第四話 Different World Magic
いっけなーい、地獄地獄~。
私、魔法少女アカリン☆ 可愛いモノと楽しいことが大好き♪
闇の化け物を魔法で撃ち抜く、正義の女子高生ヒーローなの!
でも目が覚めたら、変な瘴気の漂う森に1人取り残されててもう大変↓↓
こ、これって遭難!? それとも神隠し!?
私、これからどうなっちゃうの~!?
次回「アカリン死す」お楽しみに☆
「って勝手に殺すんじゃなーい」
瘴気の森にひとり声を吐く。
見渡す限り、聞く者は誰もいない。
自分に自分でツッコミを入れるとか寂し。
まじぼっちだわ。
いや現状森の中でぼっちなんだけど。
「はぁ」
途方に暮れ、ため息をつく。
鬱蒼と茂る、木、枝葉、茸、ツタ、シダ……。
行く手は勿論、視界も遮られている。
上下左右前後、そんな具合だ。
東雲明、16歳。
迷子なう。
* * *
無い。
何もない。
植物しかない。
行けども行けども森ばかり。
視界真っ暗お先真っ暗。
「富士の樹海的な感じ?」
退屈な口が不吉な言葉を漏らす。
まだ自殺なんて考えてないんだけどな。
毎日楽しいし。
……いや、“楽しかった”、か。
暗鬼に闇霧、崩壊に向かう国家と世界。
これからはちっとも楽しくなんてないだろう。
自殺者も増えるかもしれない。
あ、でも私は妖術が使えるようになったからやっぱり楽しいかな。
あーあ、時間が戻ったりしないかな。
暗鬼も闇霧も絶望もない、あの頃に。
また友達と出かけたり遊んだりしたいな。
ここはどこだろう。
私は……帰れるのかな。
「?」
俯いていた顔をふと上げた時、それに気が付いた。
木々の向こう、鬱蒼とした森のなかに、一軒の家が建っていた。
山小屋……にしては立派すぎる。
洋風本来の雰囲気のある綺麗な家だ。
小さな煙突からは僅かに煙も上がっている。
人が住んでいるのか。
丁度いい、訪ねて助けてもらおう。
……もし怪しい人だったら。
一瞬、そんな考えが頭をよぎった。
しかし、他に手がない。
樹海エンドだけは避けたいのだ。
それに。
「…………」
自分の右手を見る。
精神を集中すると、人差し指が水色の光を帯びた。
妖術。
私が数日前に自覚した、魔法のような力だ。
巨木に穴を穿ち、屈強な暗鬼を一撃で倒せる、水色の光弾。
これで正当防衛すればいい。
前を向き直り、家を見据える。
水色の光を手の中に仕舞うと、再び歩き始めた。
* * *
「ごめんくださーい」
木製の扉をノックする。
中からは僅かに生活音が聞き取れた。
確かに人はいるようだ。
優しい人だといいな。
あと出来れば女の人がいい、いろいろ怖いし。
でも森の奥だもんな、猟師とか木こりのおっさんが出てきた方が自然かも。
贅沢言っちゃ駄目だ、家に遭遇出来ただけでも奇跡なんだから。
それに、命と天秤にはかけられない……。
「っ……」
突然扉が開いた。
身体が強ばるのがわかった。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
そう思っていたが。
「はーい、いらっしゃい」
若く優しげな女性の声。
中から姿を現したのは。
「こんにちは。どちらさま?」
青いノースリーブ、青いロングスカート、肩に羽織った白いケープ。
綺麗な青色の瞳、肩までの美しい金髪、赤いリボンと赤いカチューシャ。
それは西洋風の衣装を身に纏った、綺麗な女の人だった。
「ん、どうしたの」
「…………へっ? あ、すみません。見ない格好だったので……」
我に返り、慌てて取り繕う。
「ふふ、あなたこそ見ない格好だわ。外来人かしら」
態度を変えずに微笑む金髪の女性。
それで、と言って彼女は譲るように掌を見せた。
……あ、どちらさま、か。
「東雲明といいます。目が覚めたらこの森にひとりで、彷徨ってたらこの家があって……み、道を教えていただきたいなと」
文法が所々怪しくなりつつも、助けてほしい旨を伝える。
ちょっぴり詰まったのは、正体の分からない彼女に動揺しているからか。
「そんなに怖がらなくても、私はただの妖怪よ」
困ったような顔で話す、自称妖怪。
……いやいや、妖怪って。
普通に怖いんですけど。
「えっと、あなたは……?」
「うん? ああ、ごめんなさい」
何者なんですか、と聞きかけたが、彼女自身に遮られた。
そっちの名前も教えてくれという意味に取られたようだ。
彼女は右手を胸に当てる。
