告白
「美濃ちゃんの高校時代に告られた話知ってる?まじヤバいねん」
サークル仲間のみかりん、柏、川本と4人での鍋パ中、桃味の缶カクテルを空にしたみかりんがそう切り出した。また始まった。みかりん曰く、私のこの話は絶対にスベらないらしい。
「何?俺も聞きたい。」
案の定川本が乗ってきた。柏は鍋の底を漁っている。どうやら忘れ去られたモツが沈んでいることを期待しているらしい。
「大した話じゃないっつーの」
私は缶ビールを飲みながら言った。私にはこの話のどこが面白いのか理解できない。
「ええやん。みかももっかい聞きたい!」
酔って地元の関西弁が出ているみかりんに促され、私は「ほんとにつまんないよ」と前置きして話し始めた。
「高2の5月に、1年の時同じクラスだった人から下駄箱呼び出されてさぁ、好きです、付き合ってください、とか言われたわけよ」
「おお、男らしいじゃんソイツ!」
川本が賞賛の声を上げた。
「いや、それまでに無駄な立ち話2時間やってるからね。試験週間だったのに、私お陰で電車2本逃したんだよ。おまけにこの日、土砂降り。」
「運ないな、ソイツ……。」
柏がぼそっと呟いた。オチを知っているみかりんは早くも笑いをこらえている。
「で?返事は?」
川本が待ちきれない様子で尋ねてきた。
「付き合う、とはどういうことなのか具体的に説明してくれる?って返した。向こう黙っちゃった。」
一瞬の沈黙の後、
「ヤバくない!!!」
「それは、美濃田が悪い」
「ソイツかわいそうすぎる」
三者三様の反応が返ってきた。私が悪いということは共通しているらしい。
「しかもその人、美濃ちゃんが初恋やったんやろ?これから絶対恋すんのトラウマになるやん!!」
みかりんにこの話をするのは5回目ぐらいだが、毎回盛大に笑ってくれる。
「だって分かんないんだもん。それに、自分で分かってないことを他人に要求する方が悪くない?」
「いや、普通の人はそこまで考えてないねん!!」
みかりんの笑いは止まらない。
「女子と話したことない系男子でさ、高1の始めに委員一緒で、ほんとにちょっと話しただけなんだよ?その時からずっと好きでした、とか言われてもさ、どうしろと言うわけ?」
「めっちゃ頑張ったやんソイツ!!」
「しかもだよ?その後3年で同じクラスなってさぁ。まあ特に何もなかったけど。」
「それは辛いなぁ。分かるよ、俺も。」
川本が心底同情した様子で言った。数日前同じサークルの女の子に玉砕したばかりの彼には、痛みがよく分かるらしい。
「でも卒業式の後また呼び出されてね。」
「早く言えよ!」
川本が突っ込んだ。
「僕は美濃田さんのこと、好きでいていいんですか、って言われたから、どっちでもいいよ、て言っといた。」
「つくづくひどいな、美濃田……。」
「で、卒アルに白いページあるじゃん。そこに何でもいいから書いて、って頼まれてさ。」
「何書いたん?」
「何書けばいい?って訊いても何でもいい、って言われたから、何でもいい、って書いといた。」
「それはひどいわ」
柏と川本が同時に言った。私としては頼まれたことを頼まれたとおりにしたつもりなのだが。
「最後に、写真撮ってもいいですか、って言われたから、写真嫌いだからヤダ、って言って別れた。以上。終わり。」
私は缶ビールを飲み干した。
「頑張った、お前はよく頑張ったよ……。」
川本が缶チューハイを上に掲げた。何を称えたんだこいつは。
「なっ、美濃ちゃんひどいやろ?相手とか絶対、そんな風なるとか思ってないやん。予想の斜め上行き過ぎやろ。」
確かにソイツ本人にもそう言われたけれど。
「いや、実は予想通りだったりして。」
「「「えっ?」」」
不意に真面目な調子で放たれた柏の言葉に、私とみかりんと川本は同時に訊き返した。
「最初は、美濃田真央に恋したソイツが不運だったのかもしれないと思ったよ。」
柏は深刻な顔で自分のグラスを傾けた。
「例えばさ、美濃田に告る前に返事を予想して、で、実際どうだった、みたいなの記録するわけ。卒業式の件もしかり。それこそ、美濃田を好きになった高1の始めからずっと、ソイツは美濃田真央観察ノートとかつけてたんじゃないか?実は美濃田のことずっと見てて、よっしゃ、予想当たった、とか、次は告って反応見よう、とかしてたんだったりして。」
