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東方無明録 〜 The Unrealistic Utopia.  作者: やみぃ。
第一章 明無夜軍
41/149

後話3 反攻

 描かれるのは、若き偵察空兵のその後と。

 闇が晴れた都のその後。




 東京上空




 コックピットのガラスの向こう。

 夜明けの迫るコンクリートの地平線。

 黒いシルエットとなって浮かび上がる、東京スカイタワー。

 あの時と同じだ。

 東京が闇に奪われた、忌々しいあの日の早朝と。


 だが、今回は逆だ。

 東京を覆う闇は数日前に消え失せた。

 今度は俺達が、東京を奪う番だ。


『……3……2……1、着弾』


 次の瞬間、その景色は紅蓮の炎に包まれる。

 やや遅れて届く轟音。

 機体を揺らす振動が腹に響く。


 東京湾に展開中の日米中連合艦隊と、上空を通過した米空軍のステルス爆撃機部隊による、対地ミサイルの一斉同時攻撃だ。

 首都奪還作戦、空の塔(オペレーション)作戦(スカイタワー)の第一段階である。


『攻撃、着弾。一番偵察ヘリ(スカウト1)二番偵察ヘリ(スカウト2)、効果を確認せよ』

『スカウト1、了解』

「スカウト2、了解……っと」


 司令部からの指示に機長が応答する。

 彼はスロットルを押し倒し、ヘリの機体を前進させる。


「お前は地上に集中しろ。空は俺が見張る」

「はい」


 操縦担当である機長に対空警戒を任せ、俺は高精度カメラの映像を注視する。


 暗鬼(ダーカー)は人間程度の大きさしかないため、発見は難しい。

 赤外線カメラが使用できれば一目瞭然なのだろうが、どういうわけか鎮静状態の奴等は赤外線を発さない。

 奴等が戦闘状態に移行するまでの間は、明度を上げた可視光カメラで地道に探すしかないのだ。


 目を凝らし、炎と煙に包まれた街並みを撮影していく。

 薄暗いその地表に、蠢く人影がいくつも見えた。

 ダーカーだ。


 ミサイルの着弾地点周辺には見当たらないことから、攻撃の効果はあったのだろう。

 奴等の数が多すぎるだけだ。


「攻撃効果あり。なれどダーカーは未だ多数健在」


 リアルタイムで送信される映像に無線報告を添える。


 現代戦とは則ち情報戦。

 いかに早く情報を得るかが勝敗を左右する。

 我々偵察ヘリ部隊の役割は重要だ。


『了解した。剣鬼(フライヤー)は確認できるか』

「ああ、かなりの数を確認している。空軍へ向かう模様」


 機長が前方を睨みながら答える。

 レーダーに次々と浮かび上がる影は、飛行型のダーカー、剣鬼(フライヤー)だ。

 その大多数は、暗雲の上の米空軍目掛け上昇していく。


『分かった。戦闘機(イーグル)隊、突入開始。威力偵察の後、フライヤー群をキルポイント1へ誘引せよ』

『イーグル1了解』


 すかさず航空自衛隊の戦闘機部隊が攻撃を行う。

 上空から発射された空対空ミサイルの雨が、フライヤー群に降り注いだ。

 薄暗い空に煌めく閃光。

 次々と吹き飛ぶ敵機と、構わず突き進む敵機。

 慌てて無線を取る。


「敵機撃墜を確認、しかし数が多すぎます!」

『了解。イーグル各機、格闘戦を避け、速やかに東京湾(キルポイント1)へ向かえ。落とされるなよ』


 イーグル1がそう言うが早いか、戦闘機部隊は機首を上げ、加速しながら南へ向かう。

 仲間をやられ怒り心頭のフライヤー達は、爆撃された地上のことなどお構い無しで後に続く。


「誘引は成功しつつあります。かなりの数が南に向かっています」


 あっという間にフライヤー群の背中が遠ざかっていく。