上品に軽くお辞儀をすると、口を開いた。
「私は魔法使い、アリス・マーガトロイドよ。どうぞ上がって、明ちゃん」
スカートの陰からのぞく左手に、小綺麗な魔導書が見えた。
* * *
紅茶の入ったティーカップが差し出される。
それを受け取ると、恐る恐る礼を言った。
「あ、ありがとう……」
お茶を出してくれたのは“人形”だった。
宙に浮き、ひとりでに動き、正確に仕事をこなす、女の子の人形だ。
“彼女”はちょこんとお辞儀をすると、キッチンのほうに戻っていく。
そこには彼女の他にも色んな種類の人形がいて、家事をこなしていた。
家の中に案内された時、盛大に声を上げて驚いたものだ。
だって、人形が勝手に動いているんだから。
それだけでホラーである。
「指示されたことしか出来ない人形ばかりだから、そんなに怖がらなくても大丈夫よ」
そう言いながら向かいに座る、等身大の人形……じゃなかった、アリス・マーガトロイド。
落ち着いたその雰囲気に、ティーカップを持つ姿はよく似合う。
なんで間違えたんだとか言わないで。
だってさ、見た目がそっくりなんだもん。
アリス本人も人形みたいな見た目してるんだもん。
そりゃ間違えるって。
大きさしか違わないもん、大きさしか。
「この子達、どうやって動いてるんですか……?」
忙しなく働く人形達を眺めながら尋ねる。
彼女はティーカップを皿に置くと、その手をこちらに見せた。
「人形を操る方法は古今東西同じ。糸よ」
薬指の先に小さな魔方陣が現れた。
彼女はそれを空中でくるりと弄る。
すると、奥の部屋から一体の人形が飛来する。
私の眼前まで来ると、丁寧にお辞儀をし、私の膝の上に収まった。
「勿論、これはただの糸じゃなくて魔法の糸だけれど。でも、原理は普通の人形と同じよ」
人形を手で抱いてみる。
彼女は私を見上げ、なあに? とでも言いたげに首を傾げる。
その頭を撫でてやると、人形は前を向き直り、ご機嫌そうに身体を揺らし始めた。
操られているとは思えないほど、主体的で正確な動作だ。
まるで生きているようである。
しかしその間、操作主のアリスはというと。
「…………」
目を閉じたまま紅茶を飲んでいた。
指は微動だにしていない。
この人、本当に操っているのか?
人形が自律しているようにしか見えないのだが。
というよりそもそも、キッチンにいる沢山の人形達も操作しているはずなのに、全くそんな風には見えない。
「ここの人形全てを、今もアリスさんが操ってるんですか?」
「あら、信じてないわね」
彼女はくすりと笑う。
「い、いえ、そんなことは」
慌てて否定した。
だが、質問自体は予測していたようだった。
彼女は嫌な顔ひとつせず説明を始める。
「普通の人形のように操作し続けるのではなくて、一定時間置きに指示を与えてるの。人形達はその指示通りに動くのよ」
ふむ、最初に言ってた“指示”ってそういう意味だったのか。
命令を元に動く作り物。
それってつまり。
「外の世界で言うなら“ロボット”、かしら。外来人さん?」
そう、ロボットだ。
これはロボットの魔法版、といったところなのだろう。
これが魔法の力か……。
ところで。
「その、“外の世界”とか“外来人”というのは?」
さっきから気になっていた疑問をぶつける。
初対面時から、アリスは私のことを“外来人”と呼んでいる。
私は“外”から来たのだと言いたげだ。
あの世界が“外”ならこの森は、この世界は一体何だというのか。
「読んで字の如くよ。この世界の外から来たから外来人。……ま、詳しいことは人間に聞きなさい。私みたいな人外じゃなくてね。そのほうが分かりやすいし、信用できるはずよ」
「は、はあ」
アリスの話は要領を得なかったが、一応返事をしておく。
取り敢えず、ここが異世界ということ、アリスが人外だということ、信頼できる人間がどこかにいること、の3つだけはわかった。
さて、と言ってアリスが紅茶を置く。
「今度は私が訊く番ね」
視線を上げると、彼女の青色の瞳に捉えられていた。
「明ちゃん。あなた、妖術師ってやつかしら」
「はい、そうらしいです……え? なんでそれを……」
藪から棒に何を言うかと思えば、能力を見抜かれていたとは。
事実なので肯定したが。
「ふふ、当たってた? 妖術師は滅んで久しいと書いてあったけど……例外がいたとはね」
知的に微笑むアリス。
どこか得意気なその表情は、少し可愛らしく見えた。
滅んだ、って……。
