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為せば成る。  作者: 水瀬まおり
藤村乙女の初恋
30/32

乙女、ドラゴンと出会う。

安定の乙女さんです。

 目が覚めた。

 まだ部屋の中は薄暗く。早朝のようだ。

 隣を見れば、ジークフリード様が寝ている。

 

 …当たり前だけど、睫毛まで銀色なんだよね…。肌も日本人にはない白さに、すっと通った鼻筋、薄く赤く色づく唇からは寝息が漏れている。本当にきれい。まるで人形みたいだ。


 腰にはジークフリード様の腕が巻き付いていた。すっかり熟睡しているせいか、少し私が身をよじれば簡単に腕が外れる。

 身体はさっぱりしているし…ジークフリード様がお風呂に入れてくれたのかな?

 水を飲もうと起き上がり、シーツを見て顔が赤くなった。


 赤く残る血痕。

 そうだよね…私。ジークフリード様に…。





 ん?

 血の位置がおかしい。

 なんで私の頭があった場所に血痕があるんだろう…?


 昨日のことを思い出してみよう。

 私がキスをしたら、ジークフリード様が狼化して、胸を…そのおさわりされて、すごく深いキスをされて…そこで私も脱がされて…、ジークフリード様もたいへん荒々しく服を脱ぎ捨てられて…。


 …あれ?その後ってどうしたっけ?

 やだ乙女ったら、ジークフリード様が情熱的過ぎて忘れているのかしら?

 全然思い出せない。

 それに、お股のところも全然痛くない…。


 …きっ、きっと興奮しすぎて記憶が飛んでるだけだよね?うふふ。きっと痛くないのもジークフリード様が優しくしてくださったからだよね?

 鏡に映った自分の姿が目に入る。

 そこには昨日より大人びた私が…。って。


「………は?」


 鼻にティッシュを突っ込まれている私がいた。




「……んん…?起きたのか?」


 後ろを振り向けば、まだ眠そうなジークフリード様が丁度ベットから体を起こしたところだった。

 寝癖のついた髪に、バスローブから覗く素肌が…じゃない。

 私は、ベッドまで戻り、ジークフリード様の前で、土下座した。


「ごめんなさいい!!!」


 私は荒々しく服を脱ぎ去ったジークフリード様とそのあと現れた裸体を拝んで、鼻血を噴いて失神したのだ。

 狼化したジークフリード様から放たれる色気は、鍛錬場の時の比ではなかった。

 しかも明らかに熱を孕んだギラギラとした眼差し…。私が耐えられるはずがなかったのである。


「…あれだけ煽られて、俺も興奮してたんだが…。」


「はい。」


「…服脱いで覆い被さったら、オトメが鼻血を噴きだして、俺の顔面にかかった。」


「はい。」


「二人とも血まみれで、仕方ないから失神した乙女を抱えて、俺は湯浴みをした。」


「ほんとにごめんなさいーーー!!」


 額がシーツに沈むくらいに、下げる。

 申し訳ない、本当に申し訳ない…。

 鼻血まみれにした挙句、お風呂にまで入れてもらっているなんて、なんちゅー女なのかな!?私は!

 土下座したままの私の頭にジークフリード様の手が置かれる。


「別に怒ってない。顔を上げてくれ。」


 恐る恐る顔を上げれば、ジークフリード様は目を細めて笑っていた。


「そんなに気を落とすな。……ゆっくり慣れていけばいいだろう?」


「…!」


 私の顔が真っ赤になる。

 ジークフリード様は笑って私の額に口づけをした。







 ▲



 一流ホテルのおいしい朝ごはんに舌鼓を打った私たちは、昨日ルビィちゃんに教えてもらった、空船乗り場に来ていた。

 ルセルニアには、その名の通り、空を飛ぶ船、空船というものがあるのだ。

 これも魔道具で作られているものだ。山に囲われているルセルニアには、これがないと流通に困ってしまうそうで古くから活用されてきたらしい。

 いま私たちが乗ろうとしているのは、観光客向けに改良されたもので、ルセルニア領土近辺の上空を回って、その後ドラゴンの里を観光できるらしい。


 そう、このドラゴンの里がメインイベントなのだ。

 物語にも出てきたけれど、この世界には人間、エルフ、獣人、魔族、だけではなく、ドラゴン族なるものも存在する。


 ドラゴンは普段は人間の姿になって生活をしていて、つい最近まではその素性はほとんどわからなかったんだよね。

 人間とはあまり交流をしてこなかったのだけれど、リド君たちに心を開いて、人間との交流を活発化させた。今のところはうまく関係を築いていて、お互いに経済的にも利益を生み出しているらしい。そしてここには、旅の途中、リド君たちと旅路を共にした、ドラゴン族の次期族長イアルさんがいるのだ。もしかしたらイアルさんにも、会えるかもしれない。

 

定刻となり、私とジークフリード様は空船に乗り込む。

 空船は、普通の船と同じような作りになっていて、甲板に出れば、落下防止のために結界が張られているが、遮りもなく、そのまま風を感じられるようになっていた。

 ふわりと船が浮く。独特の浮遊感のあと、見る見るうちに地面が離れていった。


「高いところは平気か?オトメ。」


「大丈夫です。元の世界にも高いところを飛ぶ乗り物があったんですよ?」


「そうなのか…オトメの世界は…カガクが発達しているんだったか?」


「そうです。魔法なしで鉄の塊が空を飛びます。」


「鉄の塊が…?魔法なしで?」


 ジークフリード様がなんだか難しい顔で考え始める。想像が全くつかないのだろう。首をかしげていた。


「ふふっ…私も原理がわかるわけではありませんけど、たくさんの技術が使われているんですよ。…いつか一緒にみられたらいいですね。」


「…あぁ、そうだな。」


 ジークフリード様が私の腰を引き寄せる。私も素直にジークフリードに凭れ掛かり、目下に広がるルセルニア領土の景色を楽しんでいた。



 昼食が船内で振る舞われた。空船名物、ドラゴンサンドの名前を聞いた時には戦慄した。どうやら、ドラゴンの形を模したハンバーガーみたいなもので、中身はドラゴンの肉ではないらしい。あからさまに固まった私をみて、実態を知っていたジークフリード様は、笑いをこらえていた。

