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為せば成る。  作者: 水瀬まおり
藤村乙女の初恋
6/32

乙女、初恋に落ちる。

5/12 ちょこちょこ加筆修正しております。

「ん…?」


 目を開けると見覚えのある天井が見える。あ、私の客間の天井だ。


「あれ…?私?」


 そうだ、ジークフリード様の裸体を見て、興奮しすぎて、失神したんだった。

すごい奇声上げたよね…ジークフリード様にまた嫌われるかもしれない。うぅ。


…ん?何か腕の中から素敵な香りがする。

…これは!!ジークフリード様の使用済みタオル!!私、意識を失っても手放さなかったのか!グッジョブ、私。

 それにしてもジークフリード様の裸体は凄まじかった。なにって色気がですよ。

引き締まった筋肉に、しっとりと汗ばんだ肌。戦いの中に身を置いていたことを示す傷跡が、うっすらと肌に浮かんでいた。それすらも色っぽかった。

 …また興奮してきたぞ。ぎゅっとタオルを抱きしめる。いい匂いです。はあは「…汗臭くないのか?」

 あれ…?

 声のした方を見るとジークフリード様が、ベッドの傍らに座って、私を覗き込んでいた。

 目を見開いて一瞬硬直する。次の瞬間、弾かれたように体を起こし、座りなおした。

汗が垂れる。

人様の使用済みタオルを抱きしめて匂いを嗅いでいるなんて、変態確定じゃないですか、ヤダー。


 ジークフリード様は水浴びもすでに終えている様子。服も胸元が開いたシャツに着替えていた。…なんでも似合いますね。素敵です。…私、どのくらい失神してたのかな?


「それ、俺が使ったタオルなんだが、すまない。気を失っているときも握ったままだったから、そのままにしていた。洗いに出してくるから、渡してくれないか?」


「いやです。」


「え…?」


 しまった。つい本音が!!でも、このタオルはジークフリード様といえども、譲ることはできないわ!!


「その…匂いが…」


「ああ、臭うだろう?だから…」


「…あっ兄の匂いに似てるんです!」


「は?」


 本当は兄の匂いなんかただ臭いだけだけどね!ジークフリード様とは、全然違うけど!

 でも、あなたの匂いが好きです。はあはあ。なんて出会って二日目のやつに言われたら引くよね。うん。私だったら全力で避けるよね。


「あの…だから、ちょっと安心するといいますか…ごめんなさい。」


兄の匂いなんて、嗅いでもむしろ、不快でしかないけどな。


 ジークフリード様は目を丸くして、驚いたような顔をしていた。

とても、可愛いです。頬が緩みそうになり思わず、下を向く。この世界って、スクリーンショット機能みたいな魔法ってないかな。ミシェルさんが国に留まっているうちに聞きに行こう、もしかしたら、異世界トリップの特典とかで、できるかもしれない。

 ジークフリード様から、くすっと笑い声が聞こえたかと思うと、頭に重みがかかった。そのままクシャっと髪の毛を乱すように、優しく撫でられた。思わず、顔を上げる。


「兄貴がいたのか?…そうか、一人で不安だったな。」


 優しい顔をして微笑むジークフリード様。


 ぎっ…ぎゃああ!!

お兄ちゃんモード、キター!リド君限定のお兄ちゃんスマイルを見せてくださるなんて!

兄よ、臭いとか言ってごめんなさい。あなたの存在のおかげで、乙女はジークフリード様のお兄ちゃんスマイルを拝むことができました。眼福です。


「オトメの兄貴に匂いが似ているんなら、別に汗の匂いじゃなくてもいいんじゃないか?」

「え…?」


 そういって使用済みタオルを私の腕から取り上げてしまう、ジークフリード様。

まさかの呼び捨てに一瞬意識が旅立ってました。乙女、一生の不覚です。明日にでも、またカイル君にって…それより、あれ、ジークフリード様が近いよ?背中にジークフリード様の腕が回っている気がするんだけど、気のせいだよね?私の視界がジークフリード様の肌でいっぱいになっているのですが…?これって鎖骨のあたりですか?え?


「普通にこうやって嗅げばいいだろ?」


 ジークフリード様に包まれるように抱き締められていた。

 言葉が出ない。乙女は言語機能が麻痺しているようだ。顔が赤いなんてものじゃない、沸騰しそうだ。抱きしめられたらいつものように、興奮して、はあはあするのかと思っていた。でも、これは…いつもと違う、興奮だけじゃない、苦しいし、恥ずかしい。なにこれ!?心臓がどくどくと鳴る。高鳴るなんてもんじゃない。動悸レベルだよ、これ。恥ずかしすぎて、匂いなんか嗅ぐ余裕ない。


「寂しかったら、二人の時は、お兄ちゃんって呼んでもいいぞ?」


 耳に直接、ジークフリード様の優しげな声がかかる。腰が砕けそうだ。口を開いても声は、出ない。逃げてしまいたくて、頭を少し捩った。

 視界が変わり、ちょうどジークフリード様のシャツから素肌がみえる。素晴らしい胸筋に…ん?ピンクの…ん?


