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お迎えがやってくるようです

友人に出されたお題が「死神」だったので死神が出てくるお話を書いてみました。

生まれてから今まで生きてきて18年。

どうやら私の命はそろそろ終わりを告げてしまうらしかった。


なぜそんなことになったのかというと、昨日見た夢に出てきたのだ。死神というやつが。

みんなは死神って知ってるだろうか。なんか死期の近い人間のところに現れて魂を導いていくらしい。そういえば昔読んだ漫画で霊媒師を生業としてる主人公が「死神に見届けられることは幸運なことなのよ」なんて言っていたような気もする。

そんな死神が夢に出てきて私に告げた言葉は「近いうちにお前を迎えに来る」というなんとも曖昧なもので、思わず「はぁ?」と声が出てしまったのは仕方ない、うん。


「つまり、私は死ぬってこと?」

「そうだ。お前は最近体調が悪いと感じていることはないか。」


目の前にフワフワ浮かんでいるのは正に漫画で見た死神と瓜二つの凶悪な骸骨顔に黒いマント。そして手には鋭く大きなやたらとかっこいい装飾が施されてる鎌。その鎌私にも持たせて欲しい。鬼神退治ごっこがしたい。

話を戻す。確かに最近体調がおかしいことには気付いていた。風邪のような症状もあり、食欲もなければボーッとすることも多くなってきている。近々病院にでも行こうかなと思っていたところだったのだ。


「ある。体調全然良くない。」

「今はまだ大きな症状は出ていないがそれは後々お前をひどく苦しめる病と化す。だからそうなる前に俺がお前の魂を迎えに来たのだ。」

「でもなんでそんなことを?」

「そんなものは俺にも分からんが、運命というやつではないか?それに見たところお前にはかなりの徳が溜まっている。恐らく極楽のおエライ様がちゃんと自分のところへ来られるように俺を遣わしたのかもな。」


一見すると信じられない話だけど、なんでだろう。この死神が嘘をついているとは思えない。それにこれはつまり私の極楽行きルートが確定したということで、それなら特に嫌がるほどのことでもないような気がしてきた。だって、後々病に苦しむから魂を迎えに来たということは苦しまずに死ねるということですよね?


「一瞬の痛みもない。何かが抜き取られる感覚だけしか感じることはできないだろう。」


ほら、死神さんもこの通り。

苦しまずに死んでしかも極楽へ行けるなんてそんなおいしい(とは言えないかもしれないが)話もない。

そこでひとつ気がかりなのがいつ迎えに来るかだ。死ぬ前にやっぱりしておきたいことというものはいくつかあるものでして。


「近いうちにって行ってたけどそれっていつ?」

「それは俺にも分からない。しかるべき時がきたら俺はお前の元へ行って魂を狩る。今までもそうだった。」


ということは実行に移すならなるべく早い方がいいというわけだ。これから数日もあるのかは分からないけど、残りわずかな時間でやりたいことやっておこう。


かと言ってそんなすぐにやりたいことしたいことなんてポンポン思い浮かぶわけもなく、精々カラオケ行っとくかとか、バイトで貯めに貯めた貯金をパァーっと使うかとかそんなもん。でもそれはそれでいいのかもしれない。

それでもひとつだけ達成しておきたいことがあった。それは彼氏とのキス。

田舎から学校に通うために遠路はるばる都会に越してきて、その学校で出会った彼とは付き合ってもうすぐ4ヶ月を迎えようとしていた。

好きになったきっかけはたぶんたまたま他の友達の都合が悪くなって仕方なく2人で遊びに出かけたことだったかな。そこから頻繁にLINEをするようになって気付いたら惹かれていて。お互いが好きあっていたのに教えあわずにずっとお互いの恋が実るよう応援しあっていた。そしてある日、ついに耐えきれなくなった私がポロッと想いをこぼしてしまいお付き合いスタート、なんてなんか2次元によくありそうな展開だったっけ。

そんな彼との付き合いはかなりあっさりしたものだと思う。毎日ベッタリ、ずっとLINEなんてことは一切なくて喋らずに1日が終わることもよくあること。それでもお互いを好きだと想う気持ちは消えることなく、月に数回公園で思う存分話をして身をよせ合う。そんな感じ。そんな感じだからこそまだキスをしていなかった。

