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 結局ロドルフォはネロとブランテに何も言えないまま、何もしてやれないまま、トリパエーゼを再び発つことになってしまった。今度トリパエーゼ騎士団を呼んだのは都。本部から呼ばれたということになる。特に魔物が出たとか、災害が起きたとかそういうような話ではないようだが、早急に集まるようにとの指令だったので急がないわけにはいかなかった。トリパエーゼは都からかなり離れている。馬なら七日はかかってしまう。最近出来た鉄道を使えば一日足らずで行くことが出来るが、しかし鉄道では荷物が困る。それに、馬がいなければいざというときの機動力が困る。結果、七日ほど待ってくれという内容の返事を出してからトリパエーゼ騎士団は出発した。


「久しぶりである、『爆ぜる馬』に『スケールモデルの鬼士。待ちわびたぞ』」

 そう言って騎士団を出迎えたのはフィーニスだった。初めて出会ったときから三年経っている。恐らくフィーニスは今十八歳の筈だ。三年前にみられた子どもっぽさは無くなっていたが、それでもまだ少し、あどけなさが残っていた。ただ、態度の大きさは相変わらずだった。

「貴様らを呼んだのは暫く私の部下として働いてもらうつもりだからである。他にも優秀な騎士団をいくつか呼んだ。私の下で、今も尚起こっている魔物による事件の解決のため動いてもらう。大変な仕事になるとは思うが、ここに呼ばれたのだ。光栄だろう?」

「解決?」

「そうだと言った筈である。魔物が何処からわいてくるのか、原因を突き止めそれを断つ。魔物が出るのを待つなんて手間で時間の無駄である。ここからは此方から仕掛けるということである。分かったならば広間へ行け。貴様らを待っていたのだ」

 フィーニスはロドルフォたちに異論を唱える隙を与えず、踵を返して何処かへ行ってしまった。取り残されてしまったトリパエーゼ騎士団は言われた通り大人しく広間へ行くしかない。幸い、ロドルフォもアドルフォも何回かここへ来たことがあるため、広間の場所が分からず道に迷うということはない。何年も経っているのに意外と覚えているもんだ、と思いつつ二人は騎士たちをつれて広間へ向かった。


 広間には、フィーニスの言う通りトリパエーゼ騎士団を待っていたのであろう騎士たちが何十人、何百人といた。一体どれだけの騎士団を呼んだのだろうか。

 騎士たちが全て整列すると、やがて用意された台にフィーニスが上がり、騎士全員の耳に届くよう大声で話始めた。

「これから貴様らにはわき出る害虫どもの原因を突き止めてもらう! いいか、突き止められるまでは帰れないと思え! そのぐらいの覚悟でいるべきである! 家族なんてものは捨てろ! 貴様らは国家の犬、国民の税金で飼われているのである! なに、私のような十八の餓鬼でも捨てられるのだ、貴様ら『大人』には容易いことであろう!」

 流石にこの発言には場がどよめいた。しかしフィーニスは気にもとめない。

「家族なんぞを優先して国民を守らないのは大馬鹿者だ! 躾のなってない犬は容赦なく切り捨てるつもりである! 私は使えるやつしか生き残らせない! 使えないやつはその辺で犬死にである! 嫌なら働け! それが貴様ら騎士の使命である! いいであるな! 意見がある者は今言え!」

 平然と『家族を捨てた』と公言したフィーニスなら、本当に使えない、否、気に入らない騎士など簡単に捨ててしまうだろう。最悪、背中を斬る。その場にいる誰もがそんなことを考えた。だから、フィーニスに意見する者など誰もいなかった。



 それから半年が過ぎた。まだ原因は突き止められていない。しかし、魔物の出現の頻度が減ったわけではなかった。むしろ増えたぐらいだ。

 故に騎士たちは忙しさを増していた。ほとんどの者が、都と地方を往復し、日々走り回っていた。それなのに、騎士の数は段々と減っていった。その原因はといえば、

「フィーニス様! チーフラ騎士団が……」

「ああ、奴らは放っておけ。あれは案外使い物にならなかったである」

 フィーニスがこうしてあっさりと切り捨ててしまうからである。

 チーフラ騎士団のその後を見た者はいない。魔物に殺されてしまったか、フィーニスに処分されてしまったかのどちらかである。皆、それが分かっていても口には出せなかった。少しでも口にすれば、次に処分されるのは自分になってしまうかもしれない。そんな恐怖が彼らを縛っていた。彼らは家族を捨てることなど出来なかった。しかし、フィーニスに逆らうこともできない。ならば、早く原因を突き止めて家に帰ろうと、そう考えていた。そのためには、何としてでも生き残らなければならない。

 どういうわけか、騎士団は組織内でサバイバル状態となっていた。

「お呼びでしょうか」

「敬語は使うなと言った筈である。私は貴様らを尊敬しているのだ。尊敬している人間に敬語を使われると幻滅する」

「……わがままだな」

「そうだ、それでいい」

 そんな中、幸か不幸かロドルフォとアドルフォはフィーニスに気に入られ、比較的安全な生活を送っていた。二人は団長と副団長であるため、その下にいるトリパエーゼ騎士団全員がその恩恵に預かっている。他の騎士団の羨望や嫉妬の視線が痛かったが、いつ捨てられるかわからない生活よりはマシだった。

「わざわざ呼び出して何の用だ」

「貴様のこの件に関する見解を聞きたいのである。一番頭が良さそうであるからな」

 フィーニスの表情は真剣だが、その中に少し楽しんでいるような感情が見え隠れしている。これが子どもというやつだろうか。子どもといっても十八を過ぎているので、大人と言っても過言ではないのだが。

「――そうだな、俺はこの件、八年前のイケニエ事件が関わってるんじゃないかと思ってる」

 フィーニスの表情を見てそんなことを思いながら、ロドルフォは自分の意見を述べ始めた。八年前というと、フィーニスは丁度十歳くらいであるため、イケニエ事件についてどのくらい知っているか分からないがそれでも構わず話す。

「今まで襲われた町を調べていくと、必ず八年前のイケニエ事件に行き着く。現地に行った連中も、立ち入り禁止区域を見ている。どこもそうなんだ。イケニエ事件はフィネティア国内全域が狙われた訳じゃない。被害にあっていない町は被害にあった町と同じぐらいあるんだ。なのに、ここ数年魔物に襲われる町は全てイケニエ事件の被害にあっている。これは偶然じゃないだろう」

 フィーニスはロドルフォの言葉に続きがあると確信して、じっとロドルフォを見つめたまま何も言わない。ロドルフォは一息つくと、結論を述べた。

「立ち入り禁止区域。あそこから魔物がわいてるんじゃないかと、俺は思ってる。あそこは魔術に干渉されてるからな」

「なるほど」

 フィーニスは満足そうに笑った。その笑みがロドルフォの考えからなのかはたまた別の理由なのか、それは分からない。

「私が呼び出した理由は終わりである。しかし、もうひとつ聞きたくなった」

 笑みを浮かべたままフィーニスは言う。その笑みはどこか黒いものを孕んでいて、見ているものを不安にさせた。

「もし、貴様は魔物が人間の形をしていたとき、それを今まで通り殺すことはできるか?」

「……そのときになってみないと分からん」

 ロドルフォはそれだけ答えると、他にも呼ばれているんだ、と言ってフィーニスに背を向けた。そのため、ロドルフォの答えにフィーニスがどんな表情をしたのかは知らない。

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