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東方無明録 〜 The Unrealistic Utopia.  作者: やみぃ。
第一章 明無夜軍
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第二十二話 攻防




 幻想郷 人間の里上空




 逃げ惑う人間達。

 抵抗する少数の人外。

 それらを無慈悲に襲う、暗鬼の群れ。


「くっ……!」


 目の前の光景に、思わず歯軋りする。

 己の無力さに腹が立っているのだ。


 人間の里は既に壊滅状態。

 これ以上の生存者救出は、もはや不可能だろう。




 私、八雲(やくも)(らん)は、主の八雲(やくも)(ゆかり)様からの命令を受け、人間の里へと急行した。

 任務内容は、里に住む人間を暗鬼の襲撃から守り、避難させること。

 責任は重大であるが、簡単な仕事になるだろうとたかをくくっていた。

 だが、見立てが甘かったと言わざるを得ない。


 私は九尾の狐。

 妖獣の中ではもちろん、妖怪の中でもかなり強い部類にあたる。

 対する暗鬼は、妖怪の中では最下辺。

 光に触れたり、人間に斬られた程度で消滅する程、昔は小さく弱い妖怪だった。


 だが、目の前の奴等は違う。

 強い朝日すらものともせずに走り回り、斬られても射たれても死なない。

 容姿や能力も様々だ。

 三本指の左腕から光弾を放ち、高い機動性と刀のように発達した右腕で斬りつける、斬鬼。

 大剣のような両腕を広げて空を舞い、高速で襲い掛かる、剣鬼。

 盾のような左腕で身を守りつつ、長い右腕から光弾を連射する、銃鬼。


 その一体一体の強さは、もはや暗鬼の域を完全に超えている。

 数も凄まじく多い。

 さらに、この黒い半球型の霧から無限に涌く。

 こんなもの、私では手に負えない。

 ましてや人間を守りながらなど、到底不可能だ。




「お、御狐様! 助けて下せえ!」

「来るぞ! 早く逃げろ!」


 此方へと逃げてくる人間の一団。

 その後方からは、奇声を上げつつ飛び掛からんとする斬鬼の群れが。


 私は咄嗟に跳躍し、山なりに人間たちを飛び越える。

 空中で回転しながら九つの尾を大きく広げ、着地の際、尾で斬鬼の群れを叩き潰す。


「 !? ……」

「!! ……!」


 異様な呻き声をあげて絶命する斬鬼共。

 それを観察する間も無く、素早く結界を展開する。

 直後、結界に撃ち込まれる幾多の光弾。

 結界の表面が、閃光を発ながら軋む。

 銃鬼による中距離からの射撃だ。


 私は頭上に弾幕を発現させ、彼らへ撃ち返す。

 放たれた何十発もの妖力弾が、銃鬼の隊列に命中した。

 が、効いていない。

 盾のような銃鬼の左腕に阻まれたようだ。


 目障りだ。

 このままでは埒が明かない。

 また、撃たれ続けている以上迂闊には動けない。

 ならば。


「『前鬼後鬼』!」


 黄と緑の光を放つ式神を、それぞれ2体ずつ召喚する。


 私ではなく、式神に始末してもらおうか。

 頑強な大盾をいくつ並べたとて、流石に爆撃までは防げまい。


「行け!」


 正面へと向きを変えた4体の式神は、私の結界を内側から貫通し、銃鬼の隊列へと突入した。

 着弾地点から、地響きと共に火柱が上がる。

 続けて2発目が着弾、さらに3発目、4発目。

 銃鬼の隊列は、たちまち炎と土煙に包まれた。

 石や家屋に混じって、銃鬼だったモノの破片も宙に舞う。


 光弾はもう飛んでこない。

 付近の地上の敵は排除できたようだ。

 問題は。


「なんという数だ……!」


 朝焼けの空を見上げ、絶望する。

 空を埋め尽くさんばかりの数の、剣鬼。


 既に人間の里より遥か遠方へ向かった群れも多い。

 各地の妖怪の住処が襲われるのも、時間の問題だろう。

 ここで私が少しばかり撃ち落としたところで、焼け石に水。

 だが、何もしないよりはマシだ。


 右手に細かい妖力弾を多数生み出す。

 視界に映ったひとつの群れに狙いを定め、放った。

 妖力弾は剣鬼達の合間を掠め、或いは命中し、彼らの注意を惹く。

 撃たれたことに気付いた個体が、此方を見た。


「そうだ、来い。私が相手してやろう」


 私は挑発の言葉を吐くと、地を蹴り、彼ら目掛けて一直線に飛翔した。


「 !! !」

「? 、 !!」


 剣鬼達が咆哮し、群れを成して向かってくる。

 私は口元を歪ませた。


 かかったな。


「!?  、 」

「 ?  !?」


 剣鬼達は大いに狼狽した。

 それも致し方ない。

 私は彼らの視界から、突然“消えた”のだから。

 私が見えないようになる幻術を掛けたのだ。


 私はそのまま剣鬼達とすれ違う。

 彼らに発見されることなく、その群れの只中に飛び込むことが出来たのだ。


 幻術を解き、全身に妖力を込める。


「  !!」


 私の存在に気付いた数体の剣鬼が、此方を振り返る。

 だが、もう遅い。

 遅すぎる。


「『アルティメットブディスト』」


 刹那、前後左右上下に照射される、青色の光線(レーザー)

