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為せば成る。  作者: 水瀬まおり
藤村乙女の初恋
8/32

乙女、魔法を使う。

ブックマーク、評価ありがとうございます!

こんな拙作を読んでくださって、うれしいです。

 


 私は今、窮地に陥っている。

 手には、びしょ濡れの相棒。


 そう、昨晩のプリムラちゃんの暴挙によって、私の相棒は一時、庭の噴水のオブジェと化していたのだ。

 リリアさんと一緒に回収はしたものの、しっかり水を吸った相棒は、もう手遅れだった。

 この世界にはドライヤーがない。魔法の素養のある人は一瞬で乾かすらしいが、リリアさんには使えないとのこと。

 当然一晩で乾くはずもなく、絶賛びしょ濡れ中だ。


「どうしよう…これじゃあ朝のジークフリード様を観察できない…!」


 元凶のプリムラちゃんは、今も私のベッドを陣取り、放送禁止の顔で寝ている。

 …いつの間に帰ってきたのかな。夜中に蹴っ飛ばされた気がしたけど、もしかしなくてもプリムラちゃんの仕業だよね。

 プリムラちゃんも魔法を使えたはずだが…起こしたら機嫌の悪さで逆に相棒を消炭にされそう…うん、確実にやるよね。火属性に特化してるからね。プリムラちゃんの魔法。

 寝起きのプリムラちゃんには、触るなキケン、らしい。

 ちなみにこれは旅の道中、皆の決まりごとだったそうだ。…何があったんだろう。


 今日、騎士団は朝の鍛錬の後に、ジークフリード様の帰還を正式に発表する。

 副師団長として二年ぶりの復職になるから、仕事の引き継ぎがあるみたいだけど、それも午前中に終わるみたい。

 それが終われば、昼間から、どんちゃん騒ぎの宴会になるんだって!昨日、お見舞いに来てくれたカイル君が教えてくれました。なんていい子なの!カイル君。

 なんと私は、師団長殿から直々にお誘いを頂いているのです!

 これはチャンスよ、乙女。

 お酒で酔ったジークフリード様のあられのない姿が見られるかもしれない…!!

 漫画では、男衆三人で飲んでいる描写はあったけれど、旅の途中だし、酔うまで呑んでいない様子だった。

 …これは行かねばならぬ!


 その為には、朝の観察を我慢しても、相棒を乾かさなければ…。

 誰か魔法が使えて協力してくれそうな人…。

 マリアちゃんは、近々大々的に催される式典の準備、リド君も式典の場で正式にマリアちゃんと婚約するらしいので、二人共、忙しそうだ。というか、リド君はあまり魔法が得意では無かったはず。


 そうだ…!ミシェルさんにお願いしよう!


 リリアさんにミシェルさんの部屋の場所を聞き、相棒を持って、そこへ向かう。


 今乾かしてあげるからね…!!


 無事、ミシェルさんの部屋にたどり着き、ノックをすればすぐに返答が返ってきた。


「朝早くからすみません、ミシェルさん。これを乾かして欲しいのです。」


「…なんですか?これ。」


 びしょ濡れの相棒をみて、ミシェルさんが顔を引攣らせる。うん、濡れて毛が倒れている相棒は、微妙な顔も相まってちょっと可愛くないかもしれない…。


「私の相棒です。」


「は?…相棒?…被り物が、ですか?」


「そうです。これがないと、ジークフリード様の観察ができないのです。」


「ジークを観察…?あなたまで何をおかしなことを。」


 はっ!そうだ!ミシェルさんは私がジークフリード様をお慕いしているのを知らないんだった!


 ジークフリード様の魅力を交えながら、相棒の必要性を説いていく。

 どんどんミシェルさんの顔から表情が消えていくけと、大丈夫かな?疲れてる?え?私の所為だって?


「もう結構です。つまりは、オトメが変態で、ジークを好いている、ということですね。…何故そこで顔が嫌われているという結論になるのかは、全く理解出来ませんが。」


 いやん。私ってばそんなに分かりやすい??

 ジーフリード様の魅力を少し語っただけなんだけどな!


