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第三話  「雪彦山の仙人」

私は、ある川岸にいた。その川には霧がたちこめていて向こう岸が見えない。私と言えば何故か四、五歳の男児である。そして私は何かにとり憑かれたように川岸の小石を一つ一つ積み重ねているのである。「一つ積んでは父の為、一つ積んでは母の為、一つ積んでは……」と言いながら。小石が五、六段積み重ねた時、遠くから霧の中をこちらにむかって来て「ウォー!ウォー!」と走ってくる鬼が現れ私の積み重ねた石を足で蹴散らすのです。なぜか私はそれに怯えるでもなく腹が立つのでもなくまた再び何もなかった様に小石を積み重ねまた鬼に蹴散らされるのを繰り返していました。

 どれぐらい時間が経ったかわからないのですが急に周りの霧がなくなり向こう岸も観えるようになりました。私は、小石を積み重ねるのをやめぼっーと向こう岸を見つめていました。そうすると杖を突いた白髪の老人がなんと川面の上を歩いてくるではありませんか、その老人は私に言いました。

 「ぼうず、ここは賽ノ河原ではないぞ!何故そんなことをする!鬼がおまえの石を崩しただろ、それはなわしが鬼に化けてしたのじゃ、それになぁぼうずお前は死んでもいない、ただ今お前の魂が浮遊してこの播州加古川の川岸にいるだけじゃ。」男児の姿の私はその老人に言いました。「おじいさんはいったいどこの誰なの!」老人は言いました。「わしは雪彦山に住む仙人じゃ」「なぜ、雪彦山の仙人のおじいさんが加古川にいるんですか?」「ぼうずわしわな(旧暦)9月9日の菊花の日には必ず加古川に来て人と人の友情や約束を大切にする『菊花の約』を見に来ているのだ。死して魂となっても彼らは今もなお約束を守っているのだ。わしはここで彼らの行いを見守っているのじゃ。」

 「なぜ見守るのですか?」

 「ぼうずよく聞けよ、仙人はな人間が生きようが死のうが、人間の良い行いをその人間の生死にかかわらず見守ることが仙人としての能力の向上につながっていくのじゃよ。そしてなぼうずたまたまこの『菊花の約の日』にお前の魂が浮遊してきたのでお前のまえに現われたのじゃ。」

 そう言うと『雪彦山の仙人』は、飛んで西の空へ消えていきました。


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