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為せば成る。  作者: 水瀬まおり
藤村乙女の初恋
21/32

乙女、再会を果たす。

本日二話目の更新です。どうぞ。

 

 夜会から一晩開けて、早朝。

 私は騎士団の建物の地下にある、牢獄にいた。

 早朝にもかかわらず、リド君達全員が付き添ってくれている。

 …大丈夫だといったのだけれど、みんな優しいなあ。


 騎士団の地下の牢獄は、一時的に罪人を拘留するための施設らしい。

 心配そうな顔つきで皆が私を見ている。皆の制止を振り切りここへ来たのだ。下手なことは言えない。

 その姿を見るまでは…。


「入るぞ。」


 ジークフリード様が牢獄の扉を開ける。

 そこには…。


「兄ちゃん、きれーな顔してんなあ…!へっへっへ。おっさんと遊んでくれねえか?」


「ひええ!やめて!俺に乱暴するつもりでしょう!?エロ同人みたいに!!」


 強面のオジサンに押し倒されている兄がいた。

 私は扉を閉めた。


「すみません。人違いだったみたいなので、煮るなり焼くなりなん「きゃあああ!犯されちゃう!助けて乙女!!」


「うるさいよ!!!」


 扉を開けて、牢獄に足を踏み入れる。

 ジークフリード様が我に返ったように私を止めようとしたが、私は構わず、オジサンと戯れている兄のもとへ行く。


「ちょっと。なにやってるの。」


「あ、乙女。久しぶりだね。」


「お、えらいきれいな嬢ちゃんだな。ほれ混ぜてやろう「触らないで。」


 私は躊躇いなく、私の足首を掴もうとしたオジサンの米神を思いきり蹴り飛ばした。

 兄の上から吹っ飛ぶオジサン。意識はない。クリーンヒットだ。

 背後の皆が固まっているのが分かったけど、それより目の前のこの馬鹿だ。


「乙女、相変わらず容赦ないなぁ。」


「…なんでここにいるの、兄。」


「それはお兄ちゃんが聞きたい。」


「え…?オトメ、そいつもしかして。」


 リド君が恐る恐る兄を指さす。


「あ、妹がいつもお世話になってます。乙女の兄の優作です。昨日はなんだかドタバタしちゃってすみません。」


「はああああ!?」


 狭い牢獄にみんなの声が反響した。




 ▲



 身元が判明した兄は牢獄から出された。

 今は騎士団の会議室を借りて、兄の話を聞くため、みんながテーブルを囲んでいる。

 兄はなんだかボロボロだった。見かねたジークフリード様が湯浴みと着替えをするように言ったらしい。今はすっかり小奇麗になっている。

 ちなみに兄が着ているのはジークフリード様のシャツだ。サイズが丁度合ったから借りたといっていけど…羨ましい。すごい羨ましい。

 軽く自己紹介を終えたところで兄が話し出す。


「乙女、元気だった?お前が目の前で消えたときは、さすがに肝が冷えたよ。今は聖女やってるんだろう?」


「…何で知ってるの?」


「いやー、これが不思議なものでね。乙女が最後に手に持っていた漫画本が、全部のページが白紙になっていたんだ。消えて、十日くらい経った時かな?乙女の様子が漫画みたいに浮かび上がってきたんだよ。」


「私のこの世界に来てからのことが、漫画になって、元の世界の本に浮き上がっているってこと?」


「全部事細かに描かれているわけじゃないんだろうけど…。そういうことだね。」


 どうやらとてもファンタジーなことが起こっているらしい。いや、私がここにいること自体がそうなんだけれど。

 私がここに来てから…ってまさかジークフリード様とのあれこれまで描かれてる…?


