乙女、勇者一行と出会う。
5/12 大まかな流れは変わりませんが、文章にたくさん修正を入れました。
読みやすくなったかとは思いますが…。
「ジークフリード…さま?」
目を開けたら、視界がジークフリード様の麗しいお顔でいっぱいでした。
私、こんなポスター持ってたっけ?
紫のアメジストのような瞳が、まっすぐに私を射抜く。うひゃあ、本当に見つめ合っているみたい。精巧すぎるこのポスター。
銀色の長い髪が、一房、私の顔に垂れる。擽ったい。私は頬を緩ませながら、指先でその髪を梳いた。
…ん?…梳いた?ジークフリード様の髪に、私触ってる?
え?瞬きしたよ?あれ、私もしかしなくても、抱きあげられてる?
「…立てるか?降ろしても?」
「(ぎょええ!喋った!)だっ大丈夫です!すみません、重いですよね、すぐ降ります!」
「いやっ!重いなど…」
ジークフリード様に降ろしてもらい、恐る恐る、つま先からゆっくりと地面を踏みしめていく。両足が地面につくと足元から一瞬、七色の光が溢れ、身体に何かが流れ込んでくるのを感じた。
これが魔力ってやつかな。気が付けば、見覚えのない綺麗な白いワンピースに、白いサンダルのような靴を履いている。…凄い高級そうだけど、元いた世界で来ていたら、間違いなくコスプレだ。
周りを見ると、ジークフリード様だけではなく、リド君やマリアちゃん、プリムラちゃんにミシェルさんまで、パーティーが勢ぞろいだった。
兄よ…!乙女は成し遂げました!!
異世界トリップ、してしまったようです!
興奮する気持ちを抑え、辺りを見渡す。
少し離れたところに、泉が見えた。あれは、魔力の泉かな?
この場所にいる、ということは、今はもう魔王を倒し終えたところ…?まさか、もう終わり間際じゃないですか!
忙しなく視線を動かしていると、リド君が人懐こい笑顔を浮かべ、マリアちゃんを連れて、こちらに近づいてきた。
茶色のサラサラの髪に、緑の瞳、とてもイケメンですね、リド君。わんこ系ってやつですか?
マリアちゃんなんて、ふわふわの金髪に、青空みたいな水色の瞳。どこからどうみても、可愛らしいお姫様です。…この世界は顔面偏差値がどうなっているのかな。
「俺はリド。で、こっちがマリア。そこにいる小さい女の子がプリムラで、あっちがミシェルだ。ジークは知ってるんだな?」
「はい。」
ジークフリード様どころか、皆様知っているけどね。
「どうして俺の名前を知っている?どこかで会ったことが…あるのか?」
どう答えればいいのか。異世界から来た、とか言ったら完璧頭がおかしい人だ。いや事実だけれども。できちゃったんだけど!
「どこからか召喚されたのではないですか?」
ミシェルさんが優しく話しかけてくれる。混乱していると思われているようだ。
ミシェルさんは水色の髪に、濃紺の瞳を持つ、眼鏡をかけたお兄さん。分かってはいたけれど、やっぱりイケメンですね。
「出身はどちらですか?一度は耳に挟んだことはあるかと思いますが、私たちは世界で起きた災害を止めるために、旅をしておりました。ここは魔力の泉がある特別な場所。先ほど私たちは魔王を打ち、魔力の流れを整えたところです。あなたの身体には、泉に流れているものと非常によく似た、純度の高い魔力が宿っています。何か体に違和感はありませんか?」
「違和感…ではありませんが、身体に流れているものは感じ取れます。あと地面にも、なにか流れを感じています。」
「ふむ…魔力の流れを感じ取れるのですか?魔術師の訓練を受けたことは?」
「いえ…」
やっぱりこれ、魔力だったのか。
「なんと勿体ないことを。…まぁそれはともかく、おそらく私たちが魔力の流れを整えたことで、何らかの形であなたに召喚の魔法陣が働き、ここに飛ばされてしまったのかと考えられます。本来ならば、見つけることも難しい場所なのですが、もしかしたら似た魔力に引き寄せられたのかもしれませんね…。あなたの国が分かれば、私が転移の陣で返して差し上げましょう。」
「…あの…私は…!」
信じてもらえないとは思うけど、正直に言うしかない。
できれば、レイナーク…マリアちゃんの王国へ向かい、仕事や生活の仕方を教えてもらわなければならない。最悪、不審者扱いだけれど、嘘をついたってどうにもならないのだ。
「プリムラ、聞いたことがあるよ。」
プリムラちゃんがミシェルさんの陰からひょこっと、顔を出した。
くっ…あざとい…!なんて可愛い!エルフ特有の長いお耳がピコピコしてる。桃色の髪にくりくりとした赤いおめめ、見た目は完璧なようじょだね。120歳でその話し方ってどうなのかなってお姉さん、ずっと気になっていたけど、問題ないね!可愛いは正義!