 6本の光線は、奇妙にも半ばで直角に折れ曲がった。

 端からは卍形に見えるそれを、私は回転させる。


 次々と光線に刈り取られていく剣鬼。

 突然仲間を失った彼らは、狼狽しつつ回転の範囲外に出た。

 異変に気付いた他の剣鬼たちも、回転する光線の射程ぎりぎりまで接近し、その場で停止する。

 攻撃が止むタイミングを待っているのだろう。


 馬鹿め、止まぬわ。


 光線の折れ曲がる方向が、突然180゜逆になる。

 同時に射程が数倍にまで伸び、色も鮮やかな赤色となる。

 剣鬼達がぎょっとした表情を見せた。


「気付くのも驚くのも後悔するのも、遅すぎるのだよ」


 私は、光線を逆方向へと回転させた。


「  ?? !!」

「!?  ……」


 停止していたことも災いしたのだろう。

 逃げることすら叶わず、一体残らず光線に掻っ切られていく。

 大きく広がる6本の赤き光線は、無慈悲に空を掻き回す。




 結果、先程よりも明らかに多くの剣鬼が絶命した。

 未だ空に剣鬼は多かれど、此方に向かってくる者は既に無い。


「はぁ……」


 思わずため息をついたのは、気分を区切りたい願望からか、それとも己への失望からか。

 昔の私なら、もう少し殺れた……あと数十体は葬れたはずだ。

 最後に実戦に臨んだのは、はたして何年前だったか。

 まだ勘が戻りきっていないようだ。


『藍、もう少し闇霧(やみきり)から離れなさい。巻き添えを喰らいたくは無いでしょう?』

「! 畏まりました」


 紫様からの霊通信に素早く返事をし、その場を離れる。

 闇霧とは、あの黒い半球形の霧のことだ。

 ついにあれの破壊にかかるのか。


「ぬどりゃぁああぁ!!」


 気合いの一声と共に、極大の衝撃波が闇霧を襲う。

 紫様の旧友、伊吹(いぶき)萃香(すいか)の正拳突きだ。

 相変わらず凄まじい威力である。

 さすがは鬼、といったところか。


 巨山すら更地にしてしまいかねない、脅威の一撃。

 たかが霧程度、跡形もなく消し飛ば……。


「うげ!?」

「……なんだと」


 ……せなかった。

 闇霧は、正拳突きが放たれる前と何ら変わらぬ姿で、未だそこにあった。

 成果を挙げるとするならば、あの中にいた暗鬼は文字通り消し飛ばされているはずだろうが。


「こんの〜なんでやねんっ!?」


 器用にも空中で地団駄を踏む、幼い少女。

 が、気を取り直したのか、すぐまた闇霧を睨む。


「にゃろう、こうなったら……密度を下げまくって、爆ぜ散らせてやらぁ!」


 萃香が両手を突きだし、妖力を放出しながら唸る。


 彼女は、「密度を操る」能力を持っている。

 さしずめ、闇霧を形作っている物質の密度を極端に下げ、霧散させるつもりなのだろう。


「……なぬっ、……この! …………どわあぁ!?」


 やかましい。


「だ、駄目だあ! こいつ、抗ってきやがる!」


 駄目なのか。

 抗ってくる、とは。

