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東方無明録 〜 The Unrealistic Utopia.  作者: やみぃ。
第一章 明無夜軍
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第十話 暗鬼




 東京都内




 身体の節々が痛い。

 そんな感覚と共に意識が戻ってきた。


 背中全体に広がる、冷たく硬い感触。

 どうやら俺は、アスファルトの上で仰向けに寝ているようだ。


 一体何があったのか。

 痛む頭に酸素を送り込み、記憶を呼び覚ます。


 ヘリコプターが次々に墜落して、空が真っ暗になって、停電して、赤い星空が現れて。

 そう、その赤い星達が突然落下してきたのだったか。

 そのうちの一つが乗っていたパトカーに落ちてきて……。


「……っ」


 そこまで思い出した所で、無意識のうちに瞼が開いた。

 相変わらず空には黒煙がたちこめ、辺りはまるで夜のように暗い。

 あまりにも暗いため、本当に自分の瞼が開いているかを疑うレベルだ。


 起きても無意味か。

 身体も痛むし、もうしばらく寝ていようか。

 諦めて再び目を閉じた。

 そのときだった。




 銃声。

 朦朧といていた意識は一瞬で覚醒した。

 すぐに跳ね起き、右膝をついて目を見開く。

 腰に差した拳銃のグリップを握り、それを引き抜く。

 痛みで乱れる意識を深呼吸して整え、拳銃を顔の横まで持ち上げる。


 俺はまだ警察官になって数年だというのに、もう拳銃を使う場面に出くわすとは。

 ついてない。


 冷静に辺りを見回してみると、思ったより暗くはなかった。

 炎上する車や建物によって、アスファルトが赤々と照らされていたからだ。


 まるで地獄絵図。

 あまりにも非現実的な光景に思わず目を疑った。

 だが、今はそんな事はどうでもいい。

 重要な事じゃない。

 銃声の発生源を突き止めねば。


 視線を巡らせていると、唐突に視界の端で何かが光った。

 直後に銃声が響く。

 そこか。

 拳銃をそちらへ向け、声をかける。


「誰だ!?」


 返答は無い。

 だが、誰かがこちらに向かってきているのは分かった。

 声を荒げる。


「止まれ!」


 足音は止まらない。

 もう一声かけようかと躊躇しているうちに、足音の主は姿を現した。


「た、助けて……。」

「……!」


 そいつは俺と同じくらい若い警官だった。

 制服には何ヵ所も穴が空いており、そこから真っ赤な血が滲んでいる。

 右手に握りしめた拳銃からは白い硝煙が立ち上ぼっていた。


「おい、大丈夫か! まさか撃ち合ったのか!?」


 彼は無言で頷くと、たどたどしく口を開いた。


「く、黒い……人影、に、みんな、やられ……っ!?」


 最後まで聞き終える前に、赤く輝く光弾がいくつも飛来する。

 彼の背後から現れたそれらは、俺の両側を高速で通過した。


「ぐ……は……」


 彼は突然口から血を吐き、崩れるように倒れた。

 その背中からはおびただしい量の血が流れ出している。

 光弾が俺に当たらなかったのは、正面に立っていた彼が障害物となった為のようだ。


 あっけなく殉職した警官に思わず言葉を失うが、すぐに意識を戻す。

 彼の死を無駄にしない為にも、必ず犯人を倒さねば。


 遺体の向こうの暗闇へ拳銃を構え、叫ぶ。


「そこにいるのは分かっている!」


 一旦息を整え、引き金に指をかけ、続ける。


「武器を捨てろ!さもなくば撃……」


 言い終えるよりも先に、暗闇から光弾が飛び出してきた。


 予想通り。

 立てていた左足に力を込め、地を蹴り右へ飛ぶ。

 右から迫ってきたアスファルトの地面を丸めた背中で受け流し、身体を横転させる。

 回る視界の端を光弾が三つ、通過した。

 直後に左足に焼けるような不快感。


 しまった、喰らったか?

 いや、気にするのは後だ。


 横転を終えると、右膝をついて先程と同じ姿勢をとる。

 再び前方の暗闇へと拳銃を構え、引き金を引いた。


 銃口から放たれた閃光が、真っ暗な街角を照らし出す。

 直後に手へと伝わる射撃反動(リコイルショック)

