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為せば成る。  作者: 水瀬まおり
藤村乙女の初恋
16/32

乙女、式典に参加する。②

前回の続きです。どうぞ。

 

 私がジークフリード様にエスコートされ会場に入ると、騒めきが起こった。

 私の瞳か、聖女という存在が珍しいんだろうな…。



 式典会場には魔道具によるモニターが至る所に設置されている。

 フヨフヨと浮遊している魔道具は自由自在に動き、カメラのように、一点をズームアップしたりできるそうだ。

 裏方で魔術師部隊の面々が、今日はフル稼働しているとアベルさんが言っていた。

 この式典と、この後に行われる凱旋パレードは、世界中の至る所に魔道具によって中継されるらしいから、使う魔力も膨大になるのだろう。


 世界の多くの人々がこの式典を見ているということだ。

 それでなくとも、会場には、数え切れないほど多くの人たちが着席している。

 他国の王族や、それに近しい臣下たち。

 それにおそらく、勇者一行が旅の道中にお世話になった人たちもいるはずだ。


 一斉に私に集まる視線に、思わず肩が竦みそうになる。

 腰に回る手の力が強まったような気がした。

 少しだけジークフリード様に視線を移せば、優しく微笑みかけられた。まるで大丈夫と言ってくれているみたいだ。


 私も少しだけ微笑み返せば、さっきより騒めきが大きくなった気がする。

 ジークフリード様の隣をちゃんと歩きたくて、今度は背筋を伸ばして、しっかりと前を見据えた。




 厳かな空気が流れる中、静かに式典が始まる。

 レイナーク国王の挨拶が終わり、リド君達、勇者一行の名前が呼ばれる。


「勇者、リド。レイナーク王国、王女マリア。レイナーク王国騎士団、副師団長ジークフリード。ルセルニア王国、第六王子ミシェル。エルフ族プリムラ。」


 リド君達は、各国の王が並んで座る御前に向かった。

 私はその姿を自席から見つめる。


「大儀であった。よくぞ二年間、苦しい戦いに耐えてくれた。世界を背負い、戦い抜いたそなた達は、後世に名を残すだろう。よく、世界を救ってくれた、ありがとう。我らはこのアルズールの民として、そなた達を誇りに思う。」


 最大の賛辞だった。

 たった五人で世界を救ったんだよね…。

 背筋を真っ直ぐに伸ばして、前を見据える五人。

 その姿が眩しいくらいに、かっこいい。


 各国の王、それぞれから賛辞が述べられる。


 あの五人は本当にすごいんだよ!って伝えたい。

 旅の道中、何があったのかを一般の人も、国王でさえ詳しくは知らない。それは五人がそれを話そうとしないから。


 自分達がしなければきっと誰かがやっていたかもしれない。ただ自分達は自分達のやり方でそれをやっただけ。


 それはリド君が帰還直後に、国王陛下の前で言った言葉。

 国王陛下は本当は五人に褒賞を与えようとしていた。

 でもリド君達は辞退したんだよね。


 この世界に来て、実際に触れ合って、私はみんながどんどん好きになってしまった。

 誰が欠けてもおかしくないくらいの道中だったけど、誰も欠けなくてよかった。って心の底から思うよ。


 一日一日が過ぎる度、この世界で今、ここにいることが、私の中で現実になっていく。



 リド君が一人、壇上に上がる。


 リド君の演説が始まるのだ。本当は嫌がってたんだけれど、どうしてもこれだけはと国王陛下に直接頼まれてしまったんだよね。


 そして、これが物語のラストシーン。

 リド君の演説が始まる前で物語は終わっていた。

 ここからはもう誰にもわからない、新たな物語が始まる。



「俺は、リドです。一応、勇者として、世界を駆けずり回ってました。まずは最初に。旅の中で失った命、奪った命が安らかに眠っていることを、祈ります。」


 そういうと、リド君は目を瞑り、黙祷を捧げる。

 他の四人もそれに倣っていた。

 勇者の登場に騒めいていた会場が静寂に包まれる。


「俺や、仲間達は世界を救うという名目で、旅を始めました。でも俺達にはそんな大それたことは出来ませんでした。実は途中で俺達、世界なんか救えるかって話したんですよ。…あまりにも先が見えなくて。」



「長い旅でした。

 俺達は、毎日を手探りで進んでいました。その間、たくさんの人にお世話になりました。

 その人達がいなければ、ここにいる五人は、今日までに命を落としていたと思います。

 ーー気がつけば、いろんな人と触れ合う中で、死んでほしくない人が増えてしまっていました。それこそ欲張りなくらいに。

 俺達はその、死んでほしくない人達の為に戦いました。…ただ、それだけです。俺たちは特別なことはしていません。」


 いつものようにニカっと笑うリド君。


 リド君の言葉に、五人の旅路が思い出されて私は涙が止まらなくなってしまった。

 すっごくかっこいいよ、リド君…!!




