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月隠れの祈り唄(後編)

月隠れの森に差し掛かり突如異変に襲われた海賊舟。そして川へ転落したケイム=ハスラー…森の噂が本当だったのか…⁉︎

どこまでも暗い森の中を小さな灯りが照らしていた。

ぼっ…ぼっ…と火の粉を飛ばしながら、火は力強く燃え、じりじり広く、深く、降り積もった白を溶かしつつ、寒さを紛らわせてくれている。


あの後サージが森の中で見つけてきた木を踏み固めた雪の上に置き、小枝や丸めた新聞紙と一緒に火をつけたことによって、何とか火を灯す事が出来たのだ。

夕飯のスープを火にかけている間に、森のあちこちを探索したが、ケイムの姿は何処にも無かった。


時間が経てば経つほど焦りが募ってゆく。

「はぁ…マジかよ…」

ケイムはこの寒さの中川に落ちたんだ。

流石のアイツでも凍死しちまうっての。

「……どうしましょうね。」

二人でグツグツと煮えたスープを囲みながら第十六回目緊急会議を開いていた。

案の定…って言っちゃ悪いかもしれないけど…会話は悪い方向にしか進まず、まるでお葬式みたいな雰囲気だ。

状況も状況だからせっかくのスープも味も感じない。

「…まずいよな〜」

「え?スープが?」

「ンな訳あるか!!俺様が作ったんだ。不味いわけねぇっつーの!!」

「あぁ、そうですか…」

サージのボケに付き合ってられる余裕もねぇくれぇどうすれば良いか分からない。

「つーかもう夜だし…」

辺りは一面黒一色。視界は本当に良くない。

ケイムの一件もあって、月隠れの森には本当に幽霊が居るのではないか。そんな考えばかりが頭をチラついていた。

「……こんな事言うのもどうかと思いますけど…さっきから見られてる気…しません?」

「まっさか〜…やめろよ。そういうの…」

「気のせいでしょうか。」

否定したものの、実の所は俺様もそんな気がするのだ。

上手く言葉に出来ないけど…なんつーか、落ち着かない。

ずっとソワソワするっつーか…

でも、見渡した所で誰もいない。何だこの感じ。

「でも、気味悪いよな…」

「やっぱり兄さんもそう思います?」

「…ん。まぁ、気のせいだって思っとこうぜ。」

「……そうですね。」

口ではそういったものの、サージは不満そうだ。

俺様、幽霊とかそういうの信じねぇし…

いや、正しく言うと信じねぇ!!だって怖ぇじゃん!!

……それ言ったらロフはどうだよ。ってなるけどさ。

ロフは精霊であって幽霊ではない。別モンだ!!


え?幽霊は信じないのに精霊は信じるのかって??

居たんだもん…だってだってロフ居たんだもん…


そんな訳で見ちまったものは信じちまうけど見てないものは信じない俺様だ。

そんな事を考えてると、何処からかホロン、ホロンと弦を弾く音が聞こえてきたのだ。

「…は?」

「えぇ!?」

一瞬耳を疑ったが確かに聞こえてくるそれは、風に運ばれてここまでやって来てるらしい。

「に、兄さん…」

「何だこの音…」

少しサージと距離を詰めて身を硬くしていると、音に紛れて、女性と思われる高い声も混じって聞こえてくるのだ。

LaLaLa…LaLaLa…

「唄?誰かが…唄ってる…?」

「こんな森に誰かなんて…」

微かだった唄声も、音色も、風が強まると共にハッキリと耳に響くようになってきた。

そう言えば、メロートでこれと似た音の楽器を弾いたっけ…

ええと、あぁそうだ。

「これ、ハープ…か?」

「言われてみれば!!ハープですよ兄さん!!」

流石俺様は耳も良いらしく予想的中。満場一致(俺様とサージしかいねぇけど)でハープと裏付けられた。


でも謎は深まる一方だ。どうしてこんな森の中で?

…もしかしてこれが噂の幽霊ってヤツなのだろうか?

