

コーヒーに映る自分を見つめながら身の狭さを改めて実感する。残っていた子供の患者が完治したのと同時に人をまるで病の元凶かのように親に追い出されてしまったのだ。

別に私が振りまいたわけでもないのに困ったものだ。

けれども、あの子が元気になったのだから私の出る幕はもう無いだろう。

次はどの街へ向かおうか…そんな事をぼんやりと考えていると、客人が妙な話を店主にしているのを耳にした。

「表で子供が撃たれたんだってよ。」

「本当かい?最近落ち着いたと思ったんだけどね。山賊でもいたのだろうか…」

「さぁ…やっぱりこうも人の出入りが激しいと治安が悪くてね…」

「怖い怖い。夜なんて歩けたものじゃないもの。それで?子供は?」

「医者を呼んでくれって騒いでるみたいなんだけど…この街に医者なんて…」

「何処だ。撃たれた子供は何処だ‼︎」

考える間も無く身体が動いていた。

「なんだい御嬢さん。医者でも知っているのかい?」

「舐めた口聞くな。私が医者だ。」

「はぁ??女で医者?ぶっ…」

「はははははは‼︎」

店主と客に冗談だろと笑われてしまったが、いつものことだと自分に言い聞かせる。

しかし、どうしても込み上げてくるものはある。

気に食わない。いっぺん殴ってやろうかと思うけどやめておこう…

「こりゃ傑作だ。その騒ぎなら中央広場だよ。なんてったって……」

「お代。釣りはいらない。」

客が話し終わる間も無く店を出た。

早足で言われた場所に向かうと、すぐに目についた。

人だかりが出来ている…

「頼むよ‼︎弟を‼︎弟を救ってくれよ‼︎」

その人だかりに対して必死に懇願する少年の姿が見えた。

周りの人は憐れむものの、どちらかと言うと好奇の目で見ているだろう…

命の危険に攫わせれいるのに、どうしてそんな風に見られるのか…見世物じゃないんだ。これでは少年への侮辱だ。

中央では倒れている少年が見えたが、かなり出血しているらしくこのままじゃ命に関わるだろう。

「頼むよ…大切な…大切な弟なんだよ…‼︎」

見物客に縋り付きながら兄と思われる少年は膝から崩れ落ちてしまった。

「どけ。私が医者だ‼︎」

人混みを別けて名乗り出ると、少年は顔を明るくさせた。

「本当に⁉︎お姉さん医者なの⁉︎」

「あぁ、そうだ。」

「何だ。ヤブのカウンじゃないか。」

野次馬の中からそんな声が聞こえて来た。

「ほー、失敬な。だが私を知っているのなら大したものだな。」

強気で出たものの正直釈然としない所だ。

「ヤブだってなんだって良いよ‼︎お姉さん薬とか詳しいんだよな‼︎来てくれ‼︎」

「その少年の手当てだが…」

「見つかったんですね⁉︎」

「えええぇ⁉︎」

場が一気に騒ついた。倒れていた少年が起き上がったのだ。

「う、動くな‼︎傷が開いたら…」

「僕なら大丈夫ですよ。もっと重症な人が居ますから…行きましょう。」

「え?えぇ…」

「行こうぜ。医者のお姉さん‼︎」

訳がわからず困惑しながらも、腕を引かれて人混みから去っていくのだった。

____________

______

「成る程…医者を見つけたくてわざとあの騒ぎをしたのか…」

「お姉さんは途中からだったみたいだけど、撃たれて倒れる所からやってたんだぜ‼︎」

「血液ではなくクランベリージュースだったとは…してやられたな…」

俺様がサージを外すようにわざと発砲して、サージはそれに合わせていかにもって感じの声を上げながら倒れたのだ。その後は知っての通り俺様の名演技。

探すんじゃなくて来てもらうって手法に変えて正解だったぜ。

「君達は海賊っていうのは本当かな?」

「おうよ。海から海を目指して川を下っている最中なんだぜ。」

「でも仲間が体調を崩してしまいまして…お医者さんを探していた所だったんですよ…」

「ふむー…成る程。」

「俺様はサザン=ウォーシャン‼︎こっちは弟のサージ‼︎」

「私はカウン。宜しくな…」

「仲間はケイムって言うんだけど、ちょっと態度悪いかもしれねぇけど許してくれな?」

「構わないさ。患者は威勢が良いほうが私は好きだからな。」

そう言いカウンは豪快に笑った。

「船っていうのはあれかね?」

「そうです‼︎中でケイムさんが寝てます。」

カウンを見つけるのに大分かかっちまったから具合悪化してねぇと良いけど…


中に入るとケイムは出た時と同じ定位置で顔を埋めていた。

「戻ったぜ‼︎」

声に合わせてゆっくりとこちらを見たが、さっきよりも顔色は赤く気怠そうだ。

「…誰だ。」

「これは重症だな。」

カウンはケイムを見るなり近づくとマスクを剥ぎ取り体温計を口に突っ込んだのだ。

「⁉︎」

