緊急会議とケイムの本性…?
新たな冒険の地、セシミヤ大陸。雪がしきりに降り積もる中、ケイムに続いて街を歩いていると……?
忙しなく行き来する荷車や人々の中を掻い潜りながら、ケイムに続き街の中を歩いていた。
いつもの様に港から少し離れた岸に船をつけ、
新たな冒険の地、セシミヤ大陸に上陸したのだ。
この街はあまり治安が良くないらしく、あちらこちらに海賊の姿が見られる。そのせいか、ここに住んで商売を営んでいるであろう人達は、あまりいい顔をしていない。
なんて言うか…海賊の表情を伺ってビクビクしてるというか…本来であれば、港町には海兵の一人や二人くらい見かけるのに一向にその姿は見えない。場所によってはこんなにも警備に差が出てきてしまうのだろうか…?
「なぁ、ケイム…ここには海兵は居ねぇのか?」
「居るとは思う。だが、場所も場所だ。あまり見かけたことは無いな。」
前を歩くケイムは、振り返ることなく答えた。
「場所…ですか?」
「…ここは昔から海賊の溜まり場となっていた。今もその風習が残っているらしく一向に減る気配はない。流石の海兵も手を焼き、無法地帯となっているのだろう。」
「なーるほど…」
それで流石の海軍様もお手上げって事か。
「だが、この地域は海賊のお陰で経済が回っているのも事実だ。切るに切れないでいるのだろう。」
切っても切れない関係ってことだ。だから海軍も変に関与出来ず、住民もそれを望んでいないのかもしれない。
不思議な関係性に少し頷きつつ、ケイムの後に続いていた。
突然の雪に対応するかの様に、軒下には防寒着が並べられ、それを叩き売していたり、商品を店の奥へとしまう人だったり、様々な姿が見られた。
行き交う人々は皆寒そうに肩を竦めながら足を速めている。
雪は穏やかに、そして平等に、人々に影響を与えていく。
俺様達は手袋やマフラー、ちゃんとした防寒対策をしてるからよっぽどの事が無ければ大丈夫だが、ケイムは上着だけしか持ち合わせてないらしく、口には出さないもののとても寒そうに見える。
よくよく考えてみれば、ケイムの持ち物は船と一緒に置き去りにしてきてしまったのかもしれない。
もしそうなのであれば、必要なものを買い揃えなきゃな…
そんな意味も踏まえて、「大丈夫か?」と聞いてみたが、言葉足らずだったからか自分に言われたとは思わなかったらしく振り向くこともなくどんどん突き進んでいく。
見兼ねたサージが、「あの、寒くないですか?必要なものとかありますか?」と補足してくれて、やっと自分のことだと認識したらしく、ケイムは足を止めた。
「……必要なものはある。」
寒さの事は答えなかったが、痩せ我慢しているらしく、顔色は蒼白だ。つーかやっぱり必要なものあるのか…!!
「だが、有り金が限られている。だから、いい。」
「金足りねぇの?」
「……」
黙って顔を背けたっつーことは図星ってことだろう。買ってやろうか…?と言おうとしたが、何だかそんな事も言えない雰囲気だ。ケイムは少し考えた素振りを見せた後、
「少し、時間をくれないか?」
そう要求してきた。時間って…一体何をするつもりだ?