「幽霊って演奏するのかな?」

「唄うんですかね?」

「足ってやっぱり無いのかな?」

「透けてるんですかね?」

「「……。」」


怖いもの試しというのは良くないだろう。

しかし、俺様とサージは幽霊という未知の存在に興味津々だ。

「どうするよサージ君。このまま音が止むまで待ってるかい?」

「まぁ、それが安全で良いですよね…」

「でも正体は知れないままなんだぜ?」

「えぇ、ですね。」

「……俺様が何言いたいか分かる?」

「何年弟やってると思ってるんですか。」

「はは。流石俺様の弟だぜ。」

ぶはっと笑いを零した。こんな風に悪ノリしちまうのはもしかしたら血筋のせいでもあるのかもしれないな。

御先祖様もきっとこういう類いには敏感だったに違いない。


ランプを片手に踏み固められていない雪の上を不器用な足取りで歩んでいく。

手掛かりとなるのは風に乗って運ばれる女性の唄声。

聞き入ってしまうほど澄んでいて、この世のものとは思えない程美しいものなのに、不思議と悲しいのだ。

「兄さん、この声の主は一体何を訴えようとしてるのでしょう…」

「分かんねぇよ。でも、なんつーかさ…助けてって言ってるようにも聞こえてくるぜ…?」

どうしようもない、行き場のない感情を唄にして、

()()()聞いて貰おうとしている訳でもなく、でも()()()向けて唄っている様にも思える。

ぶっちゃけ何語だか分からない。歌詞は聞こえてくるものの、俺様の知らない言葉だ。

正体を突き止めるのは良いけれども、言葉を交えることは出来ないんじゃないかな…


どれくらい森の奥へと入ってしまったかは分からない。

「…!!サージ、あそこじゃね?」

「誰か居ますね…!!」

もう声がすぐ側から聞こえてくる。

「_________♪」

息を潜めて木の影から目を凝らして見てみると、

高台になっている岩があり、その上に立っている女性の姿を捉える事が出来た。

こんな真っ暗な森にも関わらずここだけが開けていて、僅かに月が雲から顔を覗かせているのが見えた。

雪は止んでたみたいだな…

月隠れの森なのに月の光が差し込んでいる。

女性はこちらに気づくことなく目を伏せながらハープを奏で、儚い唄を唄い続けている。

「…綺麗ですね。」

「ん。あれが幽霊…なのか?」

「まっさか…」

「足!!」

「ありますね。」

「死臭!!」

「こっからじゃわかりませんって…」

「ヤツは透けてるか!!」

「透けてません。」

「息!!」

「そりゃしてるでしょう…前もこんなやり取りしませんでしたっけ?」

「だっけか?」

「この基準で幽霊かそうじゃないか判断しちゃう僕らってどうなんでしょう…」

「まぁ、いいじゃん(笑)」

木に手をかけた瞬間上から重みに耐えられなくなった雪がボスりと落ちてきた。

「うおああああああ!?冷た!?っぶねぇえええ!!」

「あっぶな!!これ玉で当たったら首折れますって!!」

危機一髪避けられたものの大騒ぎしたせいで女性がこちらに気づいてしまった。

「え!?嘘嘘嘘嘘!?に、人間!?ひゃああああ!?」

焦りのあまりか女性は雪が積もって本来の足場じゃない所に足をかけたらしく、崩れるのと一緒に落ちてきた。

そこまで高さがある訳でもねぇし、雪がクッションになってくれるだろうから怪我は無いだろうけど…

「だ、大丈夫かよ…?」

取り敢えず歩み寄って見たけど、少し異常なのだ。

「耳が尖ってる…?」

近くで見て初めて分かったが、ベールで隠れていた耳は尖っていたのだ。そして、女性は靴を履いておらず素足だったこと。赤く腫れていて、とても痛々しい。

なんでこんな寒い中、素足で雪の上に居るんだよ…!!