だからせめて死ぬ前にキスをしておきたいと思うわけでして、えぇ。


「どうしたの?今日なんかずっとボーっとしてるね?」

「んーちょっと寝不足なのと考え事〜。」

「おやおや?もしかして彼氏さんとのことかなー?ほら、私に話してごらんよ!」

「別に間違いじゃないけどそんな話すほどのものじゃないよ。」


そう言って隣に座っている友達を制しながら安いコンビニのフレンチトーストを食べる。うん、おいしい。


「むしろ私が惚気聞きたいんだけどなぁ。たまに聞かせてくれる時いつもキュンキュンしちゃうんだもん。」

「残念だけど新しく聞かせてあげられるような惚気はまだ更新されてないよ。ていうか惚気じゃないし…。」

「じゃあ次更新したらまた聞かせてよね!」


そう言ってお弁当を頬張る友達に心の中で私は告げた。たぶんその日はもう来ないかもよ、と。


昼休みのうちに彼に放課後に公園に寄ろうとLINEを飛ばせばすぐにOKの返事を貰えた。第一段階はクリアー。

もうすぐ死ぬと分かってしまうと今まで必死に聞いていた授業もあまり身が入らなくなって、今日はずっと服の下にイヤホンを仕込み音楽を聴きながらノートにお絵かきをしたり寝ていたり。いつも真面目に授業を受けていたからか友達が今日は体調が悪いのかと聞いてきた。ぶっちゃけ最近は毎日が体調不良だけど適当に笑ってごまかしておいた。

そして放課後。友達とバイバイして先に公園に行っておくとLINEを飛ばして学校を飛び出す。でもやっぱり摘むものがほしくて近くのコンビニでお菓子を買った。いつもは買わないお高めのチョコ菓子をいくつか買って、ついでにチキンもひとつ。チキンを頬張りながら歩きなれた道を歩いてチキンがなくなる頃には公園に到着。いつものように滑り台の所へ向かえば彼はもうそこでiPhoneをいじりながら待っていてくれてた。すぐそばまで来るとこちらに視線を向けてくる。うわ、すっごい不機嫌な顔してますこの人…。


「どこ行ってたんだよ…」

「ごめんごめん。ちょっとコンビニでお菓子買ってきたの。ほら、いつもは買わないお高めのお菓子あるから機嫌直して?」

「仕方ねーなぁー。それで今回は許してやろう。」

「さっすがぁ〜!ありがとうございますね〜。」


なんてじゃれ合いながら2人で滑り台の狭い空間で身をよせ合う。お互いにプレイしているゲームの進行具合とか、学校や友達、最近の近況などを話に花を咲かせて時々チョコ菓子をつまんで。

こんな風にここで話しをするのも、もう最後なのかなと思うと、やっぱり寂しい。


「どうしたんだ?急に黙り込んで。」

「んーん。なんでもないよ、考え事。」

「俺が傍に居るのに考え事か。俺以外のことだったら許さん。」

「ざーんねんでーしたぁー。君のことだよ〜!」

「おぉ〜って何で残念なんだよっ!」

「どーせ私が君のこと以外を考えてたって言ったらお腹のお肉でも摘むつもりだったんでしょ?」

「以心伝心だな。俺は今すごく嬉しい。」

「私はあまり嬉しくないっす。」


そんな風に笑いあって、完全に向こうの気が緩んでるとわかっていたから。私は押し付けるように唇と唇を合わせた。ムードもへったくれもないけど、これが私らしいし私たちらしいよねって、それは言い訳かも。

顔を離すとそれはもう面白いくらいに固まったマイダーリンがいまして、くつくつと笑う。そんな私に不満があるのか拗ねた顔をしたあとに今度は向こうから唇を重ね合わせてきた。薄くあいた唇から彼の舌が入ってきて全身に痺れが走る。初めて交わしたキスの味はコンビニで売っているちょっとお高めのチョコ菓子の味。さすが値段が高いだけあってやっぱり安いやつよりはおいしかったな。


