泣いたバカ鬼
私たちオークは、元来温厚な種族です。
しかし、その見た目の凶悪さから誤解を受けやすく、人間からは鬼と忌み嫌われてきました。
人間はオークを恐れ、オークはそんな人間を嫌い、自然とお互いに関わり合わない関係になっていったのです。
それでも好奇心ある若者は、いつの時代にもいるものです。
ある時、「トウガ」と呼ばれる若いオークがいました。
彼は興味本位で人間の村へと、仲間に内緒でこっそり降りていきました。
人間を遠目に見たことはあれど、直接話したことがなかったトウガは、一度でいいから会って話しをしてみたかったのです。
しかしそんなトウガの想いとは裏腹に、人間の村は大騒ぎになりました。
声をかける間もなく、オークであるトウガの姿をみた途端パニックに陥り話すどころではありません。
武装した討伐隊が組まれ、トウガはその身を追われました。
そして命からがら逃げ延び、三日後に右目と左腕を失って里に帰ってきたのです。
この話は「泣いたバカ鬼」と言う絵本になりオーク界でベストセラーになりました。
今では人間に近づくとどうなるか、と言う教訓話として子供たちに語り継がれています。
そしてこの一件以来、オークの間では戒律として人間に近づくことが厳しく禁止されました。
人間は人間でますますオークを警戒し、オークの住む森に近づかなくなりました。
両者の間には暗黙の、しかし確固とした境界線が引かれ、長らく誰も破ることがなかったのです。
そんな平穏な時代が続いていたある日……。
剣を背中に背負った、一人の女戦士がオークの里にやってきました。




