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為せば成る。  作者: 水瀬まおり
藤村乙女の初恋
19/32

乙女、宣戦布告する。

夜会編です。本日2話目の更新となっております。

どうぞ。

 


 薄紫色の光沢のある布地は、胸元までを包み、素肌との境目からは慎ましやかな谷間が覗く。

 首元には紫の石と銀細工で作られた、精巧な首飾りが光り輝いている。


 首筋から鎖骨、そして肩から肘にかけて、陶器のように白く美しい肌は惜しげも無く晒され、大きく開かれた背中がその色香を隠そうともしない。

  高く一つに結い上げられた黒髪は、緩やかに弧を描き、背中に影を落とす。


 肌を大きく晒しているにも関わらず、決して下品ではない。

 少女と女性の間のような美貌が、清廉さと色香、そのどちらも香らせ、なんとも悩ましく見るものの目を奪っていく。





「オトメちゃん…っ素晴らしいわ…!こんなに私のイメージ通り…いえ、それを超えてくれるようなモデルは初めてよっ…!!」


「聖女様、とてもお美しいです。」


「ありがとうございます。コレットさん、リリアさん。」



 私は二人の手によって、別人のように変身していた。

 少し胸元や背中が恥ずかしいけれど、目的の為ならば構わない。


 一番魅了したい人には隙を見せないように、背筋を伸ばして隣に立つ。そして会場全体を魅了して、焦らせてやるのだ。


 リリアさんに付き添われながら、定刻となった会場へと向かう。

 リド君はマリアちゃん、ミシェル先生がプリムラちゃんをエスコートする。…プリムラちゃんは見た目が親子だと、とても嫌がっていたけど。ダンスを踊るのだけは回避したみたい。


 到着すれば、他の皆はもう揃っていて、ジークフリード様だけが一人、所在無さげに立っていた。

 私は、衝撃を堪えた。

 燕尾服姿のジークフリード様である。とんでもない。今すぐ平伏したい。観察したい。

 思わず足を止めた私の背中をリリアさんが押す。


「聖女様、騎士様に見惚れて、目的を忘れないように。今晩は貴女様が見惚れさせるのでしょう?」


「はっ…!…勿論です。ギャフンと言わせます!」


 そうだ、今日は私がジークフリード様を振り回してやるんだから!

 それにジークフリード様の燕尾服姿なら、カイル君にお願いした映像でいくらでも後から堪能すればいい。


「お待たせしました。」


 私が近寄れば、皆が固まった。

 リド君、マリアちゃん、プリムラちゃんが顔を真っ赤にして静止し、ミシェル先生は、宣戦布告ですか、なるほど。と呟いている。

 ジークフリード様は…


 ゴンッ!

 頭を柱にぶつけていた。


「オトメ!まあまあまあ!!」


 マリアちゃん、言葉になってないよ?

 顔を紅潮させ、笑顔を浮かべながら近づいてくる。悪い反応ではないみたいだ。


「すごっ…更に化けたわね。うわーオトメ、今晩喋んない方がいいわ、ボロが出るから。黙ってなさい。絶対。」


 プリムラちゃん…それは褒めているの?

 くるくると私の周りを動くプリムラちゃん。

 どの角度からみても、際どいような際どくないようなって…ちょっとどこ見てるのかな!?

 ミシェル先生とリド君も笑みを浮かべて近づいてくる。


「熱烈ですね、オトメ。ジークが羨ましくなります。」


「すごい綺麗だな。その色を着て来るくらいだから、もう大丈夫そうだな。…おいジーク!何やってるんだよ。お前がエスコートするんだろ?」


 頭を柱にぶつけたままだったジークフリード様が、のろのろとこちらにやってくる。 私を見て時折静止しているが、視線は私から離れない。

 これはいい手応えです…!!


「オッオトメッ……そっその色は…。」


 赤くなったり青くなったりしているジークフリード様。普段からは考えられないような動揺っぷりだ。

 どうやら、ドレスの色の意味をちゃんと理解しているらしい。

 私もつられて動揺しそうになるけど、今夜の乙女は一味違うのよ!


「…ジークフリード様の瞳の色です。……意味はご存知ですよね?」


 上目遣いでジークフリード様を見つめ、首を少しかしげる。そっと、手を伸ばし腕に触れた。


『上目遣いで、ちょっと首を傾げてどっか触ってあげれば、男なんてすぐころっと落ちるわよ?』

 コレットさんの言葉である。


「ゔっ……!」


 ボフンと音がしそうなほど、瞬時に真っ赤になったジークフリード様。


「うわぁーえげつないな。オトメ。」


「まあ、あのくらいされても文句は言えませんね。」


 リド君とミシェルさんがヒソヒソと話している。…しっかり聞こえているけど。

 ジークフリード様はどうやらそれどころではないらしいのか聞こえていなさそうだ。



「ちゃんとエスコートして下さいね?」


「…ああ。」


 私の背中に恐る恐る手を回してくるジークフリード様。

 私の大きく開いた背中の素肌に触れる度、ぴくっとその指が跳ねた。

 …私も恥ずかしいんだけど、それよりもジークフリード様の方が大変そうだ。

 いつもとは逆転した立場に優越感を感じる。

 さあさあ、楽しくなってきましたよ!!