 最早肉眼では黒い霞にしか見えない。

 未だ敵機は東京上空に残っているが、先程までと比べれば遥かに少ないだろう。


 これで奴等は東京湾内で、連合艦隊と米空軍、米空母艦載機隊、そして沿岸部隊による集中砲火を受けることになる。

 一方、フライヤーの減った(こちら)は制空権を得、有利に戦闘を開始できるというわけだ。


 ここ東京に存在するダーカーの数は、他の被害都市とは比較にならないほど多い。

 こうでもしないと近づくことすら出来ないのだ。


 まあしかし、ここまでは予定通り。

 作戦は順調だ。


『よし、次に移行するぞ。各部隊報告せよ』


 司令部の無線に、各部隊が一斉に報告をよこす。


偵察機(ゴースト)隊、空域に到着。航空偵察を開始する』

『こちら制空戦闘機(ファントム)隊、突入準備よし』

戦闘攻撃機(ブルーバード)隊、同じく』

『こちら米空軍。無人偵察機(ホーク)隊、無人攻撃機リーパー隊、北西にて待機中、指揮権を譲渡する。重爆撃機(フォートレス)隊、高速爆撃機(ランサー)隊、護衛戦闘機(ライトニング)隊、東より間もなく空域に侵入する』


 さらに。


攻撃ヘリ(アタッカー)隊、低空待機中』

戦車(タイガー)隊、全車問題なし。いつでも行ける』

自走砲(クロスボウ)隊、射撃用意よし』

『ミサイル車両部隊、発射準備完了』

『制圧部隊、待機中』


 作戦エリアの南西、皇居周辺に集結した陸上自衛隊が応答する。

 ガラス越しに下を覗くと、道路を埋め尽くす車両部隊が見えた。

 また、レーダーには数えきれないほどの友軍機の影。

 さらに、東京湾の浦賀水道は日米中の大艦隊によって、鳥一羽魚一匹逃さんばかりに完全封鎖されている。

 陸海空、いずれの戦力もかつてない凄まじい規模だ。


 あの数のダーカーを相手に残滅戦と制圧戦を挑むのだ、これでも足りないくらいである……というのは、幕僚長達の言葉。

 日本(我が国)はそれだけ本気なのだろう。


 東京は400年間、日本の(みやこ)であり続けている。

 人ですらない化け物などにその一角を奪われている状況は、日本人として到底容認できないのだ。


『作戦第二段階、制空戦闘、精密爆撃及び地上部隊突入、開始!』


 我が国を怒らせたらどうなるのか教えてやる、ダーカーめ。


 刹那、東京上空で多数のミサイルが一斉に炸裂する。

 航空自衛隊の制空戦闘機(ファントム)隊と戦闘攻撃機(ブルーバード)隊、そして米空軍の護衛戦闘機(ライトニング)隊による中距離対空ミサイル攻撃だ。

 残っていたフライヤー達は一瞬にして撃ち落とされ、制空権は此方の有利に傾いた。


『こちら二番偵察機(ゴースト2)。敵機壊滅、航空優勢』

『了解。重爆撃機(フォートレス)隊及び高速爆撃機(ランサー)隊へ、空爆を要請する』

『ラジャー、指定範囲を爆撃する。倉開放、投下開始!』


 この隙を逃さず、米軍が重爆撃を開始した。

 上空を見上げると、おびただしい数の誘導爆弾が都内に落下してくるところだった。


 米軍による都内爆撃は70年ぶり2回目か。

 前回は誰もが忌々しく見上げたであろうそれを、今回は頼もしい思いで見上げているとは……なんだか不思議な気分だ。


『ミサイル車両部隊、自走砲(クロスボウ)隊、攻撃開始。戦車(タイガー)隊、東進開始。隅田川沿岸部を確保しつつ北上せよ』

一番戦車(タイガー1)了解! 全車発進、隅田川に向かえ!』


 同時に地上部隊も動き始めた。

 後方から砲声が響き、それを合図に戦車達が排煙を上げる。

 数えきれない数の戦車が皇居の両脇を次々と駆け抜け、先頭の一団は鉄道を越える。

 その先に待ち受けるのは、多数の斬鬼(ウォーリアー)銃鬼(シューター)


