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騒ぎと町と騎士との問題

嵐のような、変わった男からもらった飴は今僕の口の中にある。

飴は味があると思っていたが・・・実際は何も味がしなかった。

何時もと変わらない口の中の状態、変わっているのは丸い形の味のない物が入っている可は言っていないかの違和感がそこにあるのみ。

僕は、味のない飴をじっくり舐めながら町まで戻るよう足を進める。

味はしない、まるで何もないかのような。力のない僕が仕事をする事を、家を持つことも色んなことをあきらめてしまった、そんな時の真っ白な気持ちが舐めながら思い出す。

何時から、この状態が続いていたんだろうか?頬を伝った暖かい雫を手でふき取るようにしながら、細く作られた町への道を進んでいる。


光が一瞬瞳にかかる。夕方に染まった、赤みを足した自然界の中では不自然に反射にした白い光。

視界の隅。いや視界にはなかったが、僕の瞳には光が確実に通った。


「何だ?」


微かに獣の様に鳴く声が、微かに響く。

森の方角だ。獣の叫びと光は、まるで関連があるように同じタイミングで見聞きできる。

森の木の隙間が光る。光で見える影には人影や、動物やモンスターの影はない。ただ映るのは木。何本も無数に育った木が森となっている。

光は何度も繰り返し光る。さらに獣のような声は聞こえる。一つ、また一つと。光に集まってか声が増える。

森を作っている木々は揺れる。風が通ったわけではない、ただ大きな影が動いき森の木が揺れた。

木の上を走るように飛び移る影は、光っているであろう方角へ向かって走って行った。

此処からではよくわからない状態に、僕はただ道端で立ったままその方角を見つめていた。

しばらくすると、森から一つの細い光が町の真上を横切る。

何事かと思った町の人達は、町の中で一回り頭を出している大きな塔。見張り台の光を何時もより早い時間で灯し始める。

塔から光が出る。灯された後三本の太い光は町の周りを照らし始める。

また、森の付近が光る。

森の光を見つけた町の三本の光は、そのまま森を照らし始めた。

森の奥からさらに輝く光。

町からは、重そうな鎧を着た8人の男たちが出てきた。男たちの中でも一際目立った金の鎧を着た小太りな男は、森を刺しこう叫ぶ。


「あの光だ!お前らあの光に魔法を放て!」


ざわついた中何個か声が上がる。


「魔物がこっちに来たらどうするんですか!?」


「でも、魔法みたいなあの光ってのって人だろ!撃てるわけがない」


何個か言葉が返された時。小太りな男は癇癪を起こしながら、細い男たちを罵倒し始める。

言いたい放題言った男は最後に「役立たずの腰抜けどもが!!」そう言って森に手をかざし始める。

魔法を撃つ気だ。その光景を見た誰もが分かった瞬間だった。

男の手からは60cm余りの大きな氷の弾ををつくりだし、森へと飛ばす。まっすぐと森の木々を上下真っ二つに割りながら、氷の塊はそのまま直進する。

氷の塊はしばらくすると光ながら細い塔を作るよう、森の中から頭を突き出した。


僕は、この時何か不思議な気持ちになった。


男たちは森を見続ける。見張りの塔から出ている光は周囲を照らす。

微かだが、また獣の様な声が聞こえた。だが今度は少し近い、聞きやすかったのだ。

声を聞いた細い男たちは手を森へと向ける。


「町長!絶対来ますよ! どうするんですか!沢山来たら!」


「お前らがぐずぐず言うから敵を逃がしたんだ! 大体でてきたとしても魔法でやればいいだろうが」


怒鳴り散らすように小太りな町長は、細い男達へと睨みつける。男たちは言い返さなかった。町長だからだろうか?言い返そうとする者はいなかった。

木が動いた。町の入り口に近い木が。

男達はその木を見ながら、周囲を見回す。


木の下から小さな水色の液体の塊が、流れるように向かってくる。