 会場に入れば、既に沢山の男女が楽しげに談笑していた。

 私とジークフリード様が会場に入れば、視線が一斉に集中する。リリアさんが視線を集めるでしょうといっていたけど、本当にこんなに注目されるなんて…。思わず弱気になりそうになるが、ジークフリード様に少し寄り添い、毅然として前を向いた。


 国王陛下の前に行き、挨拶を済ませる。

 その後はあっという間にダンスを踊る時間となった。

 最初は、今晩の主役であるリド君とマリアちゃんが二人だけで踊る。

 国王陛下の合図で、会場に音楽が流れ始めた。


 ゆっくりとステップを刻み始める二人。

 時折何か囁きあい、クスクスと笑いながら楽しそうに踊る姿はとても仲が良さそうだ。

 お似合いの二人に、周りからも微笑ましい視線が注がれる。

 私も、あんな風に…。


「いいな…。」


 思わず口から声が漏れれば、ジークフリード様が私を見た。


「……オトメ、俺は…」


 何かいいかけたところで、私とジークフリード様が呼ばれる。

 私のお披露目でもある今日は、私たちも一度二人だけで踊らなければならない。

 ダンスフロアの中央へ行き、軽く抱き寄せられた。



 音楽が流れ、ジークフリード様のリードに合わせ、ステップを踏み始める。

 練習を重ねたダンスは、思っていたよりも順調に進んだ。あんなことが無ければ、夢のような時間だったに違いない。


 密着する身体、絡む視線。

 こんなに近いのに、私とジークフリード様の心には大きな相違がある。そう思うと、目に涙が溜まってしまった。ジークフリード様が僅かに目を見開く。


 それでも、私は視線を逸らさなかった。

 もっとジークフリード様が私のことで悩めばいいのだ。…妹だなんて、もう思えなくなるくらいに。


 結局ダンスが終わるまで、私とジークフリード様の視線が逸らされることはなかった。

 周囲から拍手が起こる。これからはそれぞれが自由にダンスを出来る時間だ。

 元いた場所に戻ると、何か言いたげに、ジークフリード様が私に手を伸ばす。

 私はその手を退けて、バルコニーへと向かった。


 まだ始まったばかりの夜会で、バルコニーに出る人はいない。私一人だけだった。


「っ…」


 苦しかった。ジークフリード様の目に浮かぶ、明らかな戸惑い。それが答えだった。


「…オトメ!」


 ジークフリード様が後を追ってくる。その後ろには、ミシェルさんと、プリムラちゃん、それにリド君とマリアちゃん。……みんな揃ったら注目されちゃうじゃん。一人になりたくて来たのに。


「……そのドレスの意味はやはり…その、俺をお兄ちゃんではなくて…。」


 人がこんなに苦しくて悩んでいるのに!

 恥ずかしさも忍んで、こんなドレスを着たのに、今更確認するの!?




「もう頭に来た!!」


「…オ…オトメ?」


「宣戦布告です!ジークフリード様!お兄ちゃんなんて、もう絶対呼んであげません!!」


「なっ…!?」


 ショックを受けたようなジークフリード様。

 ああもう!ここまで私がしても、妹としか見てくれていないの?


「私は!ジークフリード様がっ…!」


 私は怒りに任せて、ツカツカとジークフリード様の目の前に立つ。両手で胸倉を掴んだ。


 驚きに目を見開くジークフリード様。私はそのままの勢いで胸倉を引き寄せ、ジークフリード様の唇に私のそれを重ねた。





 と、あれ?腰に手が回ったよ?

 腰に回った手が私の背中を撫で回す。


「ん!?」


 深くなる口づけ。息つく暇もなく、何度も重なる唇。

 息が続かなくなり、ジークフリード様の胸を叩けば、ようやく唇が離れた。



「はっ…ジークフリードさま…?」


 優しく微笑むジークフリード様。

 そして…


「…オトメ、俺も、お前が…」


 ああ、もう…











「抱いてください!!!」


「うわ…。」


 見慣れた天井が見える。

 あれは私の部屋の天井だ。


 え?…どういうこと?


「おはようございます。聖女様。」


「リリアさん…?」


 もはや見慣れた自室のベッドに私は横になっていた。リリアさんが私の顔を覗き込んでいる。


「寝起きの第一声からすると、全くもって必要なさそうですが、一応確認させて頂きます。体調はいかがですか?」


「私…、ジークフリード様に…宣戦布告を…。」



「はい。聖女様は確かに口づけと言う名の宣戦布告をされました。」


「…そっそれで?」


「自ら口づけしたあと、即座に失神なされました。」


「わぁ。」


 やってしまったよ。私。

 どういうことなの。どうしてそんなにすぐ失神するの。自分で自分が理解できないよ!!


 もう服はドレスではなく、寝巻きになっていた。髪も解かれ、化粧も落ちているようだ。リリアさんがやってくれたのだろうか。


「ちなみに夜会は…。」


「とっくに終了しております。そして今は夜中です。」


「…そうですか。」


 本当になにやってるんだろうか。

 勝手に怒り出してキスした挙句に失神とか…。もう妹とか恋人とか…そういう以前の問題だよね。人としてどうなの?私。


「聖女様が失神され、騎士様が取り乱されたところで、侵入者がありました。」


「…へ?」


 え?なんか突然物騒な話になったよ。


「その者は、突然聖女様を抱き上げられると、そのまま逃走しようと致しました。慌てて勇者様方が、取り押さえようとしました。しかし、なかなかの実力者で、苦戦したのですが…」


 リリアさんが言い淀む。

 リド君達が苦戦するほどの実力者って…もしかして誰か怪我でもしたの?まさかジークフリード様に何か…っ!?


「その者はエルフ様を見て…。」


 え?プリムラちゃん?


「突然、エルフ様の前に平伏し『プリムラ様ぁぁ!俺を!俺を罵ってください!!』と…。」


「は?」



 待ってください。リリアさん。私はその人に物凄く心当たりがあります。












え?と思った方、夢オチすみません。

下手な私の表現でドレスの雰囲気が伝わるか不安です。

薄紫で肩出し背中出しセクシーふわーぉ。と思って頂ければそれで、大丈夫です。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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