訳も分からず、サージと顔を見合わせて、首を捻るのだった。
*****
ケイムの要求を飲むと、一時間程度で戻ると言い残し、何処かへふらりと立ち去ってしまった。
取り残された俺様達はどうする事も出来ず、適当な店ん中で休息をとりつつ頭を悩ませている最中だ…
まさか盗みでも働くんじゃないだろうな…
勢いで仲間にしてしまったけど、もしかしたらとてつもなく悪いヤツなのかもしれない。
注文したホットミルクを飲みつつ、サージと緊急会議を開いていた。
「えぇ、ゴホン。ではこれから、第十四回目…緊急会議を始める。」
「…はい。」
「では単刀直入で…サージはケイムの事どう思うよ…」
「……そうですねぇ…何だかとても危なっかしい人だと思います。絶対実力のある海賊ですよ…縛られてるのにも関わらずロープを切れるくらいですし。」
「あぁ。そりゃ思う…」
ナイフもそうだが、俺様的にヤベぇって思ったのは微かにだが酒の匂いに混じって火薬の匂いがした事だ。サージには黙っていたが、ありゃ容赦なく発砲する奴に違いない。それに、コートを翻した時に、内側に大量の武器が隠されてるのが見えた。
平気で人を殺せる様な奴なのでは無いのだろうか…そんな疑惑が頭ん中をチラついていた。
「けど、放って置けませんよね…」
「ん。」
「放って置けば、命を投げ出しかねません。」
「だな。あの目は、ガチだ。流石の俺様でも…ちょっと…」
心の底から怖いと思ってしまった。どこまでも禍々しくギラつく目。あんなにも、冷たい目を見るのはいつぶりだろうか…しかし醸し出す雰囲気はガラス細工の様に繊細で、今にも壊れてしまいそうだった。こうしている間にも、一人にしてしまっているが、果たして大丈夫なのかな…
「僕も心臓がざわつきましたよ…ケイムさんは本気で死を願っています。ですから、言ってしまったからにはこれから先、共に航海していく事しか選択肢はありません。」
「異議なし。」
「これが僕の意見です。」
「なーるほどな。ぶっちゃけ俺様的にもやっぱり不安はある。正直なところ本当にこの選択が正しかったかなんて分からない。」
「最善だったと思いますよ。」
「…はは、ありがと。けどさ、これからどう転じていくかなんて分かりゃしねぇ訳よサージ君。」
「……そりゃそうですよ。これからの事なんて…誰にも分かるはずありません。」
「だよな。」
「けれどもそれって、誰かに左右されることなく、自分自身で良くも悪くも変えられるって事じゃないですか?」
「へぇ、そーゆー考え方は無かったな。いい事言うじゃん。」
「Qさんの考え方ですよ。行動次第で良くも悪くもなれるって言ってたので、成程なぁって心の隅に留めて置いたんです。」
「MARE軍のことでそんな事言ってな〜。確かにそうだと思うぜ。今の状況に置き換えると、俺様達次第でケイムとの関係性は良くも悪くもなれるって訳だ。」
「えぇ。」
「じゃあ一緒に頑張ろうぜ!!もう死にたいだなんて言わせないくらい、楽しい航海をしよう!!」
「兄さんらしくていいと思います。異議なし。」
サージはふわりと笑った。口元に注文した紅茶を運んだ後、一息ついてから再び口を開いた。
「…まぁ、それに…ケイムさんが完全に悪い人って訳では無さそうですし。」
「あー、何となく分かるぜ?ちょっと不器用で自己表現が下手くそなだけなのかもしれねぇな。」
「言葉にちょっと刺があるというか…そんな感じはしますが…」
「それ!!一言多いけどさ!!何かちょっとズレてるけど…環境がそうさせちまったのかもしれない…」
「はい…けれども、ココアを飲んだ後凄く優しい顔をしてました。」
「俺様特製スペシャルココアを飲んで、笑顔になってくれるヤツに悪いヤツはいない!!」
「根拠はありませんが…まー、そんな気はします。」
「そして猫好きだ。猫好きに悪いヤツはいない。」
「異議なし。」
「結論!!ケイムは悪い奴ではない。」
「はい!!」
「よーし、そういう事だ。これからどうなるか見守りつつ、なるべく会話を増やしていこう!!」
「コミュニケーション大事ですね!!」
「これで第十四回目緊急会議を閉じる。」
「ありがとうございました。」
サージと意見交換する事によって少し肩が軽くなった様な気がした。ケイムの前では話せなかった本音が聞けて良かったかもしれない。
会議終了後、他愛もない話をしていたら、ふとした疑問が浮かんだ。そう言えば、俺様達だけのイメージで描いたのでちょっと人物像が偏っているような気がするような…
他のヤツってケイムの事知っているのかな?