 実際のドラゴンの肉は、硬くて食べられたものではないらしい。私が食べたことがあるのかと問えば、今度は声を上げて笑ってイアル君の情報だと教えてくれた。もう、ビックリしたよ…。


 ルセルニア上空も抜け、次はいよいよドラゴンの里、というところで、突然空船に警報が鳴り響いた。


「なに!?」


「オトメ、こっちへ来い!」


 ジークフリード様に捕まった途端、突風が吹き荒れる。

 足を必死に踏ん張る。気を抜けば転んでしまいそうだ。


 空船に大きな影がかかった。上を見上げれば、真っ青の巨大なドラゴンが飛んでいた。


「あれは…!」


「すごい!大きいドラゴン!!」


 ドラゴンが徐々に姿を変え、人の姿となっていく。

 そのままその人物は、軽やか甲板に着地した。


 深い青の髪に金色の瞳のイケメン。イアルさんだ!

 すごい…ドラゴンの姿、生で見てしまった…。


「よく知った魔力を感じたかと思ったら、お主か!ジーク!」


「イアル!久しぶりだ!」


「なんだ、リドたちは一緒ではないのか?……ん?お主は…。」


「ああ、聖女のオトメだ。オトメ、知っているか?ドラゴン族のイアルだ。」


「はじめまして。オトメと言います。イアルさん。」


 イアルさんが無言で私の手を引いたかと思うと、そのまま腰を抱き至近距離まで引き寄せられた。

 近い…。瞳をじっとのぞき込まれる。ジークフリード様以外にここまで近寄られたことがない私はドギマギしてしまう。


「なんと美しい瞳ではないか。それにとても愛らしい容姿をしておる。女神と見間違えたぞ?」


 あれ?口説かれてる?これ口説かれてるのかな?

 私が固まっていると、ジークフリード様が私とイアルさんを引き剥がした。


「ジーク、無粋なことをするでないぞ。……驚かせてしまったようだな。お詫びと言っては何だが、里につくまで、我の背に乗せてやろう。」


「なっ!?」


「え!いいんですか?」


 ドラゴンの背中に乗るなんて一生に一度の経験だよ!ぜひ乗りたい!

 ジークフリード様をちらりと見れば、何かを言いたげな顔をしている。


「ジークフリード様…、駄目ですか?」


「…いい。ただし俺も乗るからな。いいな?イアル。」


「はぁ?なぜ我がお主のような男を乗せてやらねばならんのだ。乗せるのは可愛いオトメだけだ。」


 ジークフリード様が珍しく頑なだった。

 私もジークフリード様がいたほうが安心なんだけど…。


「イアルさん、どうしてもだめですか?」


 イアルさんの服の裾をつかみ、上目遣いで見つめてそう言えば、イアルさんの頬がほんのりと色づく。


「……仕方がない。今回だけであるぞ?」


 イアルさんが手すりの欄干から身を投げ出すと、光が走った。次の瞬間には、ドラゴンの姿となり、空船の真横で飛んでいる。


「すごい、綺麗!!ドラゴンなんて初めて見ました!」


私が興奮気味に言えば、ドラゴンの姿となったイアルさんの瞳が嬉しそうに細められる。


『そうか、オトメは異界から来たのだったな。よいよい、存分に楽しめ。…ジークほれ。早くオトメを乗せてやらんか。』


「……オトメ。こい。」


 不服そうなジークフリード様だけれど、私を抱き上げると、そのまま高く跳躍し、イアルさんの頭の上に飛び乗った。 

 そして、一旦私をイアルさんの上に立たせると、ジークフリード様はその場に胡坐をかき、私の腕を引っ張る。私はそのままジークフリード様の腕の中に納まった。


「ジークフリード様?重くないのですか?」


「問題ない。軽いくらいだ。」


これでずっと飛ぶのかな…?私は特に問題ないけど、ジークフリード様の足が痺れるんじゃ…。


『ジーク、お主の尻の感覚しかせんではないか。…オトメを我の上に乗せろ。』


「断る。」


 え?お尻の感覚?そうか…感覚的には頭の上にいるんだもんね…。でもこんなに大きいのに、感触分かるものなんだぁ…。というかスケベだな。…そういえば、一緒に旅していた時もマリアちゃんのこと熱心に口説いてたっけ?プリムラちゃんは本性を知って止めてたけど…。


『チッ…。柔らかくもない男の尻を頭に乗せるなど、一生の恥だ。のう…オトメ。せめて優しくなでてくれぬか?飛ぶ気も失せる…。』


 まあせっかく乗せてもらっているので、大きな鱗をそっとなでる。

 すごい、ざらざらしてそうだけど、結構滑々してる…。

 熱心に私が撫でていると、気分がよくなったらしいイアルさんが大きく羽ばたく。


 ジークフリード様に抱えられながら、私たちはドラゴンの里へと向かったのだった。














最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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