 一人で感動していると、急に私の周りが騒めき出す。

 え…?どうしたの…?

 みんな私を見て、動揺しているようだ。


 騒めきは瞬く間に、会場全体に広がり、なぜか会場のモニターには私の泣き顔が映し出されている。

 え?映さないでよ。全世界に私の泣き顔が晒されてるんですけど!


 壇上を見ればリド君が、他の四人も私をポカンとして見ていた。

 一度緩んだ涙腺は止まらず、未だ私の泣き顔は、全世界に配信され続けている。顔を隠していいのかもわからずに固まる私。


 周りのざわめきが収まらぬ中、リド君達に動きがあった。

 なぜか、そわそわとし始めるジークフリード様。

 リド君は、そんなジークフリード様をにやにやして見ていたかと思えば、マリアちゃんを壇上に呼び寄せ、何事か囁き合っている。

 プリムラちゃんは引いたようにジークフリード様を見ているし、ミシェル先生は我関せずといった様子でただ傍観していた。


 …なんなの?…このカオスな空間。



 マリアちゃんが、国王陛下に何かを訴えると、国王陛下が大きくゴーサインを出した。

 え?なにそのノリ。一体なにが始まるの!?



 バンッ!!と突然マリアちゃんが壇上の机を両手で叩いた。

 そして、高らかに宣言する。



「私、レイナーク王国、王女マリア!!私は二年間共に旅した勇者、リドとの婚約をここに発表いたしますわ!!!」



 えええええ!?

 マリアちゃん、そんな段取りじゃなかったよね!?

 ちゃんと国王陛下から発表があって、それでリド君からプロポーズされるんじゃなかったの!?



「二年間、愛を育みました!!愛してます!マリア王女殿下、俺と結婚してください!!」



 勢いよく直角にお辞儀をし、マリアちゃんに手を伸ばすリド君。え?そんなプロポーズなの!?いいの?



「私も愛していますわ!リド!!いいですわね?!お父様!」


「うむ。認める!」


 いいのかよ!!

 突然繰り広げられる茶番に、会場の騒めきもピークに達する。



「よし!いけ!ジーク!!」


 リド君がジークフリード様に何ごとか合図を出せば、ジークフリード様は、飛ぶように宙を駆け、あっという間に私の前に現れた。

 え?今、魔法使いました?え?脚力ですか。すごおい。



 私の肩を掴み、真剣な顔をするジークフリード様。

 あ、なんかこれ、嫌な予感がする…。

 騒めいていた会場が静まり返り、モニターには大きく写る私とジークフリード様…。皆の視線は当然そちらに集まっている。



「オトメ…また一人で泣いていたのか?ああ、こんなに目を赤くして…」


  片手で私の腰を抱き寄せ、顔を寄せてくるジークフリード様。その瞳は慈愛に満ちて……まって!これだめなやつ!公衆の面前にしても、スケールが大きすぎるよ?!全世界中継だよ!?



「ジッジークフリード様!…これは感動してっひゃあ!?」


 ジークフリード様が、私の涙を掬うように眦にキスをする。一瞬くらっときたけれど、今は失神している場合じゃないわ、乙女!!

 この流れを、止めなくては!!



「泣きたい時は…」



 ああ間に合わないよ…!

 やめてっ!それ以上はっ…

 それ以上は、らめええ!!!




「お兄ちゃんの腕の中で泣きなさい。」




「やめてよ!ジークお兄ちゃあああん!」



 魔道具を通して、私の叫び声が反響する。

 全世界へ向けて、ジークフリード様のシスコンぶりと、私のお兄ちゃん呼びが発信された。

 人は思うだろう。あいつら式典の場で、兄妹プレイを楽しんでやがると。


 呆然とする周りの人々。

 表情を消しているプリムラちゃん。

 そこらへんに浮遊していた、魔道具を手に取り弄っているミシェル先生。

 ニコニコと笑うマリアちゃんと、楽しそうな国王陛下。


 リド君は、意識が遠のく私と、そんな私を満足気に抱き締めるジークフリード様を見て、ただ一人床に蹲って笑い転げていた。

 それでいいのか未来の王配。










最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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