乙女、釣られる。
本日やたらと更新しております。
閑話からが本日の更新分です。ではどうぞ。
「あっ!リリアさん!だめッ…そんなに痛くしないで…!」
「いえ、だめです。聖女様。痛いからこそ効果があるのです。」
「ひゃん!」
「ちょっとオトメ!アンタ変な声上げてるんじゃないわよ。外の衛兵が顔真っ赤にしてるわよ!」
「だって…!」
リリアさんのゴッドハンドが、私の身体を這っていく。
そう、私は今リリアさんに全身マッサージを受けています。
終わった後は確かにすっきりするんだけど、とっても痛いんだよね…コレ。
なぜ私がマッサージを受けているのかというと、式典の日が二週間後に決まったからだ。
その知らせを受けたのは昨日の午後。
午前中にジークフリード様と幸せすぎる時間を過ごした私は、自室でニヤニヤしながら、蕩けていた。
鼻の頭がずっと熱を持っている気がする。
なんて大胆なことをしちゃったんだろう私。気まずそうにしているジークフリード様を見たら、ちょっと悪戯心がわいてきちゃったんだよね…。
…キスをされ返されたときは、死ぬかと思いました。
リリアさんの視線を感じる。部屋に戻ってからずっと無表情だ。
リリアさんは、騎士団の建物に行くときも、ずっと私に付いて来てくれていた。
私とジークフリード様のやり取りもずっと見ていたみたい。いやん!恥ずかしい!
ジークフリード様と私が我に返って離れた時には、リリアさんの表情が消えていた。
「どうして、そこで兄妹?」「どう見てもバカップル」とか色々呟いていた気がするけれど、乙女は幸せすぎて失神しかけていたので、よく聞こえませんでした。ごめんなさい、リリアさん。
私がソファーの上でにやけていると、突然マリアちゃんが押しかけて来た。
いつもはお淑やかなマリアちゃんだが、この時ばかりはプリムラちゃん張りの勢いで入ってきたのだ。
びっくりした…。
「どうしたの?マリアちゃん。」
「式典の日にちが決まりましたわ!!」
「あ、そうなの?いつ?」
「二週間後ですわ!」
「ふーん、そうなんだぁ。」
「そうなんだぁ、じゃありませんわオトメ!!式典の夜には、夜会がありますのよ!?」
ずっと無表情だったリリアさんの顔に表情が戻る。
「聖女様。由々しき事態です。蕩けている場合ではありません。」
「え?なんでそんなに気合入ってるの?」
「気合も入りますわ!夜会と言ったらドレスを用意しなくてはなりません!もちろん生地から選んで作りますわよ?ああもう時間がありませんわ!早速明日にでも、仕立て屋を呼びましょう!」
え?マリアちゃん、どうして私のドレスにそんなに意気込んでるの?
なんだか隣のリリアさんも燃えているし…。
「私は既製品でいいよ?主役はリド君とマリアちゃん達でしょ?」
「何を言っているのです!オトメのお披露目だって含まれていますのよ?それに夜会では、ジークにエスコートされますのよ?ダンスだって一曲は踊らなければならないのですから…!」
「え…?ダンス?私踊れないよ…?」
「な!…乙女の世界ではダンスは嗜まないんですの?急いでダンスレッスンを受けて頂かないと…あぁ、リドと一緒に受けていればよかったですわね。」
あ、そういえば、リド君も森でダンスがどうって言ってたっけ…?
リリアさんとマリアちゃんがテキパキと段取りを決めていく。
実感がつかめない私は、どこかぼんやりとそれを眺める。
というか、少しでも気を抜けばさっきのことが思い出されて…、はうん、蕩けます。
そんな私を見かねたのかリリアさんが私の肩をがしっと掴んだ。
「聖女様、騎士様の燕尾服姿をご覧になりたくないのですか?」
「…な!?」
そうか…!夜会といえば、女性はイブニングドレス、男性は燕尾服…!
ジッ…ジークフリード様の燕尾服姿がみられる…!!