 すぐに無線を入れる。


戦車(タイガー)隊前方にダーカー多数確認!」

攻撃ヘリ(アタッカー)隊、直ちに排除しろ』

『了解。五番攻撃ヘリ(アタッカー5)以下4機、攻撃に移れ』


 素早く回り込んだ戦闘ヘリ4機が、大通りを塞ぐダーカーにロケット弾をばらまく。

 ダーカーの何体かが上空に向け光弾を撃ち上げるが、蟷螂の斧。

 たちまちロケット弾が炸裂し、あっという間に通りの敵は排除された。


 すると突然、隅田川の東で幾つもの大きな爆発が起き始める。

 米軍の投下した爆弾が地表に達したようだ。

 一方、隅田川北西でも多数の爆発が。

 ミサイル車両の対地誘導弾と、自走砲の榴弾の着弾だ。


 さらに、残ったダーカー群の居場所を正確に破壊していく爆煙と土煙。

 空爆の討ち漏らしは、無人攻撃機の対地ミサイルや戦闘攻撃機の機銃掃射の餌食となる。


一番戦車(タイガー1)より各部隊、援護感謝する。これより北上する、もうしばらく頼む』


 頼もしい火力支援の下、地上部隊は戦車隊を先頭に進み続ける。


『聞いたな。各員、地上部隊を全力で援護せよ。1両たりとも失わせるな!』


 司令官が吠える。

 皆のお陰か、今のところ脱落した車両はいない。

 損傷も僅かだ。


 今回の作戦目的は、東京スカイタワー及び周辺重要施設の制圧。

 達成の為には、歩兵部隊とそれを先導護衛する装甲部隊の力が不可欠である。

 連合艦隊にフライヤーの相手を押し付けてでも、航空部隊に膨大な出費を強いてでも、地上部隊を守り活躍させねばならないのだ。


『指定小隊は橋を封鎖し待機せよ。他は一番戦車(タイガー1)に続け』


 隅田川の西岸を、車両部隊が北上していく。

 首都高速道路を使って東岸沿いに進む部隊、隅田川の各橋の西を塞ぐ部隊もいる。

 東側の敵をヘリや無人機に排除してもらいつつ、川沿いのエリアは確保されていく。


 対するダーカー側は、建物の屋上や高架上に銃鬼(シューター)を並べ、我々人類の侵入に備えようとしている。

 路地からは斬鬼(ウォーリアー)が次々と現れ、橋に向かって疾走していく。

 スカイタワーからは剣鬼(フライヤー)の第二陣も飛び立ち始めている。


 双方準備は整った、ということか。

 いよいよだ。

 はやる鼓動を抑え、無線を取る。


「司令部。戦車(タイガー)隊が隅田川の封鎖を完了、航空部隊の制空権確保も完了した模様」

『よし……片を付けるとしよう。作戦第三段階、制圧戦及び残滅戦、開始!』


 瞬間、川に並ぶ戦車砲が一斉に火を吹く。

 建物の最上階ごとシューターが消し飛ぶ。


 通りに自走砲部隊の榴弾が着弾する。

 道路が炎に包まれ、ウォーリアーが焼け転がる。


 戦闘機の放ったミサイルが、上空で起爆する。

 朝焼けの空が連爆に染まり、フライヤーが引き裂かれる。


「やりました! 敵防衛線崩壊!!」

『今だっ! 戦車(タイガー)隊、制圧部隊、突入開始!!』


 一斉に地上部隊が動き出した。

 戦車が砲弾と銃弾をばらまきながら、隅田川にかかる橋をそれぞれ越えていく。

 彼らは車の残骸を踏み潰し、路地から飛び出すダーカーを吹き飛ばしつつ、街の奥へ奥へと進んでいく。

 そうして切り開かれた道を、兵員輸送車の車列が走り抜ける。


 地上部隊の制圧地点到達は時間の問題だろう。

 よし、我々ヘリ部隊も前進して援護を……。


『く、一番攻撃ヘリ(アタッカー1)、被弾した! 退避する!』


 唐突に無線が響き、先頭にいた攻撃ヘリが横へと逃げる。

 その機体に付いた二つの焦げたような跡から、黒い煙が流れている。


 はっとして赤外線カメラを下方に向ける。

 こちらに大盾と右腕を向ける、何体もの人影。

 シューターだ。


「真下から対空砲火! 回避!!」


 俺が叫ぶと、蜘蛛の子を散らすように攻撃ヘリが周囲に飛び退く。

 直後、彼らが居た空間を光弾の群れが通過した。

 間一髪だ。


 俺の乗る偵察ヘリも素早く急上昇、そして反転し、離脱しようとする。

 が。


「ち、フライヤーか……」


 機長が忌々しくこぼす。

 機体の正面、逃げようとしていた方角から、4体のフライヤーが向かってきていた。