疑問を解決すべく、店員の姉ちゃんに聞いてみることにした。
「なぁ、姉ちゃん。ケイム=ハスラーって知ってるか?」
「へ!?ケイム=ハスラー!?」
しかし、名前を口にした途端あまりにも驚いた素振りを見せて悲鳴に近い声をあげた。
「ケイム=ハスラーだって!?」
「ま、まさかこの近くに居るのか!?」
それに共鳴するように店内がざわつき、最早パニック状態だ。予想外の出来事に呆然しつつ、その様子を眺めている事しか出来なかった。
気づいた時には店内から人が消え、結局は理由が聞けずに、第十五回緊急会議を開催させる事を余儀なくさせたのだった…
*****
カランカラン…
扉を開けると鳴り響くベルの音。しかし、接待する店員さんは居ない。
「ここに居たのか。」
そんな店内に、雪風と共にケイムが入ってきた。
「…!!お、おう。良く分かったな。」
笑ってみたのはいいものの、多分表情は引き攣っているかもしれない。
「虱潰しに、お前らが居そうな各店を回っていた。」
「そうですか…お手数お掛けしましたね。」
ケイムの格好を見てみると、一時間前とは少し違っていた。首元にはストールが巻かれており、手には革手袋がはめている。そして、何やらずっしりと重みで膨らんだバックが下げられている。
一体何が入ってるんやら…
「探すついでに必要なものを買い揃えられたからいい。気にするな。」
「マジか!!」
「効率的ですね。」
「…まぁな。一つ気になることがあるんだが…」
「はい?」
「何故、蛻の殻なんだ?」
されたく無かった質問に思わず心臓が鈍い音をあげた。そりゃ、お前の名前を出した途端皆が逃げました…とか言えねぇ…!!
「わ、分かんねぇ!!俺様達が来た頃にはもうこの状態だったんだ。とりあえず他に行く所もねぇし、誰かが戻ってくるのを待っていたんだけど…誰も来なくてさ…」
「そうなんですよ〜!!外は寒いですし中で雪風を凌がせて頂いてたんですが…誰もいなくて…」
そう言うと、店内を見渡した後に「そうか。」
と短く答えた。もしかして信じてくれたかな…
「もう行くか…?」
もっと追及されるかと思いきや、これ以上は追及して来ないらしく、ケイムはドアノブに手をかけ、こちらの様子を伺っている。
「おう!!行こう!!案内宜しくな!!」
「あぁ。」
テーブルの上に飲み物代を置いて再びケイムに続いて外へ足を踏み出した。
****
「なぁ、ケイム。お前金無かったのにどうやってそれらのもの買ったんだよ。」
「あ、そう言えばそうですよね。」
「まさかとは思うが…危ねぇことした訳じゃあねぇよな〜?」
さっきの店内のヤツらの反応から、少し疑い深くなっているのかもしれない。成る可く早い段階にコイツの本性を見抜いておかないとな…心のどこかでそんな考えが浮かんでいた。
「……知りたいか?」
足を止め視線をこちらに向けている。ケイムは試すような目付きをしていて少しドキリとした。
きっと警戒心を持っている事に気づいているのかもな…
「知りたい。」
負けないように、目線を逸らさずじっと見つめ返すと、
「…知りたがりは命を落とすぞ。」
脅しに近いような返しをして来たモンだから身の毛がよだった。
「ひぃええ!?」
「おまっ…マジかよ…」
思わず一歩後退して距離をとると、ケイムは面白可笑しそうに微かに笑った。
「…そんな顔をするな。冗談だ。」
……は?冗談……?
