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 その後、騎士団はフィーニスと別れトリパエーゼに帰った。

「しばらく副団長は安静にしていた方がいいですね。右腕に負荷がかかりますから」

 訓練も禁止です。と、右腕に包帯を巻きながら医務室当番の女騎士が言った。ロドルフォは目を伏せたまま「わかった」と短く答えた。

 ロドルフォの右腕の傷は、青年がかなり容赦なく刺してくれたお陰で相当深かった。神経は完全には切れていなかったものの、かなりのダメージを受けていた。しばらくは治療とリハビリに専念しなければならない。そんな状況だった。

 しかし、魔物たちはそんな事情で待ってはくれない。トリパエーゼに帰り、休んでいたのも束の間、すぐに要請が届いた。

 右腕が使えないロドルフォは、自作のスケールモデルを駆使して策を練り、フィネティア国内に現れた魔物たちを次々と殲滅していくことになる。アルバと名乗る青年が自殺した、あの一件から魔物たちを殲滅するスピードは格段に上がった。比例するように、残酷さも。

 幸か不幸か、トリパエーゼ騎士団は大した怪我人を出すこともなく魔物たちを殲滅していくことができた。お陰でトリパエーゼ騎士団はフィネティア史上最強の部類に入る騎士団なのではないかと囁かれることになる。ただ、そのせいで騎士たちは家に帰る時間も無くなってしまったのも確かだった。

 結果、トリパエーゼ騎士団は再び魔物殲滅へ出てから三年経ってようやく帰ってくることができた。


「あなた、お帰りなさい」

 そう言ってロドルフォに微笑みかけたのはアデリーナだった。しかし、何年か前の時のように車椅子に座っているわけではなく、病室のベッドの上だ。見ないうちに随分痩せてしまった。そんな印象をロドルフォは抱いた。

「ああ、ただいま。悪かった、三年間……」

 アデリーナがこうなった原因はイケニエ事件だ。しかし、それを改善方向に持っていけないのは仕事のためにアデリーナをほったらかしにして三年もここを空ける自分が原因なのではないか。そんな考えにズブズブと沈み、ロドルフォはアデリーナになんと声をかければいいのか分からなかった。

 すると、アデリーナが先に口を開く。

「あなた、帰ってきて早々に悪いんだけど……お願い、出来るかしら?」

 こういう話は女の私よりも男のあなたの方がわかる気がして……と、少し悲しそうな顔をしてアデリーナは言った。「どうした?」と、ロドルフォは訊く。

「……ネロと、ブランテが、喧嘩したみたいなの。怪我して帰ってきてね。事情も話してくれないし……どうしたらいいのかしら」

 男の子って難しいのね。と、アデリーナは困ったように笑った。

「喧嘩か……。叱ってやることは出来ないかもしれないけど、話だけなら聞いてみるよ」

「ふふふ、あなたは仕事が喧嘩みたいなものだものね」

「喧嘩じゃねえよ」

 口ではそう言うが、否めない感があったので強くは否定できなかった。だから叱ってやることもできないと思ったのだ。

「ふふふ、冗談よ。あなたの仕事は、人を守ってる。誇って?」

 恐らく本心からそう思っているであろうアデリーナの言葉に、ロドルフォの胸がチクりと痛んだ。そのことを悟られたくなかったロドルフォは、逃げるようにネロとブランテの居場所を訊きそこへ向かった。ずっと引きずる自分を女々しいと感じるが、しかし事実は事実。イケニエ事件から今日まで、一体何人の人を自分は守ることが出来なかったのだろうという考えが頭のすみにこびりついて消えなかった。


「……よお、ネロ、ブランテ。久しぶりだな。なんだよお前ら、傷だらけじゃねえか」

 二人は二人が寝室として使っている部屋で、ムスっとした顔でベッドの端に腰かけていた。どうやら既に叱られていじけているらしい。二人の顔や腕、足には、絆創膏やガーゼなどがベタベタとくっついていた。中々派手に喧嘩したらしい。

「誰かに怒られたのか? 俺でよかったら聞いてやるぜ。俺は、怒らないから」

 どっこいせとオヤジくさくその場に胡座をかくと、ロドルフォはなるべく優しく笑って優しく話しかけるよう心がけた。それからネロとブランテをじっと見つめる。

 すると少し時間が経ってから、ネロが口を開いた。

「……だってブランテが。おれは止めようとしたもん」

「止めてくれって頼んでねーし! あいつらが悪いんだ!」

 ネロの言葉にブランテが反応する。勢いよく立ち上がってネロをにらむ。今にも掴みかかりそうだ。

「あん? お前ら二人が喧嘩したんじゃない……よな?」

「? なんでオレとネロが喧嘩すんの?」

 ロドルフォの言葉に、ブランテは表情を和らげてキョトンとした顔で首をかしげた。表情がコロコロ変わるやつだ。先程までの態度ではネロと喧嘩したと捉えられても仕方ないのだが、このお子様には分からないことだろう。

「じゃあ、誰と喧嘩したんだ?」

「……ジェラルドとか、そのへん」

「だってあいつらがネロのこと悪く言うから!」

「ムカついたけど殴んなくたっていいじゃん……痛いよ」

 口を尖らせるネロとブランテ。二人の言い分を聞いてロドルフォはなんだか笑い出しそうになってしまった。二人は大真面目なのだろうが、どう考えても、ネロのことなのにブランテが激怒してネロがなだめてるこの構図はおかしい。二人の仲のよさに、ロドルフォは思わず微笑ましく思ってしまった。

 しかし、ネロのことを悪くいうというのは全く微笑ましくない。しかも相手がジェラルドと言うと余計に。ジェラルドは二人よりも四つ上だ。十二才と八才。その差はなかなか大きい。

「ジェラルドは何を言ってきたんだ?」

「……ネロは化け物だって。化け物の子どもだから化け物なんだって。あいつらネロのこと何も知らないのに!」

「もういいよブランテー。顔痛いよ」

 ブランテの言葉にロドルフォはすうっと何かが冷えていくのを感じた。

「ネロは化け物なんかじゃないのに」

 口を尖らせるブランテにロドルフォは何も言えない。ちゃんと話をしなければいけない日が来てしまった。そんな思いだけが漠然と頭の中を支配する。

 その中ではっきりと分かったのは、自分にはジェラルドたちのことを批判する資格もないということだった。

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