「まあいいでしょう。昼までは時間があるのでしたよね?貴女には、魔法を教えてみたいと思っていましたから。場所を移しますよ。」

 

「本当ですか?ありがとうございます!」


 藤村乙女、どうやら異世界にて魔法を使うそうです。





 ▲






 ミシェルさんに連れられて、王宮の近くにある、森にやってきました。

 ここは騎士団の管轄で、魔術師部隊の訓練場らしい。

 特殊な結界が張ってあって、本来ならばなかなか入れないらしいんだけど、そこは天才魔術師ミシェルさんがちゃちゃっと解除してたよ。近くで見ていた私は何をやっているか、さっぱりだったけどね!


「では、実演と行きましょうか。そのヘンテコな被り物を乾かして差し上げます。」


 ミシェルさんが、私から相棒を受け取ると、ロッドを手に持ち相棒に翳す。

 すると、一瞬、相棒に模様が浮かび上がり、温かな風がミシェルさんを中心に巻き起こった。

 相棒がみるみる乾いていくのが分かる。

 風が収まり、ミシェルさんから受け取った相棒は、しっかり水気が飛び、サラサラのふわふわだった。


「すごい…!!」


「これは風属性の魔法と、火属性の魔法を合わせて使っています。まあ、応用です。魔法には、火、水、風、土、光、闇の六属性があります。瞳の色に最も適性の強い色が現れることは、ご存知ですか?」


「はい。」


 私が頷くと、ミシェルさんが満足気に頷く。


「そうですか。それが分かっていれば、話は早いですね。…さて、貴女の瞳の色は七色。まぁ、七色というよりもっと複雑かもしれませんが。正直私もそのように色が混じり合った瞳は見たことがありません。」


 そうだよね、我ながら、凄い色しているよね。しかも光の加減で変化するから、もはや何色と表現していいのか分からないよね。


「ですから、貴女の適性属性を調べなければなりません。一応、最近我が国、ルセルニアで開発された、計測機器があるのですが…。まだ実験段階ですので、計測にかなりの時間を要してしまいますし、持ち運びもできないので、実際に赴いて頂く必要が出てしまいます。」


 ミシェルさんの国、ルセルニアは魔力を応用し、魔道具を作り出すことで発展してきた国だ。

 ミシェルさんももちろん、その手のことが大好きで、旅の途中でもいろんなものを開発していたなぁ…。


「今回は、手っ取り早く、実践してみて調べて見ましょう。」


「実践…ですか?」


「はい。ちょうどそこにいい的がありますので、協力して頂きましょう。」


 ミシェルさんが木の上を指す。

 え…、何も見えないけれど。


「何だよバレてたのか。」


 リド君が、木の上から音もたてずに降りてきた。

 すごい、全然気がつかなかったよ…。


「いやぁ、オトメが魔法の訓練するっていうからさ、お前の魔力すごそうだし、見たいなって思って!それに面白そうだし!」


「王配の教育はどうしたんです?貴方に自由時間が作れる程の余裕はないかと思いますが…。」


「…今日の分は、もう終わった。」


「終わった…?貴方が真面目に勉強をしたとでも?」


 ミシェルさんが揶揄うように、リド君に視線をやる。まるでリド君に何かを言わせたいようだ。


「俺だって本気だせば、ダンスの一つや二つできるかんだよ!……それに俺がちゃんとできるようにならないと、マリアが悪く言われるだろ。」


「ほう…。マリアの為なら、なんとやらってやつですか。お熱いですね。」


「うるせえよ!!」


 真っ赤な顔をするリド君。

 ミシェルさんもどこか優しい顔でリド君を見ている。

 いいなぁ、リド君とマリアちゃん。本当に素敵なカップルだ。二人が作る国はきっといいものになるんだろうな。


「それに、オトメとは初日以来、あんまり話せてないかならな。親睦を深める為にも、今日はこの勇者、リド様が的になってやるよ!」


「リッリド君…!」


 なんて優しいんだ!ちょっとうるっとしちゃったよ!

 その笑顔が眩しいね!流石主人公様!

