Youは何しにこの里へ
翌日。
初日は散々でしたが、今日こそはきっちり与えられた役割をこなそうと、ビシっと腰布を引き締め背筋を正した私が、机を挟んでマリアさんの前に座っていました。
両手を机の上で組んで、緊張感を演出するためたっぷり沈黙の間を置きます。
無言の時間が5分ほど経った頃、眉間に皺と固い声を作ってついに私は口を開きました。
「それでは、改めて尋問をはじめます」
「スリーサイズは上から90、63、89だ。......クッ、こんなことまで言わせて……満足か?」
「誰もそんなこと聞いていないのですが……」
「卑劣な誘導尋問だな」
これだからオークは...と言っているマリアさんを尻目に肩の力がガクっと抜けるのを感じます。
出鼻から意志と気合いが砕かれた感じです......。
こんなことではダメだ、と気を取り直して質問しました。
「あなたは何故ここに来たのでしょうか?」
「愚問だな、貴様らオークを殺すためだ」
「……やはりそうでしたか。何故です? これまでオークと人間はお互いに不干渉、迷惑をかけずにやってきたではありませんか?」
「お前達は存在そのものが害悪なのだッ! 野放しになどしておけるものか!」
「そんないくら何でもめちゃくちゃな」
「黙れ黙れェッ! 貴様らのような野蛮な種族はこの私が葬ってやる!」
「困りましたね。これでは解放する訳にはいきません」
「はっ、本性を表したな。はじめからそのつもりだったのだろう? 本当に汚い奴らだ」
予想していたことではありますが、流石に動揺を隠せません。
人間とオークが争ったことなど、ここ長い間なかったのですから。
これはマリアさん単独の行為なのか。
それとも大部分の人間の意向で、オークに対する侵略行為なのか?
そうだとしたらオーク史を揺るがす大事態です。
なんとしてもこの点を、マリアさんから聞き出さなければなりません。
「マリアさ......ん?」
マリアさんははもじもじと太腿を擦り合わせていました。
はて、どうしたんでしょう?
「うっく..........はぁっはぁっ」
「どうかしました?」
「なんでもっ.....ない!」
うーん、この何かを我慢するような独特の仕草は.....。
「ひょっとしてトイレに行きたいのでは.....?」
「違うッ! なんでもないと言っているだろうっ」
しかしますます内股になり、腰をくねらせています。
「あの、やはりトイレに」
「黙れ! そうやってM字開脚をさせ私が放尿しているとこをじっくりみるつもりだな!」
「そ、そんな趣味ありませんっ。女性のオークに扉の前まで付き添わせるだけだです!」
「信用できるかッ!」
「ならどうするんです?」
「ここでしろと!?」
「言ってません」
しばらく逡巡し、何かを言おうとしてはやめ、を繰り返していましたが、やがて限界に達したようです。
マリアさんは上目遣いで唇を噛み締め、頬を赤らめ絞り出すようにして言いました。
「...............くっ、仕方がない。トイレに連れて行けっ..........この..........変態めッ」
なんで私が脅しているみたいになってるんですかね......。
「わかりました、今縄を解きますね」
考えてみれば、一日中縛られていたのですから、マリアさんは昨日ずっとトイレに行けなかったということになります。
可哀想なことをしてしまいましたね。
早くトイレに連れてってあげないと......ん?
「.....................あれ?」
「……おい、どうした?」
「………………堅結びになっていて縄が解けません」
「なっ!??」
顔を青くし、絶句して言葉を失うマリアさん。
「ちょっ、ちょっとお待ちを! すぐに解きますから!」
「早くしろっ!」
「あれ、本当に固いな。どうしよう」
おっかしいですねぇ、誰でしょうこんな結び方したオークは。
無骨なオークの手じゃ繊細なものを扱うのは難しいのに、やたら細かい結び方をしてくれちゃってます。
お陰でうんともすんともいきません。
時限爆弾の導火線が迫っているように、身体を揺らして急かすマリアさん。
「何を手間取っているっ!? き、貴様ッ、ひょっとしてわざと焦らしてるんじゃないだろうな?」
「違いますっ、本当に解けないんです!」
これはもう、ハサミで切るしかありませんね。
待っていてくださいマリアさん。今ハサミを持ってきますから。
そう言おうと振り向いたその時———。
ついにダムが決壊し、惨事が巻き起こりました。
チョロチョロと音が響いて、シーンズの色がじわじわと円状に濃くなっていきます。
すらりとした脚を液体が伝って透明な線を引き、ツンとした臭いが、鼻をくすぐりました。
「あわっ....うぅっ」
惨事を引き起こした本人は羞恥に頬を染めて俯き、唇を震わせています。
......やばい、本気で何と声をかけていいのかわかりません。
それでもこの場を慰めるために、男としてギャグの一発でもかまさなければっ.......!!
人生最大の気まずさに立ち向かって、渾身の花屋ギャグを飛ばそうと口を開きかけたその時。
耳まで真っ赤にしたマリアさんがバッと顔をあげ、瞳を潤ませて叫びました。
「こっ............これがお前らのやり方かァアッ......!!!!」
その後、女性のオークが何故か私を批難の眼差しで睨みながら肩を抱いて小屋から連れ出し、お風呂に入れて服を洗濯しました。
そしてまた小屋に戻されましたが、マリアさんのご機嫌が鰻上りで斜めになり、残念ながら本日の尋問は中止となりました。
どうしてまるで私が悪いみたいな展開に????
私は家に帰ってやり場のない感情を花たちで癒し、固い縄を解く練習を徹夜でしました。