 標的は間違いなくこのヘリだろう。

 この機が情報担当であることに気付いたようだ。


「ギリギリまで引き付けて回避するしかないな。掴まってろ」


 この機体には武装が無い。

 故に迎撃は不可能だ。

 かといって再び反転し逃げたところで、速度で勝るフライヤーには追い付かれてしまう。

 機長の言うとおり、こうするしかないのだ。


「敵機さらに接近……直撃します!」


 咆哮を上げながら迫るフライヤー。

 激突まであと数秒。


「祈れ」


 機長が呟く。

 刹那、メインローターの出力が停止する。

 動力を失った機体は急激に高度を落とした。


「    !!」


 フライヤーが頭上を通過する。

 殺意にまみれた雄叫びが心臓を刺す。

 だが、機体が破損するような音は聞こえてこない。

 回避成功だ。


「うぉらっ!!」


 機長の一声で、メインローターが再び動き出した。

 機体が急加速し、すれ違ったフライヤーの編隊を後ろへ置き去っていく。

 赤外線カメラを後方に向け、奴等を捕捉する。

 翼を広げた4体のフライヤーは、旋回して再びこちらへと向かおうとしていた。


 逃げ切れるか……?

 そう思ったのも束の間。


『スティンガー発射用意……発射!』


 前方から2発のミサイルが飛来する。

 それらは凄まじい速度で機体を掠めると、旋回中のフライヤーの背中に追い縋り。


「  !? ……」


 起爆した。

 巻き込まれた2体のフライヤーは、身体から黒煙を引きながら墜ちていく。


 前方を向き直ると、2機の大型戦闘ヘリが両脇をすり抜けていくところだった。

 回転翼機部隊の虎の子、AH-64Dだ。

 側面に抱える空対空ミサイルを放ったらしい。


『こちら九番攻撃ヘリ(アタッカー9)、敵機撃墜。残り2体だ。第二射用意』

十番攻撃ヘリ(アタッカー10)了解』


 旋回を終えこちらに向かってくる2体のフライヤー。

 戦闘ヘリは素早くその進路上に割り込み。


『発射』


 再びスティンガーを放った。

 白煙を撒き散らし飛び出す2発のミサイル。

 それらは数秒と経たないうちに目標へ到達し、起爆した。


 爆発に巻き込まれるフライヤー。

 千切れた赤い翼が宙に舞う。

 闇色の煙が血飛沫のごとく散る。


 撃墜だ。

 あっという間の出来事だった。

 流石は最新鋭兵器である。


『命中、敵機撃墜。……二番偵察ヘリ(スカウト2)、飛んでるか?』

「こちら二番偵察ヘリ(スカウト2)。飛んでるぞ、お陰様でな。救援感謝する」


 九番攻撃ヘリ(アタッカー9)がこちらを気遣う。

 機長は礼を言うと、やれやれといった様子で大きなため息をついた。


 俺も深く息を吐く。

 今度こそ本当に死ぬかと思った。

 墜落して死にかけたあの時と異なり、今回は相手がおり、明確な殺意を以て殺されかけたのだ。

 恐怖の度合いは段違いである。


 革手袋で冷や汗を拭う。


 しかしまあ、こうして命があるのも彼らのお陰。

 この借りは何処かで返すとしよう。




『こちら戦車(タイガー)隊。スカイタウン及びスカイタワーの包囲に成功、これより制圧部隊が突入する。支援の際は誤射に注意されたし』


 地上部隊から連絡が入った。

 見ると、スカイタワー周辺に戦車や装甲車、輸送車が展開していた。


 上空には輸送ヘリが浮かび、搭乗する隊員がタワーへ小銃を向けている。

 明るくなりはじめた空には戦闘機が舞い、制空権を維持している。


 いよいよだ。


『こちら司令部。空の塔(オペレーション)作戦(スカイタワー)は最終段階に移行する』


 無明の始まりの地、東京。

 否、我が国の都、東京。

 無明の始まりの象徴、スカイタワー。

 否、我が国の力の象徴、スカイタワー。


 返してもらおう。

 ダーカー。


 お前は敗けるのだ。

 綾蔵(黒服)




『巨塔を奪還せよ』




 東京の夜空に、陽が昇ろうとしていた。



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