「離してください!!ジークお兄ちゃん!!」


「おお?」


 ちょっと嬉しそうなジークフリード様を思いっきり押しのけ、鼻を抑える。


「落ち着いたかって…え?」


 鼻を抑えた指の隙間から、ポタポタと垂れる、赤い液体。


「ジークお兄ちゃんのっ…馬鹿!!!」


 私は客間から逃亡した。

 鼻血を垂らしながら。

 至近距離のジークフリード様の乳首は、乙女にはまだ早かったようです。 



 ▲


「マリアちゃん!プリムラちゃん!」


 通りがかったリリアさんに貰った(ジークお兄ちゃんがって言ったら、顔に投げつけられた)布で、未だ止まらない鼻血を抑えながら、マリアちゃんとプリムラちゃんがいる、マリアちゃんのお部屋へと駆けこむ。

 もう半べそ状態だ。抱き締められたのと、乳首の衝撃とで混乱している。


そして、気が付いてしまった一つの事実。


「まぁ、どうしましたの?オトメ?」

「うわぁ、なにそれ鼻血?まさかジーク見て、出したんじゃないでしょうね?」


 マリアちゃんが優しく顔を拭ってくれる。プリムラちゃんなんて露骨に嫌な顔して、近寄ろうともしないけど。なんて薄情なの。昨日までは、オトメお姉ちゃんって呼んでくれていたのに。自然体で行くことに決めたんですね。そうですか。


「あんた、ジークの半裸見て失神したんでしょ?変な被り物、被りながら。」


「うぅっ…変な被り物じゃないもん。私の相棒だもん。」


「ジークの半裸を…?失神ですの?」


「オトメは、ジークが好きなのよ。変態的に。裸見て、興奮しすぎて、気が飛んじゃったってワケ。」


「まあ!」


 プリムラちゃん、その場にいなかったよね?なんでそんなに的確なの?それでもって辛辣すぎないかなぁ。お姉さん、ただでさえ泣きそうなんだけど。

 でもっ、そんなことより言わなきゃ!


「…き…じゃないかもしれない。」


「はぁ?」


「ジークフリード様のことっ!好きじゃないかもしれない!」


「あら?」


 二人に目が覚めてからのことを話す。ジークお兄ちゃんの下りはあまり言いたくなかったんだけど、洗いざらい吐かされた。プリムラちゃんの恫喝交じりの誘導によって。

 マリアちゃんは頬を染めたりして、まぁ!とか、あら!とか可愛らしい声を上げていたけれど、使用済みタオルについて私が熱く語ったときは口を噤んでいた。なんで…?マリアちゃん欲しくないの?リド君の使用済みタオル。


「で?今の流れでどこに好きじゃないかもしれない要素があるのよ。私には、ただオトメがどれだけ変態的にジークを好きか、深めたくもない理解が深まっちゃったんだけど。」


「私も特に、気になるところはありませんでしたわ。」


「動悸が…。」


「動悸?」


「…ジークフリード様に抱きしめられたとき、動悸レベルで心臓がどくどくしていたの!それに胸も苦しくって、何にも考えられなくって…!抱き締められて、嬉しくて、興奮して、はあはあする筈なのに、恥ずかしくって仕方なくって…!!」


「へえ~?」


「あらまあ!」


プリムラちゃんの瞳が獲物を捕らえたときのように光る。え、それいいの?そんな顔していいの?今戦闘中じゃないよ?

 マリアちゃんは何か微笑ましいものを見るような表情だ。


「オトメ、もしかして今まで恋したことないの?」


「え…?うん…そうだけど。」


「それが本当に恋しちゃったってことですのよ?オトメ。」


「へ?」


 何を言っているの、マリアちゃん。


「だから、抱きしめられて、恥ずかしくって、苦しくなっちゃったんでしょう?混乱するくらいジークのことで、頭がいっぱいなんでしょう?初恋なんてそんなもんよ。」


「ふふ、私もリドに恋したって気が付いたときは同じでしたわ。頭の中がリドしか考えられませんの。世界だって救わなきゃいけないのに。」


 これが、本当の、初恋?

 ボロボロ涙があふれる。恋ってこんなに苦しいの?

 苦しいけれど、ジークフリード様に会いたい。


 泣き出した私を見てマリアちゃんがまた顔を拭ってくれる。プリムラちゃんも仕方ないわね、と笑って、ハーブティーを入れてくれた。



 藤村乙女、18歳。異世界二日目で、本当に恋をしたみたいです。








いろいろ詰め込んだ第6話でした。次はジーク視点です!

初恋の下りは、書いてて恥ずかしーってなっちゃいました。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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