「ああああああ!!ど、どうしよう!!見つかっちゃった!!落ち着いて私。大丈夫。彼らは子供。まだ子供じゃない。いや、確かに子供ってあれやこれやって大変そうだけど…大丈夫。うん…おばあ様にバレてないわ。よし。」

ブツブツと独り言を唱えた後に女性はこちらを見たものの、

「ああああ…やっぱりダメえぇ…どうしよおおぉ…」

っとポジティブとネガティブの繰り返しをするのだ。

なんか…忙しいヤツだな…

つーか言葉通じるっぽいな。だったら話しかけても大丈夫だろう…

「落ち着けって…何もしねぇから…つーかお前馬鹿かよ。こんな中そんな格好で。寒いだろうが!!」

「そうですよ!!女性は体冷やしちゃ不味いじゃないですか!!」

「ええぇ?お、お説教…?ヤダ私ってばお説教されてるの?」

「取り敢えずこれ使えって。ほら!!」

「僕のも使ってください!!」

身につけてたマフラーや手袋をぽんぽん渡すと女性は目をぱちくりさせている。

「ったく。イマドキの若者ってヤツは…」

「ホントですよ…信じられません!!」

「いやー、明らかに私よりも貴方達の方が若いでしょう…」

「はあぁ…レディが身体を労れないなんて…世も末だな。」

「全くです…」

「ぜ、全世界のレディ代表みたいに言われても…ねぇ?」

女性は困りながら立ち上がり、渡したものを身に付けてくれた。

「…貴方達の好意には感謝するよ。ありがとう…」

「いいってことよ!!」

「あの、貴女は一体…こんな森の奥で…」

「…やっぱり言わなきゃ駄目だよねぇ…あぁ…不遇だ。なんて日だ。おばあ様ごめんなさい。一族の恥です。少年よ、いっそ私を殺してくだされぇー…」

「ええぇ…」

どうも調子が狂ってしまう。あれだ。一人何役の芝居を見てるっつーか…浮き沈みの激しい言動に振り回されてしまっている。

「言うしかない??見逃してくれないかなぁ…お願〜い…ね?ねぇ?まだ私死にたくないよおぉ…」

「お、おう…?別に…俺様達は何もしねぇけど…」

何だか面倒なひとに話しかけちまったなと、さっきまでの好奇心を悔やんでいる自分がいる。

「ホント!?話が分かるじゃないの!!少年!!やっぱり子供は純粋なのかな。大人と違って。」

「あの…」

「あぁ、じゃあ君達の優しさに免じてさっきの質問答えるね!!私はアイリス。エルフって種族なの。ここは月隠れの森。貴方達は…?」

「エルフ!?エルフって…精霊の?」

「精霊というか…妖精というか…人間じゃないってのは確かかな。」

「へぇ……ちょっと信じられねぇけど…俺様はサザン=ウォーシャン!!」

「僕は弟のサージ=ウォーシャンです。」

「オーシャン…?オーシャンって海ってこと?」

「″オ″じゃなくて″ウォ″だぜ!!由来とかは知らねぇけど……まぁー、シンプルに海から御先祖様がもじったんだろうな。」

「細かいな!!ウォーシャンかぁ…てことは海から来たの?」

「そうです!!僕らは海賊なんです!!」

するとアイリスは目を真ん丸くして後ずさりしてしまった。

「か、海賊!?ひいぃ…いい人ぶってたけど実は族なの!?ヤダ…それなのに私ペラペラと…!!」

そんなに怯えられたところで、俺様達は野蛮じみた事はしないってのに…

「俺様達は人を傷つけない海賊なんだぜ!!」

「えぇ!!約束も秘密も守りますし、安心してください。」

「ほ、ホント…?私の事…黙っててくれる?」

「よく分かんねぇけど勿論だぜ!!」

そう言うと半信半疑といったところだが、アイリスは胸を撫で下ろしたようだ。

「良かった〜…おばあ様にバレたら村から追放でもされちゃうところだったわね…‼︎」

「ど、どうしてですか?」

「…んっとね、貴方達は…エルフに会うのは初めてでしょ?」

「おー、初めましてだったぜ…」

「…だよねぇ。昔はね、エルフってもっと沢山居たし、もっと人間と近い存在だったんだよ?」

「そう…なんですか?」

「えぇ。共存してたのよ…貴方達が空想だって決めつけた生き物は大方居るわ。エルフだって、精霊だって、ドラゴンだって、人魚だって、みんなみんな居るし、今もひっそりと何処かで暮らしている。」

