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東方無明録 〜 The Unrealistic Utopia.  作者: やみぃ。
第一章 明無夜軍
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第四話 夜明




 東京上空




 多数の灰色の太い柱の中に、大小一つずつ円盤を編み込んだかのような外見。

 大都会の中心にそびえ立つ巨大な人工物、東京スカイタワー。


 旧国名であり地名の「武蔵」にちなんで「634」メートルの高さで建てられ、異国の言葉で「空の塔」という意味の名が付いたこの塔。

 巨大建築物が建ち並ぶ東京都心でもずば抜けた存在感を放っている。


 当然このスカイタワーへの人々の関心は高く、毎日国内外から多くの観光客が訪れる。

 もはや東京のシンボルではなく、日本のシンボルと言っても過言では無いだろう。


 夜明け前。

 スカイタワーの脇を、1機のヘリコプターが通過していく。

 本来ならばこんな暗い時間帯のヘリコプターの低空飛行は行わない。

 危険すぎるからだ。


 だが、この機体と搭乗員ならば問題は無い。

 民間機とは明らかに意匠の違う形状に、緑色のまだら模様。

 機体の片隅には「陸上自衛隊」の文字が書かれている。




「機長、見る限り不審な車両はありません。レーダーにも我々以外の反応はありません」

「ん〜了解。本部、応答願う」

『こちら本部』

「こちら偵察二番機(スカウト2)。現時点でタワー周辺に不審車両、機影等は確認出来ず」

『了解。指示があるまで待機せよ』

偵察二番機(スカウト2)了解」


 この機体は日本国の国防組織「自衛隊」所属の偵察ヘリコプター、「OHー1 ニンジャ」である。

 低空飛行性、高速性、機動性、生存性等に優れたこの機体は国内で38機が生産され、自衛隊の陸上組織「陸上自衛隊」で運用されている。


 昨晩の同時多発テロ発生直後からOHー1の2機が夜間偵察を行い、都内の警戒にあたっているのだ。




 * * *




 前部座席のレーダー担当の部下が声を掛けてくる。


「機長、日の出まであと20分です」

「おう、日が出たらこの辺りは警察ヘリに任せるらしい。もうひと踏ん張り、頼むぞ」

「了解しました」


 機長であり操縦士である私は周囲を見渡す目を一旦休め、部下に話しかける。


「しかしまぁ、世界同時多発テロねぇ……。随分と殺してくれたもんだ」

「全くです。(はらわた)が煮えくり返りそうですよ」


 大人しいこいつでさえ怒りを禁じ得ないようだ。

 まぁ同感だが。


 下を覗き込むと、何枚ものブルーシートで覆われた交差点が目に入った。

 このタワー周辺でも同様のテロが発生したらしい。


「しかし一体どうなってんだろうな。世界規模の事件なのに一切証拠が見つからないとは……」

「不自然すぎますよね。そんなこと本当に有り得るのでしょうか」

「考え難いが、混乱で情報が入ってきていないだけだろう。完全犯罪なんて不可能だよ」

「だと良いんですけど……」


 人が死んでるから良くはないがな。

 そんな分かりきっているであろう事実は口にせず、左に見えるスカイタワーを眺める。

 青く染まりつつある朝空。

 そこに映るコンクリートの地平線と、巨大な塔(スカイタワー)の輪郭。

 まるで芸術作品のように美しかった。


「我々も、自衛隊も頑張らないとな」

「はい。こんな時こそ、ですね」

「ああ。……ぁん?」


 思わず変な声が出た。

 眺めていたタワーの頂上のシルエットに違和感を感じたからだ。


「どうかしましたか?」

「赤外線カメラ用意。目標、9時方向、スカイタワー最上部」

「了解」


 機首をまだ昇りきらない太陽へ向け、タワーに接近する。

 今の角度のままだと、眩しくて赤外線カメラがホワイトアウトしてしまうからだ。

 近づくにつれタワーのシルエットが見にくくなる。

 代わりに半分が朝日にあてられたタワーが見えはじめる。


「やっぱ何か有るな……」


 近づくほど違和感は大きくなっていく。

 突然、レーダー担当が叫んだ。


「機長!」

「見えたか?」

「ち、頂上のアンテナ先端に……ひとっ、人影が……」

「……は?」


 目の前のモニターに映像が入る。

 最上部の避雷針と思われる構造物に、確かに人影がいる。

 それだけなら作業員だとでも言えるのだろうが……。


「なんだよ……これ……」




 先端よりさらに上。


 強風吹きすさぶ寒空に。


 足元の無い空中に。




 その人影は、浮かんでいた。





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