そんなに珍しいのか。
妖術なんて魔法の亜種みたいなものかと思ってたけど。
「ってことは、外は外でも科学文明世界じゃなくて、法界や地獄界の出身かしら。もしくは私と同じく魔界?」
マカイホーカイジゴクカイ、語呂がいいね。
違う、待って。
訳わかんない単語が一杯出てきたよ。
唯一解ったのは。
「えと、科学文明世界……だと思います。飛行機とかロケットとか、電気とかネットとかありましたし」
科学という単語だけだった。
それを聞くと、アリスは怪訝な顔をした。
本当に? と聞き返してくるものだから、間違いないと釘を刺した。
少なくとも彼女が言った中で当てはまるのはそれだけだ。
魔界だの法界だの地獄界だの、そんなの聞いたこともない。
……まあ、暗鬼に混乱する世界は地獄に見えなくもなかったけど。
「その世界って、妖術や魔法はおろか神秘や幻想も無いはずじゃ……。いえ、やめておくわね。詮索しすぎて殺されたりしたら堪らないわ」
詮索されかけたが、彼女は自分から疑問を取り下げた。
すまし顔でなんて物騒な事を言うの。
私は清廉潔白で暴力とは無縁な女子高生だって。
「こ、殺すだなんて。そんなことしませんよ」
それに、人外である彼女に勝てるとは思えない。
この数の人形が一斉に武器を持って飛んできたらと考えると、恐ろしさに身の毛がよだつ。
殺されるのはきっと私のほうだ。
しかしアリスは首を振って否定する。
「……そんなことでは死ぬわよ。昔から妖怪は人間と敵対する存在なの、力のある人間とは特にね。きっとこの先、妖怪と戦わざるを得ない状況を多く経験することになるわ。その時明ちゃんは、妖術師として妖怪を退治しなければならない」
アリスの言葉に思わず固くなる。
綺麗に見えても人外。
そんな彼女の言葉には説得力があった。
「私も新参だけれど、この世界は過酷だと思うわ。多くの妖怪が狭い世界にひしめき合っているんだから。外の世界がどうかは知らないけど、人間にとってここは死の世界と思いなさい。そしてあなたは力を持つ人間として、それに真っ向から向かっていかなければならない。……覚えておいてね」
ひとしきり言い終えると、彼女はティーカップを皿に収める。
そのまま席を立つと、さっさと隣室へ消えてしまった。
残された私は、半ば茫然として座ったままでいた。
妖怪が人間の敵ないし捕食者であるということは、あの騒動以来分かっていた。
分かっていたつもりだった。
しかし、いざ“本場”の“本物”の口から聞くと、今までとは比べ物にならないくらい恐ろしく感じるものだった。
そして、妖術というものの価値と意味。
純粋にこの力を持てたのは嬉しかったが、やはり代償なしとはいかないらしい。
妖怪退治、か。
嫌だけど、いずれやらなきゃいけないはずだ。
普通の人間なら、妖怪からは食糧としてしか見られない。
しかし、力を持った人間は敵や障害として見られる。
自衛に限らず戦うはめになるのだろう。
「魔法少女は不幸になる、か……」
紅茶を飲み終え、ひとり愚痴る。
もはや拳銃と同価値となった己の人差し指を見つめていた。
ま、アニメなんかじゃよくある話だよね。
ほら、円環の理に導かれるあの古い名作でもさ、あるじゃん。
魔法少女は本来の人間の寿命を全うできずに死ぬってやつ。
「私も……そうなるのかな」
妖怪に襲われ、死ぬ。
妖怪と戦闘になり、死ぬ。
力の代償として、寿命が極端に縮む、等々……。
十分ありうる話だ。
妖怪とはなるべく出くわさないようにするしかない。
同時に、もし襲われても切り抜けるだけの実力を身に付ける必要がある。
面倒だ。
しかし、自分の命がかかっている。
私は力を持ってしまった、妖術師となってしまった。
そしてそれは、半ば自分で望んだ結果でもある。
避けては通れない道だし、逃げてはならない運命なのだろう。
「あら、怖がらせちゃったみたいね。ごめんなさい」
不意にアリスが顔を出す。
口ぶりからして、独り言を聞かれたのかもしれない。
「でも、そんなに悩まないで。私みたいに大人しい妖怪も多いし、明ちゃんくらいの歳の子でも妖怪退治をやってる人間はいるから」
優しく微笑むアリス。
やはりこの人は信頼できそうだ。
あ、“人”じゃないや。
やはりこの妖怪は信頼できそうだ。
しかし、実際に同世代の人間が妖怪退治をしているとは。
魔法少女仲間ってことだろうか。
是非会ってみたいものである。
「そうですか……」