「へぇ…‼︎すげぇ‼︎見た事ねぇだけで居るんだな‼︎」

「しかしどうしてひっそりと暮らすようになったんですか?共存していたんですよね…?」

サージの質問に対して、そこなんだよね…とアイリスは表情を暗くしてしまった。

「共存出来なくなってしまったの…」

「「え…?」」

「変わってしまったの…人間が…」

「人間が…?」

「豊かな生活を求めて、どんどん遠い存在になってしまったの…私達じゃとても適合出来ないくらい急激的にね…暮らしと共に心まで冷たくなっちゃったのかな…あんなに優しかったはずなのに…違いを悪い方向に評価し始めたというか……」

「悪い方向って…」

「私達を、お金儲けの道具か何かって勘違いし始めたのよ…それで数も減って来てるって言うのにポンポンポンポン捕まえては、商品として取り引きして……私達だって意思のある生き物だもの。悲しくて、悲しくて、仕方がないわ…」

「酷い…‼︎」

「み、みんながみんなそんな事する訳じゃねぇよ‼︎そんな馬鹿やるのは…」

「知ってる。ほんの一部の人間だって知ってる…でも、その人達に住処も追われて、故郷も失ったのよ⁉︎こんな森の奥に身を潜めてるのは、そんな人達から逃げる為だもの…」

「だから…僕達に見つかったって…」

あの慌てようはそう言う事だったのか…

もしも俺様達が他の連中にエルフの事を広めたら、生活が脅かされてしまうから…

「そう…そうなの。ごめんね…まさかこんな夜に人間がいるなんて思いもしなかったから…貴方達にまで荷物を背負わせる事になっちゃったよね…」

「荷物なんて…そんな事ねぇって…事情は分かったよ。絶

対に言わないって約束するから…」

「…ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいな。」

アイリスは寒さのせいですっかりと青白く染まっている顔を綻ばせた。

「…やっぱり捨てたものじゃないね。」

「え?」

「…貴方達みたいな人間がいると、信じたくなるよ。」

「おうよ‼︎俺様達の事は信じていいぜ‼︎」

「ふふ、それは頼もしい。あのね、ここだけの話なんだけど…私はまた共存出来ると思うんだ。」

「人とエルフがですか?」

「そう。多種多様な世の中に戻って欲しいと思って…それが私の夢でもあるの。」

「最高の夢じゃねぇか‼︎」

「叶って欲しいですね…‼︎」

「うん…だから、私は少しでも多くの人と関わりを持っていこうと思ってて。こんな事おばあ様に知られたら大目玉だけどね…」

「まぁな…失敗したら関わりどころか生活が脅かされるってのはちょっと厳しいな…」

「だよね…でも…それでも私は頑張りたい…かなぁ…なんてね…えへへ…」

笑って誤魔化したけど、アイリスの意思は強いものだ。

だからきっと、いつまでも夢を追い続けるだろう…

「俺様はいいと思うぜ。夢はでっかく‼︎それに、リスクは付き物だ‼︎俺様達の夢も一緒。でも、一つだけ違うものがある。」

「…違うもの?」

「協力者がいるって事だよ。一人じゃ限界があるから、同じ目標を達成する為の仲間を見つけるって事が今のアイリスの課題だと思うんだ。」

「そうですね。人数がいれば心強いですよ。それに、他の人からの視点ってとっても大切だと思うんですよ。」

「一人で突っ走りそうになった時にブレーキかけてくれるしな(笑)」

「全くですよ…兄さんってば集中すると周りが見えなくなるから…」

「そっかぁ……」

アイリスはどこか拍子抜けしたみたいなケロッとした顔をしている。

「そうだね…まずは同族の中で理解してくれるひとを作らなきゃね…」

「おうよ‼︎一人だと今日みたいな無茶しちまうんだろ?」

「裸足で演奏してた事?」

「そうです‼︎」

少し気まずそうに自分の足に視点を下ろし、ふぅ…と一息吐いてから彼女は口を開いた。

「無茶じゃないんだよ。こんなの痛みに含まれないよ。」

「はあぁ??」

「他のみんなは、もっと痛くて苦しい思いをしてるんだよ。」

「他のみんなって…」

「人間に攫われちゃったみんなの事。私達の仲間はもっと沢山居たの。けどね、悪い人間に攫われちゃってそれっきり…今どこで何をしているのかも、生きているかも分からないの…」