「『世界の危機去るとき、異界より聖女現れり。その聖女、騎士のもとに舞い降りてアルズールに安寧をもたらす。』エルフに昔から伝わる、伝説だよ。お姉ちゃん、もしかして聖女様、なんじゃないかなぁ?」
「異界からの聖女…?」
ミシェルさんが考え込む。私の知りえない情報だった。私はただの異世界人だ。聖女ってなに?それにプリムラちゃんがいう、伝説なんて、漫画の中ではなかったはず…。この後は、ミシェルさんの転移の陣を使って王都に戻り、国王に報告をして、リド君とマリアちゃんが婚約、それでこの物語は終わるのだ。
「私の名前はオトメといいます。プリムラさんの言う通り、異世界から来ました。ですが、聖女というのは…」
「異世界人…ですか。…プリムラ、その伝説以外になにか知っていることはないのですか?」
「うぅん。長老様とかだったら知っているかもしれないけれど、プリムラ、まだ若いしぃ。知っているのはこれだけだよ?」
乙女の望みはただ一つなのです。ジークフリード様を眺めていたい。はあはあしたい。それだけです。村人Aとかでいい。なんなら、雑草Cとかでも構いません。柱の陰からそっとジークフリード様を見つめられればそれで満足です。その望みに支障をきたすようでしたら、聖女なんて願い下げです。
「ひとまず、王都に戻りましょう。お父様に報告をしなければなりませんわ。オトメ、私はレイナーク王国の王女、マリアと申します。お父様・・・、国王陛下にあなたのことをお伝えしなければなりません。けして悪いようには致しませんから、そこであなたのお話も聞かせて頂きたいのです。ミシェル、お願いできますか?」
ミシェルさんが頷き、転移の陣の用意を始める。
泉からレイナークまでは、距離があるらしく、移動の陣の規模も大きくなるそうだ。
あたりまえだけど、漫画では知りえない、新しい発見がたくさんある。
特に、ジークフリード様の声とか、抱えられた腕の逞しさとか、髪の指通りの良さとか。
「よろしくお願いします。マリア様。」
「まぁ、マリアでよろしくてよ?」
「では、マリアちゃん…と。」
脳内ではマリアちゃんと呼ばせて頂いてたけど、実際見たマリアちゃん、とっても気品に溢れてました。許可もなくマリアちゃんとか呼んでてごめんなさい。
「プリムラもよろしくね!!オトメお姉ちゃん!」
プリムラちゃんが満面の笑みで私のもとに駆け寄ってくる。
可愛い。ようじょ可愛い。
「よろしくね。プリムラちゃん。」
私も思わず、笑顔を浮かべてプリムラちゃんに視線を合わせると、プリムラちゃんが顔を赤く染めた。
あれ、何かまずい対応だった?思わず近くにいた、ジークフリード様に助けを求める。
ジークフリード様に顔を勢いよく反らされてしまった。あれ?もしかして、私、嫌われてる…?
「マリアちゃん、私…何か不愉快なことをしてしまったのでしょうか?」
「そんなことは「そっそんなことはない…!」
ジークフリード様が顔を背けたまま、声をあげる。気を使ってくれたのかな。
もしかして私の顔が、ジークフリード様は嫌い??
元の世界では自分から見ても、普通だと思っていたけれど…この世界では好まれないのかなぁ。
…うぅ。悲しいけれど、乙女は柱の陰からジークフリード様のお姿を見守っているだけでも幸せなのです。
顔をさらさず、近くから見守る方法ってないかな…。
しばらくすると、準備を終えたリド君とミシェルさんが皆を呼び、ミシェルさんの転移の陣でレイナークへと向かうこととなった。
▲
「ここがレイナーク王国、王都アルステアです。」
美しく聳え立つ白亜の城。魔法なのか、ふわりと漂う光が、城のステンドグラスに反射して、とても綺麗だ。どうやら城門の前に到着をしたらしい。
ゆっくりと門が開き、中からたくさんの兵や、臣下の人たちが迎えてくれる。
「おかえりなさいませ!!」
勇者一行の帰還を喜ぶ声が上がる。
場内に入り、一際豪華な扉の前に着いた。たぶん謁見の間だよね…?