「兄は…どこまで知ってるの?」


 動揺する気持ちを隠し、冷静に兄に問う。


「乙女が、魔力の泉に突然現れたこととか、あと変な被り物かぶって失神したりとか、魔法使って暴発とか?それに、そこの騎士君といちゃついているところとかかな。喜びなよ。どうしてか、その漫画は乙女視点の少女漫画仕様でね…。」


 少女漫画…?え?どういうこと。

 兄はにんまりと笑う。


「乙女が騎士君とイチャついているときの心境が、ガッツリ描写されているよ。」


 私は絶句した。

 それはつまり、私がジークフリード様に抱き締められてしまった時とか、恋心を自覚してしまった時とか、…心内を兄に全部読まれていたってこと!?

 黙って話を聞いていたジークフリード様が、そわそわし始める。気になるんですか。お兄ちゃんだなんて思っていないからね。



「ちなみに父さんと母さんも読んでいる。」


「いやあああ!」


「父さんが泣いてたねぇ。母さんはニヤニヤしながら見てたけど。」


 どういう羞恥プレイなの!?娘の恋が親にも筒抜けどころか、丸裸で見られてたってこと!?

 私がテーブルに突っ伏し泣き出すと、マリアちゃんがなんだかわからない様子で背中をさすってくれた。ありがとうマリアちゃん。


「その、ユーサク?俺たちにはさっぱり分からない事がありすぎるんだけど、オトメのようにユーサクも突然ここに来てしまったってことなのか?」


 リド君が切り出すと兄は急にめそめそと泣き出した。


「そうなんだ…。しかも俺は、乙女とは違って、突然草原の上に一人投げ出されて…二日間モンスターと一人で戦ったんだ。腹が減って死にかけたところを、通りがかった優しい商人に助けてもらって、積み荷の護衛をしながら王都まで乗っけてもらったんだよ。」


 どうやらなかなかに過酷な旅をしたらしい。

 だからボロボロだったんだね。


「それで王都についたのが、昨日の昼間。なんかお祭り騒ぎだし、とりあえず乙女が王宮にいるのは分かったから、乙女と接触しようと思ったんだけど、聖女とかなんか訳分からないモノになってるから、普通に会えないだろうし…。だから夜会に侵入したのさ。…まさか、妹のキスシーンを目撃するなんて思わなかったけどね。」


「ちょっと兄!」


「乙女があんなとこでキスしてんのが悪いんだろ?おにーちゃんの複雑な気持ちを察しなさい。」


 顔が真っ赤になる。ジークフリード様も赤くなり視線を彷徨わせていた。

 リド君とミシェル先生は面白いようなものを見る目でこちらを見ているし、マリアちゃんとプリムラちゃんは私が兄に掴みかかろうとするのを抑えている。


「あなた方のいた世界は、この世界のように戦いや魔法とは無縁の世界と聞いています。ですが昨晩、あなたは勇者のリドと騎士のジークを二人相手に互角以上でした。しかもオトメを抱えていたにも関わらず…です。それに城の警備は一般人がそう易々と侵入できるようなものではありません。どういうことでしょうか?」


 ミシェル先生が兄へ尋ねる。


「多分オトメがこの世界に来て、魔法を使えるようになったのと同じで、俺は急に身体能力が上がってる。元々競技として、剣をやっていたんだ。魔法は多分、闇属性の魔法が使える。忍者みたいにって言ってもわからないか…。とにかく魔法を使って、気配を消して闇に紛れて侵入したよ。」


「ふむ。そういうことですか。…ではオトメもなにか競技をしていたのですか?」


「そうですわ、オトメ。先ほど思いきり罪人の頭を蹴り飛ばしていたでしょう?吃驚しましたわ。」


 ああ、そうだ。こっちで身の危険を感じることなんてなかったから、久々だった。


「ああ、オトメはこんな見た目だろう?小さいころから誘拐されかけたり、変質者に付きまとわれたり、もう日常茶飯事で。それで護身術とか習ったんだよね。人の急所は躊躇なく蹴り飛ばすくらいには動けるよ?」 