あたりの静けさのせいか、雪中の寒さのせいか、何処か心が離れていく感覚を覚える。

何も言えない。言う言葉が見つからない。

ぶっちゃけごめんなさいって思うよ。同じ人間なのにそんな事してよそ様に迷惑かけるなんて…

でもそう軽々しく俺様達が口を出せる問題じゃねぇってところだ…

「エルフだからって標本にするって話も聞くし、奴隷みたいに扱われるとも聞くの…だから、こんな痛さなんて比じゃないの…」

「だからって…アイリスさんが痛い思いをしなくても…」

「うんん…何も感じずにいる方がずっと辛いの。だから、これで少しはみんなの気持ちがわかるんじゃないかなって…思って……でも、分かりっこないよね…」

「………。」

「それでも、私はみんなに近づきたいの…だから、だからね、唄い続けるって決めているの…」

「唄を…?」

そう…とハープを抱き寄せてアイリスはふわりと笑った。

「私の気持ちを唄に乗せて、風に運んでもらうの。そしたら届くんじゃないかってね…だって、世界は繋がってるんだよ?だったら唄だって、気持ちだって、伝わるんじゃないかな?無意味なんて、決めつけじゃない。誰がなんと言おうと続けてやるんだから‼︎」

聞こえていた唄はどうやらアイリスが攫われてしまったエルフに向けて唄っていたものだったらしい。

「超綺麗な唄だったぜ‼︎思わず引き寄せられちまったし‼︎きっと届くんじゃねぇかな?」

「あの曲はアイリスさんが…?」

「うーん…エルフの中で伝わる古い唄なんだけど、何節か勝手にアレンジしちゃったかなぁ〜」

「道理で歌詞がちんぷんかんぷんな訳だぜ‼︎」

「エルフの言葉だからね。私はこれからも唄い続けるから……あぁ、一つ…一つお願いしても良いかな?」

「えぇ、何でしょう…」

改ってなんだろうかと思わず背筋が伸びてしまう…

新緑色の目で固唾を呑む俺様達を見据えながら、真剣な顔つきで言った。

「もしもね、他の同族に…エルフに会った時は、私が…私達が森でしっかり生きているって事を伝えて欲しいの。」

「任せとけよ…でもそれだけで良いのか?」

「え?」

「僕はアイリスさんの夢の事も話したいですよ。」

「私の…夢…?」

「そうだ。きっと、みんなの後押しになるし、立派だもの。希望になると思うぜ‼︎」

「私が…希望?」

「はい‼︎」

力強く二人で頷くと、照れ臭そうにはにかみながら

「じゃあお願いしても良いかな?」と。

だから

「勿論だぜ‼︎」

そう快く引き受けた。

「サザンにサージ…ありがとね。嬉しいや。」

「良いってことよ‼︎」

「困った時はお互い様ですからね。」

「ふふ…そう言えば、二人はどうしてこの森に…?」

「「あ…」」

アイリスと話す事に夢中になってしまって大事な事を忘れていた…

今、時間との戦いだったんだよ…‼︎

「じ、実はかくかくしかじかで‼︎」

本当は夜通るはずのなかった月隠れの森に差し掛かってしまった事。そしたら仲間が急に川に落ちてしまった事。

今行方不明になっている事を話した。

「あちゃー…それを早く言ってよ⁉︎人間って寒いと死んじゃうんだよね⁉︎見つけなきゃまずいじゃない‼︎」

「うぅ…」

ごめんよケイム…悪気は…悪気はないんだよ…

「この森って本当に幽霊がいるんですか?」

するとアイリスはぷくっとほっぺを膨らませたかと思うと声を上げて笑い出してしまった。

「まっさか〜‼︎この森にそんな悪さをする幽霊なんていないよ‼︎それはゴブリンの仕業だよ‼︎」

「ゴブリン?」

「そう。アイツら悪戯好きだからね〜…ちょっとタチが悪いところあるけど許してあげてね?」

マジで操縦効かなくて死ぬかと思ったし、ケイムは現在進行形で死にかけだし、ちょっとで済まされるレベルじゃねぇと思うけど……

「ゴブリンって目に見えないんですか?」

「見えない人は見えないみたいだからね…二人には見えないのかも…」

「成る程…じゃあ妙な視線も納得したな…」

「しましたね。」

「森の仲間が迷惑かけちゃったねぇ…困ってる時はお互い様……だったよね?今度は私が力を貸す番だね。」

「おぉ?」

「そのもう一人の仲間を見つけ出してあげる。」

なんと、ケイムを見つけてくれるって言うのだ。

でもこの広い森でどうやって…?