「えっ、ちょっと何それ。怖いんだけど。」
思いもしなかった話に酔いが覚める。寒気が一瞬で背中を走った。
「いやいやいや、さすがにそれはないやろ!3年間も観察日記つけるとか。」
みかりんの笑いが引きつっている。
「えっ、美濃田ソイツに何か貰ったりしてないよな?盗聴器とか入ってたんじゃねーの……。」
川本が恐る恐るという感じで訊いてきた。貰ったもの………。
「いや、3年間ずっと誕生日プレゼントは貰ったけど……。いやでも、ほんとボールペンとか、暗記カードとか、訳分かんないものしか貰ってないし!盗聴器とか絶対ないって!」
思わず語気が強くなる。盗聴器なんて絶対あり得ない。
「まっ、想像だけどな。」
柏がヘラヘラ笑いながらグラスの中身を一口飲んだ。柏はカシオレしか飲めない。しかもまだ一杯目のクセにもう真っ赤だ。酔った柏お得意の冗談につい動揺してしまった自分と、周りとは対照的に機嫌の良さそうな柏にイラつき、私は新しい缶ビールを開けて半分ほど一気に飲んだ。
「もーー、本気にしたじゃん!一瞬怖かったんだから!」
私が言うと、
「俺もけっこうぞっとした。」
「まさかのホラーやったなぁ。」
川本もみかりんも続けた。2人もけっこう本気にしていたようだ。
「いや、でもなかなかいい発想だったろ。本とかになるんじゃね。」
自画自賛する柏。私は柏の分のシメのラーメンを少なくすることを決めた。
2012年4月7日
同じ委員会になる。自分のことをまだ認識していないようだ。
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2012年6月9日
筆箱が変わった。以前使っていたものは3日前にチャックが破損したため。
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2013年5月11日
告白する
予想「ごめん、友達でいよう」
結果「付き合う、とはどういうことなのか具体的に説明してくれる?」
予想の斜め上をいかれた
2013年5月12日
昨日のことを覚えているか訊いてみる
予想「覚えてるけどそれが何」
結果「昨日のどれ?」
本当は気付いていると思われる
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2013年9月30日
廊下を歩いている時にすれ違った。16日ぶりだ。シャンプーを買えたらしい。(嗅覚判断)
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2014年4月7日
また同じクラスになれた。授業の選択を調節したのだから当然だ。
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2014年7月19日
体育祭のグループ発表。同じグループになった。向うは意識していないようだ。本番にはハイタッチを狙ってみよう。
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2014年9月5日
体育祭全てのハイタッチをスルーされたが、明らかにこちらに気付いていた。いい兆候だ。
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2015年3月1日
卒業式で
「好きでいていいの?」
予想「どっちでもいい」と言われる。
「メッセージ何でもいいから書いて」
予想「何でもいい」と書かれる。
どちらも予想通りだった。写真もやはり断られたので隠し撮りにとどめる。
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2015年4月5日
やっと下宿先を確認できた。入学式の日に仲良くなった女性と一緒に読み聞かせサークルに入るらしい。弟妹が多い真央に似合っている。
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2016年1月22日
今日はサークルのメンバーで鍋パらしい。男が2人もいるが、友人という認識のようだ。しかし、芽は摘んでおくに越したことはない。
半分実話。実はこんな裏側だったりして……。