「スライムだ!」そう叫んだ男は、稲妻を手から出すように何個か撃ちだす。それを聞いた周りの男は、同じ様にスライムの群れに魔法を撃ちこむ。

辺りを稲妻の光が、照明のように照らしてゆく。そのおかげで暗い木の近くにも光がわたり、小さいスライムの動きがよく見える。

男たちは、近づかれることなく確実に撃退してゆく。そんな中、手前の木が葉が揺れる。

木の上から小さな影が、飛んできたのだ。形は猿に羽が生えた獣の姿をしている。

一匹の獣は、左に少しずれている、男へ向かって飛んでゆく姿には誰も見てはいない。男達は下からくるスライムばかりに、気が向いていたのだ。

後二メートルの所で、小太りな男は指をさしながら声を上げる。


「危ない!!」


その声には反応する細い男は、影を見つけた。猿の口から赤い炎が放たれて男の目の前まで迫る。


細い男は自分の両腕で顔を囲うようにして叫び目を閉じる。とっさの事で、炎から逃げれないと解っていたのだ。


「いやだああああ!」


炎はぶつかり周囲へ弾かれるように分散する。

男は無事だった。男と炎の間には、氷が薄く壁のように男を守っていたのだ。猿は暗くなっていく、森へとまた身を隠す。


「猿風情が・・・」


町長は口を鳴らしながら森をにらむ。赤い夕陽は何処かへと隠れている。あたりは暗く、視界は悪い。頼れる塔の光も、万能じゃない。三本の光は森、男たちの周囲町を回るようにぐるりと回る光が一本と、どれも余裕はない。

森から見えていた光は、先ほどから見えているが、川の反対側の平原に見える。

これが広がれば、平原にいる大きな生き物たちが町に逃げてくるかもしれない。


長町達は周囲のスライムや、飛んできている何体かの猿を町に入れないように必死だ。

かといって力がない僕には何かができるわけではない。

町から他に来ればいいのに、何で人が少ないんだ!?そう思った僕は、町の単体の光が見える平原の近くにある入口へと走ってゆく。

長町の後ろを走り抜け、町の中を通りぬける。


町は何時も通りにぎやかだった。

騒ぎに驚いているわけではなく、まるで何事もないようなそんな感じだ。

村にいたのはこの村で商売をしている人や、金持ちが多く居る事がわかる。大半が他人事なのだ。町を守ろうとしている人は、本当に少ない。

たぶん塔で光を出している人。今外で戦っている長町達。本当に戦おうと思っているのはそんなにいないのだろう。

町の中でもゆっくりと見回っている男も、ちらほら居る。入ってきた時のためなのかすらわからないくらい、のんきに椅子に腰をかけ仲間と喋りながら飲み物を飲んでいる。


僕は平原付近の入り口に来た。入り口の向こうからも魔法の光が見える。町の上を通った光とは違う魔法が見える。

迫って来ている影に対して、動いている影が4人。

先ほどの入口よりは少ないが、この人数で持つのだろうか?

影の中には大きなマントを棚引かせ、杖を持った男。

大きな斧を振りまわすが体の良いマッチョの男。

魔法を詠唱し続ける白装束の女性。

ちょこちょこと動きながら短刀を振る、三つ編みを跳ねさす細身の女性。


迫ってくるモンスターや、動物は一瞬だった。

斧に耐える大きな動物はおらず、町には近づけない。小さなスライムや魔術ラビットなども簡単に短刀で斬られる。

空を飛んでいるモンスターがいようものなら、杖から出た魔法が撃ち落とす。

力強かった。見ているだけでも解る。彼らには隙がなく、焦る気持ちが見えない。この小さな道を守るには十分すぎたぐらいだ。


そんな彼ら四人が戦っている中で細い光が、町の上を通った。先ほど森から抜けてきた光と同じだ。

平原の奥。光が、何かに向けて撃たれているのが微かながらみえる。

1人で戦っているのだろうか?光った周りには、光を出している人物を襲って行く影ばかり。何故一人で森の中で戦っていたのかはわからないが、助けてあげないと一人に限界はあるはずだ。