「んなぁああ!?からかったのか!?」
「冗談に聞こえませんから!!」
冗談とか言うタイプなのな…。意外過ぎる一面に面食らってしまった。
「悪い悪い。少し試させてもらったが、確信へと変わった。」
「……試した?」
「一体何を…」
「…後に分かるだろう。それより、どうやって買ったと言ったな…」
「えぇ。」
「簡単なことだ。増やしたんだ。」
「は?金を?」
「ん。」
さも当たり前の様に言ってるがやっぱり危ない事をしたんじゃ…
「…勘違いするなよ。互いに同意した上でやった賭け事だ。一方的に奪った訳では無い。」
どうやらケイムは賭け事をしてお金を稼いだらしい。
こんな短時間で一体何をしたんだろう…
無理やり奪ったとかそういうのじゃなくて少し安心しつつも、やっぱり恐ろしいヤツだというのがよーーく分かった。
「そうですか。なら良かった…」
「……良かった…か。」
「え?」
「いいや。何でもない……この道を突き進むと、灯台が見えてくるんだが…そっちまで行ってみるか?」
「行くーー!!」
「行きます!!」
「…じゃあ行くか。」
止めていた足を再び進めだしたケイムの後に続いて、ポケットに手を突っ込みながら歩いていると、ガシャンとガラスが割れる音が聞こえてきた。
音の聞こえた方向に目をやると、海賊が俺様と同い歳くれぇの少年の胸倉を掴んでいるところだった。
「テメェがぶつかってきたせいで服に酒がかかっちまったじゃねぇかよ!!どうしてくれるんだ!!」
「バカ言うな!!俺はぶつかって無い!!その汚い手を退かせ!!この薄汚れた鼠以下の低脳野郎!!」
「あぁ!?口の利き方がなってねぇぞ!?餓鬼だからって大目に見てやるなんてこたァ出来ねぇんだよ!!」
ザワザワと人だかりが出来ている。しかし、皆して海賊を止めようとしない。ただの野次馬だ。
海賊は少年を突き飛ばし壁に叩きつけ、そして銃を取り出して少年に頭に突きつけているところだ。流石にこりゃ不味いって!!
「やべぇよ!!」
「止めなきゃ…!!」
しかし、ケイムは見向きもせずどんどん前へと進んでいく。
「おい…ちょ、ケイム!!待てって!!何で止めねぇんだよ!!」
「そうですよ。見て見ぬ振りなんてよく出来ますね…」
するとケイムは足を止め、振り返ったが…その表情はあまりにも暗く冷たいものだった。
汚いものでも見るかのような見下した目で俺様達を一瞥した後、嫌そうに溜息を吐いた。
「…止める?何故?あれは他人だ。お前らはわざわざ面倒事に首を突っ込むのか?あくまでアイツらの問題だろ?喧嘩なんてこの街では日常茶飯事。喧嘩になるのは何かしら原因があるという事だ。それを一々気に留めていたらばキリがない。仮にあの子供があのまま撃ち殺されたとしても自業自得だと思うが?」
あまりにも淡々とした口振りと無慈悲なその言葉に、正直人として疑った。一人の命がかかっているのに…何でそんな平然としてられんだよ…命って…そんなに軽いものなのかな?
「そりゃねぇぜ…」
「それなのに、わざわざ関与するのか?とんだ善人だな。いいや、どちらかと言うと偽善に近いのか?」
「ケイムさん!!」
あぁ、分かった。コイツやっぱり道徳心みてぇなものが欠けている。怒りよりも、どちらかと言うと悲しみが勝っていて…何も言えなくなってしまった。
可哀想…
そんな思いを隠さずにいられない。
「…止めなくていいのか?お前らは…人の命を奪わない海賊なんだろう?」
少し嘲た調子で言ってきた。
「…奪わない。奪わせない。助けられる命は助ける。それが…サザン=ウォーシャン様なんだよ!!」
ケイムの言葉に少しというか…かなりムキになっているのかもしれない。後先考えずに人々の間を掻い潜り、海賊に向かってタックルをお見舞してやった。
海賊は不意をつかれたせいかバランスを崩し、倒れてしまった。その拍子に銃を奪い取ろうとしたがそれは叶わなかった。俺様よりもいち早く体勢を立て直した海賊は、俺様の横っ腹に蹴り一発嚙ましてきやがったのだ。
