乙女、聖女になる。
5/12 大幅に加筆修正しました。大まかな流れは変わりませんが、また再度楽しんでいただければ嬉しいです。
ミシェルさんに連れられて、謁見の間に入る。
たくさんの視線が私に、向いた。
見定めるような視線や、警戒を含んだ視線。ああ、緊張する…。そうだよね。聖女とか意味わからないよね。私も、訳が分からないよ!
でも、私は一般人なんです。殺気はやめてください。悪いことしませんし、できませんから。…泣くぞ。
頭は謁見の間に入ってから下げたままだ。国王陛下の御前へとむかう。
「面をあげよ。」
「はい。国王陛下。」
私がゆっくり顔を上げると、場内が騒めいた。
え…?なんですか?私、そんなに不細工でしょうか…?
「ほう…なんと美しい。」
玉座に座るのは、金髪碧眼の壮年だった。
高貴な方だと一目でわかるが、醸し出す雰囲気は、張り詰めたものではない。やはり親子とだけあって、マリアちゃんどことなく似ていた。
隣に控える女王陛下はマリアちゃんをそのまま大人にしたような方だ。マリアちゃん、美人になるね。
「私は、オトメと申します。魔力の泉にて、異世界より転移してきました。」
「ああ、大筋はマリアからきいている。」
手足が震える。
先ほどのあからさまな殺気はなくなったが、たくさんの視線が私に向いている。緊張するのには変わりないのだ。
こんなときは、ジークフリード様を思い出そう……いやん、違う意味で震えちゃう。
青くなったり赤くなったりする私を見て、国王が視線をふっと和らげた。
「こら、皆の者、いくら美しいからと言って、ぶしつけに視線を送るでない。聖女殿が怖がっているだろう。」
そう国王が言うと、一気に張りつめた空気が飛散した。
ナイスジョークです!国王様!
「すまないな、聖女殿。どうしても最近ピリピリしていたからか、皆、頭が固くなってしまっているんだ。」
大目に見てやってくれ。と私に、ウインクを寄越す。
おお、だいぶフランクですね、乙女は、やっと地に足が付きました。
「エルフ殿の話を聞いたかと思うが、あの伝説は、エルフの里、そして、各国の王族にのみ、伝えられる伝承だ。そなたがこちらに転移した状況や、魔術師殿の見解を聞く限り、そなたはおそらく、聖女で間違いはないだろう…。
だが、異界から来たとなにか証明できるものはあるか?」
「はい。陛下。私が元いた世界では、此度の勇者様一行の魔王退治のお話を英雄譚として、描いた書物がございます。
私が知り得ているのは丁度、今日までの出来事でありますが、勇者様御一行しか知り得ないことも、私にはおそらく答えられることがあるかと思います。」
殊更、ジークフリード様のことならなんでもね!!
いいですよ、陛下!なんでも質問してください!
「ほう…。英雄譚とな。だから出会った当初から、ジークフリードのことも、知っていたというわけか。」
「?はい。そうですが…」
陛下が、私とジークフリード様を交互に見やる。え、何ですか…?その生温かい視線。
「まあ良い。そなたが嘘をついているようには見えぬ。なによりその瞳が証拠だな。その色は、元からか?」
「瞳…ですか?」
「変わったのか。誰か鏡を。」
後ろで話を聞いていた、プリムラちゃんが手鏡を貸してくれる。
私は思わず息をのんだ。
瞳の色は日本人には普通の茶色だったはず。しかし鏡に映ったのは、七色の瞳。しかも光の加減によって色彩が変わり、ところどころ、金色に輝いている。
ここ、ラルズールでさえ、この瞳はおかしい。
たしか、保有する魔力の種類によって瞳の色に影響があったけれど、何種類かの魔力を使えても、瞳に現れるのは、一番適性の強い一色のみが常識だ。
七色の瞳なんて、元の世界はもちろん、この世界でもおそらく私しかいない…。これがトリップ特典ってやつですか?
「聖女殿の今後なのだが…、大前提として、聖女はいかなる理由であっても、その行動を、縛り付けることはできないとされている。」
驚いた。レイナークに留まることを強要されるかと思っていた。それでも私には問題はないけれど、聖女という安寧の象徴が聖女の意思ではなく、一国にとらわれてしまったら、それは戦争の火種になることを想定して、ということなのだろう。
チラリと陛下がジークフリード様に視線を遣る。一瞬ニヤッと笑った気がしたけれど、気のせい?
