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民族衣装

「マリアさんですか」


 剣士らしからぬかわいい手書きの文字で、剣に名前が書いてありました。

何となく子供のころ母に、名前を弁当袋に刺繍で入れてもらっていたのを思い出します。


「勝手に私の剣に触れるなッ」

「すみません、ですが必要なことなので。それでは、えーと、マリアさん」

「馴れ馴れしく名前を呼ぶな。反吐が出る」


 あまりの嫌われっぷりに私は苦笑いしました。

ここまで嫌われるといっそ清々しいです。


「女を縛りつけて眺め、ニヤニヤと楽しむか。お前らオークらしい、実に陰湿な性癖だな」

「そんなつもりはないのですが」

「ネチネチとじっくり責め立て嗜虐心を堪能していくつもりだろう」

「まだ私たちのことを理性のない野蛮な種族と勘違いしているみたいですね」

「ふん、こんな美人を前にしてお前ら原始種族如きが情欲を抑えられるものか」

「自分で美人って言っちゃうんですね……」

 

 そりゃ確かに美人ですケド。

自分で言われるとがっかりしちゃうのはなぜでしょうか…….。


「どうせ今も頭の中であらぬ妄想をしているのだろう?

『あぁ、その豊かな胸に顔をうずめ10秒かけて深呼吸したい』なんて気持ちの悪いことを考えているんだろう!」

「してませんっ。どこの変態ですか」

「オークは皆変態だ」

「凄い偏見だと思います」

「腰に布一枚という、恥ずかしい格好で堂々と外を歩けるのが何よりの証拠」

「これは民族衣装ですので……。身にしみついた文化です。だいたい」

 私はそこで言葉を区切ってマリアさんを見た。


「あなただって大差ない格好じゃないですか」


 丈がギリギリの短パンからは艶かしい曲線美を描いた素足が惜しげもなく晒され、タンクトップの胸元はがっつり開いて小麦色の膨らみが見えます。


「なに? 私が露出狂だとでもっ!?」

「お互い様ということですよ」


 自身も露出度が高いことを指摘されると、マリアさんはうっと言葉に詰まりました。

うんうんと唸るも何も反論が思い浮かばないのか、ついに顔を真っ赤にしてやけくそ気味に叫んだ。


「う、うるさい乳首丸出しのくせにっ!」

「......」

 ちくびて......。


「乳輪を自慢げに見せびらかす変態種族めッ!」

「別に見せびらかしている訳じゃ」

「乳首を出すことが格好良いと思っているんだろう!『乳首はファッション』とでも言うつもりか?」

「さあ、そこまで乳首について今まで深く考えたことがなかったもので……」

「私はお前らのように乳首丸出しで歩いたりはしない」

「それは人間かオークかと言うより、雄か雌かの違いでは......。オークの女性だって胸隠しますよ」

「あ、あぁ言えばこう言うッ。あくまで自分達が理性のない動物であると認めないつもりだな?」


 いいだろう...と言いフラフラとした危なげな様子でマリアさんは俯くと、ブツブツと独り言を不気味に呟きました。

赤い前髪が彼女の目元を隠して見えないため、余計に気味悪く感じます。

そして次にその顔をスッと上げた時には、先程とは打って変わって勝ち気な表情に変わっていました。


「ふふ、お前らが情欲を抑えられない原始種族であることを証明してやろう」


 そう言うと、滑らかな脚をゆっくりと左右に開きました。

股が大胆に開かれます。

自分でやっておきながら照れているのか、頬を染め口をヒクつかせています。


「ほ、ほうら? どうだ?」


 う、こ……これは…….。

縄でしばられた女性が目の前で誘惑するという、非日常的な光景に私は頭がクラクラしました。


「今、私の裸を想像しただろう?」

「そ。そりゃ男なら誰でも……」

「人間の男は自制心が強く、この程度で裸を想像したりはしないぞ」


 本当ですかねそれ……。

人間の歴史を見る限りとてもそうは思えないのですが。


マリアさんはそこから更に重心を前にかけ、胸の谷間を強調してきました。

ギシギシと鳴る縄の音が、妙に艶かしく聞こえます。


「そうら? もうそろそろ理性の限界ではないか、襲いたくて襲いたくて仕方がないのだろう?」

「......誓って襲いません」

「女を百人くらい犯してそうな顔をして言っても説得力がないぞ」

「この顔は生まれつきです。放っといてくださいよ」


 そりゃあ夜中にふと窓に映った自分の顔をみて、叫び声をあげてしまうこともありますが......。

尚も私が何もせずにいると、マリアさんは焦ったように言った。


「……くっ、何故だ!? 何故ここまでやって犯さない!?」

「そんなことしたら可哀想じゃないですか。第一、犯罪ですし」

「お、オークがそれでいいのかっ」

「オークにも法律がありますので」

「オークの風上にもおけない奴らだ……」

「……………………なんだか、まるで襲って欲しいみたいに聞こえますが……」

「っ! な、なんだとっ!! この私がオーク如き畜生に抱かれたがっているとでも言うのか? うぬぼれるのも大概にしろ!」

「す、すいません」

「別に太くて逞しい腕にドキっとするとか、厚い胸板にきゅんとするとか、猫のような金色の瞳が素敵とか、背が高くて格好いいとか、そんなことを思ったことは一度もないからなっ」

「ベタ褒めじゃないですか……」

 私の言葉が気に入らなかったのか、マリアさんは眉をピクリと反応させ、瞳を鋭くして言った。


「さっきから、一度胸を触ったくらいで彼氏面するなッ!!!」


 えぇ........彼氏面......しました?

マリアさんはさも迷惑そうに、それでいてどこか浮かれた様子で言葉を続けた。


「あぁーまったく鳥肌が立つ。たかが胸くらいでオークの勘違い男に自分の女扱いされるとは......。やれやれ、友人に知られたら二度と外を出歩けないな。これだからモテナイオークは嫌だ」


 全く身に覚えがないのに、なんだか散々な言われようです。


「胸を触った程度でそんなに舞い上がるなんて、ひょっとして貴様、童貞ではないのか?」

「な、なんのことですかね」

「その反応……ククッ、やはりそうかっ」


 マリアさんは、それはそれはさも愉快そうにニヤァっと口を釣り上げました。


「それで私に手を出してこなかった訳だな? 要は女を押し倒す度胸がないのだろう?」

「そんなことありませんよ……。私はただ紳士に」

 真面目に仕事していただけなのに、なぜ私が追いつめられてるんでしょうか。


「ほうら? どうしたジェントルマン?」


 マリアさんはまた重心を前に傾けました。

ギシギシと縄が鳴り、豊満な胸がたゆんたゆん揺れています。


「私が童貞かどうかは、尋問に関係ありませんっ」

「ふふ、目が泳いでるぞ。ちゃんと尋問する相手をみなきゃダメだろう?」


 ギシギシ。

嫌に縄の音が耳に響き、汗が額を伝います。

まるで後ろは崖のような焦燥感(しょうそうかん)です。

こ、こうなれば........!!


「あ、花の様子が気になるんで見てきますね」


 私はそそくさと椅子から立ち上がり扉へと向かいました。


「.....................逃げたな」


 後ろからポツリと声が聞こえました。

なーに言ってるんですかねコノヒトは。花の様子が気になるだけですよ。

今日はつきっきりでマリアさんの面倒をみていましたから。はは。


......何に負けたのかわかりませんが、私は敗北の気分を噛み締めながら小屋を後にしました。


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