勢い余って壁にぶつかり、少年の脇に転がる形になってしまった。衝撃と同時に電撃のように痛みが走り、その場に蹲ってしまった。
「ぐ……」
「兄さん…!!」
痛い…こりゃヤベぇって。あまりの痛さで少し涙ぐんでしまっている。今の俺様最高にかっこ悪いな。
腹を抑えて動けなくなっているうちに、海賊は地面に落ちていた銃を拾い上げ、ターゲットを少年から俺様に変更したらしく、銃口をこちらに向けてきた。
まさに形勢逆転ってヤツだ。不意をついた俺様の方が有利だったはずなのに、今じゃピンチに陥っている。この海賊によって、俺様の生死が意図も簡単に左右されてしまうのだ。
「何だお前…コイツの仲間か?」
「……な!?誰だよ…お前…なんで…殺されちゃうんだぞ!?なんで入ってきた…!!」
状況が理解出来ないであろう少年は心配そうに俺様の顔を覗き込んでいる。
「はは…悪い。助けようと思ったけど失敗しちまった…」
「お前…!!やめろ!!コイツは仲間じゃない!!撃つな!!」
少年が必死で間に入ろうとするも、海賊によってそれは阻まれてしまった。
「……本当に馬鹿で、お人好しだな。」
野次馬のざわつく声と混じってケイムの声が聞こえてきた。俺様が嘘じゃねぇこと証明しようとしたのにこのザマだ。流石に呆れられたよな…
「まぁいい。餓鬼。恨むなら自分を恨め。じゃあな。」
死を覚悟して、目をキツく閉じようとしたが…
海賊が引き金に指をかけたのと同時に銃声が鳴り響いた。
何が起きたかよく分からなかったが、海賊の銃は宙を舞い、そのまま地面へと落ちてしまった。
「ぐああぁあ!!」
握っていた手を抑えながら地面に膝をついている。
よく見ると、海賊の持っていた銃は凹んでいて弾痕が見られた。
誰かが撃ったんだ。一体誰が?そして何処から…
ただ呆然と苦しむ海賊を眺めていると、人混みの間からサージとケイムが出てきたのだ。ケイムの手には銃が握られている。
あぁ、撃ったのはケイムだったのか…
「本当に無鉄砲過ぎます…見ていてヒヤヒヤしましたよ…兄さんの馬鹿!!心配させないで下さいよ…」
駆け寄ってきたサージに体を起こされ、視線がどこまでも冷たい目とぶつかった。
相変わらずの蔑んだ目。けれども、そんな表情とは裏腹、「大丈夫か…?」だなんて不釣合な言葉を投げかけてきたのだ。
「まぁ、何とかな…」
少し気まづくて上手く笑えなかった。そんな俺様は差し置いて、サージは少し興奮気味に語りだした。
「兄さん!!見ました!?ケイムさん凄いんですよ!!人々の僅かな間からあの海賊の銃目掛けて発砲したんです…!!しかも当たっちゃうんですから…!!」
そいつはすげぇ…素直に感心しつつも、恐ろしさが更に増したように思えた。
あの人混みの間から容赦なく撃てる精神とその実力。仮に、他のやつに当たるだなんて考えなかったのかな…
「クソッ…いってぇ…誰だ発砲したのは!!」
海賊は立ち上がり怒りを顕にしている。しかし、こちらの方を見た途端にその声は弱々しいものへと変わってしまった。
「ひ…!?…お、お…お前は…まさか…ケイム=ハスラー!?」
「……俺を知っているのか?」
「す、すみませんでした!!失せます!!サヨウナラ!!」
さっきまでの威勢の良さが完全に消え失せた海賊は、撃たれた愛銃を拾うなり立ち去ろうとしている。
「二度と俺の前に現れるな。不愉快だ。次は銃でなく…頭を撃ち抜くからな。」
ケイムがそう言うとあまりにも情けない声を上げながら早足で逃げ出した。それと同時に、さっきまでいた野次馬共も悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように消えていってしまったのだ。
「……ふん。」
銃を左足のガンホルダーに戻すと、視線をこちらに戻した。少年は目を見開き口をパクパクさせている。
「……さっき言ったのはこういう事だ。試したと言ったが…あの店で俺の名前を出したんだろ?」
「な……」
