13
翌日。
どうやら二日酔いらしく、ロドルフォを頭痛が襲っていた。今日は大人しく寝ていようか。なんて考えていたのだが、それは二人の子どもによってあっさりと打ち砕かれる。
「おっちゃん!」
「こっち! はやく!」
おっちゃんとはロドルフォのことである。
ネロとブランテは仮眠室に突撃するなり、痛む頭をおさえるロドルフォをベッドから引きずり下ろして、そのまま引きずってどこかへ連れていこうとした。
「おもい! うごいて!」
「たって!」
流石に四歳の子ども二人では、三十三の現役騎士を引きずるのは無理だったらしく、二人はロドルフォをペシペシと叩きながら怒ったように言った。どうして起き抜けでこんな目にあわなければならないのか、二人の行動にロドルフォの頭は混乱し、行動を鈍らせる。
「ヒゲおそい!」
「ヒゲはやく!」
ロドルフォの行動の鈍さにしびれを切らしたのか、とうとうロドルフォの呼び方がヒゲになってしまった。かなり雑な名称である。
「分かった、動く。動くから! まずはどこになにしに行くか教えてくれないか? じゃないとおっちゃんも動けねえから」
そう言ってロドルフォは二人と目線を合わせるようにしゃがみ、二人の頭の上にポンと手をおいた。するととたんに二人は大人しくなる。可愛いものだ。
しかし、子どもとは非常に単純であるが故に持続性がない。大人しくなった二人はすぐに慌ただしく話し始める。
「あのね! あのね! おかーちゃがぐあい、わるいの!」
「ずぅっとねてるんだよ! でね、あせいっぱいかいてるんだよ!」
「だからはやく! ヒゲ、おかーちゃよくして!」
「ヒゲすごいひとなんでしょ! はやく!」
ネロとブランテは交互に言い、またグイグイとロドルフォを引っ張り始めた。しかしまたロドルフォがされるがままということはなく、一通りの身支度を二人に引っ張られながら高速で済ませると、ネロとブランテを両脇にかかえて駆け出した。廊下を歩いている騎士をはね飛ばしても気にも留めず、一直線にアデリーナの病室へ向かう。
「アデリーナ!」
派手な音をたてながら、足で扉を蹴破る。音に驚いた様子のアデリーナと目があった。目があったということは、勿論アデリーナは寝ていない。起き上がっている。
「……あれ? 元気……?」
「どうしたのあなた。心臓に悪いわ」
両脇にかかえた二人を見ると、二人は「あれー?」という表情を浮かべていた。この状況は二人にとっても予想外だったらしい。しかし、ロドルフォと違ってすぐに今の状況を受け入れ、嬉しそうに笑った。元気に越したことはない。
「ふふ……あなたも私も、のんびり寝ていられないわね」
ロドルフォから一通りの話を聴くと、アデリーナはそう言って笑った。
「驚かせて悪かった。……まあ、なんだ。俺はまたこいつらと遊んでるから、なんだったら昼寝でもしてくれ」
「大丈夫よ。もうすっかり眠気は飛んでいったわ」
ロドルフォにはアデリーナの顔色があまりよくないように見えたのだが、本人が貧血だと言うので深く追及しないことにした。ロドルフォはデリカシーのない男ではない。
「私よりもあなたの方がよっぽど顔色が悪そうだけど……大丈夫?」
「あ、ああ。ちょっと飲み過ぎてな……」
アデリーナのことで頭が一杯になり、二日酔いのことなど忘れていたのだが、たった今指摘されたことによって思い出されたようにズキリと頭が痛んだ。そんなロドルフォを見てアデリーナはふふ、と小さく笑う。
「あなたこそゆっくり休んで。二人は私が見てるから。ね?」
無理して吐かれても困るわ。と言われてしまったので、ロドルフォはアデリーナの言葉に甘えてこの日はゆっくり休むことにした。