 つまり、この闇霧はただの物体ではなく、妖力と意思を持つ妖怪のようなもの……ということか。


「あらあら、困ったわねぇ」

「! ……幽々子(ゆゆこ)様でしたか」


 音も気配もなく隣に現れた、亡霊。

 紫様のもうひとりの旧友、西行寺(さいぎょうじ)幽々子(ゆゆこ)だ。


「でも生きているのなら、何故死んでくれないのかしら」


 扇子を口にあて首を傾げながら、おぞましい質と量の妖力を送り続ける彼女。

 その矛先は、もちろん闇霧だ。


 幽々子は、「死を操る」能力を持っている。

 あらゆる生命を抵抗なく死なせるという、恐ろしい力だ。

 闇霧が妖怪ならば、生き物だとするのなら、彼女の能力で殺せるはずだ。

 だが。


「……んぅ、やっぱり駄目ねぇ」


 諦めたのか、幽々子が能力を解く。

 これも効かないようだ。


「藍、ご苦労様。萃香、幽々子、そっちはどうかしら」


 上空から声がかかる。

 見上げると、空間を裂いて出てくる紫様がいた。


「あ〜悪いな紫、こっちは成果無しだ。殴ってもすり抜けるわ、密度は操らせてくれないわで……」

「死なせることもできないのよ〜。紫、ごめんなさいね……」


 ふたりが申し訳なさそうに報告する。

 紫様は、そう、と短く返事をすると口を開いた。


「こっちも手詰まりといったところよ。結界で覆っても無意味みたいだし、境界を弄ってもビクともしないわ」


 紫様は、「境界を操る」能力を持っている。

 結界や封印を張るのは勿論、物事の境界を弄り論理的に破壊や創造を行うこともできる。

 そんな紫様でさえお手上げとは。


「申し訳ありません。私がもう少しお役に立てれば……」


 私は、「式神を使う」能力しか持っていない。

 手数を造り出すことには向いた力だが、この闇霧とやらに対しては全くの無力であった。


「藍、貴女はきちんと役目を果たしたわ。そんなに卑下しないで頂戴」


 紫様が珍しく労って下さる。


「そうさ藍。あんたが空を片付けてくれたお陰で、あたしゃ思う存分ぶっ離せたんだ」

「人間を助けながら暗鬼を殺るなんて、私には出来ないわ〜。きっと人間ごと死なせちゃうもの〜」


 ふたりも賞賛してくる。


 そうか、私にしか出来ないこと、か。

 大妖怪達に囲まれているせいか、自分が霞んで見えていたが。


「……ありがとう、ございます」


 決してそんなことは無いようだ。

 私は優しい先輩方に礼を言い、顔を上げる。


「……さて、皆。今後のことだけれど」


 紫様が再び口を開き、皆がそれに聞き入る。 


「現世へ……外の世界へ、繰り出すわよ」

「……ほう、遂にかい」

「そんなことも言ってたわね〜」


 紫様が幻想郷を創って以来、決して聞くことの無かったその言葉に、私は目を見開く。

 萃香と幽々子は事前に聞かされていたようだが、私は初耳だ。


「しかし紫様、それでは此処(幻想郷)は……」


 見捨てろということか?