何でバレてんの!?俺様言った!?いや、言ってねぇ…よなぁ?言った覚えはねぇし…想定外の言葉に、頭ん中が真っ白になった。
「お前らが座っていた席には、既に注文された飲み物が置かれていた。それに、他の席にあった食べ物も湯気が立ち上っていた。だから、来た時には既に誰もいなかったという事は嘘だと分かった。」
店を見渡した時にそこまで見てたのか…予想だにしない洞察力に思わずぐうの音も出ない。
「そして確信へと変わったのがお前らの態度だ。小一時間前とはまるで違い、警戒しているのがひしひしと伝わって来た。」
「…試したってそういう事だったんですね。」
「あぁ。」
ケイムは表情一つ変えずに俺様達を見下している。
「他のヤツらの反応を見て、俺がどういう人物なのか理解出来ただろ?」
冷たくクツクツと笑った後、
「考えを改める事にしたか…?」
と聞いてきた。
けれども、俺様には今更考えを改めるなんて選択肢は存在していない。
「…いーや?お前はもう仲間だろ?お前が今まで何を仕出かして、何でこんなに恐れられてるかなんて知らねぇけどさ…」
本当に何も知らない。
「お前がどういう奴か判断するのは俺様達だ。実際にどんなヤツなのかは噂話じゃなくてさ、自分の目で確かめる。」
さっきまでは人からのケイムの話を信じようとしていたが、それでは駄目な気がしてならない。
だからいつもの様に、自分の目でちゃんと確かめた事だけを信じることにしよう。
「兄さんの言う通りです。考えは改めません。」
サージがそう言うと、
「…… 本当に馬鹿だ。捨ててしまえばいいのに。」
とケイムは吐き捨てた。
なんでそんな事平気で言えんのかなぁ…
少し眉をひそめサージと目配せあったが、それ以上は何も言えなかった。
次の言葉を考えてた時に、動き出したのは少年だった。
「あ、あの…さ。助けてくれてありがと。」
ケイムを前にしているせいか、少し怯えつつこちらの顔色を伺っている。
「おう!!礼には及ばねぇぜ?無事で何よりだ!!」
「本当にありがとう…助かったよ…あのさ、俺…オスカー…お前達は…?」
「俺様はサザン=ウォーシャン!!」
「僕はサージ=ウォーシャンです。」
「サザンにサージ……そして、ケイム=ハスラー…。」
オスカーは視線を外し、ケイムの方に向けている。
「……何だ?」
一方のケイムはと言うと、不機嫌そうに睨みを利かせている。やめろって…喧嘩勃発か…?
ギスギスした空気に思わず固唾を呑んだ。
「五日前くらいに、アルテスの酒場に居たよな…?」
五日前って言うと、ケイムと出会う前だ。アルテスって確か…隣の国だったはず…
「…居たが…それがどうした。」
「……お前、仲間居るよな…あの時酒場にいた連中だよ。そいつらがさ…お前のこと……捜していたぞ…?」
ガサリ…
ケイムが肩に下げていたバックが地面に落ちた。隠せない動揺。目を見開きその場に立ち尽くしている。
「……どこに居た?」
さっきまでとはまるで違い、発した声は、少し語尾が震えていた。
「俺、仕事が運びなんだけどさ…今朝、隣街に居た…」
「………」
押し黙って海の方をじっと見ている。仲間って…やっぱり居るんじゃないか。それに捜してるって…
「ケイムさん…?あの…」
「…おい、大丈夫か?」
会わなくていいのか…?そう口に出そうとしたが…
またあの目に戻っていたから、言えなかった。
仲間のことは禁句…そんな暗黙の了解を、普段KYとサージに罵られる俺様でも感じ取ることが出来た。
しばらく考える素振りを見せた後、何か思いついたらしく、ケイムはオスカーに頼み事をしたのだった…
読んで頂きありがとうございました!!やっとのこと十部分目です…!!これからもまだまだ二人の冒険は続きます。更新ペースはゆったりではありますが…どうか、これからも「いくウォシャ」を宜しくお願いします!!
ケイムを捜す乗組員。しかし、一方のケイムは何だか後ろめたい様子で…果たして何を頼んだんでしょうね…次回に続きます!!