「聖女様がお美しく着飾って、ダンスも踊れるようになれば、騎士様の燕尾服姿やダンスを踊られる姿を一番近くでご覧になれます。」
「そうですわ!オトメ!一番近くで心ゆくまで堪能できますわよ?それにジークはダンスが上手でしたわ。」
一番近くで…?心ゆくまで…?
「…わっ私!!やります!!ダンスもマスターします!ドレスも作ります!やってみせます!」
二人がにやりと一瞬笑った気がしたけれど、乙女の頭の中はもうジークフリード様の燕尾服姿と、ダンスを踊られるお姿でいっぱいです。
まあ、まんまと釣られたよね。うん。仕方ない。
そんなことがあって私は昨日から、体のお手入れをされたり、ダンスのレッスンを受けたりと大忙しなのだ。
朝のジークフリード様観察も、式典まではお預けです。
マリアちゃんが言うには、式典も盛大に行うらしく、ドレスも式典用のものと、夜会分と二着用意しなければならないらしい。
式典が終わったら、夜会までの時間に、城下町の凱旋パレードも行うんだって。
…すごいハードスケジュールだ。ちなみに私も含め、勇者一行はすべてに参加しなくてはならない。
マッサージを終え、今日はドレスの仕立て屋さんが来る。
リリアさんとプリムラちゃんが一緒に選んでくれるらしい。うん、ドレスの流行とかまったく分からないからね、私。
これからの予定について話していると、ノックとともに沢山の生地を抱えた数人の女性が入ってきた。
その中でも一番綺麗な女性が私を見て頭を下げる。
「お初にお目にかかりますわ。聖女様。私仕立て屋のコレットと申します。」
「オトメといいます。どうか畏まらずに、気軽に接してください。私も緊張してしまいますから。」
そういうと、コレットさんは顔をあげてすこし驚いたようだった。
「私はもともと一般人です。だから普通に接していただけると助かります。」
「わかったわ。ではオトメちゃんって呼んでもいいかしら?」
「はい、コレットさん。」
なんだか頼りになるお姉さんって感じだ。
この国では珍しいだろう、おしゃれなパンツスーツを着こなしている。
「まずは、オトメちゃんの好きな色とかある?とっても美人さんだから、何色でも似合うと思うけど…。」
「好きな色ですか…。うーん…」
何色だろう。特にあんまり意識はしていないけれど、色というよりはデザインで選ぶことが多かったからなぁ。
「プリムラ、オトメお姉ちゃんのドレスは、お昼は銀色、夜は綺麗な紫がいいとおもうなあ。」
他の人がいるためか、プリムラちゃんはようじょ仕様だ。
うん…久しぶりにプリムラちゃんのそんな純粋な笑顔見た気がする。
「あら、プリムラちゃん、どうしてそのお色なの?似合うとは思うけれど…。」
完璧に12歳くらいだと思っているよね、コレットさん。その人120歳ですよ?
「だってえ、ジークお兄ちゃんの色だよね!」
「ジークお兄ちゃん…?あら、もしかして…!」
コレットさんが思い当たったのか、ニッコリと綺麗に笑う。
「あらあら。ふふっ…可愛いわね。そういうことならイメージがどんどん湧いて来たわ!!ねぇ、オトメちゃん、デザインは私に任せてくれるかしら?絶対素敵なドレスにするから!」
「…?はい、よろしくお願いします。」
それから一通り私の身体を採寸して、いくつか質問をすると、コレットさんはあっという間に帰ってしまった…。もっと時間がかかると思ったんだけど…よかったのかな?
ジークフリード様の色を纏うのか…ちょっと恥ずかしいけど、いいかな、素敵なドレスにしてくれるって言っていたし。リリアさんもプリムラちゃんもなんだか楽しそうだけど…。なんだろう?
後から部屋に来たマリアちゃんに、プリムラちゃんがドレスの色のことを話すと、マリアちゃんはまあ!と言って何か言いそうになったところをリリアさんに止められていました。
なんか三人仲良くなってない?私も仲間に入れてよ。
リリアさんのゴッドハンド。きっとすごいと思います。
コレットさんは最初、オネエにするか悩んだんですけど、綺麗なお姉さんに落ち着きました。
いつかオネエも出したいです。