少し明るい未来が見えた気がして、私は安心した。
らしくない。
暗いことばっかり考えてると暗い人間になっちゃうよ。
なるようにしかならないんだから、楽しむべきだよね。
「ああそうだ、明ちゃん。今日はもう遅いから泊まっていくといいわ。部屋は今用意したから」
アリスが窓の外を眺めながら言う。
見ると、ただでさえ薄暗い森がさらに暗くなっていた。
もう出歩くのは危ないだろう。
「わ、ありがとうございます」
頭を下げて礼を言う。
どうにか一夜目は安心して越せそうだ。
* * *
簡素ながらもしっかりとした造りのベッドに横になる。
髪を下ろし、毛布を被り、目を閉じた。
眠気はすぐに来た。
心身ともに疲れていたらしい。
それもそうだ。
気を張りっぱなしだったうえ、半日も森を歩き回ったんだから。
アリスには感謝しなければ。
彼女がいなければ、今頃この森のどこかで行き倒れ、妖怪に喰われていたことだろう。
彼女が私を騙している可能性も無くはないが、何も分からない今は信用するしかない。
私はか弱い女子高生であって、屈強なサバイバーではないのだ。
「……お兄ちゃん」
眠気の中、無意識にそう口走った。
私の兄、東雲衛。
幼い頃からいつも一緒だった。
小学校の頃もよく遊んだし、中学校の頃もよく勉強を教えてもらった。
高校に入ってからも、相変わらず仲は良かった。
そしてあの日。
外の世界で意識を失う直前も、一緒にいた。
無事だろうか。
心配しているだろうか。
また……会えるだろうか。
うん、会える。
きっとお兄ちゃんもこの世界に飛ばされたんだよ。
探せば見つかる。
きっと、また会える。
「私は……無事だから…………安心、して……ね……」
私は意識を手放した。
名前:東雲 明
初登場:一章第十一話 兄妹
種族:人間
性別:女
年齢:16歳
身長:普通
髪の長さ:背
髪の色:黒
瞳の色:茶
能力:貫く程度の能力
濃尾平野の住宅地にあるマンションに住んでいた、普通……の女子高校生。
東雲衛の妹で、二歳年下である。
この物語における、いわゆる妹キャラ、ボケ担当キャラ。
明るく元気だが、言動やテンションなどいろいろとぶっ飛んでいる。
その奇抜で読めない性格ゆえに男はなかなか寄り付かないが、容姿だけなら中の上程度はあると言える。
第一章では、修学旅行で東京に滞在中、一連の騒動(明無夜軍)に巻き込まれた。
兄の衛と合流するため長野の別荘で落ち合うことにするが、道中の電車内で見えざる声にたぶらかされ、ひとり森へと失踪してしまう。
しかしその後、彗星の妖怪との友好的な接触に成功し、ややあってから兄の東雲衛や彼を助けた炎妖精と合流する。
そのなかで世界中で起こった騒動について考察も進み、これは大妖怪が何かによる、妖怪の復活を図るための計画であることと断定する(明無夜軍という名称については知るよしもないが)。
また彼女も兄と同じく、謎の力“妖術”に目覚め、自分の先祖が妖術師と呼ばれる者達だった可能性を知る。
彼女の妖術は、指先に水色の光弾を生み出して撃ち、標的を貫通するというもの。
突然力に目覚めたのは、彼女自身も一連の騒動の影響を受けたためと考えられる。
一行は真相に迫るため行動を始めるが、突如として伝説の大妖怪“金毛九尾”を名乗る女性が現れ、妨害攻撃をされる。
彼女も妖術を駆使して抵抗するが、大妖怪相手に敵うはずもなく、捕らえられ意識を失った。
名前:アリス・マーガトロイド
初登場:二章第四話 Different Worlds Magic
種族:魔法使い
性別:女
年齢:不明
身長:高
髪の長さ:肩
髪の色:金
瞳の色:青
能力:人形を操る程度の能力
魔法の森に住む魔法使い。
種族としての魔法使いであり、れっきとした人外、妖怪である。
妖怪といっても人間より実力が高いだけで、彼女は歳も食事も睡眠も普通にとる。
属性を問わず様々な魔法を使用でき、魔法使いの中でも万能型。
また、多数の人形を魔法の糸で操って家事や戦闘に役立てる、という特徴を持つ。
青いノースリーブとロングスカートに白いケープを羽織り、金髪には赤いリボンとカチューシャを付けている。
金髪碧眼で美人という容貌も相まって、本人のほうが人形のような見た目をしていると言える。
性格は穏やかで優しい。
森で迷っていた東雲明を快く自宅に泊めたのは良い例である。
だが魔法使いとして実力者のためか、意外と好戦的でもあるようだ。