「我が国としては歓迎だ。しかし、その瞳ではおそらく街で暮らすのは、危険がある。今は魔王が齎した災害によって、賊も減ってはいるがまた次第に危険もあるだろう。行動の制限をするつもりはないが、民の混乱を避ける為にも、どうしても王宮に住んで貰う必要はある。」
王宮に、行動制限もなく住めるってこと…?ということは私の目的も問題なく、むしろ効率的に、果たせるってことだよね!!
「ご厚意感謝いたします。陛下。私も、レイナークに留まらせて頂きたいと考えておりました。」
「そうか。それは良い!」
陛下は嬉しそうに顔を綻ばせる。そんなに嬉しいのですか?あ、あれかなマリアちゃんのお友達としてかな。マリアちゃんのお友達少ないの気にしてたものね、陛下。
「ならば、我が国でも随一の安全な場所に住まいを用意しよう!」
「はい?」
「オトメ殿は、南の塔に住まわせる。」
傍にいた、ジークフリード様がビクッと跳ねたのが気になったけれど、南の塔と言われてもピンとこない私は是と返事をした。
▲
俺は頭が狂ってしまったのだろうか。
湯浴みを済ませて、王宮の客間のベッドに身体を投げ出した。
国王陛下への報告と謁見を終え、夜まで空き時間となった。夜には国王陛下の計らいで、食事会を行ってくれるらしい。
今晩は客間の一室を借りることなったから、少し眠るつもりだった。が、眠れる気がしない。
二年間の旅路を思い返す。けして楽ではなく、苦しい戦いもあった。感慨深くもあり、気も緩むはずだ。それなのに、今の俺の頭を埋め尽くすのは、オトメ殿のことだ。
謁見を待っている間、彼女は泣くことを我慢していた。
まだ若いだろうに、異界に一人で放り出されてしまったのだ。しかも自分のこれからの待遇が決まる場面だ。気丈に振る舞うように見えたが、不安や恐怖をずっと抱えていたのだろう。
謁見の間でも、ぶしつけな視線に震えていた。殺気を飛ばしている奴は、斬り捨ててやろうとも思ったが…。
クッションを必死に握りしめ、こらえる彼女に、思わず触れてしまった。
そして彼女も俺の手に縋って泣いてくれた。
彼女が抱きしめるように縋っていた、俺の手を見つめる。
それはいいのだ。何ら問題はない。
問題があるのは俺だ。
ただ手が、偶然に彼女の胸に触れていただけだである。
それだけだ。それなのに、ふにゃりと柔らかい胸の感触が消えてくれない。
頭に浮かぶのは、泣き顔を見せまいとしたのだろう、握りしめたクッションの隙間から見えた、あの表情。
真っ赤に上気した頬。堪えるように噛みしめた震える唇が、少しだけ見えた。そしてなにより、涙の膜をはった瞳は、鮮やかな色が混ざった、美しい色合いで、きらきらと輝いていた。あまりにも綺麗なものだから、こぼれる涙まで、宝石のようだった。
オトメ殿に触れていた手を、力強く握りしめる。
思えば、出会った頃からオトメ殿をみると、うまく言葉が出なくなるし、顔にも熱が篭る。そして動悸、息切れ…何か魔族の呪いを受けたのだろうか。
女性経験がなかったわけではないが、こんなこと、他の女にはなったことはない。
しかも国王陛下が南の塔にオトメ殿を住まわせるとのことだった。
南の塔といえば、騎士団の幹部クラスが下層に住まう塔だ。統括に、師団長達、そして副師団長である俺も、本来はそこに部屋がある。確かに安全ではあるが…。
オトメ殿と同じ居住区に住まうということは、吝かではない。
問題はすべて俺なのだ。南の塔は、騎士団の本部や、鍛錬所の目と鼻の距離である。必然的に、会う機会は増えるだろう。その度に、この症状を出していては、職務に支障が出るかもしれないのだ。
…原因をミシェルにでも調べてもらおう!善は急げだ。確かミシェルは隣室だったはず。
俺はすぐさま起き上がり、隣の部屋をノックする。
「何の用ですか?ジーク。私は休んでいたのですが。」
ややあって、ミシェルがのそりと顔を出す。
本当に休んでいたのだろう。髪は乱れ、半眼気味だ。眼鏡もかけていない。
