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為せば成る。  作者: 水瀬まおり
藤村乙女の初恋
15/32

乙女、式典に参加する。①

式典編です!

 

 私は夢を見ていた。

 広大な草原の中で、元の世界の兄がなぜか剣を持ってモンスターと戦っている夢。

 お…意外に強い?ああ剣道やってたもんね。そういえば。

 必死に飛び跳ねている兄の姿に、心の中でがんばれーと気の抜けた応援する。

 モンスターを無事倒し終えた兄が、急にこちらに振り返った。

 ん?今、目が合った…?




「こらオトメ!!さっさと起きなさいよ!!」


 突然、腹部に衝撃が走る。


「ぐふっ…!プップリムラちゃん…おはよう。」


 プリムラちゃんが私のお腹の上にダイブしてきたのだ。

 なかなかの衝撃である。…内臓出るかと思ったよ。

  何か夢を見ていた気がしたんだけど…衝撃で吹っ飛びました。



 式典の日がやってきた。

 ドレスは二着とも手直しも終わり、完成品をコレットさんが持って来てくれることになっている。

 二日前に一度見たドレスは…なんというかジークフリード様尽くしだった。とっても素敵なんだけど、ちょっとあからさまで恥ずかしいような…。プリムラちゃんとマリアちゃんはすごい満足そうだったけど…。


 リリアさんに全身を磨かれ、香油やらなにやら塗りたくられていると、丁度コレットさんがやってきた。

 ちなみにプリムラちゃんは別室で支度中だ。プリムラちゃんは、ドレスではなくエルフの装束を着るらしい。


「おはよう。オトメちゃん。あら、今日は一段と可愛いわね。」


「あはは。おはようございます。コレットさん。早朝からリリアさんが張り切っていて…。」


 そう、今日はリリアさんの気合の入りようが半端ではない。プリムラちゃんが早朝にお腹ダイブを披露してくれたのは、一刻も早く起きてほしかったリリアさんの意思を汲んで…ということだったらしい。


 だから、いつそんなに仲良くなったの…?

 私は起きた後、すぐさまお風呂に入れられて、そのあとはゴッドハンドでマッサージされ尽くしました。朝から泣けた。痛い。


「ふふっ!気持ちは分かるわ。だってこんなに素材がいいんですもの。より美しく可愛くしたいのは仕方ないわよね?それが大切なお仕えする人なら、尚更ね?」


 コレットさんの言葉に、思わずリリアさんの顔を見る。相変わらずのポーカーフェイスだけど、少しだけ頬が赤い。


「リリアさんッ…!私のことそんな風に思っていてくれてたんですか!?私てっきり、近寄るな変態って思われてるかと…!」


「…仰る通り変態とも、こっちに来るなとも思いますが…嫌ってはいませんよ。」


「リリアさん!!」


 思わず感極まって近寄ろうとすると、拒絶される。


「変態が移ります。早くドレスに着替えてください。そのあとは髪結い、そしてお化粧もさせていただきます。やることはまだ沢山ありますので。」


 …変態が移るって酷くないかな?

 …嫌われてないんだったら、まぁいいか!



 ▲






「うおお…聖女っぽい。」




「はぁ…!オトメちゃん、とっても素敵よ!やっぱり私の見立ては間違ってなかったわ!」


 コレットさんが支度を終えた私も見て喜ぶ。リリアさんも満足そうな顔つきで頷いている。


 鏡に映る私は、我ながら聖女らしい、清廉とした雰囲気になっていた。


 式典に着るドレスは銀色のキラキラと輝く生地に、銀糸の刺繍が施されたもの。

 至る所に散ちりばめられたビーズは、けして派手ではなく、品を損なわないようになっている。

 髪もリリアさんによって複雑に結い上げられ、細い銀色の髪飾りで飾られていた。


 夜のドレスの方がもっとわかりやすいけれど、ジークフリード様の髪色を纏うことはなんだか少しくすぐったい。

 ジークフリード様も、式典の時は正装だよね…。乙女はとっても楽しみです!!