誰かに声をかけよう。一番入り口に近くて、力のある人がいい。頭の中には、先ほど椅子に腰にかけていた、鎧の男を思い出す

町の中を、他人の声が耳に入らないほどの足音で走り抜ける。先ほどの、鎧を装備している男の近くまで走り込む。

足を止めるなり、周りは僕の方へと目が向けられる。

色んな声が向けられる中、一人の男へと大きく声を出す。


「すみません!あの・・・あっちの平原の方角で、町から少し離れた場所に一人はぐッ」


大きく出していた、僕の声は途切れる。途切れたのは、物理的に喉をつぶされたとかではなく、精神部分にやって来た負担に近かった。目の前の鎧の男は、何も言葉を出していない。目が物を言っていた。「ゴミが」言葉を言わなくても解る。

男は、僕から声をかけられることを拒むように「ああッ!」と、声を強くその言葉で上げ始める。声の強さと、男の見下ろす視線に、僕は肩をすくめながら視線が下がり始める。


「なんだよ?だんまり?なんかいいなよ?ええ!?」


男は言葉の節目に体を動かすように、足で地面を踏み込み音があたりに響く。

その行動はまるで、地面への暴力を振るっていると言うより、こちらを威嚇するように徐々に音が大きくなってゆく。音に反応するように、男の足元に徐々に視線が向いてゆく。

僕は、攻撃的な音を聞くたびに、男の上半身より下しか目線が行かなくなっていく。


「俺ら騎士はよぉ、お前みたいなやつの事をいちいち時間をとって聞いてるほど、暇じゃないの?わかるだろ!?なあ!!?」


言葉の終わりに強く言われ、声が出せなかった。

下がろうとも言葉を出そうともしない僕をみて、さらに怒鳴るように腰にぶら下げていた杖の先で男は、僕の肩を軽く突き始める。

肩をつつかれ周りへと目を向けると、僕と男を囲むように人だかりができていた。

囲んでいる人は笑顔だった。この状況を止めるために言葉を出したり、嫌な顔を見せるわけでもなく、ただ笑ってみていた。まるで見世物になっているような感覚だ。サーカスの動物たちの気持ちがよくわかる。


そんな状況下の中で、言葉を出そうなんて事が出来なくなっていた。

僕の視線がそれていくほど、男はエスカレートしていった。

さらに声を上げるように「聞いてんの!」杖についてる魔法石へと魔力を送る。反応するように石は光りだし、杖が振り上げられる。

僕等、何もない無能力者にはもうこの状況下で逃げる事は出来なかった。

このまま振られ、ズタボロにされるのを待つだけのワンマンショーだ。

後は魔法が僕を攻撃してくるのを覚悟するしかない!でも、当たるとすごく痛いのは解る。逃げないと!

僕が後ろへと一歩下がる時には杖は、額にまで向かっていた。目をつぶった時、杖を振った男の声が聞こえた。


「てめぇ・・・あ」


周りの声はざわめき始め、男の声はそこで止まった。目の前に新しい一つの影が見えた。

僕へと振られるはずだった杖は、魔法石の光を点滅させ目の前で動きが止まる。男は僕の前で杖を止めている。影を見つめながら杖を曳くことも押すこともないほどに、動くことはなかった。

