寄こせよ
俺はオカルトが趣味と言っても過言じゃないが、中でも怪談話が一番好きだ。しかし、自分には霊感なんて無く、これといった体験談も無い。だからこそ、他人の霊体験何かに興味があるのだろうと、自分で結論付けている。
そんな俺が、珍しく体験したんだ。今回はその事を話そうと思う。
先日、レポート仕上げるため、家でパソコンをいじっていたんだがその際、作業用BGMとして、某動画投稿サイトで怪談話を流していたんだ。
まあこういうことをしている人には良くある話だと思うが、時々興味を引かれる奴が流れると、作業を止めて動画見てたりしたわけ。当然のことながら、課題の方は遅々として進まなかったね。
そうこうしている内に、眠気がしてきた。今日は切り上げようかとも思ったんだが、締め切りも近かった為、「気合入れないと」って思って作業を続けた。
まあ実際はそれからまもなく、寝落ちしてしまったわけなんだが、その時ある夢を見たんだ。
その夢は俺が幽霊に追われていて、ひたすら逃げるというもの。それ自体は、似たような夢をみんな見ていると思うんだけど、最後の最後に捕まってしまった。
すると幽霊は俺を取り押さえながら、こう言った。
「現実に興味が無いから、オカルトなんて物に惹かれるんだろ?だったらその身体、俺にくれよ。」
あんなおぞましい声、初めて聞いたね。地の底から湧き出るなんて表現を見たりするけど、そんな生易しい物ではなかった・・・
恐怖で頭がいっぱいになった俺だが、それがトリガーとなってか、目を覚ますことが出来た。あ~怖かったと思ったのもつかの間、伸ばそうとした腕と背骨が動かない。正確には、目以外の部分が金縛りにあっていた。
金縛りなんて人生初体験だった俺は、「え?え?!」パニックに陥ってたんだと思う。すると、背後から嫌な空気を感じた。形容しがたいんだけど、ドロドロとした感情の塊って喩えが近いと思う。
それが真後ろまで来たと感じた俺は、ぎゅっと目をつぶり、「気のせいだ気のせいだ気のせいだ」と繰り返してた。
そしたら耳元に冷たい風が当たり、
「寄こせよ、寄こせよ。」
と語りかけてきた。ただでさえ、金縛りで硬直してる身体を、更に恐怖で固める俺には抗う術は無く、ただひたすら耐えるしかなかった。
するとそいつは、業を煮やしたかのように、苛立ちを俺にぶつけてきた。目では見えなくても、感情って伝わるんだな。まあ勿論その時は、そんなことを思う余裕なんて無いわけだけど。イライラしてる人の周りにいるとさ、こっちまでピリピリした感じになったり、場の空気が重くなるじゃん?あの空気をもっと濃度上げた感じって言えば、少しは共感してもらえるか?
とにかく、そんな感情を当てられた俺に対し、そいつは更に驚きの行動に出た。
手を首の後ろから身体の中に差し込んで、何かをがっしりと掴むと、そのまま前後に揺らしてきた。物理的に考えてありえないだろうけど、本当にそんな感覚だった。
しかも、もしそれが出来たとしても、普通なら骨を掴んでると思うよね?だけど俺はその時、脊髄を掴まれたって思ったんだ。そしてそのまま、
「寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ」
そう耳元で囁きながら、尚も前後に揺らす。あまりの恐怖に俺は全身をガタガタ震わせながら、必死に「帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ」と心の中で願ってた。中の中まで潜り込まれたように感じた俺は、心が負けたときに全身持って行かれると、なんとなく理解したんだな。
"渡さない"ではなく"帰れ"と思ったのは、帰れの方が短いし、より強く念じやすかったんだと思う。
そのままどれくらいの時間が経ったか、気がつくと俺は全身にびっしょりと汗をかいて、机に突っ伏していた。手は青白くなるほど硬く握られていて、爪を切ってなかったら多分血が出てたと思う。汗がベタついて気持ち悪かったけれど、風呂に入るとまた後ろから何か来るんじゃないかって疑心暗鬼になり、そのままベッドで毛布を身体に巻きつけて寝た。ちょっとでも隙間があったら、そこからあいつが入ってくかもって気が気じゃなかったけど、そんな心配をよそに、朝までぐっすりと寝れたから案外図太い神経してるのかも。
今回起こった事は、自分では実体験だと思っている。けれど、他人からしたら単なる夢の続きと思うのかもしれない。そのことを理解した上で一つ、皆に覚えておいて欲しいと思うことがある。
それは、何か霊体験にあったとしても、気持ちだけは負けてはいけないということ。
もしもそこで負けてしまった場合、あなたの命があるかどうかは、誰にもわからないのだから・・・