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為せば成る。  作者: 水瀬まおり
藤村乙女の初恋
28/32

乙女、嫉妬する。

少し痛々しい表現があります。苦手な方は注意です。

 

 私とジークフリード様は、ルビィちゃんを待つため、お店にいた。

 先ほど撮った写真は、可愛いフレームに入れられて渡された。

 寄り添う私とジークフリード様。ジークフリード様はちょっと恥ずかしそうだけど、はにかんでくれいている。

 私も笑っていた…。よかった笑えていて。


 今まで忘れていたのだ。

ジークフリード様を思っているのは、私だけではない。

 ジークフリード様はかっこいい。それに頭もいいし、将来だって有望だ。おまけに魔王を倒したうちの一人だ。

 こんな素敵な人が放って置かれるわけがない。おかれた環境がラッキーすぎて忘れてたのかな…。


「オトメ…どうかしたか?」


「へ?あ、大丈夫です!」


 ダメダメ、乙女、こんなところでへこむな!


「さっきの獣人のルビィだが、もしかしてオトメは、ルビィのことも知って「お待たせぇー!」


 ルビィちゃんが休憩に入ったのか、こちらに元気にかけてくる。

 オレンジ色のショートヘアの可愛い女の子だ。


「さっきはほんとにびっくりしちゃったよ!まさかこんなところで再会するなんて!」


「ああ、俺も驚いた。ルビィ、こちらは…。」


「知ってる知ってる!超有名人じゃん!聖女様ですよね?私、クチンの獣人のルビィって言います!」


「私はオトメ。普通にオトメって呼んで?」


 私が笑えば、ルビィちゃんが目を見開く。


「わぁわぁ!めちゃくちゃ美人!映像でみるより、超かわいい!オトメちゃんってよぶね?よろしく!」


 ぎゅうっと私に抱き着いてくる、ルビィちゃん。

 わぉ…。ルビィちゃん、お胸が大きいね。


 獣人族はスキンシップが激しいことでも知られている、彼らにとっては抱き着くのは挨拶なんだけど…。

 我儘だけど、ジークフリード様に抱き着くのはやめて欲しい。…ジークフリード様も黙ってやらせてるし。

 …やっぱり乳なのか!?乳が大きいからなの!?


「なんでルセルニアのこんなとこにいるの?やっぱり聖女様だから、ジークが護衛してるの?」


「違う。俺とオトメは旅行中だ。」


「えぇ?二人で?あ、そっか!お城には、ミシェルもお仕事があるから二人でここに観光に来たんでしょ?なんだぁ、ミシェルにも会いたかったなあ!リドやマリアは元気?プリムラはまだレイナークにいるの??なーあのあとね…!」


 

 ツキンと、胸が痛んだ。

 私が知り得ない話だった。二人は楽しそうに会話をしている。

 …あれ、レイナークにいるとき皆はそういった思い出話をすることはなかったよね。皆私に気を遣ってくれていたの?

