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「副団長! 要請が!」

「……来たか。わかった、今すぐ行くぞ」


 イケニエ事件から五年が経ったある日のことだった。一通の要請がトリパエーゼ騎士団に届いた。その報告を受けて、ロドルフォは渋い顔をする。しかし、慌てることはない。いつか来るだろうとは思っていたのだ。

「アドルフォ、要請が来た。準備が整い次第すぐに行くぞ」

「俺の方は大丈夫だ。普段真面目にデスクワークをしないことが役立った」

「威張れることじゃねえよ」

 そんなやり取りにも笑いはない。ロドルフォもアドルフォも、それ以外の騎士たちも、皆顔が強張っていた。

「要請が来た。今からモルトゥアーリオへ向かう! 前に話した通り、一班と二班は準備を! それ以外はここを頼む!」

 ロドルフォがそう呼び掛けると、騎士たちはすぐに動いた。仕事の引き継ぎなどはほとんど終わらせていたため、準備しなければならないのは身支度位だろう。武器や食糧などの準備もすでに終わっている。

 フィネティア国内では、ここ一年どこからか魔物が出現し、人々を襲うという事件が発生していた。今まで起きた事件は全てトリパエーゼとは離れた場所で起こっていたためお呼びがかからなかったのだが、モルトゥアーリオとなればそうはいかない。モルトゥアーリオは隣町だ。

「全員揃ったか。じゃあ、いくぞ。その辺のやつらには適当に『行ってきます』って挨拶しておけ」

 そんなアドルフォの声を合図に騎士たちは馬や馬車に乗りトリパエーゼを発った。



 モルトゥアーリオに到着して真っ先に感じ取ったのは異臭だった。臭い。とにかく臭い。生ゴミの腐ったような臭いや、ねっとりとした血の臭いが町中に充満している。それは、胃がひっくり返って中身をすべて吐き出してしまいそうになるほどの強烈さだった。

「……っ、まずは生存者を探せ! 調子が悪くなったやつは遠慮なく言え! いざってとき動けない方が困る! 魔物を見つけたらすぐに逃げろ! 余裕があれば位置と魔物の種類を報告! いいな!」

 強烈な臭いに顔をしかめつつ、ロドルフォはそんな指示を出した。ロドルフォが言い終わると後ろについていた騎士たちはすぐに動きだし、捜索を始める。

 すると五分もたたないうちに、一人の騎士が民家から慌てて飛び出し、道端に座り込んで嘔吐した。突然の出来事に、ロドルフォとアドルフォは思わず唖然としてしまう。

「ど、どうした?」

「だん……ちょ……やつら、人を……おえっ」

 胃液で口元を汚しながら騎士は報告をしようとするが、言い終わる前に何かを思い出したのかまた吐いた。どうやら、相当な光景を見てしまったらしい。

 しかし、この悪臭と人という条件、そして大の男すら気分を悪くしたという現象から考えれば、騎士から全てを聞かなくとも答えが出てきそうなものだ。ロドルフォは、自分の予想した答えを想像して気分悪くなった。危うく、目の前の騎士の二の舞になりそうになったところでなんとか堪える。そこへ、別の騎士が駆け寄り、報告を始めた。

「副団長、生存者は見つかりませんでしたが、魔物を……」

「……そいつは、なんか食ってたか?」

「? いえ、何も……。ただ、衣服を身に付けていました」

「種族は?」

「オークです」

 そうか……と、ロドルフォは考え込むようなそぶりを見せた。或いは、何かを考えることで吐き気を忘れようとしたのかもしれない。


 その後、騎士たちから集まった報告はどれも生存者は見つからず、衣服を身に付けた魔物がいた、というものだった。その魔物がオークだったとかゴブリンだったとか、細部には違いがあったが作戦を考える上で支障にはならないだろう。更に、報告のなかには魔物たちは騎士に気づいても、近くにあるヒトの肉を優先するという情報もあった。これはロドルフォにとって有力な情報だ。

「……よし、決めた。まず、奴らを一ヶ所に集めよう。そうだな、なるべく感情的になって動きが単調になってるとやりやすいかもしれない。挑発をしてから餌の近くまで持ってこよう。集まったらアドルフォ、頼んだ。大丈夫な奴は民家から死肉を拝借してこい。肉だけだ。骨は後で丁寧に埋葬するからな。他の奴はありったけの卵を持ってこい。あ、足の速い奴は残って体力を温存しろ。誘き寄せる方法、もう一つ追加する」

「卵を持ってくる奴はついでに小麦粉も頼む」

 一通りのプランが出来ると、ロドルフォはそう指示を出した。なんだか、これから料理でもするのかと言いたくなるような指示である。肉に卵に小麦粉。ピカタが出来そうだ。

 騎士たちは首をかしげながらも指示通りに動いた。意味のわからない指示だが、ロドルフォとアドルフォへの信頼がそうさせていた。伊達に騎士団長と副騎士団長ではない。

「集まったか」

 肉と卵と小麦粉が揃うと、ロドルフォはどこからかモルトゥアーリオのスケールモデルを取り出して作戦の説明を始めた。

「この、奥の方の民家。ここは体力を温存した足の速い奴に担当してもらう。お前たちはブロードソードだけ持っていればいい。パンツを狙え。出来れば奪ってこい。他は卵を投げつけろ。で、卵で地味にイラついたところに肉をちらつかせるんだ。餌で釣れ。追いかけてきたら走って逃げてここまでこい。ここでは小麦粉を思いきり投げる。そこらじゅうを小麦まみれにするんだ。小麦を投げ始めたらそうだな……なるべく遠くへ離れるんだな。下手したら巻き込まれる」

 武器を温存するぞ。そう締め括り、ロドルフォは立ち上がった。どう考えてもふざけているようにしか聞こえない作戦内容。お陰で騎士たちの緊張は解れていた。

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