「聖女様。顔がにやけています。そのお姿で変態的な発言や行為はくれぐれも慎んでください。」


「…はい。」


 少しでも気を抜くと、頬が緩みそう。

 ジークフリード様を見て、鼻血出さないように気を付けないと…。


 コレットさんに別れを告げ、控室へと向かう。

 コレットさんは式典には出られないから、夜会の準備までは城下町でパレードやお祭りを楽しんでくるそうだ。

 凱旋の時に見かけたらこっちに手を振ってね。と言っていた。頑張って見つけよう。


 リリアさんに案内されて控室へ向かうと、私が一番乗りのようだった。

 …そりゃあ、早朝から用意したもんね。


 ちなみにこの控室には、私とプリムラちゃん、ミシェル先生、それにジークフリード様の四人が集まることになっている。

 リド君とマリアちゃんは王族扱いとなるため、別室になるそうだ。

 パレードでは一緒に合流するらしいけどね。


 リリアさんと式典の式次第を確認する。

 今日は勇者一行の生還を祝った後、リド君とマリアちゃんの婚約発表、そして一番最後に私のお披露目という順番になっている。

 この場で私のこの世界における立ち位置が決まるらしい。

 事前にミシェル先生から教えられたのは三つ。


『聖女は不可侵にして、アルズールの安寧の象徴であること。』

『何事の決定も聖女の意思によって決まること。』

『聖女及びその力を争いに利用するものは例外なく罰される。』


 という私には破格の待遇だった。

 要するに、私は何でも自分の意思でやっていいよ、聖女の肩書とか力を悪用しようとしたやつは権力者でもちゃんと罰するから安心してね、と言われているようなものらしい。

 当初、あまりに私に有利な待遇に、他国は賛成とはいかなかったそうだ。

 しかし、あの森での一件後、ミシェルさんとリド君が私の魔法や魔力について説明したら、全面的に受け入れられたらしい。そりゃ魔王によってどこも散々な目にあったばかりなのに、また国土に災害を起こされたりしたら、とんでもないよね。


 基本的に式典中は座ってお話しを聞いていればいいんだけど、私の紹介の時はジークフリード様のエスコートで壇上にあがり、一度他国の王族や、来賓にお辞儀をしなくてはならない。お辞儀一つでも重要であるらしく、マリアちゃんの厳しい指導を受けたのだ。

 確かにマリアちゃんはお辞儀するだけでも気品に溢れて綺麗だった。さすが王女様だね。



 慎ましいノックの音が響いて、扉が開く。

 プリムラちゃんだ。


 いつもはノックなんてしないけれど、廊下は他の人の目があるから、ようじょ仕様で来たらしい。

 プリムラちゃんは私を見て、一瞬目を見開いた。


「オトメ、随分と化けたわね。一瞬、誰か分からなかったわよ。」


「ありがとう。コレットさんのドレスもすごい綺麗だし、リリアさんの腕がいいんだよ。」


「ばかね、素材が良くなきゃそんな風にはならないでしょ。」


 プリムラちゃんが珍しく褒めてくれる。

 …明日は、槍でも降るのかな?


「そう…かな?でもプリムラちゃんもなんだか雰囲気が全然違うね。…プリムラちゃん、本当にエルフだったんだね。」


「どういう意味かなあ?オトメおねえちゃん!プリムラはいつでもかわいいエルフだよっ?」


 おっと口が滑った。

 エルフの装束をまとったプリムラちゃんはいつもより大人びて見える。まあ本当は大人なんだけど。

 それ加えて、どこか神聖な雰囲気さえ醸し出していた。うちの兄が見たらひれ伏しそう…。


 いつもソファーにふんぞりかえってお煎餅食べてるから、エルフってことすっかり忘れてたよ。


 プリムラちゃんが控室にあったソファーで寛ぎ始める。いいな。私はドレスだから、皺がつかないようにと軽く椅子に腰掛けるしかない。

 ああ、プリムラちゃん…。その姿で首をバキバキ鳴らさないで…夢が壊れる。


 再びノックが響き、ジークフリード様とミシェル先生が入ってきた。

 ミシェル先生は魔術師らしく豪華なローブを纏っている。

 ジークフリード様は、オールバックに正装だ。

 …すっ素敵です!!


「!おや。これは美しいですね。」


 ミシェル先生は私に気が付くと、一瞬驚いたような表情を浮かべ、すぐに微笑んでくれた。


 ジークフリード様もミシェル先生の視線を追うようにして私を見た。

 ぽかんとした後、顔がみるみる真っ赤になっていく。


「…ッ!綺麗だ。」


「本当ですか…?」


 綺麗だなんて…!

 …最近まで顔を嫌われていると思ってきたから、褒められるとつい動揺してしまう。


 ジークフリード様と私の視線が絡まり、手を優しく握られる。

 その手がジークフリード様の口元まで持っていかれ、指先に口づけられた。


「本当に綺麗だ。」


 ジークフリード様が優しく微笑みかけてくれる。

 胸が苦しい。触れられた指先がとても熱い。

 ジークフリード様……私っ!




「いい雰囲気のところ大変申し訳ないのですが、そろそろ時間ですね。」


 ミシェル先生の声に我に返れば、呼びに来てくれたのだろう、従者の人が扉を開けた状態で固まっていた。

 プリムラちゃんとミシェル先生もあきれたように笑っていた。



「すっすまない…」


「…ごっごめんなさい。」


 危なかった…!ミシェル先生の声がかからなければ、私は失神するところだった…!

 最初からこんなので、今日一日乗り切れるのかな…?


 そんなことを思っていると腰にジークフリード様の手が回り、そのまま寄り添われて歩く。

 触れたところから伝わるジークフリード様の体温…。微かに香るジークフリード様の匂い…。


 これはエスコート!エスコートよ乙女!!

 失神しちゃダメ!!








最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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