 そう思った途端、私の足元が崩れていくような気がした。


「オトメ……?」


 ジークフリード様が心配そうに私を見ている。

 ルビィちゃんも私のことを見つめている。その顔は何を考えているのか分からなかった。


「だっ大丈夫!!すみません、ぼーっとしちゃって。」


 とっさに笑顔を作る。


「体調が悪ければ、早めにホテルに戻るか?」


「平気です!せっかくルビィちゃんに会えたんですから、積もる話もあるだろうし…ちょっと私はお手洗い行ってきますね!」


「オトメ!?一人では…!」


 私は足早に、その場を後にした。

 お手洗いを通り過ぎ、入り組んだ路地を闇雲に走る。

 疲れたところで、建物の陰に隠れて座り込んだ。


 ジークフリード様とルビィちゃんが思い出話をするのを見て、汚い感情が沸き起こる。


 というか、ジークフリード様も、仮にも自分に告白した子に抱きつかれるのを許すなんて…。ジークフリード様は私だけのものじゃない…分かっているけど。


 ジークフリード様が、皆が、私の元から去ってしまった時、私はこの世界で一人きりになってしまう…。兄くらいしか頼れる人がいなくなる。

 異世界に来たことを私ははじめて痛感したのかもしれない。



「オトメちゃん!!」


「……ルビィちゃん?」


 ルビィちゃんが息を切らしていた。


「駄目だよ!こんなところにいたら!この辺りはパークの近くといっても、あんまり治安が良くないんだよ。獣人の人攫いだっていっぱいいるんだから。ジークが心配して探してるよ?早くもどろう!」


「ルビィちゃん…どうして?」


 我ながら結構めちゃくちゃに道を進んだはず…。


「そんなの決まってるじゃん、私、獣人だし鼻が利くんだよ?さ、早く戻ろ!」


「おっ…そっちの嬢ちゃんが、獣人か!」


 突然誰かの声がした。


「へへっ…獣人とえらい上玉の嬢ちゃんだなぁ…。高く売れそうだ。」


 三人の男たちが行く手を阻むように、立ち塞がる。

 成金趣味のような服を纏い、腰には剣を携えている。

 私とルビィちゃんに向ける視線は値踏みをするようだ。

 …気持ち悪い。


「へへっ…若い獣人でしかもクチンと来たか。こりゃあいい。それに綺麗な瞳の嬢ちゃんだ。お前も高く売れそうだなぁ…。」


 売るって…この人たちもしかして、奴隷商人…?


 この世界の一部の国では、まだ奴隷文化の残る国がある。

 ルセルニアはユリウス陛下の代になってから、奴隷制度を廃止しているし、奴隷商人たちを厳しく取り締まっているはず…。ということは、他の国から密入国した商人ってこと…?