「こら暴れるな。私の道具が壊れるだろう。」

突然の事で呆気にとられたケイムが抵抗しようと身体を捩っているが、カウンが相当力が強いようで(弱ってて力が入らねぇのかもしれないけど)その場に押し止められていた。

にしてもすっげー絵図だな…あのケイムが女性に圧倒されているなんて…

「ふむー…39度か…中々高いな。何故冷えピタをしない。サージ、サザン、冷えピタを作ってくれ。」

「お、おう‼︎」

「はい‼︎」

俺様達もカウンに圧倒されながらも、その後も指示される通りあれやこれやと準備した。

「離せ…何だお前…」

「そんな目をされて離さん。患者は治癒する事に専念するんだ。医者はサポートをするだけだ。」

「乱暴すぎるだろ…」

「君は威勢が良いと聞いていたからな。」

勢い良くケイムに睨まれて心臓が飛び跳ねた。

そりゃ態度が良くないかも〜とは言ったけど…言ったけどさぁ⁉︎本人前にして言う⁉︎

「巫山戯るな。マスクを…」

「こんな状態でマスクなんてしたら息がしづらいじゃないか‼︎薬を調合しようと思うが…ちゃんとものは口にしているか?」

「……。」

「ケイムさん昨日から何も食べてません‼︎」

「おい‼︎」

「…してないのだな。」

サージの密告を受けるとカウンは側に置いてあったすりおろした林檎を徐に取ると、

「おい…待て」

「食わねば治らんぞ。」

「やめ…むぐ⁉︎」

ケイムの口に無理矢理突っ込み食べさせていく。

「おー…」

「なんか…見てる方が申し訳なって来ますね。」

さっきまでの殺意に満ちていた目とは違い、こちらに助けを懇願する様な目に変わっていた気がした。

こんなにも弱々しいケイムを見る日が来るなんて…

「恐ろしい女性だぜ…」

「はい…」

女性は強い生き物だ…

「よし。全部食べたな。偉いぞ。」

「…最悪だ。」

「はっは。時期に良くなるさ。私の薬は一発だ。」

そう言って黒い鞄から何やら引き出しがたくさんついた木箱を取り出し、そこから薬草を複数取り出すと、白いガラスの機器の上に乗せてすり潰し始めた。

「すげぇ。本格的だな…」

「自然の薬が一番よく効き、直ぐに身体に馴染むんだ。」

「…免許は持っているのか?」

嬉々と調合するカウンに対してケイムは怪訝な顔をしながらそんな事を聞いた。

「そりゃカウンは医者だから勿論…」

「持っていない。」

「え」

「待っていないぞ。」

それを聞いたケイムはやっぱりなと溜息を落とした。

「じゃあヤブって言われてたのは…」

「その通りだ。私はヤブだからな。」

眼鏡に影を落としながら静かに言った。

「…女ではそもそも試験すら受けられないんじゃないか?」

「そうなんだ。どんなに点数に届いたようとも試験すら受けさせてもらえないし、学校にだって入れてもらえない。」

「女性ってだけでですか?」

「…あぁ。医者は男の職業だというのだ。救いたいという意思は一緒だというのに…女では務まらないと言うのだ。」

そんなのってあんまりじゃねぇか…

性別だけでやりたい事もやれないし、周りに決めつけられてしまうなんて…

「それに、お金も足りなかったしな…だからみんな独学なのだ。医師なんて名乗る資格さえないというのに…私は、高額で治療を受けられないと悩んでいる人達の為に、低額で治療を受けられる様に努めている。」

「…やり方は強引だけどな。」

「そうだな…よし、出来たぞ。」

カウンは粉状になった薬を紙の上に乗せると、ケイムの元に運んだ。

「資格は無いが腕は確かだ。飲んでくれるか?」

流石にケイムは飲まねぇかな…そう思ってたら意外な事に、それを受け取って口に流し込んだのだ。

「え…⁉︎」

「…水。」

「おう⁉︎ほら…」

キャップを切ってから渡すとゴクリと勢い良く飲み下した。

「…苦い。」

「良薬口に苦し…だからな‼︎」

カウンも疑い深いケイムが飲んでくれて少し驚いているみてぇだけどどこか嬉しそうだ。

「…これで良くなりますかね?」

「直ぐに良くなるさ。しばらくの間私もつく事にしよう。」

「おー‼︎それは心強い‼︎」


___しかしこの()()()()()()ってのはこの街に滞在している間ではなく、川を下っても尚滞在し続けるとはこの時思いもしなかった。


「そんな訳で宜しくな。」

こうして、眠るケイムの傍に医師であるカウンがついてくれたのだった。

しばらくの間一緒に過ごす事になるであろうカウンさんです。只でさえ狭い舟なのにこんなにも人が増えちゃうと更に狭くなっちゃいますね。彼女が加わる事でどう転じていくのか。次回に続きます‼︎

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