「すまない。だが相談がある。俺はもしかしたら、魔族の呪いをかけられているのかもしれない…。」
「…いささか私たちには、心当たりが多すぎますね。いいでしょう、部屋に入ってください。」
真剣な表情になったミシェルに続き、客間のソファーに腰掛けた。
「症状は何かありますか?どこか痛むところは?」
「いや、痛みは特にないが…」
「呪術の文様などは身体に出ていませんか?」
「いや…それもない。ただ、オトメ殿をみると、動悸、息切れ、体温の上昇、ひどいときには眩暈もする。」
「は?」
ミシェルが目を見開いて、俺に視線を寄越す。
「ミシェルも見ただろう。…俺は、オトメ殿に手を握られただけで、大慌てだった。聖女を見ると体に異常をきたすような呪いを魔王にかけられているかもしれない。このままでは彼女と会う度に、この症状に襲われ、まともに会話さえできないだろう。……ミシェル、解呪できるか?」
「ジーク、あなたそれが本当に呪いだと…?」
「ああ。呪い以外のなんだというんだ。」
「まさか…あなたその顔で、初恋も「その呪いの解呪、俺が協力してやるよ!!」
ミシェルが何かを言いかけた瞬間、ドアが勢いよく開かれ、リドが現れた。
「リド、あなたいつからそこにいたのです?」
「なに!!ジークが俺に気が付かず、顔を青くしてミシェルの部屋に入った時からだな!」
「最初からじゃないですか。あなたが絡むと面倒くさいので、さっさと出て行ってくださいませんか?」
「酷いじゃないか!二年間も寝食を共にしてきたのに!」
「だからですよ。」
リド、それは俺も同意だ。お前が絡むと大体は、ひと悶着あるのだ。
「俺もその呪いには心当たりがあるんだ。そして治す方法も知っている。」
「……本当か?リド?」
「ああ、ジークは俺の兄貴だろ?全力で協力するぜ!」
ミシェルは胡散臭げにリドを見ているが、一応は、話を聞く気はあるらしい。
「まずは、プリムラあたりに頼んで、オトメを呼び出してもらい、女の好きそうな場所で、尚且つ二人きりになれる場所に連れていく。綺麗な景色とか、花がたくさん咲いてる場所とかな。」
「ああ。」
真剣な顔で、話し始めたリド。俺も真剣に耳を傾ける。
「持ち物として、大きな敷布を持っていくことは忘れるなよ?二人きりになったら、敷布を広げて、座る。まずは会話をするんだ。」
「ふむ。」
ミシェルも真剣に話すリドが珍しいのか、相槌を打っている。珍しいな。普段は重要な話以外には、反応さえしないのに。
「会話が盛り上がってひと段落ついたら、さりげなく肩を抱いたり、手に触ったりするんだ。」
「肩を抱く…?手を触る…?」
「ああ、それで、オトメが嫌がらなかったら、抱き寄せて、耳元で囁いてやる。」
「は?」
「オトメ、俺のものに『ゴスッ!!』っいっで!!」
鈍い音が響く。ロッドで、ミシェルがリドを思いきり殴った。
「真面目に聞いた私がバカでした。今のあなたの言動はマリアに報告させていただきます。」
「ちょっ!やめてくれ!!マリアには!」
「いえ、一字一句余すことなく報告させていただきます。」
ミシェルはリドの今の発言を、魔術で記録していたらしい。強制的に転移の陣を発動し、音声記録とともにマリアのところへ送りつけた。
顔面蒼白で転送されるリド。何が言いたかったのか、よく分からなかったが、同情する必要はないらしい。
ミシェルの形相が、それを物語っている。
「今のリドの発言は忘れなさい。」
「あぁ。」
「ひとつ言っておきますが、あなたのそれは、呪いでもなんでもありません。」
呪いじゃない…?だと?
「まずはオトメと向き合い、オトメのことをよく知ることです。」
「向き合う…」
「それだけです。こどもじゃないんですから、それくらいやってください。以上。」
それだけミシェルはいうと、俺も部屋の外に放り出された。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。