「大丈夫、幻想郷にはまだまだ妖怪がいるでしょう?」


 吸血鬼、霊、蓬莱人。

 天狗、神、有力な人間やその他妖怪……。

 確かに数えきれないほどいるが。


「変異しているとはいえ、相手は暗鬼。自衛くらいなら容易いはずよ」


 それもそうか。

 しかも、血の気の多い連中ばかりだ。

 杞憂だろう。


「分かりました。して、現世で何を」

「元凶である大妖怪を始末するのよ」

「ほぉ……外の世界にまだそれほどの妖怪がねぇ」

「驚きね〜」


 私も含め、皆が一様に驚く。

 紫様はさらに続ける。


「奴は闇霧を世界中に設置して、現世を征服しようとしているわ。幻想郷は、それに巻き込まれたに過ぎないのよ」

「この惨事を人間の天下で、世界規模で……ですか」


 桁違いだ。

 紫様すら超える大妖怪だろう。


「そう。皆、心してかかって頂戴。並の相手じゃないわよ」

「おうよ」

「は〜い」

「はい」


 だが、やるしかない。

 幻想郷を護るのは、我々妖怪の賢者の役目だ。

 皆覚悟を決め、紫様を見る。


「して……その妖怪の名は?」


 紫様は目を伏せて頷くと、険しい表情で呟いた。




无月(むつき)綾蔵(あやくら)……よ」








 【暗鬼(あんき)


 天蓋や籠蓋の内部から無限に涌く、黒い人影の総称。

 斬鬼・剣鬼・銃鬼などの種類があり(後述)、それぞれ性能が異なる。

 綾蔵やミラージュの指揮下で動く、兵士のような存在。


 天蓋や籠蓋の内部を爆撃する赤い落下物の、着弾地点から現れる。

 例外として、綾蔵やミラージュがその場で直接生み出すこともある。

 死ぬか、別の命令が下されるまで人間を攻撃し続ける殺戮機械。

 ベースとなる見た目は、大柄な人間の男性を黒い煙のような物質で形造ったもの。

 頭部に眼と思われる赤い光点が2つある。

 声のような物を発するが、戦闘に関すること以外の知識は持たず思考もしないため、意思の疎通は不可能である。


 かつての日本では、暗鬼はごくありふれた妖怪であった。

 暗闇から突然現れ、人間を脅かしたりしていたという。

 ただ、光に曝されたり人間に斬りつけられただけで消滅するため、最弱の妖怪として有名だったようだ。


 ※【暗鬼】暗がりに潜むとされる鬼。不安・妄想から起こる恐れ。




 【斬鬼(ざんき)


 近距離地上戦闘に特化した暗鬼。


 右腕は肘から先が刀のような形状となっており、これで目標に切り付ける。

 左手は異様に長い3本の指からなり、それぞれの指の先端に光弾を生成し撃ち出す。


 東京に天蓋や綾蔵が現れる前、綾蔵が「間引き」と称して行った世界無差別殺戮に使用したのは、斬鬼である。

 この時の斬鬼は、世界中の路地裏や密室等の人目につかない場所でそれぞれ産み出され、目撃者を片っ端から殺害した後、夜明け前までに全ての個体が消滅した。




 【剣鬼けんき


 空を飛ぶ能力を持つ、空中戦に特化した暗鬼。


 腕が左右とも大きな剣のような形状をしており、その両腕を広げたまま体当たりすることで、対空目標を切りつけ攻撃する。




 【銃鬼(じゅうき)


 高い防御力と攻撃力で敵を圧倒する、中距離地上戦闘に特化した暗鬼。


 長く伸びた右腕から、射程の長い光弾を連射する。

 また、左手は大きな盾のような形状をしており、前方からの銃弾などを防ぐ。

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