それから2日経った。未だに死神さんからの連絡というかお迎えは来ず、私は順調に貯金を切り崩しながら毎日を好きなように過ごしている。カラオケも行ったし、ゲームセンターも行ったし、おいしいご飯も食べに行った。そして地元にいる友達とも電話でたくさんお喋りして、珍しくこちらから親に電話もかけてみた。いつも私からかけない上に電話に出ることもあまりないから親は電話に出るなり「珍しいじゃない、明日は雨かしら…」なんてことを言っていた。ちなみにそれは昨日の話で今日は雲ひとつない晴天です。

そして今日は郊外実習の日で朝から私は学校ではなく施設の方へ赴いている。クラスメイトとバスに揺られてついた施設で自然体験やらネイチャーウォークなるものをやり、実習というよりは遠足気分でおおいにはしゃぎまくった。

今は帰りのバスの中。行きのバスはわいわい騒がしかったのに今は数人のしゃべり声がひっそりと聞こえるだけでほとんどの人がぐっすりと夢の世界だ。私の隣に座っている友達も私の肩に頭を預けてすやすやと寝息を立てている。キスの話が聞きたいと実習中に言っていたにも関わらず席に座るなり眠りに落ちるもんだからさすがの私もビックリだった。

まだ学校まで時間はたっぷりあるし私も寝ようかと思った頃。LINEの通知ランプが点滅していた。来ていたのは彼からのトーク。


「今日はお疲れ様。」

「おつかれー。」

「さっそくですが今日がなんの日か分かるかね?」

「なんかあったっけ。」


はて、今日は特にカレンダーに表記などなかったはずだけど。そのトークのあとに飛んできたのはショックを受けた表情をしているタヌキの大量のスタンプ。すざましい早さで溜まっていく赤い数字を見つめながらうーんと頭をひねって、思い出した。


「あ、今日で4ヶ月!」

「正解!!忘れていたとは見損なったぜマイハニー…。」

「ちゃんと思い出したんだから許してマイダーリン。」

「帰りにお菓子な。」

「かしこまりました。」


会話に一区切りついた所で私はスマホを手放してもたれ掛かっている友達の方へコテンと頭を傾ける。徐々に襲ってくる睡魔に身を任せながら窓の外に目を向ければ燃えるように真っ赤な美しい夕焼けが視界に入った。


「っ…まぶし…」


反射的に閉じた瞼はそのまま眠りの世界に誘われた私には開けることができず、意識がだんだんと遠のいていく。その中でふと、聞き覚えのある声が頭の中で木霊した。それは数日前に私の夢に現れた死神さんの声で、あぁ…とうとうこの時が来たんだなってぼんやりと思う。


「迎えに来たぞ。」

「わざわざご苦労様です。」

「魂を連れて行く前にひとつ聞いておく。お前は死ぬのが怖くないのか。」

「私は流れに身を任せて生きる主義なの。これが運命っていうのなら逆らえるものでもないし、なら受け入れるしかないじゃん。」

「そうか…。」

「でも、友達や家族、大切な人を置いていくのは辛いよ。悲しませるのは辛いよ。でもこれが運命なんでしょ?ならもうその運命をたどるしかできない私にはどうしようもできないなぁ。」


それは一言で言えば諦めというもので。ずっと閉じていた目を開ければ目の前にはあの時みたいに死神さんがいた。どことなく複雑な表情をしているような気がした。骸骨顔だから表情が動くわけないんだけど、なんとなくそんな気がした。

死神さんが大きく鎌を振り上げる。それを見てもう一度目を瞑った。瞬間、ブォンという風を切る音と私の中から何かが引っ張りあげられるような、抜き取られるような感覚に襲われて意識が飛びそうになる。朦朧とした意識の中で死神さんの声が聞こえた。


「来栖奈緒。お前の魂しかと我が見届けよう。」



死神さんに抱えられてどこか心地よい微睡みの中、私は見た。バスの中でネジが切れた人形のように友達に寄り添って眠っている私の姿を。そして同じように友達に寄り添って気持ちよさそうに眠っている彼の姿。


(今まで楽しかったよ。ありがとうみんな。ありがとう翔琉。)


学校にバスが到着したのを見届けた最後に世界が全て黒くなり、そこで私は18年の人生に終止符を打った。

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