霧
サイコロを転がしていた。
それは手持ち無沙汰になったからだ。
つまり、彼女が余りにも俺と関係のない話をするものだから、つまらなくなってしまった、そういう事だ。
と、自分の頭の中を探りながら思った。
耳鳴りのような空調の音が鳴っていた。
それは壊れかけているが為に、何かが中で擦れて鋭い金属音を鳴らしていた。
俺は小さな、ネズミのような、獣が、空調のプロペラに引っかかって擦り回されている、という妄想をした。
そういう妄想をしても構わないぐらい、彼女の話はどうでもよかった。
「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」
「はぁ」
自分でも驚く程間の抜けた声が出た。
きっと僕がまともに話を聞いていなかった事は、バレてしまったのだろうな、とぼんやり考えた。
ぼんやり考えてばかりだった。
サイコロを投げる。
「本当にもう」
薄ぼんやりとした俺の脳みそのせいだろうか、
「あなたって人は」
彼女の姿までもが
「どうしようもない」
もやがかかっていて
目を擦って、もう1度見るが、やはり視界がハッキリしない。
「別れようよ」
「え?」
「だって、無理だもん。もう、会うことないから」
そう言うと、彼女は小銭を幾つか机の上に並べて店を出ていった。
俺は、また、しばらくぼうっと惚けていたが、冷水を飲んで少し考え、それでも自分に関係の無い事のように思えたので、また惚けた。