「そんな顔しなくて良いよ。動物達の力を借りるだけだから…」

「動物達?」

「みんな出てきて。」

アイリスのハープと唄声に合わせてガサガサとあちこちの茂みが揺れ出して、色んな種類の動物がヒョコヒョコ現れたのだ。

ウサギにシカにキツネにイノシシに…

夜だと言うのに沢山出てきた。

「いつも、私の演奏を聞いてくれているみんな。どうか力を貸してくれないかな?人間を探して欲しくて…」

「た、頼めるか?」

「困ってるのでどうかお力添えを…」

「お願い。見つけたら教えて‼︎」

アイリスの声と共に動物達は四方に駆け出した。

「すっげー……」

「まるで魔法みたいですね…」

「みんな頼りになるんだから‼︎私達も、探しましょう‼︎」

どうやらアイリス自身も一緒になって探してくれるようで、ケイム探しが再開された。


_______________

_________

ホゥホゥ…

しばらくして一羽の白いフクロウがバサバサと近くの木に飛んできて、止まった。

何か見つけたらしくアイリスに訴えている。アイリスは動物の言葉が分かるのか真剣に聞いていた。

「…え?舟?」

「ん?」

「舟に男の人が入るのを見た?」

「えぇ…?」

思わずサージと眉を潜めあった。

もしかしてケイム…この森の中で自力で舟を見つけ出したって言うのか?

「あのね、二人とも…仲間の人って、男で全体的に黒くて…近づき難くて…目つき悪い?」

「悪い‼︎」

「間違いなさそうですね…」

どうやら本当にケイムらしい。

急いで舟の場所まで戻ると、周辺の足跡が増えている事が分かった。

「舟、明かりついてますね…」

「ついてるな…」

恐る恐る舟まで寄り、扉を開けると暖房を近くで焚きながらソファに横たわっているケイムがそこには居た。

「ケイムさん‼︎」

「ケイム‼︎」

思わず駆け寄りたくなったけど、機嫌が悪いようで鋭い目を更に鋭くしながら睨まれてしまった。

「…寒い。閉めろ。」

「俺様達が悪いんじゃねぇのにそんな顔しなくても…」

「…知っている。その女は誰だ?」

「えぇ⁉︎」

ケイムからは死角になるように俺様達の後ろに隠れていたアイリスにどうやら気づいていたようだ。

「コイツはアイリス‼︎一緒にお前を探してくれていたんだよ‼︎」

「ど、どうも〜?」

一瞥した後、興味無さそうにソファに顔を埋めてしまった。

「詳しくは後で聞く…とにかく…閉めろ。寒い。」

「わ、分かったよ…」

アイリスを中に招こうとしたけど、そろそろ帰らなきゃと丁寧に断られてしまった(多分ケイムの事が怖かったんだと思う)翌朝も抜け出してくるからと言い残し早々と帰ってしまったからちょっと寂しい気もするけど…

まぁ何より…

「無事で良かったぜ‼︎」

ケイムが無事でめちゃくちゃほっとした。

「体調悪くしていませんか?」

「…別に。」

相変わらず素っ気ないこの態度だけど安心したぜ…

その後もあったかい飲み物は?とか色々話しかけたけどだんだん生返事になってソファから動かなくなってしまった。

そんなもんだから寝床の取り合いっこでサージと俺様とでコインで決める事にした。(結果的に俺様が床で寝る羽目になったんだけどな。)

こうして、散々だった夜は明けていくのだった…

最近書く時間が無くてお話が進みませんね‼︎長い目で見ていてくださいね‼︎今回は種族の事情なんかが少し分かるお話だったでしょうか。少しずつこんな話も組んでいきたいと思います。次回に続きます‼︎

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