 兄がそういえば、皆が固まる。

 最初のうちは私も怖くて、毎回泣いていたけど、段々慣れてきたらもう無表情で蹴り飛ばせるようになったよね。ああ、またかって感じで。慣れって怖い。


「……誘拐?…変質者が日常茶飯事…?…やはりオトメは俺が…」


 ジークフリード様が何事か呟いている。お兄ちゃんモードは健在なのかな。…はあ。


 一先ず兄は、国王陛下にこれからの処遇を聞き、その解答を待つことになった。それまではどうやら騎士団の方で預かってくれるらしい。

 兄はリド君にポツポツ質問していたが、逆に今は質問攻めにされている。どうやらリド君は、剣道に興味津々だそうだ。


 そういえばプリムラちゃんがまったく口を開かない。どうしたんだろう。

 隣に座るプリムラちゃんを見るとどこか疲れている様子だった。


「……どうしたの?プリムラちゃ「プリムラ様!!」


 兄が突然叫んだ。目にもとまらぬ速さでプリムラちゃんの傍に跪く。


「昨晩は、最高でした…ッ!また思いきり踏みつけてください!」


 兄の顔は紅潮し、目は潤んでいる。

 プリムラちゃんの顔が思いっきり引き攣った。

 周りの皆も何とも見えないような表情でそれを見ている。

 …え?私が失神している間にいったい何があったの…?


「気持ち悪い!!いやよ!」


「気持ち悪いだなんてそんな…なんていい響き。」


「ひっ!ちょっと何とかしてよオトメ!昨日も突然罵ってとか言い出して、邪魔だから踏んづけたらこれよ!」


 プリムラちゃんに気持ち悪いといわれて、恍惚とした表情を浮かべる兄。

 プリムラちゃんは本気で嫌がっている、そして少しおびえている。


「兄。プリムラちゃんに本気で嫌われるよ。怖がってるって。」


「っは…俺としたことが。」


「ごめんね。プリムラちゃん。この人、プリムラちゃんのファンで…。なんか変なことしたら気を失うくらいに蹴り飛ばしていいからね?」


「ファン!?あんたたち兄妹どうなってんのよ!?」


 …さすがに私には被虐趣味はないよ?匂いフェチではあるけど。

 プリムラちゃんが怒鳴ったところで、兄が跪いたままプリムラちゃんの手を取り、握りしめた。


「あとから二人きりで、ゆっくりじっくり踏みつけてね?」


「なんなのこいつ!」


 妙に色気のある顔でプリムラちゃんに迫る兄。

 見た目、立派な犯罪者だよ。やっぱり牢獄に入ってた方がいいんじゃない?


「あ、あとジーク君。」


 私が遠い目をしていると、兄が急にジークフリード様に話しかける。

 その声色は急に真剣みを帯びていた。


「乙女のお兄ちゃんは俺だから。」


 その場の空気が固まる。


「昨日の式典の様子も小耳にはさんだけれど、ずいぶん仲睦まじい様子だったみたいだね。でも昨日の夜の乙女からはとてもそんな様子には見えないんだけど、どういうことかな?」


「…やめて。」


「妹じゃないだろ?昨日の乙女はお兄ちゃん目線から見てもとっても綺麗だったよ。君はあんな乙女を見ても妹として見ているのかな?」


「……やめて…よ。」


「君に妹はあげない。乙女を泣かせるような君には任せられない。どんなに時間がかかっても、あちらの世界に連れて帰「やめてってば!!!」


 私は兄の鳩尾を思いきり殴った。

 拳で。


「ほう…腕力もなかなか。」


 リド君やマリアちゃんはもう開いた口が塞がらないらしい。ミシェル先生だけが冷静に私の身体能力を分析している。

 兄がその場に蹲る。そのまましばらくは動けないだろう。

 兄の隣にいたプリムラちゃんがさすがに心配しているのか、私と兄を見て珍しくおろおろしている。


 私はジークフリード様を見た。

 呆然とするジークフリード様…。ごめんなさい、そんな顔してほしいわけじゃないのに。


「ごめんなさい。ジークフリード様。今のは気にしないでください!……あと、昨日のことも忘れてください。」


 私は精一杯の笑顔で、ジークフリード様にそう伝えたのだ。












シリアスが続いています。

コメディに早く戻りたいです。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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