 鼻につく、慣れない硝煙の匂い。

 そして。


「  !?……  」


 暗闇の中から響く、およそ人間のものとは思えぬ悲鳴。


「……え?」


 なんだ、今の声は。

 こいつは誰だ。

 俺は一体何を撃ったんだ。


 思考が混乱したために、思わず身体が固まった、その瞬間。


「……  !!」


 声の主が暗闇から飛び出してきた。

 腕を振り上げつつ、こちらへと走って来る人影。

 一瞬、俺はそいつが人間に見えた。

 だが、それは大きな思い違いだった。

 その容姿はまさに、あの警官の言い残した「黒い化け物」そのものだったからだ。


 身体の表面を全て包む真っ黒な煙。

 頭部に妖しく光る、二つの赤い眼らしきもの。

 左腕の先端で大きく開かれた、異様に長い三本の指。

 肘から先が刀のような形状になっている右腕。


 身体の前に構えられたその刀身が、横薙ぎの要領で迫り。


「うわぁっ!?」


 間一髪。

 反射的に後ろへ身体を反らすと、赤い刀身は眼前を斬り払った。

 切っ先から逃げ遅れた数本の前髪が空に舞い、暗闇へと消えて行く。


 後ろへ跳んだ身体は、背中から地面に叩きつけられる。

 その痛みのあまり反射的に眼を閉じたが、すぐに開く。

 化け物は刀身を頭の上に構え、降り下ろそうとしていた。


 殺られる。


 そう思った瞬間、右手に握った拳銃が無意識のうちに化け物へと向けられた。


「ぁぁああああぁ!!」


 恐怖を悲鳴で掻き消しつつ、その引き金を引く。

 何度も、何度も撃つ。

 化け物の脇腹が、首筋が、左手が、右目が、銃声と同時に吹き飛ぶ。


「!!  !?  ! !」


 化け物が異様な悲鳴を上げながら後ずさる。


 俺は咄嗟に立ち上がると、硝煙をあげる拳銃を投げ捨て、代わりに腰から警棒を引き抜いた。

 それを一振りして長さを伸ばすと、目の前で呻く化け物を睨み付ける。


 不死身か、こいつは。

 銃弾を5発浴びても立っていられるとは。

 やはりこいつは人間ではないのだろう。


 俺は警棒を頭上に構え。


「……いい加減、」


 化け物の頭へ振り下ろした。


「くたばれぇ!!」

「!!」


 警棒から伝わる強烈な感触。

 相手が人間なら間違いなく頭蓋が割れ、即死するであろう。

 だが。


「!?   、!!」


 化け物の見せた反応は、狼狽しつつ俺から距離をとっただけだった。

 即死どころか痛がる素振りすら見せない。

 感情の感じられないその紅い左目で俺を捉え、こちらの隙を窺っているようにも見える。


 これ以上どうしろというのだ。

 こんな奴が相手では勝ち目がない。

 逃げるか、いや、それとも……。


「   !!」


 化け物が動いた。

 思考に気を取られていたために対応が遅れる。

 急速に迫るその刀身を、眼前に構えた警棒で受け止めるだけで精一杯だった。


「く……!?」

「!!   、」


 刀身と警棒が十字に交わり、飛び散った火花がお互いの顔にかかる。

 力を受け止め切れない為に、身体ごと後ろへと押される。


 負ける。

 力の差が大きすぎる。


 警棒と交わったままの刀身が、ゆっくりと顔に近づいてくる。

 向こう側には化け物の紅い目が。

 笑っているように見えた。


「畜、生……!」


 ここまでか。

 俺は死を悟った。




 その時だった。


 左から強烈な光に照らされたのが分かった。

 そして、同時に近づいてくるエンジン音。


 車?


 化け物が、光と音の発生源に振り返る。

 警棒にかかっていた重みが消えた。


 今だ。


 両腕に力を込め警棒を押し返す。

 化け物が後ろへよろめく。

 とっさに左に首を振ると、高速でこちらへ迫るヘッドライトが見えた。


 轢く気か。


 俺は身体を翻しつつ、横へと飛び退いた。

 その瞬間。


「!?   !!!!……、 」


 断末魔の悲鳴と、凄まじい衝撃音。

 甲高いブレーキ音を撒き散らしながら、背後を車が通過する。


 音のした方を振り向く。

 そこには見るも無惨な姿で倒れる化け物がいた。

 化け物は頭と両足が潰れ、全く動けないでいた。

 もう歩くことすら出来ないだろう。


 一方、見事な交通事故をやらかしてくれた先程の車は、少し進んだ道路上でひっくり返っていた。


 呻く化け物をよそに車へと駆け寄る。

 車のほうも負けず劣らず酷い有り様だ。

 原形は判らないが、白地に黒い塗装、一応パトカーのようだ。


 ……暗かったとはいえ、パトカーが警官を轢きかけるというのはどうなのか。

 いや、結果的に助けられたのだし感謝せねば。

 って違う、そうじゃない。

 まずは運転手を心配すべきだろう。


「だ、大丈夫ですか……?」


 声を掛けてみる。

 すると、歪んだドアの中から返事があった。


「はーい、大丈夫ですよ……っとおぉ!!」


 気合いの一言と共に、運転席のドアが派手に吹き飛ぶ。


 うわびっくりした。

 というより今の声、女性か?


 ドアが無くなった運転席から、小柄な女性が這い出てくる。

 彼女は立ち上がると、暢気に前髪を整えてから、俺と目をあわせ。




「あ、さっきの化け物、ちゃんとくたばってました?」


 開口一番、そう言った。




「あっはい。おかげさまで」


 俺はそう答えるしかなかった。




 確信犯じゃねぇか。





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