「最近は、あの国王のせいで商売上がったりだからな…こんな上玉逃がさねえぜ?ほら痛い思いしたくなけりゃ、大人しくこっちに来い。」


 男が刃物をちらつかせながら、こちらによって来る。

 ルビィちゃんは怯えて震えてしまっている。

 ごめんね、ルビィちゃん、私がこんなところに来たばかりに…!私は、ルビィちゃんを背に庇った。


「オトメちゃん…?!」


「ルビィちゃん、獣型になれるよね…?私が注意を引き付けるから、その内にジークフリード様を呼んできて。」


「そんな!オトメちゃん…!危ないよ!」


「大丈夫。私これでも強いんだよ?」


「なにぶつくさ言ってるんだよ!さっさとこっちに来いよ!」


 イラついた様子の一人がこちらに近寄ってくる。


「おい、大事な商品に傷つけるなよ!」

「ちょっと味見しちゃえよ!ギャハハ!」


 汚らしい笑い声をあげて、こちらを見物している二人。

 味見?ふざけんな。


 私は、その男の鳩尾に拳を入れた。男が衝撃に蹲ったところで、躊躇なくこめかみを蹴り上げる。

 壁に向かって吹っ飛ぶ男。意識が飛んだのか、ビクともしない。

 男たちの仲間は茫然としていた。


「なんだお前はッ…!?」


「ルビィちゃん、早く行って!!」


 後ろで小さい何かが走っていく気配がした。ルビィちゃんが獣型になって走っていったのだろう。

 ここには私一人だ。


「この野郎…!」


 もう一人の男が剣を抜いて切りかかってくる。私は、倒れた男の腰から、剣を鞘ごと抜き、そのがら空きの脇腹に向かって、思い切りフルスイングした。

 体格が良いからか、よろけるだけに留まった男。しかし動きを止めるには十分だった。私はその隙を見逃さずに、男の急所に向けて、剣を振り上げる。

 何かが潰れた感触のあと、泡を吹いて男が倒れた。


「お前…!何者だよ!?国王の密偵か!?」


 最後に残った男が明らかにおびえた様子でこちらを見ている。私が行き止まりに追いつめているため、逃げ場はない。


「聖女様です。」


「聖女だと…?お前みたいなのが?…確かに似ているとは思ったが、レイナークにいるんじゃなかったのか!?」


「諸事情で。というか私を知っているってことはご存知ですよね?『聖女及びその力を争いに利用するものは例外なく罰される。』

これは、世界的に定められたものです。あなたが私を連れ去り、仮に私の力や肩書を利用とするならば……ね?覚悟して下さいね。」


「聖女だって知らなかったんだ!!待ってくれよ!」


「そんなの知りませんよ。あなた達みたいな変質者、私、大嫌いなんですよ。」


 くるくると剣を回しながら近づく。

 気分は女王様。先ほどの出来事もあって乙女は大変ささくれ立っているのです。

 元の世界でもあまりに何回も来る奴には、不能にしてあげてたし…。何度かそれで、過剰防衛に引っかかりかけたけど。…でも、こいつら奴隷商人だし。不能にしてあげた方がいいよね?


「大変ラッキーなことに、私は今、ものすごく頭に来てるので、私の足で直接踏み潰して差し上げます。」


「へ?な…にを?」


「不能にして差し上げます。あなたのその機能なんて誰にも必要とされないでしょう?喜んでください。私の足、国王陛下もお気に入りなんですよ?」


 男はもう腰が立たないようだった。

 思い切り足を振り上げる。その男の股間めがけて振り下ろそうとしたときーーーー。


 誰かに、後ろから抱きすくめられた。

 大好きな匂いがする。


「止めないでください。私今、すごくイライラしてるんです。」


「やめておけ。…オトメの綺麗な足が汚れてしまうだろ?」


 私を正面から抱き寄せようとするジークフリード様。

 私は気分が落ち着かなくて、それから逃げた。


「…お前は勇ましすぎるぞ。男を三人も伸してしまうなんて…怪我をしたらどうするんだ。」


「……慣れてますから怪我なんてしません。」


 手に持っていた剣を、腰が抜けて動けない商人の男の股間スレスレに投げつける。ヒッと声をあげて男は気絶した。…チッ。根性なしめ。


「…オトメ、俺に怒っているのか?」


「…怒ってません。」


「…怒ってる。もしかして、ルビィのこと、知っているのか…?」


「……知っています。告白…されたんですよね?」


「ああ。だが俺はオトメしか見ていない。」


 どうしてそんな真っ直ぐ私を見ていうの?

 …好きって言ってくれないくせに。



「大丈夫ですか?オトメ。ジーク。」


「怪我は…って。もうジークが伸したか。」


 ミシェル先生と何故かユリウス陛下が何人かの騎士を連れてやって来る。ルビィちゃんも一緒だ。


「違うよ!オトメちゃんが倒しちゃったんだよ!すっごく強くて格好良かったんだよ??」


「何を言っているのですか…まさか…三人を?」


 私の蹴りやら拳やらを思い出したのか、ミシェル先生が、私に目を向ける。



「…だって、襲って来ましたし。」


「…全員昏倒してますが。」


「…正当防衛を「オトメちゃん凄かったんだよ?私を背に庇って、鳩尾に一発入れて、そのあと頭が足のところにきたからって邪魔って感じでこめかみにもひと蹴り!!すごいかっこよかったぁ…!」」


私をなんとも言えない目で見るミシェル先生と陛下。

ジークフリード様はそんなに鮮やかだったのか…って。


それより、ルビィちゃん、どうしてそんなに瞳をキラキラさせて、私の腕に絡みついてるのかな?お姉さんの腕に絡みついて、腰に尻尾をすりすりってそれ、獣人の求愛行動じゃなかった?



「私…オトメちゃんのこと好きになっちゃったかも!」




…私のシリアスを返せ!!






オトメちゃん、強おい。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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