国王王妃両陛下が、マリアちゃんの無事を喜ぶシーンはとても感動的で、近くで見ていたいけれど、部外者の私は一度席を外すべきだ。
「オトメ殿は、一度別室で待機を。」
「はい。分かりました。」
衛兵に謁見の間の隣室に案内される。
うん…。ここまでは予想通りだよ…?
見張りも何人かつけられるんだろうとは思っていたし、扉の前に二人、衛兵もついている。室内にも監視が付くと思っていたから、ソファーに座って待っていようかなあなんて暢気に思っていたけれど!
どうして、ジークフリード様なのでしょうか?
テーブルをはさんで向かいに座る、ジークフリード様。
不満はない。むしろひれ伏して拝み倒したい。
かっちりとした騎士服を着こなしたお姿は、漫画では何回も見たけれど、実物は何十倍も素敵だ。どこかの国の王子様と言われても納得するよね。
はっ…!まじまじと観察してしまった!私の顔が嫌いなのだろうから、とりあえず顔を隠そう。
というか、そうでもしないと私が、何かを仕出かし兼ねない。ただでさえ興奮しているのに…!
ジークフリード様!!乙女は、同じ空間にいるだけで幸せです!!
この高級そうなクッションでいいかな。私はおもむろにクッションを手に取り、顔の前に掲げた。
「…オトメ殿?具合でも悪いのか?」
なっ名前を呼ばないでください!興奮してしまいます!!!
「へっ平気です!」
「そっそうか…。」
沈黙が流れる。ジークフリード様の視線を感じる。まずい。肩が小刻みに震える。興奮がおさえきれなくなって来た。
ジークフリード様が席を立つ気配がした。
悪いこと何もしないから、そのまま退室してくれませんか?ジークフリード様が背もたれにしていたクッションの匂いをちょっと嗅ぐだけでやめるんで!!
…何故か隣に人が座った気配を感じる。なんだかいい匂いが漂ってきた気がするよ?
クッションを持つ私の左手に、何かが触れた。
綺麗な白い肌…でも剣だこがしっかりあって、少しごつごつした大きな手。
一本一本、優しく指をクッションから剥がされ、そのまま手をそっと握られる。
状況が理解できない。だってこの部屋には、私とジークフリード様しかいないのに…。
思わず強く握り返し、抱きしめるように繋いだ手を胸元までもっていってしまった。
「っ!」
ジークフリード様の息をのんだ音が聞こえる。
多分、私の顔は興奮で真っ赤だろう。肩だって、震えが収まらない。これ以上、少しでも何かあったら、泣く。興奮しすぎて泣く。
でもちょっとだけ、お顔をみたい…!
クッションを握りしめる右手を、少しだけ降ろす。自分の前髪とクッションの隙間から、ジークフリード様をちらりと覗き込みる。
瞬間、私は後悔した。
涙腺が決壊する。
まず、近い。予想以上に近かった。顔を真っ赤にされて視線を惑わされているジークフリード様。
いつもは凛とした眉が、困惑したようににハの字になっている。
なっなんて可愛らしいの!こうやって乙女をどんどん底なし沼に落としていくのですね!!
「っここれを使ってくれ!」
私が繋いでいた手を放すと慌ててハンカチを渡して下さる。
ジッジークフリード様の匂いがするぅ!!余計に涙が止まらないよ!?
「ひぐっすみませんっ…洗ってお返ししまっ…えぐ!」
「いやっいいから、それはやるから!だから涙を拭え!使ってくれ!」
だめです!使ったら、匂いが薄れてしまいます!!
「なにやってるのです。貴方たち。」
(興奮と感動で)むせび泣きながらも、ハンカチを使おうとしない私と、隣で慌てふためくジークフリード様をみて、呼びに来たミシェルさんが怪訝な表情をしていた。
アルズールは漫画の中の世界の名前です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。