目の前の影は、先ほど杖を振った男より少し背が高い金髪の角刈り。

黒い眼帯を片目にかけ、鼻のあたりに傷を負っている男はまっすぐと杖を振った男へと目を向けている。

杖を止められた男は、口を開いたまま頭が真っ白になったように何も言えなかった。

角刈りの男は、ゆっくりと声を出してゆく。


「・・・フレン。これはどういうことだ?」


男の静かに言葉を出していくほど、フレンと言われた杖の男は顔が青ざめてゆく。


「いや・・・これは」


周りも、この男が出てきてから少しずつ離れてゆく。

フレンは先ほどの勢いと共に、行き場のない目先は何処かへと向き始める。

角刈りの男は、目先を向けるように杖を少し引っ張る。

慌てて力を入れ直しながら、角刈りへと目線を合わせながら「これは・・・」などと、曖昧な言葉を繰り返すばかりだった。


「まさかと思うが・・・」


角刈りは杖を離し、フレンの肩を掴みさらに引き寄せた。


「騎士である君が・・・守るべきはずの民に向け、魔法で攻撃をなどと・・・するはずはないだろうな?」


角刈りがいっている【魔法などで】とは、騎士の中では許されていない事だった。本来、民を守るために作られた騎士は、問題以外で民への攻撃が厳禁とされている。

その瞬間を、角刈りは見たのだ。男の目は、研ぎ澄まされたように冷たい目へと変わっていった。目付きが変わる瞬間、周辺から妙な寒気が渦巻き始めた。

殺気、と言うのだろうか?まるで蛇ににらまれたカエルの様な、あたかもこれから何かが起きると思える寒気が襲ってくる。

近くで掴まれているフレンは、息苦しそうに呼吸をし始めている。理由を言おうにもフレンの口は少し震えはじめ、声にならない声を微かに呼吸と共に出している。

声のでなさそうなフレンにまた同じように言葉を繰り返す「どうなんだ?」聞かれるが、声が出ずに必死に首を振り始める。


「・・・」


微かに続く二人の沈黙。

苦笑いを出すフレンの杖から、手が離される。角刈りは、一度たまった息を吐き先ほどより少し優しい印象でゆっくりと言葉を吐く。


「フレン、君には今から町の周辺を守りに行くよう命令する。この件の処分は追って伝える・・・いいな?」


その言葉を聞いた瞬間、力が抜けていくようにずり落ちてゆく。フレンは地面を見たまま小さく言葉を出す。


「はい・・・わかりました」


ゆっくりと立ち上がったフレンは、一度僕の方を見てお辞儀をした。

小さな言葉だったが「すまない」と、言い残し小走りをしながら道を走って行った。

謝るんだったら始めからと、言いたくなってしまったが心のどこかで自制をする。

フレンの姿が見えなくなってから、赤い鎧を着た角刈りの男は、僕の方へと向き始める。


最初の寒気を受けた印象のせいか、本能的にか一歩下がってしまった。

正直、あの瞬間が一番ぞっとしていた。周りを凍らすような、殺気だったあの時、何とも言えない状態で背中からくる寒気、こんなものに今まであったことがなかった。本能的に逆らってはいけないと、自分自身でもよくわかる。


そんな角刈りが、僕が下がった後、続くように頭が下げられた。


「え・・・」


「部下が失礼な事をした、すまない」


その時、男の鎧の襟回しの背中側に、何処かの城のエンブレムが彫られているのがみえる。

4、5秒ほどしても礼をしたまま、男は顔を上げる事はなかった。僕も正直、町の中で腰を折って謝られた事はない。軽い謝りなら一度はあったが、重く謝られた事がなかった。

それも、町の外などでモンスターを鎮圧している強い騎士に、今僕は深々と頭を下げられている。


「い、いえ。僕の方こそ助かりました」


僕も一緒に、頭を下げた。しばらく男の頭は上がる事はなく。僕が頭を戻した時に一緒に戻り始める。

男の瞳は、まっすぐとこっちを見つめる。筒井さんほど真っ直ぐでは無いにしても。一見怖そうな面立ちと違い、優しい目がこちらに向け続けられる。先ほどの研ぎ澄まされたような目が、嘘のように思えるほどだ。


だが今は、そんな事よりも頼まなくてはいけない事がある


「あの!すぐにでも、助けてほしい人がいるんですが・・・」


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