その日も空は泣いていた
夢でも見ていた様な感覚だった
土砂降りの中、なんで必死になって走っているんだろう。小学生だった私は最前列の席にお父さんと隣同士で座りながら眺めていた。
捻くれた性格だとは自覚していたし、直すつもりもなかった。
バッターボックスに立つ細身の少年は、薄い体が嘘のように私は思えた。どっしりとした威圧感が決して少年が薄いなんて到底思えなかった。
そして、その瞬間が訪れた
少年が見据える先には、白球を握り大きく振りかぶって……
小さな白球が、先程まで泣いていた空に溶け込む光景を、私は目を見開いて見ていた
その空には、一本の光が指していた
まるで、少年を祝福しているような、そんな感じ
プロ野球も、少年野球も興味無かった
でも、高校野球に私は惹かれた
甲子園……私はその場に行きたがった
そして私は、長かった髪をバッサリ切った
心は澄み渡った空の様に穏やかだ
神海坂高校
和歌山県にある至って普通の高校、敷地面積は広いが、これといった特色がない目立たない高校であり、部活動も昔は強いところも希にあったが、現在は特別強いところはなかった
4月の某日
神海坂高校、新入生と在校生の対面式である
部活紹介がメインとなってるその日は、皆が皆そわそわしていた、在校生であり部活に入ってるいる者は緊張のせいか白い顔をよりいっそう悪くさせ今は青白くなるものが半分、お気楽にのんびりしているのも半分
そして、唯一ピリピリとしたムードを醸し出している部活動もまたあった
そして、始まった対面式
軽音部が先陣をきり、場を盛り上げていく中、今年度の新入生である静海撫子は、いつも一定の表情を珍しく微かにだが、綻ばせていた
軽音部が奏でる、今流行りの曲など興味がなく拙いギターの音色をBGMの様に聞き流していた
早く、早く、と声には出さぬものの心の中で何度も呟く
軽音部から始まり、バレー部、バスケ部、卓球部、ソフトテニス部、硬式テニス部、ダンス同好会、写真同好会、新体操部、チアリーディング部、吹奏楽部、ジャズ部、空手部、柔道部、水泳部、弓道部、陸上部、華道部
……その他もろもろ
早く、早く、そわそわと落ち着きがなくなり始めた頃だった
「え~、次は野球部の紹介」
おざなりな放送に、私は背筋を伸ばした
待っていた、ようやく来た野球部の紹介
ピリピリとした雰囲気で、階段を登っていく男子生徒、顔の彫りが深く、強面である
「……主将の沖だ」
「……野球部は甲子園に行く、絶対にだ」
瞬間、私の胸は高鳴った
周りがざわざわと騒がしい中、私は目をきらきらとさせながら壇上を見た
「……以上だ」
待っていた、ようやく来た、高校生の私
やっと一歩踏み出せるんだ
最初の一歩は、私にとって大きな一歩だった……