 ミシェルさん曰く、リド君ならある程度攻撃を当ててもビクともしないらしい。魔王倒したんだものね。魔法初心者が繰り出す攻撃なんか、へっちゃらって感じだよね。


「オトメ、貴方は以前、地面に流れを感じる、といっていましたね?それは今も感じられますか?」


 目を閉じて、足元に意識を集中させる。

 以前と同じように、何かが流れているのを感じ取れた。


「はい。感じられます。」


「なら、土属性の魔法は使えるな。」


「はい。リドの言う通り、おそらくそうでしょう。では、目を閉じて、そのまま地面を流れる魔力を自分の体内に取り込むように、イメージをして下さい。続けて、その魔力を自分の指先に集めるように、イメージをする、分かりましたか?」


「分かりました。やってみます。」


 正直少し怖い。

 未知のものを自分の手で扱うのは。

 手が震える。

 私の感情が伝わってしまったのか、ミシェルさんが、語りかけてくる。


「……貴女が魔法を使いこなせるようになれば、それは大きな貴女の武器となり、そして盾ともなります。」


「武器と盾…ですか?」


「なに、貴女に戦えという訳ではありません。それに、貴女に害をなす者などいたら、ジークが全力で潰しにかかるでしょうね。」


 ミシェルさんが、私をまっすぐに見据える。


「今のままでは、伝説こそあれ、その役目はハッキリとしない、前例もない…聖女のオトメ、でしかないのです。もし、魔法を使いこなせれば、魔術師のオトメとなります。聖女としてではない、それは、貴女の価値です。…この意味が分かりますね?」


 ゆっくりと言い聞かせるように、私に語りかけるミシェルさん。リド君も少し離れたところで黙って私を見つめている。


 なんて優しいのだろう。

 リド君にミシェルさん、マリアちゃん、プリムラちゃん、そして…ジークフリード様は、聖女としてじゃない。

 ただの私を望んでくれるんだ。


「はい!ミシェル先生!私、頑張ります!」


 身近に剣なんてなかった。魔法なんて夢の話だった。

 でもそうじゃない。この世界はそうじゃない。

 全力でやってみよう。例え偶然だったとしても、この世界に来たことは、私が望んだことなんだ。


「…ふふ。先生ですか。」


 ミシェル先生が小さく微笑む。


「私は厳しいですよ?…でも貴女が望むなら、私はお手伝い致しましょう。」


「よろしくお願いします!」


「ではやってみますか。まあ、できてもせいぜいリドが泥だらけになるくらいです。遠慮なくやって頂いて構いません。」


「わかりました!先生!」


「おいおい。泥だらけになったらちゃんと浄化してくれよ?ミシェル。」


 リド君が私から少し距離をとる。

 そこを目掛けて魔力を放てばいいってことですね!



 …この時、私も、ミシェル先生も、リド君も忘れていたのだ。

 私は、元は魔力も何もない人間だったこと。

 それが、この世界に来て、魔力を取り込んで、魔力を保有することになったこと。

 そして、乱れれば世界に災厄を齎してしまうほどの『魔力の泉』の力に、私の魔力が非常に似ていることに。


 目を閉じて、足元の流れに集中する。

 よし、さっきよりも確かに感じ取れるかな。

 地面から私に流れ込んでくる温かいもの。これが魔力。

 もっと、もっと私に集まって。

 私に力を貸して。


 瞳が自然と開く。

 私の立っている地面には、大きな模様が広がっている。地面から足へ、光の線が模様を描きながら、私の身体を伝って行く。そして、それは指先に辿り着き、集束した。


「『我はオトメ。聖女なり。世界よ、我に力を貸したまえ。』」


 口が勝手に言葉を紡ぐ。


 なにこの恥ずかしいセリフ!18歳にもなって、黒歴史作りたくないよ!!やめて、誰か私の口を塞いで!!

 …まずくない?私、土属性魔法を使う予定だったんだけど。なんか、世界とかいってるけど。絶対違うよねこれ!


「ッリド!聖剣を構えなさい!!」


「言われなくても、構えてるさ!!」


 ごめんなさい。リド君、ミシェルさん。

 でも止まらない!!





「『放て。』」








 ひいい!誰か助けてください!



真面目な雰囲気になったかと思いきや、安定の乙女さんでした。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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